ノルトライン=ヴェストファーレン州のヘルネ(Herne)という町にある考古学博物館、LWL Museum für Archaeologie へ行って来た。ヘルネはルール地方のゲルゼンキルヒェンの隣町である。特に目当ての博物館というわけではなかったけれど、たまたまゲルゼンキルヒェンに用があったので、ついでに寄って来た。
ヘルネは大変庶民的な町だ。考古学博物館は駅から伸びる長〜い歩行者天国を歩ききったところにある。(10分くらいかな)
入口がかなりわかりづらく、建物の周りをぐるぐる歩き回ってしまった。写真の縦長のガラス窓の下部ドアから建物内部に入り、地下への階段を降りると博物館の入口がある。
ドアを開けると、そこは太古の森。森を出発してフロアを歩きながら人類の歴史を辿って行くというコンセプト。比較的新しい博物館で、展示室はすっきりと美的でモダンだ。約3000平米の常設展示室にヴェストファーレン地方で出土したものが年代順に展示されている。これがここの目玉展示物!というようなものは特にないので、ややインパクトに欠けるが、見やすい良い博物館だと思う。最近、美的な展示をする考古学博物館が増えているように思う。(美しさという観点での私のイチオシはケムニッツの考古学博物館、SMAC)
展示物は他の考古学博物館でも見たことのあるようなものが多いのだけど、気になったのはこれ。
ギャラリー墓(Galeriegrab)と呼ばれる巨石墓のモデル。古墳っぽい!新石器時代のドイツ北西部で栄えたヴァルトベルク文化において作られていたそうだ。このモデルはパダボーン(Paderborn)とカッセル(Kassel)の中間くらいのところにあるヴァルブルク(Warburg)で発見された巨石墓跡を元にしたもので、実際の遺跡はこんな感じらしい。ギャラリー墓という言葉を初めて聞いた。あまり詳しい説明がなかったので、日本語でググってみた。コトバンクによると、
【巨石記念物】より
…巨大な平石を立てて壁体とし,上を蓋石で覆う。形状によってギャラリー(通廊)墓とかパッセージ(羨道(せんどう))墓などと呼びわけられる。もとは墳丘で覆われ,地上に石が露出していたわけではないが,広義にはこれらも巨石記念物に含められている。… 【ドルメン】より
…巨石記念物の一種。ブルトン語でdolはテーブル,menは石を意味し,大きく扁平な1枚の天井石を数個の塊石で支えた形がテーブルのように見えることからこのように呼ばれた。新石器時代から鉄器時代初期に至るまでに行われた墓葬形制のうち,かなり普遍的なものの一つである。板石を立てたり切石を積んで側壁を築いたものは,ドルメンと呼ばないのが通例である。ただし,ドルメンをいくつかつないで内部の空間を広くし,前方に長い羨道や開口部を設ければ,ヨーロッパでパッセージグレーブpassage grave(羨道墓)とかギャラリーグレーブgallery grave(通廊墓)と呼ばれる巨石墓ないし石室墓となる。… ※「ギャラリー墓」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について | 情報
そういえば、学校の社会科で古墳のいろいろな形状について習ったなあ。ヨーロッパにはどんな種類のものがあるのだろうか。今まで気にしたことがなかったので、今後はアンテナを貼ってみることにしよう。
最古のユーロ硬貨?左はカール大帝の銀貨(792〜821年)、右は西フランク王シャルル3世の銀貨(911年以降)。両方ともケルンで見つかったもの。
展示フロアを見るのも楽しいけれど、この博物館でもっと気に入ったのは研究者ラボ(Forscherlabo)だ。
このラボでは考古学者らが実際にどのような方法で研究しているのかを学ぶことができる。
引き出しの中にも展示物がたくさん。こういうハンズオンの展示、大好き。以前訪れた考古学博物館、パレオンにもビジター用ラボがあり、顕微鏡やPCモニターを使っていろいろなものを観察することができた。
古代に生きた人たちがどんな病気にかかっていたのかを示す骨標本。
前述のヴァルブルクのギャラリー墓からは200人ほどの人骨が見つかったそうだが、そのうちの何人かの頭蓋骨には通常は見られない変わった骨が見られた。写真の3つの頭蓋骨のうち、左と真ん中の頭蓋骨の中央部に三角形の骨が見える。これはInkabein(interparietal bone、間後頭骨)と呼ばれる余分な骨で、稀にこのような頭骨を持つ人がいる。遺伝性の性質とされている。ギャラリー墓から見つかった三角の頭骨のある骨をDNA分析してみたところ、彼らが実際に親族だったあることがわかったそうだ。面白い。
考古学というと一般的には文系の学問のイメージがある(社会科学に分類されているよね?)けれど、DNA分析など様々な分析技術が発達した現在は自然科学の手法も考古学研究に大いに使われている。考古学に限ったことではなく、他のいろいろな学問分野についても言えることだろう。文系、理系という考え方は今の時代、あまり意味をなさないよね。