投稿

 

ドレスデン滞在二日目にはドイツ連邦軍の軍事史博物館を訪れた。この博物館の分館がベルリンのガトウ地区にあり、先日見学して興味深かったので、ぜひドレスデンにある本館も見たくなったのだ。

ベルリン分館訪問記はこちら

 

博物館はドレスデンの新市街にある。

 

 

軍事史博物館の建物は大規模で斬新である。19世紀に建設された白い建物に矢が突き刺さるかのようにモダンなもう一つの建物が組み合わさっている。

 

入り口には連邦軍の兵士らが大勢いた。この博物館は兵士の学習の場としての機能を持つ。

兵士らは20人くらいづつのグループに分かれ、それぞれガイドの説明を受けながら館内を見学していた。

 

展示室入り口の壁に映し出された文字。

 

この博物館では展示は年代順展示とテーマ別展示の2つに分かれている。年代順の方は1930年代から現在までの軍事史を、テーマ別の方は軍事の様々な側面を提示している。

まずは軍事史の方から見ていった。

 

展示品や資料の数は膨大で、丁寧に見ていけば1日ではとても足りない。しかし、情けないことにドイツ史の知識があやふや。えーっとこの戦争はどういう戦争だったかしらと思い出しながら展示の説明を読んだが、時間がかかり過ぎて大変だ。家に帰ったら、山川出版の「ドイツ史」を読み返さなくては。しかし、第二次世界大戦以降の展示に来ると、日頃、他の博物館でもナチスやDDRについてはたくさん目にしているので、グッとわかりやすくなった。

 

テーマ別展示のテーマは、「軍事技術」「保護と破壊」「戦争の苦しみ」「戦争と記憶」「軍事と音楽」「軍事と言語」「軍事と政治」「軍事と遊び」「軍事とファッション」「軍事とファッション」など多岐に渡る。これはドイツの博物館全体について言えることなのだが、軍事をテーマとしたこの博物館でも非常に客観的な展示に徹していて、「愛国心」のようなものを連想させる要素はない。あくまでも淡々としており、戦争を美化する面が一切ない一方で、自己批判的・抑制的な面が少なからず見られた。

 

「戦争の苦しみ」のコーナーには戦死者が家族に宛てて書いた直筆の手紙や広島の原爆投下により焼け焦げた物品も展示されている。また、第四代連邦首相、ヴィリー・ブラントが1972年ポーランドでワルシャワのゲットー英雄記念碑に跪いて戦死者に黙祷を捧げる姿を写した写真もあった。

 

「戦争と遊び」のコーナーには、戦争を連想させる子どものおもちゃが陳列されている。

 

 

 

「大人が子どもに戦争のおもちゃを与えることは、それが武器であれ、軍服であれ、戦争を正当化することを意味する」と説明には書かれている。戦時には子どものおもちゃすらもプロパガンダの道具に使われる。第二次世界大戦敗戦後、旧西ドイツではしばらくの間、戦争おもちゃはタブーとなっていたが、旧東ドイツでは西側帝国主義への反感を煽るため、引き続きおもちゃを使ったプロパガンダが行われていたそうだ。現在のドイツでは武器をかたどった玩具の是非については議論が続いているが、昔は当たり前のように使われていた”Kriegsspielzeug”(戦争おもちゃ)というカテゴリーは玩具カタログから姿を消したものの、そのようなおもちゃがなくなったわけではない。

 

 

 

これはベルリンの「総統地下壕(ヒトラーの地下壕)」に残されていたタイプライター。このタイプライターを使って、戦争が終わる直前まで多くの司令が発せられた。

 

いろいろなタイプのシェルター。

 

シェルターやミサイルが展示されているコーナーの奥では、ときどき異様な色の光がピカっと光っていた。「照明が故障しているのかな?」と思ったら、そうではなく、広島の原爆を疑似体験するというアートであった。

 

 

薄緑色をしたスペースに立つと、ピカっという閃光の後、影が壁に固定される。私もここに立って、固まった自分の影を見てみた。

 

もう一度強調するが、この博物館は愛国心や闘争心を掻き立てるような展示はしておらず、あくまでも人類の歴史における軍事と戦争の歴史を提示し、防衛に関する議論を促すためものであることがわかった。