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約3週間の北海道ジオパーク•ジオサイト巡り、ついに最終日。最後の目的地はむかわ町の穂別博物館に決めた。

数年前、北海道むかわ町で見つかっていた恐竜の化石が新属新種であることが判明したというニュースを目にし、興味が沸いた。そして、むかわ竜と名付けられたその恐竜の学名が「カムイサウルス・ジャポニクス」に決まったと知ったときには思わず興奮。カムイの地で生まれ育った者としてはスルーできない。いつかカムイサウルスを見てみたいなあと思っていたのだ。

むかわ町穂別は「古生物学の町」という感じで、町のあちこちに化石や古生物のオブジェが見られる。

交差点のアンモナイト化石

穂別博物館の向かいにあるお食事中のモササウルスのオブジェ

野外博物館のタイムトンネル

野外博物館のアンモナイトオブジェ

 

穂別博物内に入ろう。ロビーで出迎えてくれたのは、カムイサウルスではなく、ホベツアラキリュウのホッピーだ。

ホベツアラキリュウは中生代白亜紀に生きた水棲爬虫類のクビナガリュウ(プレシオサウルス)で、穂別地域でおよそ8000万〜9000万年前に生息していたとされる。   その頃の穂別は、陸から遠く離れた海だった。それにしても首が長い。歯が小さくて細く、硬いものを噛み砕けないので、魚やイカ、タコ、小さいアンモナイトなどを丸呑みして食べていたと展示で読んだけれど、こんな長い首をアンモナイトが丸ごと通過していったと想像すると、どうにも不思議だ。

ホベツアラキリュウの産状復元模型と現物化石

ホベツアラキリュウの名は、1975年に化石を最初に発見した荒木新太郎さんにちなんでいる。その後の発掘調査で頭部・頸部・尾以外を除く大部分の骨格が見つかり、ホッピーは全身骨格が復元された国産クビナガリュウ第二号、北海道では第一号となった。ホッピーは北海道天然記念物に指定され、この貴重な化石の保存や展示を目的に穂別博物館が建設されたのだ。

こちらは、モササウルス類の生態復元模型。モササウルスは後期白亜紀の海性のトカゲ。確かドイツのリューゲン島のチョーク博物館で全身骨格を見た記憶がある(けど、記録していない)。ゲッティンゲン大学博物館にも生態復元模型があった(過去記事)。

モササウルス・ホベツエンシスの化石

穂別博物は大型古生物の標本もすごいけど、アンモナイト標本も魅力的なものが多い。点数は三笠市立博物館ほどではないけれど(三笠市立博物館に関する過去記事 )、内部構造が見えるものがいくつも展示されている。

 

三笠ジオパークの野外博物館で中生代の大型二枚貝、イノセラムスの化石を見た(記事はこちら)が、穂別博物館にもいろいろな種類のイノセラムス化石が展示されている。イノセラムスは示準化石なので、地層から出てくるイノセラムスの種類でその地層の地質年代がわかる。(むかわ町ウェブサイトのイノセラムス関連ページ

いろいろなイノセラムスの標本。その左には、ゆるキャラの「いのせらたん」。

さてさて、いよいよ本命。カムイサウルス・ジャポニクスにご対面しよう。

じゃじゃーん。これが実物化石のレプリカから作成したカムイサウルス・ジャポニクスの全身復元骨格だ!全長は堂々の8メートル!だそうだけど、、、あれ?なんか短くない?それに、なんとなくバランスが良くないような。、、、と思ったら、この展示室には全身が入りきらないので、しっぽ部分を外してあるのだった。

カムイサウルスの大腿部の骨化石(本物)

カムイサウルスの化石は2003年、白亜紀のアンモナイトなどの化石がよく見つかる地域を散歩をしていた堀田良幸さんによって発見された。最初はクビナガリュウだろうと思われたが、2011年に恐竜であることが判明。最初に見つかったのが連結する13個の尾椎骨だったので、全身の骨格が埋まっている可能性が高いということで2013〜14年に大々的な発掘作業がおこなわれた。博物館に展示されている発掘作業の様子を写した写真パネルによると、化石が埋まっていた地層は傾斜がきつく、作業はかなり大変だったらしい。しかし、結果として全身のおよそ8割の化石が見つかり、センセーションを引き起こす。ほぼ全身が丸ごと化石になって保存されていたのには、実際に生活していた陸ではなく、海だった地層に埋まっていたことが幸いした。穂別のカムイサウルスは死んだ後、お腹が腐敗ガスで膨れた状態でプカプカ水に浮いて沖合まで流され、バラバラになることなくそのまま保存されたということである。

むかわ町穂別博物館はとても気に入ったので、ここで今回の北海道ジオ旅を締めることができてよかった。まあ、恐竜は地質学というより古生物学だけど、時間的尺度で考えれば広義の意味でジオに含めて構わないだろう。そして、今回の旅を通して、北海道は古生物学に関連する面白い場所も豊富だと気づいた。今回見られなかった場所はまた時をあらためて訪れたい。

ということで、北海道ジオパーク・ジオサイト巡り2023の記録はこれで終わり。欲張って盛り沢山すぎる計画を立てたので、見切れない部分もあったし、ヒグマ出没のせいでアクセスできない場所も多々あったけれど、毎日面白い景色を見て、いろんな石を見つけて、興味深い博物館を訪れて、とても充実した旅になったと思う。数年中にこの続きがしたい。

 

この記事の参考文献・ウェブサイト:

むかわ町恐竜ワールド ウェブサイト

 

 

今回のスポットは滝川市美術自然館。北海道に住んでいる弟が面白いよと勧めてくれたので行ってみた。

滝川市美術自然館はその名の通り、美術部門と自然部門からなる博物館だけれど、今回はあまり時間がなく、目当てが「タキカワカイギュウ」だったので、自然史部門のみを見た。タキカワカイギュウとは1980年に滝川市の空知川河床で発見されたカイギュウの化石だ。北海道で初めての発見で、のちの調査で新種であることがわかり、1984年に北海道天然記念物に指定されている。

滝川市美術自然館の建物

建物前の広場にはホタテ貝のようなオブジェがあり(タカハシホタテ?)、

その中に骨の模型がある。これは、タキカワカイギュウの化石発掘の状況をシンボライズしているのだろう。そこから伸びる水路の先にはカイギュウらしき生き物の像が設置されている。

館内に入る前から期待感を抱かせてくれる。それでは、自然部門の展示室へ入ってみよう。

おおっ?なかなか本格的。カイギュウだけではなく、ティラノサウルスを含むいろいろな古生物の骨格が置かれ、自然史及び地球史に関する総合的な展示がなされていている。滝川市がそれほど大きな町ではないことを考えれば、かなりの充実度でテンションが上がった。大都市の大きな博物館が充実しているのはまあ当たり前だと感じるけれど、地方に良い博物館を見つけると思わず感激してしまう。この自然部門はその2階の子ども博物館と合わせて、とても気に入った。こんな素敵な博物館が身近にある滝川市の子どもが羨ましい。

この博物館のが充実しているのには、やはり、ここ滝川市でタキカワカイギュウの化石が見つかったということが大きいだろう。タキカワカイギュウを特別にしているのは、そのほぼ全身の化石が揃って発掘されただけでなく、発掘作業から、調査研究、レプリカ作り、そして展示に至るまでの全行程が滝川市内でなされたということ、そしてそのプロセスに滝川市の市民が積極的に参加していることだ。展示を見ているとタキカワカイギュウは滝川市の誇りなのだなということが伝わって来て、滝川市民ではない自分までなんだか嬉しくなる。

タキカワカイギュウの全身骨格とその下に展示された化石。後ろには生体復元模型。

滝川市で見つかったカイギュウの化石だからタキカワカイギュウと呼ばれているが、学名はヒドロダマリス・スピッサ。500万年前に生息したヒドロダマリス属のカイギュウで、体長およそ7m 、重さはおよそ4トンと推定される。発見当初はクジラの化石だとみなされたそうだ。発掘にたずさわった市民の会が「滝川化石クジラ研究会」と命名されたのはそのため。なにしろ、北海道ではそれまで一度もカイギュウの化石は見つかっておらず、日本全国でも2例しかなかったのだから、無理もないことだろう。

カイギュウは海に棲む哺乳類のうち、唯一の草食の生き物で、海藻のよく育つ浅い海に暮らす。滝川は今は平野だが、500万年前にはクジラやイルカ、サメなどが暮らす海だった。

現存するカイギュウの仲間であるマナティーやジュゴンは暖かい海に棲んでいるが、タキカワカイギュウが暮らしていた500万年前の滝川の海の水は冷たかった。タキカワカイギュウは体を大きくして筋肉量を増やし、同時に体の表面積を小さくすることで寒さに適応した。ラグビーのボールのような体型なのはそのため。

また、滝川の海の海藻は柔らかかったので、歯が退化してしまったとのこと。

滝川市周辺では貝の化石も23種見つかっている。この標本を見て、あっと思った。というのは、この日の前の日に偶然、近郊の河原で貝化石を含むと思われる石を見たのだ。

やっぱりこれらは貝の化石だったようだ。こんなふうに、実際にフィールドで目にしたものと展示の説明が繋がると楽しい。

その他、滝川方式として知られるようになった独自の化石レプリカ作製メソッドに関する展示なども興味深かった。

 

この記事の参考文献:

前田寿嗣 『見に行こう!大雪・富良野・夕張の地形と地質

木村方一 『化石先生は夢を掘る 忠類ナウマンゾウからサッポロカイギュウまで

 

 

前回、ニュルンベルクの交通博物館を紹介したが、ニュルンベルクでは自然史博物館へも行った。

毎度のことながら、建物の外観を撮り忘れた。いつも博物館の前に来ると早く中に入りたくて写真を後回しにし、そのまま忘れてしまうのだ。自然史博物館はNORISHALLEという建物。中に入ってこの階段を上がると自然史の常設展示室だ。

階段を上がると恐竜が天井からぶら下がっている。ドイツで一番最初に骨の見つかった恐竜、プラテオサウルスだ。1834年、ニュルンベルク近郊で医師フリードリッヒ・エンゲルハルトが発見したことからPlateosaurus engelhardiと名付けられた。その後、プラテオサウルスの骨はドイツ各地で多数見つかっている。過去にレポートしたように、特にザクセン=アンハルト州のハルバーシュタットからは大量の骨が発見された。

プラテオサウルスの骨化石はプラテオサウルス礫岩と呼ばれる礫岩の層から出ることが多い。ニュルンベルクを含むフランケン地方の代表的な地層は三畳紀の地層だが、プラテオサウルス礫岩は三畳紀後期ノリアン階(コイパー砂岩)の地層(2億700万〜500万年前)に堆積している。

大腿骨

大腿骨

尾骨

仙骨

プラテオサウルスの骨以外では、フランケン地方のカルスト地形に関する展示も充実していた。カルスト地形に関しては以前訪れたシュヴェービッシェ・アルプでたっぷりと見たので特に目新しい内容ではなかったけれど、以下のホラアナグマの歯はリアルでまじまじと見てしまった。(関連記事:地下55 mの深さまで潜れる洞窟、 Tiefenhöhle Laichingenで冒険気分を味わう

ニュルンベルク北東 Burggaillenreuth近郊のZoolithenhöhle洞窟内で見つかったホラアナグマの歯

その他には、面白い形の石を集めたコーナーや

ムンクの「叫び」のように見える石

隕石コーナーなどがある。

べレムナイトの化石。べレムナイト化石の表面は普通はすべすべしているが、これらにはリング状の亀裂がたくさん入っている。およそ1450万年前にネルトリンゲンに隕石が落下した際、その衝撃で砕かれたもの。しかし、その後亀裂に水が入り込み、その水に含まれていたミネラルによって再びくっついたと書いてある。へえー!

(ネルトリンゲンの隕石孔に関する記事: 隕石孔の町、ネルトリンゲンのリース・クレーター博物館ネルトリンゲン、リース・クレーター内のジオトープで隕石衝突の跡を観察)。

また、この博物館には自然史だけでなく、考古学や文化人類学の展示室もある。

ニュルンベルク東部のオーバーラインバッハ村で出土した青銅のフィブラ

樺太北部及び対岸のアムール川下流域に住むニブフ民族の生活文化

この記事では自然史の展示を主に紹介したけれど、文化人類学の展示室もコスタ・リカの古代文明など、初めて見る展示物が多くて面白かった。

 

前回の記事では火山アイフェル・ジオパークにあるマール湖群を写真と動画で紹介した。アイフェルはマール湖を中心に美しい自然が広がっているが、博物館も充実している。今回の旅行はジオ旅行ということで、数ある博物館のうち、地学関係の博物館をいくつか見て来た。

最近とみに感じるのは、自然の中で休暇を過ごす際には地元の自然史博物館や地学系博物館でその地域の特徴を大まかに捉えてから自然の中を散策すると、より楽しめるということ。もちろん、何も予備知識がなくても自然の美しさに感動したり、心地よさを感じたりできるけれど、絶景があるというわけではない場所だと単調に見えて「何もないただの田舎」と感じることがよくあった。でも、どこの地域にもその地域ならではの特徴がある。そしてジオパークに指定されているような地域ならなおさらだ。あらかじめ多少なりとも知っておけば、実際に歩いてみたときに「ああ、なるほど」と思えるものが見つかってより面白い。あるいは逆に、先にフィールドで過ごしてから博物館へ行くと、「あ、これはあそこで見たものでは?」と博物館をより楽しめる。フィールドと博物館を行ったり来たりするとさらに良いだろうな。

今回は火山アイフェル地方南部のマンダーシャイト (Manderscheid)にあるマール博物館(Maarmuseum)を紹介しよう。

マール博物館はその名の通り、マール湖に関する博物館だ。マンダーシャイトから数キロ離れたところにはエックフェルダー・マール(Eckfelder Maar)というマールがある。前回の記事でアイフェルのいろいろなマールを紹介したが、エックフェルダー・マールはそこに含まれていない。というのも、このマールは25万年前に陸地化したTrockenmaar(乾いたマール)で、現在、その跡形を一般人が確認するのは難しいのだ。後で詳しく説明するが、エックフェルダー・マールは古生物学において極めて重要な場所であることがわかった。

メインの展示室。マール湖についての一般的な説明の他、世界のマール湖が紹介されている。マールの成り立ちについては前の記事でも触れたが、図解の方がわかりやすいと思うので、ドイツ語だけれど、マール博物館にあった火山円錐丘とマールの違いについての画像を貼っておこう。

右の図が示すように、マール湖はマグマ溜りから上昇したマグマが水と接触することで水蒸気爆発が起き、周囲の岩石が吹き飛ばされて開いた穴に水が溜まったもの。マール湖の周辺や湖面の植物が枯れると、湖に沈み、底に堆積して行く。だから、マール湖はいつかは水がなくなり陸地になる。陸地下のスピードはマールの大きさやかたち、水質や植生、気候などの条件により様々である。もちろん、人為的な要素も関係する。

現在残っているマール湖は、貧栄養湖(ヴァインフェルダー・マール)、中栄養湖(プルファー・マール、ゲミュンデナー・マール)、富栄養湖(ウルメナー・マール、ホルツマール)、過栄養湖(イメラーター・マール)といろいろだ。そういえばヴァインフェルダー・マールの水はものすごく透き通っていたが(前の記事の画像を見てね)、なるほど貧栄養で藻も発生しないということなんだね。

 

さて、ここからが本題!

マール博物館からほど近いエックフェルダー・マールは約4430万年前に形成された最古のマールで、とうの昔に陸地化しているが、その地下にはおびただしい数の始新世の化石が埋まっているのだ。エックフェルダー・マールがマール湖だった当時、周辺の地面は傾斜が激しく、陸生生物の棲息できる範囲が狭かった。傾斜が激しいので、生物の死骸を含んだ周辺の土壌がだんだん湖の内側にずり落ちて水の底に沈んで行った。湖の水というのは表面に近い層は温かくて深い層は冷たいものだけれど、ある一定の深さのところに急に冷たくなる層がある(水温躍層)。この層の上部には藻などの水生植物が発生するが、水温躍層の下は酸素が乏しく、生物の死骸が分解されずに化石化した。以前、こちらの記事に書いたメッセル・ピットと同様である。エックフェルダー・マールからはこれまでに約3万個の化石が見つかっている。

その中で最も有名なのは「エックフェルトの古代ウマ (Eckfelder Urpferdchen)」である。

ここでもまたまた凄い化石に遭遇してしまった。恐るべしドイツの地下世界。この古代ウマ(プロパレオテリウム 、Propaleotherium voigti)は、ほぼ全骨格が残っていただけでなく、普通は残りにくい軟組織の一部、胃の内容物、そして胎児までが保存されている。馬といっても結構小柄で、肩の高さは約50cm、短足で首も鼻も短く、むしろ犬のような体型だそう。

この古代ウマの他にエックフェルダー・マールの地下からは約7700種類の植物化石、5500種類の昆虫化石、そして魚、爬虫類、両生類、さらには猿などの哺乳類の化石も見つかっており、それらはこのマール博物館とマインツの自然史博物館に保管されている。(マインツにも行かなくちゃ!!)

こちらは4500万年前のカメの甲羅の化石。エックフェルダー・マールからはこういう完全な甲羅の化石が10体も出て来た。凄いね〜。

こちらはワニ (Alligator Diplocynodon sp.)。ワニは中生代三畳紀に出現して以来、今に至るまであまり変化していない「生きた化石」で、進化の成功例と言えるそうだ。エックフェルダー・マールには少なくとも3種類のワニが棲息していたことがわかっている。

1996年、ラインラントプファルツ州政府とポツダムの地質学研究所(GeoForschungsZentrum Potsdam)が共同で調査のためのボーリングを実施し、エックフェルダー・マールが実際にマール湖だったことが学術的に確認された。マールの地下にある厚いオイルシェールの層は8万2000年もの年月をかけて堆積されたもので、その中に保存されている花粉から過去の植生とその変化を知ることができる。また、オイルシェールは一年毎に層になっているので、一つ一つの層の厚さを見れば太陽活動の変化が地球環境に及ぼした影響がわかるという。今日と同様、4400万年前にも黒点活動サイクル(11年周期)や磁場の反転サイクル(22年周期)が気候に影響を与えていたことが確認された。(詳しい情報はこちら

 

マール博物館はそれほど大きな博物館ではないけれど、展示を丁寧に読むとかなりの情報量。火山アイフェルには面白い博物館がまだまだたくさんある。続きは次回に。

 

北バイエルンのバンベルクに用があり、行って来た。

バンベルクはユネスコ文化遺産に指定されているとても美しい観光地で見どころも多い。しかし、今回は自由時間が数時間しかなかったので、まにあっく観光は自然史博物館のみ。

かつてのイエズス会コレギウムの建物がバンベルク大学の自然史博物館だ。

この博物館は規模はそう大きくないが、歴史ある美しい「鳥の間 (Vogelsaal)」が有名である。

 

バンベルク大学の付属施設として作られ、1810年に完成した床面積約200平米メートルの鳥の間。陳列棚には1255体、約800種類の鳥類の剥製が展示されている。まだドイツに動物園も存在していなかった頃、自然科学の学生達の学習のために集められたものだ。この鳥の間は現在までの間に壁の塗り替えや補修はされているが、19世紀の博物館の姿をそのまま残していて、それ自体が博物館的価値を持つ。二重の意味で博物館であり、「博物館の中の博物館(ein Museum im Museum)」と呼ばれている。

壁際をぐるりとギャラリーが囲んでいる。

美しい〜〜〜。

展示物のメインは鳥類だが、その他の動植物のキャビネットもある。

博物館キッズ。可愛いね〜。

女の子達はこの棚を見て、「ワーオ!」と歓声を上げていた

鉱物キャビネット

この博物館の目玉展示物の一つは果物モデルのコレクション。18世紀後半から19世紀にかけて作られたとても希少なものだそうだ。様々な種類のドイツ産のりんご、なし、さくらんぼのモデルが並んでいる。

これらモデルの種類の果物の多くは現代では栽培されていない。

こちらは鳥の卵モデルコレクション。

たまたま生物多様性に関するこのような本のサンゴのところを読んでいるところだったので、サンゴの棚はじっくり見た。

クダサンゴ

脳サンゴ

鳥の間のキャビネットはどれも美しく魅力的だけれど、展示物に関する説明がほとんどない(名称と産地のみ)のがちょっと残念だった。

鳥の間以外にも様々な展示物がある。1階フロアのフランケン地方の地質や鉱物に関する展示は説明が充実していて満足。今年(2018)の4月から新しく展示されるようになったものに「バンベルクの驚異の首飾り(Bamberger Wunderkette)がある。さくらんぼの種137個、あんずの種15個を繋いだネックレスで、それぞれの種には繊細な装飾が施されている。約200年前に作られたものらしい。

 

さて、常設展示に関して簡単に紹介したが、バンベルク自然史博物館では現在、とても面白い特別展、「Frankenland am Jurastrand (ジュラ紀の海岸のフランケン地方)」をやっている。この展示は写真撮影が禁止なので画像の紹介ができないのだけれど、すごい化石がたくさんで大興奮!以前、こちらの記事でゾルンホーフェン石灰岩から発掘されるジュラ紀の化石について紹介したが、最近になってフランケン地方のヴァッテンドルフ(Wattendorf)の石灰岩にもジュラ紀の化石の産地が豊富に埋蔵されていることがわかったそうだ。ゾルンホーフェンと比較すると石灰岩地域はずっと狭いが、化石の埋蔵密度はゾルンホーフェン以上だという。ヴァッテンドルフでは翼竜、魚竜、魚やカメの他に爬虫類の化石も比較的多く見つかっている。

どんな化石が展示されているか知りたい方は、以下の動画をどうぞ。化石探しの様子も見られます。(ドイツ語)

 

ニーダーザクセン州へ週末旅行に行って来た。バイエルン州に住む友人とハノーファーで待ち合わせていたが、ハノーファーまでただまっすぐ行くのではなんだかつまらない。途中でどこか立ち寄ろうかと地図を眺めたら、まだ行ったことのない都市、ブラウンシュヴァイクが目についた。軽く検索したら、「ブラウンシュヴァイク自然史博物館」がある。現在、スピノサウルスの特別展を開催中だという。よし!ではそこへ行ってみることにしよう。

州立自然史博物館はブラウンシュヴァイク大学の建物に隣接している。

博物館の前で大きな恐竜が迎えてくれた。これはスピノフォロサウルス(Spinophorosaurus nigrensis)のモデル。名前が似ていて紛らわしいが、スピノサウルスではない。ブラウンシュヴァイク自然史博物館の発掘調査隊が2005年にナイジェリアで発見した植物食の竜脚類のモデルだ。スピノフォロサウルスが発掘されたことにより、2010年に同博物館に恐竜の間(Dino-Saal)が新たに設けられたそうだ。

こちらの小さい恐竜は1998年にハルツ地方のゴスラー付近で発掘されたエウロパサウルス(Europasaurus holgeri)の実物大モデル。モデルの手前に見えるのは恐竜の足跡のついた砂岩の板。また、スピノフォロサウルスとエウロパサウルスの周りには周辺地域で採れた種類の異なる石が配置されている。というのも、ブラウンシュヴァイクはドイツ国内で地質学的に特に興味深いエリアに位置しているのだ。隣接するハルツ地方を中心とする東西約100km、南北120kmのエリアはユネスコ・グローバルジオパーク(UNESCO-Geopark Harz. Braunschweiger Land. Ostfalen)に認定されており、ドイツ最大のジオパークだという。そしてこのジオパークの特色は、古生代から新生代までのほぼ全ての地質年代の岩石が観察できることなんだって。そんなすごい地域だったとは!(詳しい情報はこちら

そのような自然条件の地域に位置する自然史博物館だから、当然、見応えがある。

まずは標本室。素晴らしい〜!

標本室が大好きな私はうっとり。でも、爬虫類などの標本は苦手な人もいるかもしれないね。

でもほら、標本ってこんなに美しい。

哺乳類の剥製は見るとかわいそうな気にもなるけれど、でも、こんな生き生きとした剥製、すごいなあ。

標本室以外にも見所はたくさんだ。フェルディナント・アルブレヒト1世のお宝コレクションを展示したSchatzkammerには珍しいものが並んでいる。

装飾を施したオウムガイとか、、、。

背中の穴で卵を孵化させるコモリカエル(ピパピパ)。ちょっと気持ち悪いけど、あまりに不思議なのでついじーっと見てしまう。こういうの苦手な方、すみません。

2011年にブラウンシュヴァイク付近(Hondelage)で発見されたジュラ紀の魚竜化石2体。ステノプテリギウスの全骨格にユーリノサウルスの骨の一部が重なった状態で埋まっていた。

こちらはプシッタコサウルス。中国で発見されたもの。

これもまた珍しい展示物。ステラーカイギュウと呼ばれる絶滅した海棲哺乳類の骨格だ。1741年にドイツの自然史学者、ゲオルク・ヴィルヘルム・ステラーによりベーリング海で発見された。

まだまだ続々と出て来るが、写真を貼っていたらキリがないので、「恐竜の間」についてはオープン当時の紹介動画を貼っておこう。

思いつきで立ち寄ったブラウンシュヴァイクだったので、実はそれほど期待していなかった。来てみてびっくり。ブラウンシュヴァイクからほど近いニーダーザクセン州ハルツ地方は「ジュラシック・ハルツ」とも呼ばれ、ドイツの恐竜研究の重要拠点であることがわかった。機会があればジオパークも訪れてみたいな。

と、すっかり満足して、うっかりしてこのまま帰ってしまうところだった。そういえばスピノサウルスの特別展示をやっているはずだけれど、肝心のスピノサウルスは一体どこに?スピノフォロサウルスは見たけれど。

受付で聞くと、「スピノサウルス展はここではなくて、ダンクヴァルデローデ城でやっています」とのこと。ダンクヴァルデローデ城は旧市街にあるという。えー、なんで別の場所でやっているの。移動しなきゃならないなんて面倒臭い!と思いながら、せっかく払った入館料を無駄にするのももったいないとシブシブ城へと移動することにした。

ダンクヴァルデローデ城で物凄い光景が私を待ち受けているとはこの時点では思いもせずに、、、、。

(次回に続く)

 

 

こないだの「ドイツ考古学スポットマップ」に引き続き、同じくGoogle My Mapsで今度は「ドイツ自然史博物館マップ」も作った。

どんな場所にも自然史があるので、自然史博物館は全国にわりあい満遍なくある。自然史博物館の絶対数が少ないのは人口密度が低い地域だ。

マップのコンセプトはほぼ考古学スポットマップ同様。カテゴリーはマップでは総合的な自然史博物館と特定分野に特化した展示を行なっている博物館や地域の自然学習センターの二つ。カテゴリーごとにも表示できる。赤いアイコンのスポットはすでに行ったことがある博物館で、クリックするとブログ記事リンクが表示される。

青いアイコンは私のまだ行ったことのない博物館だけれど、全てのスポットに簡単なコメントを入れた。自然史博物館もそれぞれ特色があり、その博物館でしか見られない展示物もあるので、展示の重点や見所を書き入れている。クラシカルな標本キャビネットが置かれた雰囲気のある博物館からインタラクティブで学際的な展示を行なっている新しい博物館までいろいろあるので、たくさん見ていけば「自然史博物館の歴史」にも触れられて面白いかもしれない。これまでに情報を得られた範囲でどの博物館にどんな恐竜の骨があるかもコメントとして入れた。恐竜についてはこれとは別に恐竜関連スポットに特化したマップも作る予定である。

メジャーな博物館はほぼ網羅している。地方の小さいけれど特色ある良い自然史博物館を発見したら随時アップデイトしていくつもり。

ドイツ自然史博物館マップはこちらからアクセスできます。