ケポス(Quepos)滞在4日目に当初の目的だったマヌエル・アントニオ国立公園 (Parque Nacional Manuel Antonio)にようやく入ることができた。

マヌエル・アントニオ国立公園は、コスタリカで最も小さい国立公園であると同時に、最も多くの観光客が訪れる国立公園でもある。入場制限をしているものの、かなり人が多かった。

公園入り口はケポスの中心部から海岸沿いに7km南下したところにある。徒歩で公園へ行けるから便利だろうという理由で私たちは入り口付近のホテルに泊まっていたが、これが失敗だった。道路を隔ててビーチに面しているのもあり、観光客でごった返していてとてもうるさいのだ。

公園入り口に並ぶ人々

入る前からやや興醒めしていたけれど、せっかく来たからにはやっぱり公園内に入りたい。列に並んで、荷物検査を受け(食べ物は持ち込み禁止、公園内に飲食スペースあり)、中に入った。

マヌエル・アントニオ国立公園が人気なのは、コンパクトな公園ながら野生動物が多いこと、海に面しているので熱帯一次林、マングローブ、海岸と変化に富んだ自然を短時間で体験できるからだろう。

野生動物の姿は実際にたくさん見ることができた。

木の上のイグアナ

オジロジカ (Odocoileus virginianus)

ただし、野生動物のいる場所には常に複数のガイドツアーのグループが固まっていて、それが数十メートルおきなので、他の国立公園や自然保護区のように自分のペースで動物を探して歩けるわけではない。

昼寝中のホエザル

特にたくさん見たのはノドジロオマキザル (Cebus capucinus)だった。

お母さんの背中に乗る子ザル

寄生虫のチェック中

そこらじゅうにいるので、間近で彼らの行動をじっくり見られて面白い。でも、ノドジロオマキザルって見た目はかわいいけれど、かなり怒りっぽいようで、すぐに威嚇する。

そして、薬草になる植物を使いこなすなど、とても頭が良いらしい。

ノドジロオマキザルはMonkey´s brushと呼ばれるこの植物を使って、毛皮の中に入り込んだ寄生虫などを除去する。

食べ物持ち込み不可なのに、スナックを持ち込んだ人がいたらしい。

 

ビーチは綺麗だけれど、荷物をその辺に置きっぱなしにするとすぐにサルに荒らされるので注意!

マングローブ林の遊歩道

マヌエル・アントニオ国立公園、一度は行っておきたかったので実現してよかったけれど、ここで見た野生動物は他の場所でも見たものばかりだったし、激混みとまでは言わないもののかなり混んでいるので、一度でいいかな。

ケポスは宿もレストランも高いし、その割に質は、、、という感じで、正直に言うとあまり好みの場所ではない。でも、眺めの良いカフェやレストランがいくつもあって、連日のハードなハイキングの後、くつろげるのはよかった。

Emilio´s Cafeからの眺め

レストラン El Avionからの眺め

 

さて、いよいよ翌日はコスタリカ旅行のハイライトとなるオサ半島に向けて出発だ。

 

 

数日来、何度か頭に浮かんでいた疑問を口にしたのは、出発から15kmほどの地点に到達したときだった。

「ねえ、どうして四輪駆動の車を借りなかったの?」

コスタリカに来て以来、私たちは連日、車でメジャーな観光地を離れたさまざまな場所を訪れていた。舗装されていない砂利道、でこぼこの道、くねくねと曲がる山道、穴の空いた道。走りやすいとは言い難い道が多かったが、このときまでは楽観視していた。

夫とロードトリップをするようになって、30年以上になる。これまでに世界の多くの国を訪れ、あらゆる悪路を通って来た。オフロード好きの夫は石ころだらけの急斜面や狭い崖の道など、都市生活をしていれば通る機会のない道を繰り返し走った。助手席の私は怖い思いをしたことが何度もある。最初のうちは「なぜこんな道を通らなければならないの」と文句も言っていた。でも、いつの間にか慣れてしまったのだ。運転が得意な夫は、どんな道も難なく走り抜けて来た。今回もきっと大丈夫だろう。そう軽く考える癖がついた。

ただ、いつもなら四輪駆動の車を借りる夫が今回借りていたのは、なぜか前輪駆動の車。いつも旅行の計画を立て、飛行機や宿の予約をするのは私だが、レンタカーだけは運転手の夫に任せている。サン・ホセのレンタカー会社で車を受け取った際、あれ、おかしいな?と思ったのだが、そのとき私は何も言わなかった。というのも、こちらの記事に書いたように、今回の私たちの旅行はハプニングに次ぐハプニングで始まっており、最初の数日はその処理に追われ、ストレスでかなり参っていた。ようやく車を借りられてほっとしたところで新たな問題提起をする気にはなれなかったのだ。

この日、私たちは滞在中のケポス(Quepos)から、25kmほど離れたロス・カンペシーノス(Los Campesinos)と呼ばれる、山間の小さな自然保護区へ向かっていた。そこでハイキングをするつもりだった。

この日も「なんとかなるさ」という気持ちで出発したが、山道を進むにつれ、道路の状態はどんどん悪くなっていく。本当にたどり着けるのだろうか?それで、とうとう口にしたのだ。「なぜ四輪駆動の車にしなかったのか」と。私の問いに夫は「予約するときにうっかりしてた。後から気づいたけど、四駆じゃなくてもなんとかなるだろうと思って、変更しなかった」と言う。えええ?

なんとかなるのか、これ?

ならないんじゃない?

難所に次ぐ難所。ただ横に座っているだけでも心臓が縮みそうだ。

結論を言うと、相当な時間をかけてソロソロと進み、どうにかこうにか目的地に辿り着くことができた。ロス・カンペシーノス自然保護区があるのはケブラダ・アロヨ村という、民家がいくつかあるだけのとても小さな集落だった。ロス・カンペシーノスとはスペイン語で「農夫達」を意味する。地元の農協メンバーのイニシアチブで一次林および二次林から成るおよそ33ヘクタールの土地が保護されるようになった。保護区内にはいくつかの小さなコテージがあり、宿泊客はさまざまな自然体験をし、持続可能な農業について学ぶことができる。ガイドツアーへの参加なしでも受付で入場料を払えば、保護区内のトレイルを歩くことが可能である。受付の女性は英語はまったく通じなかったので、私のカタコトのスペイン語の出番だった。

ロス・カンペシーノ自然保護区のトレイルマップ

保護区内には2本の吊り橋と2つの滝がある。

この日、私たちの他に観光客の姿は見当たらず、聞こえるのは鳥や蝉の声だけ。

コスタリカには吊り橋がたくさんある。私の知っている限りでは、コスタリカの吊り橋は目の細かいネットでできた幅の細いものが多く、吊り橋というよりも平均台とトランポリンを足したような感覚で、歩くとボヨヨン、ボヨヨンとしなるのが楽しい。

向こうに滝の見える長い吊り橋。

トレイルを歩くこと自体も素晴らしかったが、この自然保護区のハイライトはトレイルの終点にある大きな滝だ。期待を上回る美しい空間がそこには広がっていた。

 

滝の水は透き通る糸のように岩壁をつたい、岩の窪みに流れ落ちている。滝の下にはエメラルドグリーンの水を湛える天然のプールができている。この滝はこれまでにコスタリカで訪れた他の滝のような力強さはないが、その分、穏やかでとても落ち着く。前日のナウヤカの滝では水着を持参せず泳げなかったので、今回は忘れずに持って来た。着替えてさっそく天然プールに入る。最高!しばらく泳いでから、まるで露天風呂のような風情の小さな滝壺にも入ってみた。

ひんやりした水が気持ち良い。あ〜、ここは天国?こんな場所を独占できるなんて、信じられない。はるばる苦労してやって来た甲斐があったよ。

コスタリカは国立公園や国が指定する大規模な野生動物保護区の他にも大小様々な自然保護区が無数にあり、それぞれの場所でハイキングを楽しんだり、ネイチャーガイドによるツアーに参加できるのが素晴らしい。さすがエコツーリズム大国である。ガイドブックに載っているようなメジャーな保護区以外は混み合うこともなく、このように大自然を独り占めするチャンスもある。

素晴らしい自然を堪能した後、石だらけの道を慎重に戻り、無事にケポスに戻ることができた。

が、悪路に悩まされたのはこのときが最後ではなかった。「四輪駆動の車を借りなかった」というミスは、私たちにつきまとい、とんでもない結末を生むことになる。この時点ではまだそれを知らずにいたが、、。

 

 

 

 

観光地ケポス(Quepos)からは、マニュエル・アントニオ国立公園を始めとしたいくつかの観光ツアーが出ている。その中で興味を惹かれたのは、ナウヤカの滝とロス・カンペンシーノの滝だった。私たちはレンタカーを借りているので、ツアーには参加せず、自力で行ってみることにした。

最初に向かったのはナウヤカの滝(Cataratas Nauyaca)。ドミニカル(Dominical)から国道243号を内陸に向かっておよそ10km進んだ渓谷にある。滝に行くには、Nauyaca Waterfallsという名前の個人経営のツーリズム会社のオフィスでエントリーチケット(外国人は10米ドル)を購入する必要がある。

トレイルの入り口。

オフィスから滝までのトレイルは往復でおよそ12km。車があればオフィスから駐車場までの2kmを車で移動できるので、歩くのは往復8kmになる。そこそこアップダウンがあって、それなりにキツいらしい。歩きたくない人はジープで滝のそばまで連れて行ってくれるサービスもあったが、歩くことにした。途中、食べ物や飲み物の買える場所は一切ないので、要持参である。

バル川を渡り、二次林、そして一次林を歩き、目的の滝へと向かっていく。一生懸命歩いたので、途中の写真を撮るのを忘れてしまった。

ナウヤカの滝は2つのレベルからなる滝で、上段の滝は高さ45メートル。

コスタリカには迫力のある滝が多いなあ。

その下方に高さ20メートルの滝がある。広い滝壺には、たくさんの人が泳いでいた。そして、なんとこの滝は飛び込みスポットになっているのだ。滝は階段状になっており、下の方の段から飛び込む人、中程の段から飛び込む人、てっぺんから飛び込む強者(おそろしい!)など、その人の勇気に応じたチャレンジが繰り広げられている。ただし、勝手に飛び込むのは許可されない。必ず係員の補助を受けて飛び込むというのがルールだ。

実は、滝壺で泳げるというのを知らなかったので、この日は私たちは水着を持っていなかった。水がとても綺麗だったので、泳げなくて残念だなあとも思ったけれど、水着を持参していたら自分も飛び込みチャレンジをしなければならないような気分になっていたかもしれない。まさか、てっぺんから飛び込むことはあり得ないけど、真ん中あたりからやってみようかという考えが頭をよぎっていただろうか。

うーん。水着がなくて、むしろよかった。怖いことを考えなくて済んだから。

勇者たちのチャレンジをしばし見物し、往路についた。途中で、目の前の木の上にオオハシが止まっているのが見えた。オオハシにはいろいろな種類がいるが、コスタリカで最もよく見かけたのはこのクリハシオオハシ( Ramphastos swainsonii)だ。

さらに歩くと、セクロピアの木にミツユビナマケモノがぶら下がっている。

ノドチャミユビナマケモノ (Bradypus variegatus)

野生のナマケモノは今までに何度も見たことがあるけれど、いつも葉の生い茂る密林の高い木の上にいて、お尻しか見えないことがほとんどなので、こんなにはっきりと姿を見ることができて感激だった。しかも、ゆっくりと体を動かし、移動する姿を観察することができた。ナマケモノは一生の大部分の時間を木にぶら下がって過ごし、地面には1〜2週間に一度くらい、排泄のために地面に降りてくるだけだというが、もしかして今がそのトイレタイムなのだろうかと少し期待してしまった。残念ながら下には降りて来なかったけれど。それにしても、なぜわざわざ排泄のために手間暇かけて地面に降りる?木の上からすればよいではないか?気になって調べてみたところ、ナショナルジオグラフィックのこんな記事が見つかった。

ナマケモノ、危険なトイレ旅の見返りは?

ナマケモノを眺めていたら、観光客を乗せたジープがオフィスの方からやって来た。ナマケモノには気づかなかったのか、スピードをさげずにそのまま滝の方向へ走り去った。

なかなかくたびれるトレイルではあったけれど、ナマケモノをじっくり見ることができたから、ジープの送迎サービスを頼まずに自分で歩いた甲斐があったなあ。

 

 

 

コスタリカ北部の2つの国立公園、アレナル火山国立公園テノリオ国立公園のトレイルを楽しんだ後、私たちは南へと向かった。目的地はオサ半島だが、一気に移動するのはキツいので、中間地点のケポス(Quepos)に3泊することにした。ケポスは太平洋に面した国立公園、マニュエル・アントニオ国立公園(Parque Nacional Manuel Antonio National) に隣接した町で、コスタリカの一大観光地である。なんとなく予想はしていたが、実際に行ってみるとオーバーツーリズム気味でうるさく、好みの場所ではなかった。大人気のマニュエル・アントニオ国立公園のチケットも到着の翌日とその次の日の分はすでに売り切れており、滞在3日目のチケットをかろうじて抑えることができた。

さて、それまでの二日間は何をしよう?

すぐに思い浮かんだのは、ケポスから国道34号を40kmほどさらに南下した、ドミニカル(Dominical)にある野生動物保護区、ハシエンダ・バル (Hacienda Baru)だった。

いつも旅行を計画する際には、ガイドブックやネットで情報を集めるだけでなく、その国に関する書籍を探して読むことにしている。今回、下調べとして読んだ本のうちの一冊はコスタリカの自然に関するエッセイ集 “Monkeys Are Made of Chocolate – Exotic and Unseen Costa Rica“。米国人の著者、Jack Ewing氏は1970年代の終わりにコスタリカに土地を購入し、以来、自然再生及び野生動物の保護活動を続けている。とても興味深く読んだので、Ewing氏がハシエンダ・バルと名付けたその保護区に行ってみたいと思った。

 

ハシエンダ・バル入り口

ハシエンダ・バルは自然観察ツアーを提供する宿泊施設も兼ねていて、敷地にはこじんまりとした居心地の良さそうなコテージが並んでいる。この自然保護区について知ったときにはすでにケポスの宿を予約してしまっていたので、ここに泊まるのは断念したのだった。もっと早くに知ってここに滞在できたらよかったのにと少々後悔。

 

太平洋と国道34号に挟まれた、広さおよそのハシエンダ・バルの敷地はかつては牛牧場で、およそ150ヘクタールに渡って森林が破壊されていた。

1972年に撮影された航空写真。左下は太平洋。画像は敷地内の説明用立て看板の写真を撮影したもの。

 

個人のイニシアチブから始まった自然再生の試みだったが、Ewing氏らの継続的な活動の結果、敷地は多くの野生動物の生息地として蘇り、1995年、ハシエンダ・バルは国の野生動物保護区に認定されている。

自然再生が進んだ現在の様子。

 

敷地内にはいくつかのトレイルがあり、料金を払えば、宿泊者以外のビジターも歩くことができる。私たちも歩いてみることにした。

野生動物を観察したいなら、早朝か夕方が良い。昼間の暑い時間帯は動物たちは茂みなどの奥に隠れて休んでいるからだ。このときはちょうど昼間で、あまり動物は見られないだろうなあと期待していなかったが、意外に多くの生き物に遭遇した。

 

シロボシクロアリモズ (Thamnophilus bridgesi) これはメスかな?

 

鬱蒼とした茂みに挟まれた小径を歩いていくと、前方数十メートルの地面に何やら茶色い大きな物体が横たわっている、、、、と思ってよく見たら、それは3羽のオオホウカンチョウ (Crax rubra )のメスだった。

もう少しよく見ようともう一歩足を進めたら、そのうちの1羽が飛び上がり、横の茂みに入った。茂みの中から心配そうな声を上げ、仲間の2羽に呼びかけている。しまった、怖がらせてしまった。ごめんなさい。

オオホウカンチョウ(大鳳冠鳥)はコスタリカでは特に珍しい鳥ではないが、体長90cmにも及ぶその大きさと見事な頭の冠羽が特徴的で、目にするたびに目を見張ってしまう。

ちなみに、これは別の場所で撮った写真だが、オスは体全体が真っ黒で、嘴の上に黄色い大きなコブがある。

日頃、ドイツでバードウォッチングをする際、コーネル大学が開発した野鳥識別アプリ、Merlin Bird IDが大いに役に立った。グローバル対応のこのアプリは地域ごとのパッケージがあるので、現地に着いたら該当するパッケージを追加で無料ダウンロードすればすぐに使えて便利だ。コスタリカのネイチャーガイドさんたちも皆、使っているようだ。紙のフィールドガイドなら、やはりコーネル大学出版から発行されているシリーズのRichard Gariguess “The Birds of Costa Rica: A Field Guide” が良い。

 

胴の赤さが鮮やかなコシアカフウキンチョウ(Ramphocelus passerinii)のオス

こちらはメス。メスはコスタリカの東部と西部でカラーバリエションが異なる。このように胸元のオレンジ色が濃いのは西部(太平洋側)で見られる。

ナツフウキンチョウ (Piranga rubra)のオス。

ナツフウキンチョウ (Piranga rubra)のメス。

イグアナもいた。イグアナはフィールドガイドを見ても、種がよくわからない。(わかる方がいらしたら、是非是非教えてください)

 

哺乳類はクビワペッカリー( Tayassu tajacui) とマダラアグーチ(Dasyprocta punctata)に遭遇!

ペッカリーにはクチジロペッカリー (Tayassu pecari)というのもいるが、これはクビワペッカリーの方、なぜなら、

ほらっ!首の周りに白い毛がリング状に生えている。

巨大なネズミのような、あるいはリスのような、なんとも不思議な見た目のアグーチ。群れることなく単独で行動するが、昼行性の動物だから遭遇するチャンスはまあまあある。主に果物や植物の種を食べ、森に種を散布する、生態系において重要な役割を持つキーストーン種だ。

ざっくり2時間ほどのトレイルだったが、いろいろな生き物が見られてとてもよかった。エントランスに戻ってカフェエリアで飲んだ、冷えたスムージーもとてもおいしかった。次回はぜひハシエンダ・バルに宿泊して、ガイドツアーに参加したい。

 

 

 

前回の記事に書いたアレナル火山国立公園へ行くには、近郊の町、ラ・フォルトゥナを拠点とするのが一般的である。ラ・フォルトゥナは観光地化が進んでいて、欧米からの移住者も多く、洒落たレストランやカフェが立ち並び、英語もよく通じる。ただ、ローカル感が薄くて、個人的にはなんとなくつまらなく感じる。そこで今回はアレナル湖北岸に位置する小さな町(村?)、ヌエヴォ・アレナル(Nuevo Arenal)を拠点にしていた。

ヌエヴォ・アレナル。向こうに見えるのはコスタリカ最大の人工湖であるアレナル湖

スペイン語で「新アレナル」という意味のヌエヴォ・アレナルは比較的新しい集落だ。1978年にアレナル湖を造る際に立ち退きを余儀なくされた住民らの移住先として政府主導で整備された。これといって何があるわけでもない。観光客向けインフラとしては宿がいくつかとレストランがいくつか、それになぜかジャーマンベーカリーが一軒あるが、それだけ。でも、のんびりしていて気に入った。外国人の経営する各国料理レストランが多いラ・フォルトゥナとは違い、ヌエヴォ・アレナルはもっとローカルで、英語もそれほど通じない。

メインストリートにあるローカルレストラン。

たいした料理が出てくるわけではないけれど、味は悪くなく、サービスも田舎の食堂らしい感じで、暢気な心地よさがあった。

チキンタコスを注文したら出てきた料理。あまりにシンプルでちょっと驚いたけれど、味はよかった。

店内にあるテレビではローカルニュースをやっていた。スペイン語なので半分くらいしかわからなかったが、タコスを頬張りながら「インフレで個人経営の会社が次々倒産しています」とか、「グアナカステ県の橋の工事がイースター休暇後に始まります」「ポアス火山の噴火活動が活発化しているため、状況によってはハイキングルートが閉鎖になる可能性があります」なんていうニュースを見て、少しはコスタリカ国民の生活に近づいた気分で楽しかった。私は、現地の人の生活する場所と観光客が滞在するエリアが分かれているのが好きではなくて、大型リゾートなどに滞在する気にはなかなかなれない。コスタリカは大型リゾートが少ないという点でも気に入っている国だ。

前置きが長くなった。この記事の本題は、アレナル火山国立公園 からさらに北西に位置し、ヌエヴォ・アレナルからアクセスしやすいテノリオ火山国立公園について。テノリオ火山国立公園にはセレステ川(Rio Celeste)という、水の色が空のように青いことで知られる川が流れている。セレステ川沿いを歩くトレイルがあると知り、行ってみることにした。

 

ナビによると、ヌエヴォ・アレナルからセレステ川トレイルの入り口までは片道およそ1時間20分と表示されたが、道路の状態が悪く、思いのほか時間がかかった。詳しく後述するが、今回のコスタリカ旅行では、車での移動に本当に苦労させられることになる。

コスタリカの自然保護区はオーバーツーリズムによる自然破壊を避けるため入場制限をしており、事前に政府の自然保護区管理組織、Systema Nacional de Áreas de Conservación(SINAC)のサイトで予約し、チケットを購入しなければならない。人気の高い自然保護区はすぐに定員に達してしまうので、ある程度早めに予約をしておくことが重要だ。

トレイルの入り口から1.5kmほど離れたセレステ川の滝(Catarata Rio Celeste)に向かって、雨が上がったばかりのしっとりと濡れた熱帯雨林を歩いていく。トレイルの途中で、いろいろな野生動物の姿を見ることができる。

 

トレイル脇の地面に小さいマツゲハブ(Bothriechis schlegelii)がいた。目の上にまつげのような突起があることからマツゲハブと呼ばれる。樹上性のヘビだが、若い個体は地面近くにいることも多いらしい。

 

高い木のてっぺんにナマケモノの姿も見かけた。また、シロバナハナグマ(Nasua narica)が餌となる虫を探して地面を掘っている場面に遭遇した。

野生のシロハナグマはコスタリカで最もよく見かける哺乳類だと思う。よく群れで国道脇などに現れ、観光客から餌をもらっていたりする。もちろん、餌付けは禁止されている。

 

生き物を眺めながらゆっくりと歩いているうちに滝に到着した。

「空色の川」を意味するセレステ川の滝壺の水の色は確かに青かった。ただし、その青色は天候や季節によって変化するようだ。この日は雨が降ったり止んだりしていたので、やや白濁して見えた。

 

トレイルはさらに続く。

青い池、Laguna Azul

 

セレステ川は本当に美しいが、残念ながら泳ぐことはできない。

 

火山活動による熱水が噴き出す場所(Borbollones)も。

 

さらに歩き、真っ青な川にかかった小さな橋を渡ると、ブエナヴィスタ川(Rio Buenavista)とケブラダ・アグリア川(Rio Quebrada Agria)という二つの川が合流し、セレステ川となる場所、Los Teñiderosに行き着く。ブエナヴィスタ川もケブラダ・アグリア川もまったく青くはない。両者が合流することによって初めて、セレステ川の神秘的な色が生み出されるのだ。

 

ブエナヴィスタ川の水はアルミノケイ酸塩を含んでいる。ケブラダ・アグリア川の水と混じり合い、水の酸性度が変化することで、それらの粒子が184nmから570nmへと大きくなるのだという。粒子の一部は川底に沈み、白い沈殿物となるが、大部分は水の中に分散し、漂う。水面に日光が当たると、大きくなったこれらの粒子が光を強く散乱させる。波長の比較的短い青い光は散乱しやすい。水が青く見えるのはこのためだ。ふと、北海道、美瑛の「青い池」を思い出した。あれも同じような現象だったはず。

 

美瑛の青い池

 

セレステ川沿いのトレイルは往復約6km。高低差もそれほど大きくなく、歩きやすかった。

 

 

 

首都サン・ホセを出発した私たちがまず向かったのは、アレナル火山国立公園 (Arenal Volcano National Park)だ。計画では、旅の最初の3日間はモンテヴェルデ熱帯霧林自然保護区(Monteverde Cloud Forest Nature Reserve)でバードウォッチングを楽しむはずだったのだが、こちらの記事に書いたようなハプニングの連続で、その3日間が丸ごと吹っ飛んでしまったのだ。ああ、無念。でも、嘆いていてもしかたがない。仕切り直していこう。

アレナル火山国立公園は、サン・ホセから北西におよそ90kmに位置する。アレナル火山とチャット火山という二つの火山を囲む、広さ1万2000haの自然保護区だ。

アレナル火山はコスタリカで最も活動の激しい火山で、1968年からずっと噴火活動が続いている。富士山にも似た円錐型が美しい山だけれど、てっぺんが雲に隠れていることが多く、上の写真のようにくっきりと全容が見るのはなかなか難しいらしい。私がボルカン・アレナル国立公園を訪れるのはこれが2度目で、写真は前回の滞在時にかつてのスミソニアン研究所の火山観測所を改装したホテル、Arenal Observatory Lodge & Trailのテラスから撮ったもの。このときは1週間滞在して、溶岩原のトレイルを歩いたり、ネイチャーガイドによるナイトハイクに参加したり、近郊のタバコン温泉に浸かったり、ジップラインで熱帯雨林を滑走したりした。ジップラインについては書きたいことがあるので、別の記事にまとめよう。

今回の滞在では、前回やり残した、フォルトゥーナ滝までのトレイル(La Fortuna Waterfall Hike)を歩いてみた。

ちなみにトレイルは有料で、チケットは1人20米ドル。トレイルの長さは片道1.2km。たいしたことがないなと思ったけれど、高さ70メートルの滝を見るためには、急な階段530段を降りなければならない。

途中で木の上にホエザルがいるのを発見。

 

途中のプラットフォームから見たフォルトゥーナ滝。遠くてスケール感がよくわからない。

 

間近まで行って見ると、なかなかの迫力。

滝壺で泳いでいる人たちもいたけれど、危ないので私はここでは泳がずに、

少し離れた場所で泳いだ。透明なブルーの水が綺麗で、大きな魚もたくさんいてテンションが上がる〜。

しばらく泳いだ後は、また530段の急な階段を登って帰らなければならない。そこそこキツい。でも、これはまだ序の口。観光地だけにこのトレイルはよく整備されていて歩きやすく、後から思えば、これからコスタリカ滞在中に歩くことになる数々のトレイルのための準備運動だった。

さらに今回は、アレナル火山の西側、人口湖アレナル湖の南端近くに位置する蝶園、 Butterfly Conservatoryへも行ってみた。

これが意外にとてもよかった!「きっと観光客目当ての施設で、たいしたことないんだろう」となんとなく思っていたが、とんでもない先入観だった。

ブルーモルフォ (Morpho)

メムノンフクロウチョウ (Caligo memnon)

オオカバマダラ (Danaus plexippus )

シロモンジャコウアゲハ (Parides iphidamas iphidamas)

ラウレンティアアメリカコムラサキ (Doxocopa laurentia cherubina)

キングスワローテイルバタフライ (Heraclides thoas)

コスタリカにはおよそ1500種の蝶がいるとされている。中央アメリカに生息するすべての蝶の90%がコスタリカで見られる。今回の滞在中には至るところでたくさんの蝶を見ることになったが、常にひらひら動き回っていて写真を撮ることはおろか、じっくり見るのすら難しかったので、この蝶園でいろんな種が見られたのはよかった。

蝶だけでなく、カエルもいろいろ飼育されている。

アカメアマガエル(Agalychnis callidryas)。コスタリカは中央に山脈が走っており、その西(太平洋側)と東(カリブ海側)とでアカメアマガエルのお腹の色が違う。これはカリブ海側のアカメアマガエル。

マダラヤドクガエル(Dendrobates auratus)

そして、さらに嬉しいことに、蝶園の敷地内にはトレイルもあり、熱帯雨林の中を歩くことができる。観光客にはそれほど存在を知られていないのか、私たちの他にはほとんど誰もいなかった。

なんて癒される空間だろう。素晴らしいー!

 

 

この記事の参考サイト:

Arenal Volcano National Park

Costa Rica Butteflies, motos, and the Blue Morpho Butterfly

 

セイシェルでは大部分の時間を海の上で過ごしていたが、クルーズの半ばにプララン島に上陸し、ヴァレ・ド・メ自然保護区(Vallée de Mai Nature Reserve)を訪れた。広さ20ヘクタール弱のヴァレ・ド・メ自然保護区は天然のヤシの森がほぼ手付かずの状態で残る、世界最大の種を持つヤシの木、オオミヤシが生息することで知られる。


オオミヤシは実の驚異的な大きさ(平均15-20kg)だけでなく、その魅惑的な形状のために多くの伝説を生んで来た摩訶不思議な植物だ。オオミヤシは、セイシェルの島々が発見されるよりも以前から、その存在が知られていた。ときおり、インドやアフリカ、モルディブの海岸に流れ着く魅惑的な木の実が一体どこからやって来るのか、そしてそれはどんな木の実なのか、長い間、誰も本当のことを知らないまま、観賞の対照として、また薬効や魔力があると信じられ、多くの国で珍重された。セイシェルでオオミヤシがフランス語で「海のヤシ」を意味するココデメール(Coco de Mer)の名で呼ばれるのは、かつてオオミヤシは海の底に生えているのだと信じられていたことに由来するのかもしれない。ヨーロッパへは交易の旅から戻ったポルトガル人によって初めてもたらされたそうだ。学名がLodoicea maldivicaなのは当時モルディブでよく見つかっていたからだそう。

しかし、オオミヤシの木が自然に生育するのは、世界中でプララン島とキューリーズ島だけだ。他の場所でもオオミヤシを見ることはできるけれど、それらはすべて人の手で植えられたもので、育てるのが非常に難しいので成功例は多くない。ちなみに、ベルリン植物園の温室にもオオミヤシがある。

真ん中に割れ目があるオオミヤシの実

これまでに見つかったうち最大のものは42kgだという。両手で抱えてもずっしりと重くて、長いこと持っていられない。真ん中に割れ目のあるハート形が女性のお尻を連想させることから、セイシェルでは豊穣のシンボルとされる。

オオミヤシは雄雌異株、つまり雄花と雌花をそれぞれ別々の個体につける。雄株の花は長い鞘状をしていて、これまたまるで男性の生殖器を思わせる形状なのだ。人々にあらぬ想像を掻き立てたのも無理もない。オオミヤシのオスとメスは嵐の夜に巨大な葉をワサワサと揺らしながら結合すると言い伝えられて来た。しかし、それを実際に目撃したものはいない。なぜなら、目撃した者は呪われ、死ぬ運命だからだ。

葉も異様に大きい。生育に必要な水分と養分をたっぷりと集めることができる。

森でよく見るヤモリはオオミヤシの受粉係

オオミヤシの雌株

オオミヤシの成長はゆっくりで、雌株が実をつけるようになるまでには25〜40年もかかる。

現在、4000本ほどのオオミヤシの木が存在するが、外来種の侵入や違法な採取、森林火災などで減少が危惧されており、厳重に保護されている。1983年にヴァレ・ド・メ自然保護区はUNESCO世界遺産に登録された。オオミヤシの実の中にはゼリー状の果肉があるが、食べるのは絶対禁止。1980年代まではアーユルヴェーダの薬の原料として年間100個のオオミヤシがインドに輸出されていたが、現在は停止しており、販売許可されるオオミヤシの数は限定されている。1つ数万円するそうだ。

オオミヤシはセイシェルの人々にとってナショナルアイデンティティだ。観光客向けのお土産もオオミヤシの実を象ったものがたくさん売られている。ペンダントなどもあって、ちょっと惹かれたけれど、オオミヤシのことを知らない人が見たら、その形から何か勘違いされるかもと思ったので、買うのはやめておいた。

森にはオオミヤシの他に5種のヤシが生育する。

ジャックフルーツもたわわになっている。

ヴァレ・ド・メはクロオウムの最後の生息地の一つでもある。鳴き声はしていたけど、残念ながら姿を見ることはできなかった。

 

この記事の参考文献及びウェブサイト:

ガイドブックシリーズ Richtig Reisen、”Seychellen” (2010) Dumont Verlag

Robert Hofrichter “Naturführer Seychellen: Juwelen im Indischen Ozean” (2011) Tecklenborg Verlag

Seychelles Island Foundationのウェブサイト