前回
のデンマーク地質旅行の続き。

ステウンス・クリントの崖は下部が白亜紀後期のチョークの地層、その上にK-Pg境界であるFish Clayという極薄の地層を挟んで古第三紀の石灰岩の地層が重なっていた。ステウンス・クリントのチョークの層を「白亜紀の生き物の化石が埋まっていないかなあ」と思いながら眺めていたら、岩肌にウニの化石らしきものが見える。

紫の丸で囲んだところに何かがある。

ズームレンズを通して見たところ、やっぱりウニっぽい!しかし、ステウンス・クリントは世界遺産で、ハンマーで岩を叩いて化石を取り出したりするのはご法度である。下に落ちているものなら拾っても良いそうだ。下に何か落ちてないかなあ。そう思って、フリントで埋め尽くされた地面を見ると、

おおっ!フリントにうっすらとウニの殻の模様がついているではないか!これはどういうこと?ウニの殻の中にフリントが形成されたのだろうか。

なぜこれらのものがウニだとわかったかというと、これまでに別の場所でウニの化石を大量に拾っているからなのだ。それについては以下の記事にまとめた。

ハノーファーで白亜紀の化石を採集しよう

しかし、ステウンス・クリントの海岸に落ちていたのはこのフリント1つだけ。これでは物足りない。どこか近くに化石を採集できる良い場所はないかと調べてみたところ、内陸に25kmほど移動したファクセ(Faxe)という町に地質学博物館があり、そこで化石収集のガイドツアーを提供していることがわかった。よしっ、そこへ行ってみよう。

これがGeomuseum Faxe(ファクセ地質学博物館)。博物館は採石場の敷地に面している

 

ファクセの石灰岩採石場

うわー、すごい!真っ白な石切場だ。ガイドツアーに申し込むと、ガイドさんの監督のもと、ここで化石を拾うことができるのだ。でも、チョークかなと思ったのが石灰岩だときいて、あれっ?と思った。だとすると、K-Pg境界の上の古第三紀の地層ということになる。白亜紀の地層を期待していたのだけれど、まあ、いいか。せっかくここまで来たので、ツアーに申し込んだ。ツアー前にまずは博物館の展示を見て予習することにしよう。

博物館の内部。展示を見てわかったのは、ファクセの町はステウンス・クリントよりも高い位置にあり、採石場の地層はおよそ6300万年前のものだということ。つまり、白亜紀末の生物の大量絶滅後に形成された地層なのだった。白亜紀同様、古第三紀にも現在のデンマークは暖かい海だった。古第三紀の海にはサンゴ礁が広がり、貝やカニなど多くのサンゴ礁に住む多くの生き物がいた。博物館にはサンゴの化石がたくさん展示されている。

集団死したウニの化石が埋まった岩。ウニの棘がたくさん見える。

6600万年前の隕石の落下による気候寒冷化(「隕石の冬」)が引き金となった生物の大量絶滅で恐竜やアンモナイトは地球上から消え去った。だから、ファクセの採石場からそれらの化石が出ることはない。しかし、サメやワニは今日まで生き延びている。写真はサメの歯の化石。

ということで、いよいよガイドツアーに出発だ。夏休みだからか、子ども連れの参加者が多かった。ハンマーやノミは博物館で貸してもらえるが、私たちはこんな機会もあろうかと自前の化石収集道具を持って来たのだ。ガイドさんの説明によると、石切場はサンゴの化石だらけ。そのほかにカニや腕足類、貝、そしてサメの歯の化石もよく見つかるという。「岩にスパゲティみたいな構造が見えたら、それはサンゴですよ!」と教わり、さっそく探し始めたのだが、、、、。

サンゴだらけという言葉の通り、あたりは見渡す限り、サンゴ、サンゴ、サンゴ。逆にどれを拾ったらいいのかわからない。サンゴは群体を作るものが多いので大きな岩にびっしりサンゴの化石が埋まっていたりする。でも、大きな塊は運ぶのに重いし、かといって小さく割ればサンゴも割れてしまう。

変色したサンゴの化石を拾って来た

一つひとつの生き物の化石を拾うのとは勝手が違って、どこに着目したらいいのか、よくわからなかった。なので、いくつか、かけらを拾った後はサンゴ以外の化石を見つけることに集中することにした。

カニの甲羅の化石

 

いくつかカニや腕足動物の化石を見つけることができたが、うーん、なんかちょっと思ってたのと違う。ウニやべレムナイトなど、ある程度の大きさの化石を期待していたので、小さいものばかりで少し期待外れ。白亜紀の地層の方がいいなあと思ってしまった。

そんなわけで、化石収集のアクティビティとしてはそれほどエキサイティングな場所ではなかったものの、白亜紀末に生物の大量絶滅が起こった後、生態系が復活し、古第3紀にはまた別のかたちで海洋生物相が繁栄したのだということは感じることができた。この小さな体験もまた、今後何かに繋がるかもしれない。