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独裁政治と人権について学ぶためのメモリアル 〜 エアフルトのGedenk – und Bildungstätte Andreasstraße

 

前回の記事に書いたように、エアフルトではシナゴーグを訪れた。その他、エアフルトには大聖堂や多くの美術館がある。旧市街に残る中世の街並みも魅力的である。しかし、この町にはおそらく観光客にはそれほど知られていないと思われるが見学するに値するスポットがいくつもある。その一つが、Gedenk- und Bildungsstätte Andreasstraße(アンドレアス通り記念・学習館)である。

 

 

これは、旧東ドイツ(DDR)の秘密警察シュタージ(Stasi)が反体制分子の取り調べのために使っていた建物だ。ここにはDDR時代全体で総計5000人が収容されていたという。現在はそしてドイツ社会主義統一党(SED)により抑圧され、人権を剥奪された人々について知り、民主主義について学ぶための学習センター兼メモリアルとなっている。

 

旧東ドイツにはかつてのシュタージの拘置所や刑務所をミュージアムにした場所が多くあり、これはその一つに過ぎない。私はこれまでに他の類似施設も見学して来たのだが、このエアフルトのものは青少年への啓蒙に主眼を置いているようで、とてもわかりやすく、よくできていると感じた。

 

入り口部分には、DDRの独裁政治を機能させたドイツ社会主義統一党を頂点とする国民監視網がまるでクモのような形で天井から左右の壁面にかけて描かれている。

 

 

捕らえられた反体制分子が収容されていた独房棟。

 

 

大部屋(?)もあったようだ。

 

展示室。DDR時代に自由を奪われていた人々の生活がどんなものであったのかが、マンガで壁に示されている。

 

これは子どもにもわかりやすい!

 

壁のマンガを読んでいたら、社会見学の高校生グループが入って来て、ガイドさんの説明を聞き始めた。ドイツの学校教育は政治・歴史教育に力を入れており、ナチスやDDR時代の負の歴史を教科書の上だけでなく、それが実際に起きていた現場を訪れて学ぶ機会を多く取り入れているのだ。(たまたま手前に高校生カップルが大きく写ってしまったが、特に意味はない)

 

壁の崩壊からすでに30年近くが経ち、今の高校生には社会主義とはどんなものだったのか、想像しにくくなっているに違いない。私は自分は社会主義の国で生活したことはないものの、ベルリンの壁崩壊は今でも自分の中での歴史的ターニングポイントになっている。しかし、日本人の若い人とそんな話をすると、「へえ、そうなんですね」と意外そうな反応が返って来ることが多い。時間とともにデフォルトの認識は変わるのだなと当たり前のことを感じるが、歴史は繰り返されるということを考えれば、負の過去には繰り返し向き合う必要があるのだろう。

 

抑圧の時代の末に東ドイツ市民が起こした「静かな革命」と民主主義の獲得についても展示されている。

 

壁には学習センターを訪れた若者達のコメントがびっしり貼り付けてある。いくつか拾い読みをしてみた。

「マジでクソな国だったんだな」

「DDRに戻りたいなんて言っているやつらは、みんなここを見に来いよ!」

そんな若者らしい言葉で綴られた感想が多かった。

 

この施設では各種ガイドツアーの他、マンガワークショップも行っている。社会的メッセージの伝達手段としてマンガの手法を学ぶというのも良いかもしれない。