アニマルトラッキングをするようになってから、あちこちでアライグマの足跡や糞を目にするようになった。アライグマの足跡は特徴的である。まるで指を開いた人間の手のようで、他の動物と区別しやすいのだ。

泥の上についたアライグマの足跡

「アライグマ」という名前が示唆する通り、特に水辺で見かけることが多い。

とはいえ、アライグマは食べ物を洗うために水場に来るわけではない。食べ物を洗う習性があるからアライグマと呼ばれているのかと思っていたが、それは誤解だった。アライグマは足の触覚がよく発達している。水場で前足を使って食べられるものを探し、その感触を確かめる仕草があたかも食べ物を洗っているかのように見えるということらしい。実際にアライグマが餌を食べる場面を見たことがある。すぐそばに池があるにもかかわらず、洗わずに平気で食べていた。別にきれい好きというわけではないようだ。

アライグマはドイツでは外来種である。毛皮を取るために北米から輸入されたアライグマの一部が1930年代の半ば、ヘッセン州エーデル湖付近に放たれたのがドイツにおけるアライグマ野生化の発端だ。オオカミがいったん絶滅したドイツには天敵が存在せず、雑食で適応力の高いアライグマはどんどん増えていった。最初はヘッセン州北部やニーダーザクセン州南部などドイツ西部の限られた地域のみだったが、第二次世界大戦中の1945年、さらなる増殖を引き起こす事件が起きる。ベルリン近郊のシュトラウスベルクにあった毛皮ファームに爆弾が落ちたのだ。そのとき工場敷地から逃げ出したアライグマは、現在に至るまでベルリンやその周辺のブランデンブルク州で増え続けている。ベルリンはいまやアライグマだらけで、「欧州のアライグマ首都」と呼ばれるほどである。

アライグマは見た目は愛嬌があるけれど、人の住んでいるところへもやって来て建物の中に入り込んで寝ぐらにしたり、畑を荒らしたりするので、なかなかやっかいな生き物である。回虫や狂犬病媒介のリスクもある。多種多様な動植物を捕食するので、在来生態系への影響もかなり懸念されているが、外来種として駆除するべきか、すでに定着した野生動物として扱うべきか、ドイツでは意見が割れている。駆除して個体数を減らすと、その分たくさん子どもを産んで盛り返して来たり、安全なエリアを求めて移動し、結果として生息範囲が広がるなど、逆効果な面もあってなかなか減らない。ベルリン市内ではアライグマをいったん捕獲して不妊手術をし、再び放つという取り組みをする市民イニシアチブが始まったが、効果のほどはまだわからないらしい。

どのような対策を取るにせよ、全国のアライグマ繁殖状況を把握することが重要だ。そこで、アライグマを含む外来種の痕跡を見つけた市民がアプリを通して報告するシチズンサイエンスプロジェクト、ZOWIACが立ち上がった。

私たちが家の近くに設置しているトレイルカメラも頻繁にアライグマの姿を捉えている。散歩の途中にアライグマのトイレと思われる場所を目にすることもよくある(汚いので画像は自粛)。昼間、目にすることはほとんどないが、アライグマは身近にたくさんいるようだ。私もアプリをダウンロードし、ZOWIACプロジェクトに参加することにした。よーし、これからどんどん報告するぞー!

ところがその矢先、予想していないことが起こった。なんと、我が家のガレージにアライグマが侵入した。報告第一弾は自分の家に出没したアライグマということになってしまったのである。

 

抜き足、差し足、忍び足。その姿はまるで泥棒。目の周りの黒い毛が目隠しのようで、泥棒感をさらに演出している。思わず笑ってしまう。しかし、笑ってる場合ではないことがまもなく判明する。

夜になりガレージから出たアライグマは庭に出て、木にぶら下げてある鳥の餌のファットボールに手を出した。さらには、餌台によじ登って中に入り込み、鳥たちの食べ残した餌を平らげてしまった。

 

アライグマは木登りの天才で、どんなところにもよじ登るらしい。庭には野鳥観察のためにカメラを複数設置してあるのだが、それらに映ったアライグマの器用さと大胆さは驚くばかりである。さあ大変なことになった。野鳥の餌はあくまで野鳥のためのものなので、アライグマに食べ尽くされてしまうわけにはいかないのである。この日から夕方まで残った餌は片付けてから寝ることにした。

でも、これはまだほんの序の口だった。本当の悲劇はこの数日後に起こった。

過去記事に書いている通り、我が家の庭には野鳥のためのカメラ付き巣箱を設置してある。野鳥の営巣や子育ての様子をリアルタイムで観察するのが春の大きな楽しみなのだ。今年は初めてアオガラが巣作りをし、10個の卵を産んだ。ヒナが孵るのを今か今かとワクワクして待ち、ついに元気いっぱいなヒナたちが生まれたところだった。親鳥が夫婦でせっせと巣に餌を運ぶ姿を微笑ましく見ていたのだ。

それなのに、、、、。

ヒナが生まれて3日目の朝、カメラを覗くと巣に異変が生じていた。そこに母鳥の姿はなく、巣が荒れている。ヒナ達は横たわり、動かない。一体、夜の間に何があった?

過去にさかのぼって録画を再生したところ、そこには衝撃的なシーンが記録されていた。アライグマが巣箱の中に手を入れ、母鳥を捕まえて食べてしまったのだ。ショッキングな映像なのでここには貼らないが、よく動く、あの人間のような手が親鳥に伸びた瞬間、耐えきれず悲鳴を上げてしまった。ああ、なんということだろう。

もちろんアライグマだって野生動物、本能に従って行動しているだけだ。残酷なようだけれど自然とはそういうものだと言われればそうに違いない。でも、やっぱりショック。アオガラのヒナ達が元気に巣立つ姿を見たかったのに。さらに腹立たしいことには、隣の奥さんに事件について話すと、「うちも鳥の巣を3つも荒らされた」という。そして、斜め向かいのお宅でも、、、。連続野鳥キラーである。恐るべしアライグマ。

このような理由で今年の春の野鳥営巣観察は悲しい結末となってしまった。とても残念。でも、これまでその生態をほとんど知らなかったアライグマを身近で観察する機会が得られたのは、それはそれで一つの収穫と言えるかもしれない。そう思うしかない。

 

 

 

 

前回の記事の続き。

せっかくはるばる自然保護区ベルトリングハルダー・コークまでやって来たからには、できるだけくまなく保護区を見て回りたい。自転車を車に積んで来たので、保護区内をサイクリングすることにした。

地図に入れた紫のラインが今回のサイクリングルート。ホテルArlauer Schleuseを出発し、北回りでだいたい25kmくらいかな。カオジロガンの群れのいる見晴らし台Aussichtturm Kranzを通り過ぎ(カオジロガンの群れについては前記事の通り)、1kmくらい進んだところで左に曲がり、Lüttmoordammという舗装された道を海に向かって真っ直ぐ走る。

この写真は翌日に撮ったので曇っているが、サイクリングをした日は快晴で気持ちがよかった。

真っ平らなので、野鳥に興味がなければ単調な景色に感じるかもしれない。しかし、至るところにいる野鳥を眺めながら、自転車を走らせるのは最高なのである。三角形をした保護区の北西側に広がる湿った草地や淡水池、塩沼にはたくさんのシギがいた。

エリマキシギ (Kampläufer)

オスのエリマキシギ。繁殖期のオスの体の模様にはいろいろなバリエーションがある。首の後ろの羽を襟巻きのように広げて求愛行動をおこなう。残念ながら、広げている姿は見られなかった。

オグロシギ (Uferschnepfe)。草地の地面に巣を作る。

タゲリ(Kiebitz)の姿もあちこちで見られた。

周囲の色と一体化していて、よく見ないとわからないものも。

ミヤコドリ(Austernfischer)。

ソリハシセイタカシギ (Säbelschnäbler)

ここにもたくさんのカオジロガンが。

こちらはコクガンの一種であるネズミガン(Ringelgans)。

ツクシガモ(Brandgans)

巣で抱卵中のガン。

ハイイロガンのヒナはすでにたくさん生まれていて、家族連れで歩いているのをそこらじゅうで見た。

保護区内ではウサギもたくさん駆け回っている。

リュットモーアダムを先端まで行くと、保護区のビジターセンターがあり、ベルトリングハルダー・コークの生態系やその保護についての展示が見られる。

ビジターセンターを見た後は、すぐ前の堤防に上がってみた。

堤防からは海へ線路が延びている。

干潮時にしか利用できないこの線路はHalligと呼ばれるワッデン海特有の小さな島へと続いている。高潮時の海面からわずか1メートルほどの高さしかないHalligが、ワッデン海には10つある。

ハリク、ノルトシュトランディッシュモーア(Nordstrandischmoor)。この小さな島はかつて、シュトラント島というもっと大きな島の一部だった。1634年に起きた高潮によってシュトラント島は海に沈み、ノルトシュトランディッシュモーアはかろうじて残ったその断片なのだ。盛土がされた場所にいくつかの建物が見える。わずかながら人が住んでいて、学校もある。ドイツで最も生徒の少ない学校だそう。

さて、サイクリングを続けよう。

堤防を南に向かって走ると、左手には塩沼に縁取られた塩湖が広がっている。その南側は立ち入り禁止の野生ゾーンだが、その縁を徒歩または自転車で通ることができる。出発地点に戻る途中にはさまざまな景色があり、いろいろな野鳥がいた。

ヨーロッパチュウヒ (Rohrweihe)

 

ヨシキリ(Schilffrohrsänger)

ツメナガセキレイ (Schafstelze)

タゲリ(Kiebitz)とツルシギ(Dunkelwasserläufer)

姿を見たけれど写真撮れなかった野鳥や声を聞いただけの野鳥もたくさんいて、正味1日半の短い滞在だったけれど、大満足。次回はぜひ、ハリクのいくつかを訪れたい。

 

 

 

 

野鳥を見に、ワッデン海国立公園へ行って来た。ワッデン海はオランダからデンマークまで続く世界最大の干潟を持つ沿岸地域で、その特殊環境はユネスコ世界遺産に登録されている。そのうち、ドイツの沿岸にあたる部分はニーダーザクセン・ワッデン海国立公園、シュレスヴィヒ=ホルシュタイン・ワッデン海国立公園、ハンブルク・ワッデン海国立公園という3つの国立公園から構成されている。ワッデン海へ行くのはこれが2度目。こちらの記事に書いたように、前回はニーダーザクセン・ワッデン海国立公園を訪れた。夏の終わりで渡鳥のシーズンにはまだ早かったにもかかわらず、たくさんの野鳥を見ることができて大感激し、次に来るときには野鳥の種類が特に多くなる春にしようと決めていた。

今回目指したのは、シュレスヴィヒ=ホルシュタイン・ワッデン海国立公園のベルトリンクハルダー・コーク(Beltringharder Koog)。港町フーズム(Husum)から北西におよそ15kmのところに位置している。ベルトリンクハルダー・コークに限らず、ワッデン海沿岸には地名にコーク(Koog)とつく場所が多くある。聞く慣れない言葉だが、潮の満ち引きの影響で時間帯によって冠水したり陸地になったりする地形、つまり塩性湿地という意味だと知った。

ベルトリンクハルダー・コークは堤防によって海と隔てられた自然保護区で、塩湖や淡水池、塩沼、湿った草地など異なるゾーンから成る。その環境の多様性ゆえに、さまざまな野鳥がここに集まるのである。

現地で入手したパンフレットの地図。環境ゾーンが色分けされている。

今回の2泊3日の旅行ではバードウォッチングに集中したかったので、ベルトリンクハルダー・コーク唯一のホテル、Hotel Arlau-Schleuseに泊まった。抜群のロケーションで、部屋も快適。

 

ホテルのすぐ前の堤防に上がると湿地が広がっている。

ホテルから堤防に沿って北にわずか数分歩くと、Aussichtsturm Kranzと呼ばれる見晴らし台が立っている。到着した日、見晴らし台に登り、辺りを見渡して驚いた。なんとそこにはおびただしい数のカオジロガンがいたのだ。

一体何羽いるんだろう?

カオジロガンたちは堤防を挟んで海側の湿地と畑を行ったり来たりしているようだった。

 

頭の上を黒いベールが風に乗って通り過ぎていくかのようで、圧倒される。

Zugvögel im Wattenmeer – Faszination und Verwantwortung“(タイトルを訳すと、「ワッデン海の渡鳥 〜 その魅力と私たちの責任」となる)という資料によると、カオジロガンは真冬の間は沿岸よりもやや内陸で過ごし、ワッデン海の塩沼には植物が豊富になる3月の終わりにやって来る。そこでお腹いっぱい食べてエネルギーを蓄え、4月の終わりから5月にかけて旅立ち、ノンストップで繁殖地である北極圏のカニン半島へ移動する。ちょうどシーズンなので今回見られるかもしれないとは思っていたが、ここまで大きな群れとは想像していなかった。これを見られただけで、来た甲斐があった。

お腹が丸々しているのはたっぷり食べている証拠

カオジロガンはドイツ語ではWeißwangengans(直訳すると「白い頬のガン」)またはNonnengans(「修道女ガン」)と呼ばれる。修道女と言われると、確かにそんな風に見えなくもない。

野鳥天国ベルトリングハルダー・コークで見られるのはもちろんカオジロガンだけではなく、今回のわずか1日半の滞在中にいろいろな野鳥を見ることができた。それについては次の記事に記録しよう。

 

(おまけ)ホテルの朝食。ドイツの朝食は一般的にはパンとハム、チーズだけれど、海辺ではお魚もあるのが嬉しい。

 

 

野鳥の繁殖シーズンが今年もやって来た!2020年の春、庭のナラの木に初めてカメラ付きの巣箱を設置してから、2020年2021年2022年と3年連続でシジュウカラの子育ての様子を観察することができた。ヒナたちが無事に巣立つこともあれば、いろいろなハプニングで悲しい結果になることもあり、毎年ハラハラである。今年は3月にエジプト旅行に出かけていたので清掃した巣箱を木に戻すのが少し遅くなってしまい、3月31日にようやく設置。すると、すぐさまにアオガラが巣材を運び入れ始めた。他の年も、最初に巣箱に入るのはいつもアオガラだった。しかし、ほんのわずかのコケを運び入れた後、そのまま放置し、いつ本格的に営巣を始めるんだろうと思っているうちにシジュウカラがやって来て巣箱を占領するというのがいつものパターン。だから、今年もそうなるのでは?

 

と思ったら、今年は最初から本気モードで、わずか半日で基盤がおおかたできてしまった。手慣れたものである。ここまで進めたのなら、もう中断はしないだろう。今年は初めてアオガラの子育てが観察できそうだ。

 

メスの作業中、パートナーのオスと思われるアオガラも頻繁に巣箱を訪れている。でも、ちょっと不思議なのである。オスが来るとメス(アオガラのアオちゃんと名付けた)は食べ物をねだって口を開けるが、オスは食べ物を見せるだけで食べさせないのだ。見せるだけ見せて巣箱の出口に戻る。それを数回繰り返す。これはどういうことなんだろう?まるで、食べ物で釣ってアオちゃんを巣箱の外におびきだそうとしているかのよう。このような場面がなぜか数日間に渡って繰り返し見られた。

 

営巣開始から11日目にカメラの映像を見ていると、大変なことが起こった。アオちゃんが巣にいるところにまたオスがやって来た、と思いきや、2羽の間で激しいバトルになったのだ。ということは、やって来たアオガラはパートナーのオスではなく、別のメス???アオちゃんは床にねじ伏せられ、大ピンチ!

実は去年のシジュウカラの営巣では、メスが巣を留守にしている間にクロジョウビタキが巣に侵入し、戻って来たシジュウカラのメスが怒って激しく攻撃した結果、侵入者のクロジョウビタキが命を落とすという事件があったのだ(そのときの記録はこちら)。そんなことがあったものだから、また死闘を目撃することになるのではと焦ったが、格闘の末、1羽が巣箱から出て行き、決着がついたようだ。勝者がどちらなのか、映像からははっきり判断できないが、巣に残ったのはアオちゃんの方であると信じたい。でも、もしかしたら乗っ取りかもしれない。すごく気になる、、、。

 

その翌日、巣に残ったメスは卵を一つ産んだ。口移しで食べ物をくれそうでくれないオスといい、前日のバトルといい、いろいろ謎が残るのだが、めでたく卵が産み落とされたことだし、便宜上、卵を産んだこのメスがアオちゃんだという前提で記録を進めたい。

 

卵の数は毎日1つづつ増えていき、10日後に10つになった。すごいすごい。

 

そして、いよいよ抱卵モードに!ヒナが孵るのが楽しみである。どうか途中でハプニングがありませんように。

 

(続く)

ドイツはもうすぐ復活祭。まだまだ気温は低いけれど、日が長くなり、庭では春のエネルギーが爆発している。冬の眠りから覚めた動物たちが動き回り、野鳥たちが冬超えをしていた南から続々と戻って来て、恋のパートナーを求めて高らかにさえずっている。今、窓の外を眺めながらこの文章を書いている間にも、クロウタドリ、ホシムクドリ、コマドリ、カケス、ズアオアトリ、モリバト、アオサギ、といろんな野鳥が次々に目の前に現れた。

1年のうちで、この時期が一番好きかもしれない。毎日、庭で繰り広げられる野生の生き物たちの活動から目が離せない。裏の家と我が家の庭の境に古い大きなナラの木がある。その木がいろんな生き物の生活の場になっている。

リスが枝の上で器用に毛づくろいをし、

アカゲラが森から運んで来たマツカサを木の隙間に挟んで種を食べ、

アオガラが巣箱で営巣を始めた。古い木が存在することの大切さを強く実感するのも春である。

 

そして、いつものように、春になるとマガモのカップルがなぜか毎日やって来る。

これから初夏にかけて、クロウタドリやシジュウカラ、ゴジュウカラ、アオガラ、クロジョウビタキ、アカゲラなどが一斉に子育てをし、夜にはハリネズミが庭を歩き回り、池にはカエルやヤマカガシが産卵にやって来るのがとても楽しみだ。毎日必ず面白いことがあるので飽きることがない。彼らを観察することが最高のエンタメなのである。サブスク代も払わないのにこんなに楽しませてもらっていいのかな。

(以下は庭にやって来る生き物たちの過去の画像)

とはいえ、今の場所に住むようになって17年になるが、最初から田舎暮らしを楽しんでいたわけではない。もともとは都市育ちで、若い頃は自然にはそれほど興味がなかったし、庭なんて手間がかかって面倒くさいと思っていた。

だけど、今は生き物たちと空間を共有することをとても幸せに感じるようになった。自然がこれほど大きな喜びや心の安定を与えてくれることを、自然の中で暮らしてみるまでは想像できなかった。このブログ、旅ブログとして始めて、今もそのつもりなのだけれど、いろんな理由でかつてのように気軽に旅ができる世の中ではなくなりつつある。自分も歳を取っていくので、いつまでも旅ができるわけではないだろう。たとえ遠くへ行けなくなったとしても、身近にもワクワクするものはいくらでもあると教えてくれたのは生き物たちだ。

今年も忙しくも楽しい春の庭をおおいに満喫したい。

 

 

内陸部に住んでいるので、あまり海に行く機会がない。ドイツにも北部に海はあるのだけれど、真夏でも水が冷たくて泳ぐ気になれない。海の楽しさを忘れかけていたが、去年の秋にセイシェルに旅行に行って、シュノーケルが大好きだったことを思い出した。

セイシェル・ヨットクルージング④ シュノーケルで海の生き物を観察

カラフルな熱帯魚と一緒に泳ぐほど幸せなことはない!と強く感じた日々だった。シュノーケルでもこんなに感動するなら、ダイビングはきっともっと素晴らしいに違いない。ああ、海に潜ることができたら!

しかし、私は自他共に認める運動オンチ。そんな私にダイビングのような難しそうなこと、できるわけがない。いや、もしかして、やってみたらできるかも?ダメダメ、無理だって。やる前から諦めずにやってみる?やめとけ。試すだけでも?一人二役押し問答をしばらく続けた末、「できなかったらやめればいいことじゃないか。とりあえずやってみよう」という結論に達した。

そんなわけで、ダイビングのメッカ、紅海へ行って来た。紅海はアフリカプレートとアラビアプレートが分裂して形成された細長い海で、その海岸線に沿ってサンゴ礁がおよそ4000kmも続いている。世界で最も長い一続きのサンゴ礁だ。気候変動の影響で世界中でサンゴの白化現象が進む中、紅海では今のところ良い状態が保たれているという。これまでに確認されている魚は1200種を超え、そのうちの約10%は固有種というのだから、世界中のダイバーの憧れの的なのも頷ける。

滞在先は南エジプトのマルサアラム(Marsa Alam)に決めた。ポピュラーなのはフルガダ(Hurghada)だけれど、メジャーな場所が好きではない天邪鬼な私なので、まだあまり観光地化されていないマルサアラムのダイビングリゾート、The Oasisを予約した。ベルリンからマルサアラムまでは直行便があり、4時間50分で行ける。

上のマップで一目瞭然なように、ホテルは海に面しているが周りはどこまでも続く砂漠で、それ以外には何もない。

パッと見は普通のビーチリゾートホテル風。でも、実は全然違う。このホテルはダイビングをするため「だけ」の宿泊施設である。

部屋はこんな感じで広々としていて、悪くない。でも、部屋にはテレビもWiFiもルームサービスも何にもない。ここに宿泊する人はダイビングのみが旅の目的のようで、余計なものは求めていないようだ。

目の前は海で、海岸線を縁取るように浅い礁池がある。砂浜から海へと延びた桟橋の先から水の色が急に深い青になり、白波が立っている。そこはドロップオフと呼ばれる、深い海へと続くサンゴ礁の断崖だ。ダイビングライセンスを持っている宿泊客はここで1日に一度、ホテル併設のダイビングセンターが提供するガイド付き無料ダイビングツアーや有料のナイトダイビングに参加できる。

マルサアラムの海岸線はところどころが入江になっていて、砂浜からダイビングの装具を身につけて歩いて海に入ることのできる場所もある。このホテルの便利なところは、毎日、午前と午後に1回づつ、ジープでいろいろな入江に連れて行ってくれるダイビングツアーが組まれていること。

ダイビングセンターの壁に貼ってあるダイビングスポットの説明を読んで、行きたいスポットのリストに名前を書き込んで参加する。

面倒な手続きなしにいろんな場所でダイビングができるシステムが便利だ。とはいっても、私はまだダイビングをしたことがないので、まずは体験ダイビングに申し込んだ。

体験ダイビングには経験もスキルも要らない。インストラクターが海の中を案内してくれるので、自分は呼吸と、ときどき耳抜きだけすればよく、難しいことはなにもなく、ひたすら素晴らしかった。わずか20分くらいの間だったが、6メートルの深さまで潜った。普段はシュノーケルで水面から見ていたサンゴ礁を横から見るとまた違った感動がある。昔話に出て来る竜宮城が頭に浮かんだ。ミノカサゴがゆらゆらと揺れていたり、大きなイカが頭上を静かに泳いで行ったり、海の中は陸上とは生き物の動きが異なり、なんだか神秘的である。ダイビングでは重力を感じずに水平に進むというのも新感覚だ。なにより感動したのは、シーグラスの生えた海の底を泳いでいたら、上から2匹のコバンザメをくっつけたアオウミガメがゆっくりと降りて来て目の前に着地し、シーグラスを食べ始めたこと。テレビのドキュメンタリーで見るような世界が目の前に広がり、夢を見ている気分だった。

これで心は決まった。ダイビングライセンスを取得してダイバーになろう。

夫と一緒に初級ライセンス「オープンウォーター」の講習に申し込んだ。では早速始めましょうということになったが、まずは学科を学んだり、プールで練習したりするものかと思っていたら、最初からダイバー達と一緒にジープに乗せられ、入江に連れて行かれてびっくり。

たくさんある入江の一つ。一見、遠浅の海に見えるけれど、スロープ状になっていてすぐに深くなる。

砂浜に敷いたシートの上でウェットスーツを着、ウェイトベルトを締め、BCD(ベスト)を羽織り、タンクを背負ったらインストラクターと一緒に海に入る。初めて装具を身につけて、あまりの重さに驚愕。なんと10kg近くものウェイト(鉛の錘)を腰に巻くのである。紅海は塩分濃度が高くて沈みにくいことや、初心者は呼吸で浮力をうまく調整できないので、多めのウェイトが必要だということらしい。こんな重い装具を背負って腰を痛めたらどうしよう〜と思いながらヨタヨタと水辺まで歩きながら、「ダイビングって、こんなに大がかりスポーツなんだ、、、」と、海に入る前にすでに不安になって来た。

で、講習はどうだったかというと、、、、。

それはそれは大変でございました。いわゆるクラッシュコース的なもので、わずか56時間ほどで必要な技能と学科を全部終わらせる。短期間でライセンスを取ってすぐに潜り始めたいという人には便利に違いないが、運動オンチを誇る私には無理があった。ちなみに、講習の言語は英語またはドイツ語。私のインストラクターはスイス人だったので、ドイツ語で指導を受けた。

海から出たら、水を張ったタライにシューズのまま入って砂を落とす。

ダイビングの装置のこともダイビングテクニックもまるっきり何も知らないまま、プシューとベストの空気を抜いて海の底に降りるという生まれて初めての体験。そしてその状況下でレギュレーター(呼吸のための器材)を口から外してまた入れろとか、ダイビングマスクを外してまた付けろとか、ウェイトベルトを外してまた付けろとか、ええ?というタスクを次々に課される。しかも、インストラクターの指示がよくわからず、確認しようにも水中では喋れない。はっきり言って、かなり怖い。

これはヤバいことになった、、、。なんでこんなこと始めちゃったんだよう〜。

慣れれば一つ一つはそれほど難しいことではないのかもしれないが、たったの3日では心の準備をする暇も慣れる時間もない。休暇先でのクラッシュコースではなく、家の近くのスクールで時間をかけてゆっくり学ぶべきだったようだ。途中までがんばったけど、胃が痛くなったので、泣く泣くギブアップ。憎たらしいことに、夫は最後まで受講してライセンスを取得した。その後は私はダイバーたちを眼科に眺めながら一人シュノーケル。

そんなわけで、せっかくエジプトに行ってダイビングリゾートに泊まりまでしたのに、ライセンスが取れなかった私である。しくしく。やっぱりダイビングなんて、私にはどだい無理だったのね。

としょんぼりしていたのだけれど、実はダイビングのライセンスには「オープンウォーターダイバー」の手前に「スクーバダイバー」なるレベルがあって、その基準はすでに満たしているとのことで、私も認証機関ISSの「スクーバダイバー」の認証を得ることができたのだ。自動車の運転免許でいうと仮免のようなものかな?「オープンウォーター」ではプロの同伴なしで18メートルの深さまで潜ることができるのに対し、「スクーバダイバー」はプロがついていれば12メートルまで潜って良い。そして、未履修の講習を受けて学科テストをクリアすれば「オープンウォーターダイバー」に昇格できるらしい。よかった、すべてが無駄になったわけじゃなかった。

帰る前日に最後にもう一度インストラクターとダイブしたら、そのときには怖さはかなり軽減していて、時間をかければ、やっぱり私にもできそうな気がして来た。自動車の運転だって最初は怖い怖いと言っていたけど、乗っているうちにだんだん慣れたもんね。ダイビングもそうだと信じたい。

想像以上に美しかった紅海。シュノーケルでも楽しめるけれど、せっかく紅海へ行って潜らないのはもったいない。次回こそ「オープンウォーターダイバー」を取得して、驚異の海中世界を味わいたいものである。

 

以下はシュノーケル中に撮ったマルサアラムの水中動画。

 

 

 

こちらの記事に書いた通り、去年の春からドイツ・ブランデンブルク州にある野外教育機関、Wildnisschule Hoher Flämingでアニマルトラッキングを習っていた。私が受講したのはドイツ語ではWeiterbildungと呼ばれる成人向けキャリアアップ講座で、半年間、月に4日間のキャンプ実習を通してアニマルトラッキングの技術を学ぶというものだった。予定では昨年の10月に終了しているはずだったのが、先生がコロナに感染して9月のモジュールが延期になり、今月の振替モジュールをもって講座が完了。私も全モジュールに参加して終了証書をもらうことができた!

「アニマルトラッキングって、地面についた動物の足跡を見て、なんの動物かを言い当てるんだよね。面白そう」というだけで飛び込んでしまった講座の内容は、想像をはるかに超えていた。終了証書には講座の重点が以下のように記されている。

  • 環境中にフィールドサイン(つまり、野生動物の痕跡)を見つけ、スケッチし、測定し、記録する
  • 野生動物の歩行パターンを学び、地面に残った足跡からその動物の動きを読み取る
  • 足跡がついた時間を推測する
  • 野鳥の地鳴きと囀りを区別する
  • 野鳥の警戒声とその意味を解釈する
  • 生態系における相互関係を理解する
  • 野生動物について、問いを立てる
  • ストーリーテリングを通して自然について学ぶ
  • 五感を研ぎ澄ませて自然現象を認識する
  • 異なる種の間のコミュニケーションについて学ぶ
  • 直感を使ったトラッキングの方法

野外でのいろんな練習やネイチャーゲームを通しての学び、のべ150時間。濃かった〜。キャリアアップ講座なので、参加者の中には野生動物保護組織の職員、環境保護活動家、学校教師など、野生動物について事前知識や経験が豊富な人が多く、単に「野生動物が好き」というだけの私は、正直、ついていくのに必死だった。グループの中で落ちこぼれていたので、メンターに個別特訓されつつ、どうにか完走。ブランデンブルク州に生息する哺乳類の足跡はそれなりに見分けられるようになり、その他のフィールドサインを見つける目も少しはできて来たという実感がある。

うちのあたりの森に生息するシカは、ノロジカ、ダマジカ、アカシカ。足跡を見てどの種か言えるようになった。この足跡はダマジカのもの。

 

ムナジロテンの足跡

 

歩行パターンを読み取る練習。これが難しくて、泣かされた。

 

足跡だけでなく、地面に落ちているものもよく観察する。これはフンではなく、フクロウなどが食べ物のうち消化できなかったものを吐き出したもの。「ペリット」と呼ばれる。

 

キツツキは木の幹に環状に穴を開けて樹液を飲む。

 

換毛期には森の中にごっそりと抜けた毛が落ちていることも。これはイノシシの毛。

シカの下顎の歯

 

フィールドサインを見つけることができるようになると、本当に楽しい。アニマルトラッキングを始めると、山奥などに行かなくても、生き物の痕跡は家の周りの至るところにあることに気づく。単調つまらないと感じていた風景も、実は常に変化し続けているのだと感じられるようになった。

講座を終了したとはいっても、アニマルトラッカーとしてスタート地点に立ったばかり。野生の世界は知らないことばかり。足を踏み入れた世界を進んでいこう。

 

 

去年の8月、我が家のサンルームの窓ガラスに1羽の猛禽類が激突し、死んでしまった。

ガラスに野鳥がぶつかるのは残念ながら珍しくなく、少しでも事故を減らそうと窓ガラスにステッカーを貼ったり、ツタのカーテンを垂らしたりしているのだけれど、それでも時々、ぶつかってしまう。ぶつかった鳥は脳震盪を起こしてしばらくぼうっとした後、元気になって飛び去ることがほとんどだが、この猛禽類は可哀想なことに首の骨を折り、即死だった。とてもショックだったけれど、猛禽類を間近でじっくり見ることは滅多にない。せっかくの機会だから観察してみよう。ゴム手袋をはめて、羽を広げてみた。

 

 

体長およそ30cm、翼を広げると、その幅は47cmほど。羽の色、模様を含めて判断するに、ハイタカの若鳥らしい。美しい個体だ。それにしても、鳥にはこんなにたくさんの羽が生えていたんだ。瞼は上から下ではなく、下から上に閉じるんだね。クチバシも爪も触れるのは初めてだ。へー、なるほどなるほど、こうなっているのね、とひとしきり観察した。

さて、この死骸、どうしよう?

そのままゴミとして捨てるに忍びず、どうしたものか。アニマルトラッキングの仲間に野鳥の羽標本を作っているKさんがいるのを思い出して、連絡してみた。「うちの庭でハイタカが死んでしまったんだけど、死骸いる?」「喜んで!」。しかし、今は標本を作る時間がないので、冷凍保存しておいてくれないか、というと。そこで、彼女に時間ができたら標本作りに参加させてもらおうと思いついたのだった。

先日、ようやくその機会がやって来たので、冷凍ハイタカを持ってKさんの家へ。ハイタカを二人で半分こし、私は右半分の羽標本を作ることになった。

初めての体験にドキドキ。やってみたいと言ったものの、翼部分を切り取ったり、最初の1本の羽を抜くのには少々、勇気がいる。「普段から鶏の手羽先などを調理しているんだから、羽がついているかいないかだけの違いだ」と自分に言い聞かせながら、恐る恐る手を動かす。

 

羽を部位ごとに注意深く台紙に貼るKさん。

手順はわりにシンプルで、標本にする羽を1本1本抜き、部位ごとに並べて接着剤で台紙に貼っていくだけ。でも、鳥の体の構造を全然わかっていなかったので、部位を確認しながら羽を並べていくのは難しかった。

 

Brown, Ferguson, Laurence, Lees著 “Federn, Spuren & Zeichen”より

風切羽(ドイツ語でSchwungfeder)には、初列(Handschwingen)、次列(Armschwingen)、三列(Schirmfeder)の3種類がある。風切羽は大きく形も特徴的なのでまだわかりやすい。しかし、雨覆羽は細かい区分があって、それが何列も重なっている。形も似かよっているので、どこからどこまでが何の羽なのか、さっぱりわからない。Kさんを見様見真似でやったけど、翼の部分だけで6時間くらいかかってしまった。

羽を貼った台紙は無視がつかないよう、密封できるビニール袋に入れて保管する。分類や並べる順番が間違っているかもしれない。

 

ご飯も食べずに作業し、半日以上かけて初めての羽標本作りが終了。とても興味深い体験だった。

作業の際には図書館から借りた野鳥の羽の本の他、Featherbaseという羽標本のオンライン辞典を参考にした。Featherbaseはみんなで作るデータベースで、学者だけでなく世界中の羽コレクターが作った羽標本が登録されている。これがすごい。World Feather Atlasを作ることを目標にしており、集まった標本は学術研究にも活用されるそうだ。図鑑.jpというサイトにFeatherbaseに関する日本語の記事があったので貼っておこう。

番外編 世界の羽事情

Featherbaseには日本支部もある。

日本支部による説明記事

 

羽についてほとんどわからないままの作業だったけれど、家に帰ってから作った標本をFeatherbaseのハイタカのページや、その他のサイトの野鳥の体の構造図とじっくり見比べているうちに、「あー、なるほど。こうなってるんだ」と少しづつ鳥の羽の構造が見えて来て面白い。こんな世界があったとは!また新しい領域に足を踏み入れてしまった。バードウォッチングは、鳥そのものを見るだけではなく、鳥の巣も落ちている羽も面白い。無限に楽しめる世界だと再認識。

ところで、忘れずに書いておかなければいけない。ドイツでは、すべての野鳥は保護の対象にあり、羽を含む野鳥の体の一部を拾ったり、所有したり、売買することは連邦自然保護法により禁止されている。これは密猟を防ぐためで、学術研究を目的とする場合のみ、特例として許可される。

なので、今回の羽標本作りは推奨される行為ではない、ということになる。道端に綺麗な羽が落ちていたら子どもが拾ったり、工作に使ったりするのは自然なことに思えるし、一般人も参加できる羽標本データベースプロジェクトが存在するのに矛盾している気がする。自然の中にある羽は持ち去ってはいけないらしいが、では、自分の家の庭で死んだ鳥の場合は?羽を標本にして野鳥について学ぶのは、そのまま生ゴミとして処分するよりも悪いことなのか?難しい問題である。

ということで、羽の扱いには要注意です。

 

 

 

散歩中に野鳥の巣を見つけたら、写真を撮ることにしている。

これが結構、楽しいのだ。繁殖の時期だと、野鳥の営巣作業や抱卵中の様子を観察できることがある。それ以外の時期でも、ヒナが巣立って空になった後の巣を眺めて、これは何の鳥の巣だろう?と調べるのが面白い。

これまでに目にした鳥の巣をまとめてみよう。

 

ドイツ北東部で最も目にしやすいのは、シュバシコウ(Weißstorch)の巣だ。繁殖のために南から渡って来たシュバシコウが、あちこちの村や小さな町の高いところに作られた巣に座っている姿は春の風物詩だ。シュバシコウは保護されているので、繁殖を助けるためにあちこちに写真のような巣台が設置されており、その上に巣が乗っている。巣作りはオスメスの協力作業で、細い枝を円形に編み、その中にクッションとなるコケ、草、羽などを敷く。シュバシコウは一夫一婦制で基本的に毎年同じ相手とつがいになり、同じ巣を修理しながら使い続けるので、だんだん巣が大きくなる。熟年夫婦の巣になると、直径2メートル近くになることもあるらしい!

 

これは数年前にうちの庭のナラの木にモリバト(Ringeltaube)が作った巣。枝を無造作に重ねただけのわりに雑な造りに見える。しかも、こんな写真が撮れるくらい目立つところに作って、カラスや猛禽類に狙われないのかなあと心配になった。数日間は夫婦仲良く巣に座っているのが見えたが、やっぱり塩梅がよくなかったのか、その後、この巣は放棄されてしまった。

 

庭の巣箱内にシジュウカラが作った巣。シジュウカラの巣作りはメスの仕事。巣箱内に取り付けた野生カメラで営巣の様子をずっと観察していたのだが、狭い巣箱の中で器用に小枝を丸く編んで土台を作り、そこにコケや動物の毛を置いてふかふかした座り心地の良さそうな巣を作っていた。

無事に巣立って餌台に餌を食べに来たシジュウカラのヒナたち。

 

アオガラは樹洞に巣を作る。中の巣は見れないけれど、シジュウカラと似たような巣なのかな?

 

あるとき、散歩で通りかかった池の淵のヨシの間でカンムリカイツブリが営巣をしていた。カンムリカイツブリの巣は同時に交尾の舞台でもあるそうだ。オスメスが一緒にヨシや植物の根っこ、枯葉などで巣を作り、その上で交尾する。なんとなく面白い。

 

これまでに見つけて一番嬉しかったのは、ツリスガラ(Beutelmeise)の巣。ツリスガラは湿地や林の中の木の枝に、蜘蛛の糸や綿、植物の繊維などを使ってフェルト製のバッグのような吊り巣を作るのだ。巣を作るのはオスで、メスはオファーされた巣のうち気に入ったものを選んでその中に産卵する。手の込んだ巣は作るのに30日くらいかかるが、いざメスが選んでくれたら、オスはもうそのメスに用はなく、さっさと移動してまた別の巣を作り、別のメスにオファーするらしい。メスはワンオペで育児をしつつ、巣のメンテも自分でしなければならない。この巣の写真を撮ったとき、メスが忙しそうに巣を出たり入ったりしていた。動きが早くて、ツリスガラ自体の写真は残念ながら撮れなかった。

 

森の中で見かけた木の股につくられたクロウタドリ(Amsel)の巣。枝を編んだ丸いカゴのような巣に緑がかった卵が4つ並んでいる。クロウタドリは木の上だけでなく、地面、生垣の中などいろいろな場所に巣を作る。もともとは森の鳥だったクロウタドリは今では都市部でもすっかりおなじみの野鳥になり、民家のベランダや花壇などに巣を作ることも多い。巣材にはセロファンなど人工物が使われることもある。外側は泥で塗り固める。クロウタドリは主に地面でヒナのための餌を探すので、巣は比較的低い場所にある。

地面で虫を捕まえるクロウタドリのメス

 

お隣の家では、毎年、ガレージにクロジョウビタキ(Hausrotschwanz)が巣を作る。頻繁に人が通る場所なのに落ち着かなくないのかな?と不思議に思うけれど、クロジョウビタキは風雨が凌げさえすれば、他のことはあまり気にしないらしい。

 

これは、ある駅の構内にできたツバメ(Rauchschwalbe)の巣。泥を固めてできた巣だ。

こちらは建物の軒下にできたニシイワツバメ(Mehlschwalbe)の巣。これもほぼ泥でできていて、上のツバメの巣と似ているが、違うのはツバメが通常、建物の中に巣を作るのに対し、ニシイワツバメは建物の軒下などに作ること。つまり、ツバメはインドア派でニシイワツバメは半アウトドア派?

ツバメの仲間にはショウドウツバメ(Uferschwalbe)というのもいて、砂質の崖に穴を掘って巣を作る。バルト海沿岸の崖でたくさんのショウドウツバメが巣穴を出入りしているのを見た。なかなか壮観だった。

 

キツツキはその名の通り、木をつついて穴を開けて巣を作る。

 

カササギ(Elster)は木のかなり高いところに枝を使って球状の巣を作る。

 

カササギ

 

ある日のドライブ中、国道沿いの原っぱにクロヅル(Kranich)の巣を発見したときには驚いた。遠目だけれど、よく見ると卵があるのが見える。道路からは距離があり、周囲を水に囲まれてはいるものの、人や動物が簡単に近づけるようなところに巣を作って大丈夫なんだろうか?

 

最後は番外編でパナマで見た鳥の巣。

オオツリスドリ(Montezuma Oropendola)は草木の繊維を編んで細長い大きな釣り巣を作るのだ。

巣作り中のオオツリスドリ。

 

これは博物館に展示されていたオオツリスドリの巣。すごいなあ。

 

種によって簡素だったり、ものすごく手が混んでいたり、千差万別な野鳥の巣。野鳥は種類が多いだけに、巣の鑑賞の楽しみは尽きることがないだろう。

 

 

2月になって、少しづつ日が長くなっているのを感じる。とはいえ、まだまだ寒い日も多く、先週は地面にうっすらと雪が積もった。こちらの記事に書いたように、去年の5月からアニマルトラッキングを学び始めたのだが、雪が降るとトラッキングがとても楽しい。雪の上に残った動物の足跡は見つけやすいから。

キツネの足跡。

 

ノウサギ。

 

小さなハート型の可愛い足跡はノロジカのもの。

こちらもシカの足跡。副蹄がくっきりとついている。ダマジカかもしれない。

 

シカが倒木を超えていった跡が木の幹の表面についている。真ん中からやや左の手前にはキツネが前足を揃えて幹に乗せた跡。

 

これは大きさと形から、クロウタドリの足跡と思われる。

 

これはカラスの足跡っぽい。

大きさからして、この辺りにたくさんいるズキンカラスでしょう。

 

これもカラスだけど、さっきのより大きくて太い。雪が溶けている部分に降り立って、歩いていったのだろう。周りにはキツネの足跡もたくさん。

このサイズのカラスはワタリガラスしかいないよね?

 

確信ないけど、たぶんアオサギ。

 

尻尾を引きずって歩いたヌートリアの足跡。

 

最高に可愛いのはリスの足跡。倒木を端から端までぴょんぴょん飛んでいった跡がくっきり残っていた。

 

アニマルトラッキングのためのガイドブックはたくさん出ている。

Joscha Grolmsの”Tierspuren Europas”はヨーロッパのアニマルトラッカーのバイブル的な本で、とても詳しい。でも、情報量が膨大なので、初心者にはちょっと使いづらいかも。真ん中上の”Tierspuren und Fährten”はイラストのガイドブックで、使いやすい。すべてドイツ語なので用語をその都度調べる必要があるけど、野生動物の足跡やその他の痕跡が読めるようになって来ると、森の国ドイツでの散歩が何倍も楽しくなる。

 

 

バードウォッチングを初めて3年ちょっとが経過した。最初のうちはとにかく目についた野鳥の写真を撮っては種名を調べることに熱中していた。それから季節が何度か巡り、身近にいる種がだいたい把握できたら、今度はそれぞれの種について知りたくなった。庭にやって来る野鳥の種類も増えて、いろんな種に親しみを覚えるようになって来た。

バードウォッチャーとしてまだ日が浅いけど、それぞれの種についてこれまでに観察したことと本で読んだり詳しい人に聞いたことをまとめていこう。第一弾は「キツツキ」について。

キツツキとは名前の通り、木をつつく習性のある鳥を指す。でも、キツツキというのはキツツキ科に含まれる鳥のことで、「キツツキ」という種名の鳥がいるわけではない。日本語ではキツツキの仲間には「〜ゲラ」という種名が付けられている。ドイツ語ではキツツキの仲間は「ナニナニSpecht」と呼ばれる。

 

ドイツに生息するキツツキ科の鳥は以下の10種。

  • アカゲラ  (Buntspecht, Dendrocopos major)
  • ヒメアカゲラ (Mittelspecht,  Dendrocopos medius)
  • コアカゲラ (Kleinspecht, [Dryobates minor)
  • ヨーロッパアオゲラ (Grünspecht, Picus viridis)
  • クマゲラ (Schwarzspecht, Dryocopus martius)
  • オオアカゲラ (Weißrückenspecht, Dendrocopos leucotos)
  • ミユビゲラ (Dreizehenspecht, Picoides tridactylus)
  • ヤマゲラ (Grauspecht, Picus canus)
  • シリアンウッドペッカー? (Blutspecht, Dendrocopos syriacus)
  • アリスイ (Wendelhals, Jynx torquilla)

これまでに見ることができたのは、アカゲラ、コアカゲラ、ヨーロッパアオゲラ、クマゲラの4種である。この4種についてわかったことをまとめよう。

まず、ドイツで個体数が最も多いアカゲラについて。

アカゲラはその名の通り、お腹の下の方が赤い。下腹部が赤いのはオスメス共通だけれど、オスは後頭部も赤い。メスの頭は真っ黒である。この写真はうちの庭によく来るアカゲラで、見ての通り頭の後ろに赤い部分があるのでオスだとわかる。

アカゲラは環境適応力が高いため他のキツツキよりも生息範囲が広く、そこらじゅうにいると言っても言い過ぎではない。ドイツ人がSpechtと言われて真っ先に頭に思い浮かべるのはアカゲラだろう。ドイツでは散歩がポピュラーなアクティビティで、みんなよく散歩に行く。森の中を歩くと、アカゲラのドラミングの音がよく聞こえてくる。ドラララン、ドララランという明るく小刻みの音が特徴だ。

キツツキのオスは他の多くの鳥とは異なり、美しいさえずりではなく木をつつく音でメスにアピールする。ヴォーカリストというよりもドラマーだ。メロディよりもリズム感で勝負、というとなんとなくカッコいいけど、せっかく演奏してもメスに注目(注耳?)してもらえなければしょうがない。だから、乾燥した、よく響く木を選んでつつくのだ。キツツキの求愛期間は長い。これを書いている現在は2月の初めだが、近所の森にはすでにアカゲラのドラミングの音が響き渡っている。なかなかパートナーを見つけられないオスは延々とドラミングを続けることになる。喉が枯れるほど歌うのとクチバシを木に叩きつけまくるのとでは、どっちがより疲れるだろうかなどと無意味なことをつい、考えてしまう。また、アカゲラのドラミングはパートナー探しだけでなく、ナワバリを主張するためでもある。

うまくパートナーのメスが見つかったら、今度は子育ての準備開始である。ここでも木をつついて開けて巣穴を作る。アカゲラの場合、巣穴の使い回しはあまりせず、ほぼ毎年、新しい巣穴を作るそうだ。2週間ほどかけて完成した巣穴にはコケなどのクッション材を置いたりはせず、メスは木屑の上に白くて光沢のある卵を4つから7つほど産む。抱卵はオスメスが交代でおこなうが、夜間はパパの担当だそうだ。卵は10日ほどで孵化し、それからヒナが巣立つまでの3週間ほどの間、親鳥はせっせと巣に餌を運ぶ。

 

巣立ちが近づくと、幼鳥は餌をもらうときに巣穴から顔を出すようになる。これがなんともかわいくてたまらない。バルト海沿岸の森で親に餌をもらうアカゲラの幼鳥を見かけたときには感激して、ずっと愛でていたかった。でも、幼鳥にとって、不用意に巣から顔を出すのはキケンだ。捕食者があたりに潜んでいるかもしれない。だから、親が戻って来るまで幼鳥は巣穴の中で待っている。戻って来た親鳥は近くの木から「餌持って来たよー」と鳴き声で知らせ、それを合図に顔を出した幼鳥は素早く餌を受け取って、またサッと穴の中に戻る。巣立ち間近な幼鳥はそれを頻繁に繰り返していた。

この親鳥も頭の後ろが赤いから、パパだろう。幼鳥は性別に関係なく頭のてっぺんが赤い。巣立った後も、しばらくの間は親に餌を食べさせてもらったり、餌の見つけ方を教えてもらったりする。去年の春、うちの庭の餌場には親鳥が子連れでやって来た。「ここのファットボールは安心して食べていいからね」と親に言われたのだろうか。そのうち子どもは単独でも食べに来るようになった。しかし、餌場の管理人(つまり、私たち)が無害でも、油断は禁物だ。周辺の森にはオオタカ(Habicht)やハイタカ(Sperber)など、キツツキを捕食する猛禽類がいる。まだ世の中に慣れていない幼鳥は特に狙われやすい。キツツキは警戒心が強いのか、頻繁に上方を確認する習性がある。餌場で餌を食べるときにも約1秒ごとに顔を上げてキョロキョロとあたりを確認しているのを、いつもキツツキらしい仕草だなあと思いながら観察している。

 

気をつけていてもやられるときはやられる。これは近所の森で見た惨事の跡。羽の大きさから見て、捕食されたのは大人のアカゲラのようだ。

ところで、森の中を歩いていると、ときどき、木の股や裂け目に松ぼっくりが挟まっていることがある。

これはドイツ語ではSpechtschmiede(「キツツキの鍛冶場」、の意味)と呼ばれるものだ。アカゲラは松ぼっくりをこのように固定してから、鱗片の裏側にある種子を取り出して食べるのだ。鍛冶場の下の地面には種子を取り出した後の松ぼっくりがたくさん落ちている。

こういうのを目にするたびに、生き物の行動って面白いなあとつくづく思う。

さて、身近なアカゲラの観察も楽しいが、それ以外のキツツキを見る機会はぐっと減るので、見つけるととても嬉しくなる。私が特に好きなのはクマゲラ。ドイツに生息するキツツキのうちで最も大きく、体長50cmほどもある。

光沢のある黒い体に赤い帽子がお洒落。ちなみに、赤い部分が頭全体を覆っているのはオスで、メスは後頭部に小さな赤い部分があるだけだ。

クマゲラは、自然破壊や捕獲によって19世紀半ばにはドイツ北部からほぼ消滅していた。保護の甲斐あって最近はそれほど珍しくなくなっている。クマゲラはオオアリ(Rossameisen)やキクイムシ(Borkenkäfer)の幼虫を好み、巣はブナの木に作ることが多い。クマゲラの作る巣穴は他のキツツキのものよりもずっと大きく、楕円形をしていることも多い。ドラミングの音はアカゲラのそれよりも低く、ドラミングの長さも長い。クマゲラは喉が大きく、ヒナに与える餌を親鳥が喉に溜めておいて、吐き戻して与えることができるので、広範囲に餌を集めることができるそうだ。

これは多分、クマゲラが穴を開けた木

キツツキの作る樹洞は当のキツツキだけでなく、他のいろいろな生き物が利用する。クマゲラの穴は大きいので、 主にヒメモリバト(Hohltaube) やキンメフクロウ(Raufußkauz)、ホオジロガモ(Schellente)がよく使うらしい。意外なことにゴジュウカラも利用者だという。あんなに小さいゴジュウカラには入り口が大き過ぎて捕食者が入り放題になりキケンでは?と思ったら、ゴジュウカラは穴の入り口に泥を塗って固め、ジャストサイズにするらしい。ゴジュウカラを意味するドイツ語”Kleiber”は「貼る」という意味の動詞”kleben”が語源だと知った。

こちらはヨーロッパアオゲラのメス。オスは目の下が赤いので、写真を撮れば見分けることができるけれど、遠目に見分けるのはまず無理だろう。アリが主食のアオゲラは伝統的な果樹など開けた場所を好む。キツツキだけど地面にいることが多いのだ。長くてベタベタした舌でアリを捕まえて食べ、ヒナに与える餌もほぼアリのみ。ドラミングはもっぱらパートナーとのコミュニケーションの目的のみで、ナワバリの主張のためにはしない。アオゲラはドラミングをあまりしない代わりによく鳴く。目立たない体の色をしているけれど、キョキョキョキョという特徴的な鳴き声なので、姿が見えなくても声でああ、近くにいるなとわかるようになった。アオゲラは巣穴を作ることに関してはあまり熱心ではなく、同じ穴を何年も使うそうだ。

 

そしてもう1種。雪の降る日に森の中で一度だけ目にした小さなキツツキはコアカゲラだった。体重はわずか2ogほど。キツツキというよりも小鳥という感じ。葉や枝についた虫を食べる。

 

ドイツに生息するキツツキはすべての種が保護の対象だ。森にキツツキがたくさんいれば、リス、マツテン、ヤマネ、コウモリなど哺乳類からハチやアリなどの昆虫まで、キツツキが枯れ木に開けた穴を利用する生き物の密度が高くなり、またそれらの捕食者も増える。キツツキは森の生物多様性に不可欠な存在なのだ。

これから春にかけて野鳥の活動が活発になる。今年もキツツキの親子を見ることができるだろうか。まだ目にしたことのない光景が観察できたらいいな。

 

参考文献:

Volker Zahner, Robert Wimmer (2021) “Spechte & Co. Sympathische Hüter heimischer Wälder”

 

野生動物が好きなので、数年前から地元ブランデンブルク州の自然保護団体がおこなっているヨーロッパヤマネコやビーバーのモニタリングプロジェクトにボランティア調査員として参加している。モニタリングとは、対象となる動物の痕跡を探して記録する活動で、集まったデータは保護活動やその基盤となる科学研究に使われる。

野生動物の痕跡を探す活動を「アニマルトラッキング(ドイツ語ではSpurenlesen)」と呼ぶ。痕跡というのは、動物足跡はもちろん、たとえばビーバーであれば齧られた木やビーバーダム、巣など、そこに動物がいたことを示すものすべてを含む。自然の中を散歩しながら生き物の痕跡を見つけるのはとても楽しいので、本格的に学びたいなあと思い、去年からWildnisschule Höher Flämingという自然教育の学校でアニマルトラッキングを習っている。

詳しくはこちらの記事に書いた通り。

トラッキングを学ぶのに大事なことは、とにかく野外を歩いて自然を観察すること。参考書も読むけれど、家の中にいては学べない。日々観察して気づいたことや写真を今年からTumblrに記録することにした。TumblrはSNSなので趣味や興味が似ている人をフォローしたりできるが、投稿すると、こんなふうにブログが自動生成されるのがとても便利!

 

ブログのテーマはいろいろなものから選べ、カスタマイズもできるようだ。自分のための記録が目的なので凝ったことをするつもりはなく、見やすく、後から検索しやすければいいかな。アーカイブも月毎及び投稿の種類ごとに自動生成されるようだ。

そもそも自分はインターネットを使って何がしたいのか?と自問してみると、「自分の興味を広げたり深めたりしたい」ということに尽きる。自分一人で黙々と興味のある情報を集めるのもいいけれど、同じような興味を持つ人の発信を参考にしたいし、自分も気づいたことをネット上にアップしておけばどこかの誰かの参考に多少なりともなるかもしれないと思って書き留めているのである。SNSのフォロワーを増やして影響力を持ちたいとか、注目されたいというわけではないし、仕事の一環としてやっているわけでもない。Tumblr は適度にマイナーなSNSで人目を気にせず好きなことを投稿でき、世間話よりも趣味について話したい自分のニーズに合っている気がする。投稿を後から編集できるのも嬉しい。

ということで、今後は旅の記録は引き続きこのChikaTravelブログに、日々の自然観察については姉妹ブログ「チカの自然観察日記」に書いていくことにしよう。

Tumblrのアカウント名は、chikawildlife。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回の旅のテーマは主に「海の生き物」だったけれど、陸の生き物にも大いに興味がある。陸にいた時間は短かったけれど、それでもいくらかの生き物を目にすることができた。その中で特筆すべきはセイシェルの固有種、アルダブラゾウガメ とセーシェルオオコウモリだろう

まず、アルダブラゾウガメは、主にセイシェルの外諸島に属するアルダブラ環礁に生息する陸亀で、今回回った内諸島ではキューリーズ島、クザン島、ラ・ディーグ島、グラン・スール島で多く見た。

アルダブラゾウガメ

オスは最大で体重400kgにもなる巨大なリクガメである。英語ではAldabra Giant tortoiseと呼ばれる。かつて、インド洋には何種ものゾウガメが生息していたが、環境破壊や捕獲によって19世紀半ばに絶滅してしまい、唯一、生き延びたのがアルダブラゾウガメだとされていた。ところが、近年、「セーシェルセマルゾウガメ」と「セーシェルヒラセゾウガメ」という2つの亜種が、世界の動物園などで生き延びていることが確認されているという。これについて調べていたら、たまたま名古屋市の東山動植物園のウェブサイトがヒットした。同園の「アルダブラゾウガメ舎」で飼育されているアルダブラゾウガメのうち、1匹のオスの甲羅の形が他の個体と違うことに気づいた飼育員さんが不思議に思って調べてみたところ、「アシュワル」という名のその個体はセーシェルヒラセゾウガメである可能性が極めて高いということがわかったそうだ。なんて興味深い。(詳細は以下のリンクの記事の通り)

東山動植物園オフィシャルブログ 「アルダブラゾウガメのアシュワルは他と少し違うかも?」

ゾウガメは地球全体では他にガラパゴスゾウガメ(Testudo elephantopus)がいる。アルダブラゾウガメとガラパゴスゾウガメは見た目はよく似ているけれど、近縁ではない。アルダブラゾウガメはガラパゴスゾウガメよりも大きく、頭が小さく、頭部分のウロコが大きく、鼻の穴が縦長で、鼻から水を飲むことができるという特徴があるらしい。

言われてみれば、細長い鼻の穴。

現在、およそ10万匹の野生のアルダブラゾウガメの98 %が生息するアルダブラ環礁は、1982年からUNESCO世界自然遺産に登録されている。

基本的に草食で、草や葉っぱを食べる。

ちっちゃーい

内諸島のキューリーズ島にはアルダブラゾウガメの保育園があり、ゾウガメの赤ちゃんを観察することができる。

キューリーズ島の水場の周りにはアルダブラゾウガメのものと思われる足跡がついていた。趣味でアニマルトラッキングをやっている私は動物の足跡に興味があるのだ。

当たり前だけど、私の住んでいるドイツではこんな足跡を目にしたことはない。象って、こんな足跡なのね。

アルダブラゾウガメの足。なるほどね〜。

キュリーズ島のマングローブの林を流れる小川の横にもゾウガメの足跡が続いていた。

と思ったら、いた!

野生のゾウガメがたくさん見られてとても嬉しい。

さて、セーシェルオオコウモリについても書いておこう。ヨットクルーズの前日にマエー島のホテルに1泊したときのこと。首都ヴィクトリアから山を少し登ったところにあるホテルで、とても眺めが良かった。

マエー島の山の景色

木々を飛び回る野鳥をテラスからなんとなく眺めていたら、猛禽類のような大型の鳥が行ったり来たりしているのが目についた。でもどこか飛び方が普通ではない。一体なんだろうと目を凝らすと、それは鳥ではなく、大きなコウモリだった。

広げた翼は1メートルにも及ぶ。

オレンジ色のふさふさした頭のコウモリは、セーシェルオオコウモリ。英語名はSeychelles Fruit Bat。その名の通り、果物を食べる草食性のコウモリである。

果物を食べるセーシェルオオコウモリ

哺乳類コウモリ目には大きく分けて、ココウモリとオオコウモリがいる。セーシェルオオコウモリはもちろん、オオコウモリに属する。ココウモリとオオコウモリの違いは単に大きさだけではない。目がよく見えないため超音波で獲物の距離や方角を測る能力を発達させたココウモリと違って、オオコウモリは視覚を使って行動するので、目が大きく、その代わり耳はあまり発達していない。顔はキツネっぽく、英語ではFlying foxとも呼ばれる(ちなみに、ドイツ語ではFlughundと呼ばれ、これは「飛ぶ犬」という意味である)。これまでにオーストラリアやスリランカでもオオコウモリを見たことがあったけれど、いつ見ても、その大きさに興奮してしまう。

じゃれ合うセーシェルオオコウモリ。鳴き声は結構うるさい。

セーシェルオオコウモリは今回訪れたほぼすべての島でたくさん見ることができた。かつて無人島だったセイシェルの島々に人間がやって来たことで、島に固有の生き物の多くが絶滅してしまったが、セーシェルオオコウモリにとっては人間の到来はむしろ幸運だったようだ。なぜかというと、いろんな果物の木が島にもたらされ、農園が作られたから。逆に、農園の経営者にとっては果物を食べてしまう邪魔者である。オオコウモリの肉は美味しいらしく、捕まえて食べてしまうこともあるそうだ。

その土地に固有の生き物を見るのは旅の大きな楽しみだ。今回も珍しい生き物が見られて嬉しい。

 

 

セイシェルの主な産業は観光業と漁業である。同時に、セイシェルは自然保護に大きな力を入れている国でもある。美しい自然以外の観光名所はないので、自然環境を維持できなければ観光業も成り立たなくなってしまう。また、観光マーケティングでは「楽園」とか「秘境」「手付かずの自然」といった言葉が安易に使われがちだけれど、過去に深刻な環境破壊を経験して来たことではセイシェルも例外ではない。

「楽園」と形容されるセイシェルの自然だけど、、、

セイシェルという国の歴史は浅い。もともと人が住んでいなかった島々が1770年代から フランス、そして英国の植民地となり、シナモンやココナツ、タバコなどの大規模なプランテーション栽培がおこなわれた。20世紀初頭までにプランテーションはセイシェルの全域に広がり、自然林は広範囲に失われてしまった。人間が入って来たことで島に外来生物が導入され)、食糧として生き物が捕獲された。また、セイシェルのサンゴ礁には「グアノ」と呼ばれる海鳥の糞などが堆積し化石化したものが多くあったが、肥料になることから大々的に採集された。そして、20世紀後半に農薬が導入されたことによって、環境破壊は複合的な問題となった。

 

しかし、1970年代から80年代にかけて、プランテーション経営の採算が取れなくなったため、セイシェルは観光業へと大きく舵を取る。その結果、セイシェルは小さな国でありながら、環境の再生においては世界のトップレベルにあるという。現地の環境保護団体、NatureSeychelles と土地の所有者、政府が一丸となって、ラットの除去、島の再森林化、固有種の動物の再導入などに取り組み、成果を上げているのだ。絶滅の危機に瀕した種を保護することでツーリズムのポテンシャルが高まり、それがホテル所有者の環境保護努力を後押しすることになる。セイシェルはオーバーツーリズムにならないよう、観光客の数も制限している。

クザン島(Cousin Island)へは現地の自然保護センターの有料ツアーに参加することでしか上陸できない。保護センターからヨットまでセンターの人が小型ボートで送迎してくれる。

 

数々の取り組みのなかで、クザン島の野鳥保護活動はセイシェルの自然保護の看板ともいうべき大きな成功例である。1969年、絶滅の危機に瀕していたセイシェルの固有種セイシェルウグイス(Seychelles warbler) の最後の29羽を保護するため、野鳥保護団体International Counsil of Bird Conservation(現  BirdLife International)がクザン島を購入した。これがセイシェル初の生態系再生プロジェクトのきっかけとなった。自然保護の成功例を見に、クザン島へ行ってみよう!

ガイドさんと一緒に森へ入る。ガイドツアーは英語またはフランス語。

かつて、クザン島ではココナツの集約栽培が行われていたため、自然再生はココナツが無制限に増殖しないように木から落ちたココナツを拾い集めることから始まったという。努力の結果、海鳥が種を運んで来た固有種が再び繁殖するようになった。1975年、セイシェル政府は島を特殊保護区に指定した。1990年代初頭までには残っていたココナツ農園も概ね除去され、現在、島の植生は、その大部分が固有種となっている。幸い、クザン島にはラットが全く入って来なかったので、駆除のためにネコが導入されることもなかった。

 

野鳥の島だと聞いてはいたが、ガイドさんと一緒に歩いてみて、島の野鳥密度には驚くばかりである。狭い森の至るところに野鳥がいるのだ。

クロアジサシ(Brown Noddy, Anous stolidus)またはインドヒメクロアジサシ (Lesser Noddy, Anous tenuirostris)。島には両方いるが、色が微妙に違うだけなので、見分けがつかなかった。

シロアジサシ (White Tern, Gygis alba)。セイシェル空港のロゴにもなっているエレガントな鳥。巣は作らず、木の股に卵を1つだけ直接産む。

木の上で親を待つアジサシの幼鳥

セイシェルの野鳥保護のきっかけとなったセイシェルウグイス(Seychelles warbler, Acrocephalus sechellensis)。個体識別のための足輪をしている。

クザン島の鳥たちはまったく人を恐れる様子がない。ガイドさんにあらかじめ「鳥にストレスを与えないため、1メートル以内には近づかないでください」と言われたが、「え?たったの1メートル?」と耳を疑った。近過ぎでは?なるべく近づかず、望遠レンズで写真を撮った。

シラオネッタイチョウ (White-tailed tropicbird, Phaethon lepturus)。地面に卵を生む。長い尾をひらひらさせて飛ぶ姿はとても優雅だ。

シラオネッタイチョウの幼鳥

少し大きくなった子ども

セーシェルシキチョウ (Seychelles magpie robin, Copsychus sechellarum)。かつてはセイシェルの花崗岩の島にはどこにでもいたが、地面でしか食べない鳥なので、ネコが入って来てから激減してしまった。クザン島に再導入され、繁殖している。

森の中で見た石壁。ココナツのプランテーション栽培をしていた頃の名残で、リクガメによってココヤシが傷つけられるのを防ぐために作られたものだそう。リクガメについては改めて記事にする。

クザン島は野鳥だけでなく、トカゲやヤモリの生息密度も世界トップクラスだ。

Seychelles Skink(Seychellen-Mabuye)という、セイシェルでよく見るトカゲ

こちらはより珍しいWright´s skink(Trachylepis wrightii)。一回り大きい。ラットのいない4つの島にしか生息していない。

ヒルヤモリの1種。似ているのが複数いるので学名はわからない。

セイシェルブロンズゲッコー(Seychelles Bronze-eye gecko, Ailuronyx seychellensis)

さらに、クザン島はインド洋における最も重要なタイマイ(hawksbill turtles, Eretmochelys imbricata)の繁殖地の一つだ。年間30-100個体のタイマイが浜辺に産卵にやって来る。世界の他の場所ではタイマイは夜間に産卵するが、クザン島では昼間も産卵の様子が見られるという。

島ではタイマイの産卵のモニタリングがおこなわれている。

クザン島では生態系保全のブートキャンプをやっていて、世界から参加者を募っている。1回につき6名限定の小規模なキャンプだ。こんな場所で野鳥やタイマイのモニタリングができたら楽しいだろうなあ。
クザン島には是非行きたいと思っていたので、今回、行くことができて本当によかった。

 

この記事の参考文献・サイト:
Adrian Sekret & Ian Bullock  “Birds of Seychelles” (2001) Princeton University Press
Robert Hofrichter “Naturführer Seychellen: Juwelen im Indischen Ozean” (2011) Tecklenborg Verlag

いつからか、野生の生き物を観察することが大きな趣味の一つとなっている。自宅の庭や周辺でバードウォッチングをするほか、アニマルトラッキングや野生動物のモニタリングボランティアなどもしている。しかし、私の住んでいるドイツは国の北側にしか海がなく、北海やバルト海は夏でも水が冷たくて泳ぐのにはあまり適していない。だから、トロピカルな海に飢えているところがある。

そんなわけで、セイシェルではシュノーケルで海の生き物を見ることをとても楽しみにしていた。10日間のクルーズ中、毎日数時間シュノーケルをすることができたので、とても満足だ。セイシェルの内部諸島の多くはこちらの記事に書いたように、花崗岩の島だが、その周囲をサンゴ礁が囲んでいるので、シュノーケルスポットは豊富にある。たくさんのシュノーケルスポットに連れて行ってもらったうち、特に気に入った場所は、サン・ピエール島の周辺。その他、マエー島近くのサンタンヌ海洋公園(Sainte Anne Marine National Park)のサンタンヌ島とモワイヨンヌ島の間のコーラルリーフもとても良い。

サン•ピエール島。この島は花崗岩ではなく、海の生物の死骸が堆積してできた石灰岩でできた小さな無人島だ。

たとえばどんな生き物が見られるのか、GoProで撮った動画をいくつか貼っておこう。

イカの群れ。

シマハギ、パウダーブルーサージョンフィッシュ、ニシキブダイなど。

サンゴ礁は世界の海全体の1%に満たないが、海の生き物の25%がサンゴ礁に生息するとされている。セイシェルのサンゴ礁はおよそ300種のサンゴが形成し、魚は400種ほどだという。ただ、セイシェルの海でもやはり気候変動によるサンゴの白化現象はかなり進んでいるように見えた。サンゴには浅い海に分布する造礁サンゴと深い海に分布する宝石サンゴがある。シュノーケルで見えるのは造礁サンゴで、本来は褐色系の地味な色をしているものが多い。それは、サンゴは共生する褐虫藻が光合成によって作る栄養分に依存して生きているから。ところが、海水の温度が上がると褐虫藻が抜け出し、サンゴが餓死してしまう。つまり、白くなったサンゴは死んでいる。それでもかなりいろいろな魚を見ることができたけれど、本当に残念で、心配だ。

たぶん、ニセタカサゴの群れ。

スズメダイやマツカサの群れ。

ツバメウオ、スナブノーズポンパノなど。

マダラトビエイ。

ナンヨウブダイかな。

過去にシュノーケルをしたときには水中動画や写真は撮らなかったので、水中にいるときには感動しても、時間が経つと何を見たのだったかすぐに忘れてしまった。今回はこうして記録できたので、図鑑を見ながら種の同定を試みている。まったく知識がないので、図鑑を見てもあまりに種類が多くて、最初のうちはなかなか同じ魚を見つけられなかったけれど、しばらく取り組んでいたら少しづつ大まかなグループが把握できるようになって来てとても楽しい。また、水の中で見ているときには1つの種だと思っていた魚が実は微妙に異なる3〜4種だということがわかったりして面白い。地味な魚は同定が難しいけれど、ブダイやベラなどの派手なものは調べやすい。でも、ブダイだけでもすごくたくさんの種類があるんだなと驚く。未知の世界に足を踏み入れてしまった。

サザナミヤッコの幼魚

これは何ブダイ?

ミヤコテングハギ

ニシキブダイ

チェッカーボードベラ

トゲチョウチョウウオ、キガシラチョウチョウウオ

これまでに見分けることができたのは50種ちょっと。写真を撮れなかったものや、不鮮明でよくわからないものも多いので、ざっと70種くらいは見ることができたかな。

シュノーケルは本当に楽しい。お魚の種類を調べるのも楽しい。これで、ハマることがまた一つ増えてしまったのだった。

 

この記事の参考文献:

Mason-Parker & Walton “Underwater Guide to Seychelles” (2020) John Beaufoy Publishing Limited.

山城秀之 「サンゴ 知られざる世界」(2016) 成山堂書店

2019年の秋に庭でバードウォッチングを始めて、約2年半が経過した。最初は庭のテラスに餌台を設置してひまわりの種やピーナツなどを置き、家の中から窓越しに餌台を訪れる野鳥を眺めて楽しむことから始めたが、ただそれだけのことでも生活の楽しみが激増した。

過去記事: ドイツのネイチャーツーリズム 2 自宅の周りでバードウォッチング

さらに餌台に野生カメラを取り付けたら、それまで窓越しに観察していた以上にたくさんの種がやって来ることがわかり、ますます楽しくなった。

過去記事: 野鳥カメラで餌台に訪れる野鳥を観察する

これまでの2年半に自宅の庭で確認できた野鳥は37種。まさかこんなにいろいろな野鳥が来るとは想像もしていなかった。ちょっとした思いつきで始めたバードウォッチングだったのに!

野鳥たちは餌を食べに来るだけでなく、庭で子育てもする。一昨年はシジュウカラ、昨年はシジュウカラに加えクロウタドリの営巣と子育ての様子をカメラを通して観察することができた。今年は同じ巣箱でシジュウカラが営巣を始めたものの、こちらの記事に書いたような事情で中断してしまったのが残念である。

しかし、今年は今年でとても面白い展開になった。というのは、去年までは餌台は冬の間だけ設置し春には片付けていたのを、今年は出したままにしておいたのだ。そうしたら素晴らしいことが起こった。冬の間は個別に餌を食べに来ていた野鳥たちが、それぞれパートナーを連れてやって来た。餌台に入れる小鳥たちだけでなく、モリバト、カササギ、カケスなどの大きな鳥もみんなカップルで現れ、小鳥たちが芝生に落とした餌をついばんでいた。そして、しばらくすると庭やその周囲でそれぞれのカップルが巣作りを始め、やがて生まれたヒナ達に食べさせる餌をせっせと取りに来る姿が見られるようになった。クチバシに詰め込めるだけの餌を詰め込んで巣へ戻っていく親鳥たち。がんばってるなあ。

幼虫をくわえたウソのオス

それから数週間が経過し、ヒナ達が続々と巣立ち始めた。

巣立ったばかりのアオガラの兄弟

カササギに巣を狙われ、父鳥の必死の防衛の末、無事に巣立ったクロジョウビタキのヒナ

オークの木の巣から生まれたゴジュウカラのヒナ

 

巣立ったばかりのヒナを連れて、いろんな種の親鳥達が餌場に集まり、口移しでせっせと子どもに食べさせる。なんとも微笑ましい光景にほのぼの。

親からエサをもらうアオガラの子ども

しばらくの間はそれぞれ親に食べさせてもらっていたが、だんだん大きくなって飛ぶのも上手になると、子ども達だけで餌場にやって来るように。

イエスズメの子どもたち

 

シメの子ども

 

シジュウカラの子ども

 

カケスの子どもはギリギリ餌台に入れる大きさ

 

兄弟でやって来たアカゲラの子ども

最も数が多いのがイエスズメの子どもたちで、10羽以上いる。アオガラとシジュウカラはそれぞれ5羽ほど、アカゲラも2羽生まれた。そんなわけで今年の春は大繁殖と言っていいレベルで野鳥の子どもたちが庭を飛び回っている。

今後はどうなっていくのかな。

 

 

 

今年(2022)の5月から10月までの半年間、アニマルトラッキングを学ぶことにした。

アニマルトラッキングは野生動物の痕跡を観察する活動で、ドイツ語ではSpurenlesenという。野生動物の痕跡には地面に残った足跡や巣、何かを食べた形跡、糞などいろいろなものがある。野生動物の痕跡を観察することで、その環境にはどんな野生動物が生息し、どのように行動しているのかを知ることができる。

身近な環境を散歩していると野生動物の痕跡らしきものを見かけることがよくあって、「何の動物の痕跡だろう?」といつも気になるのだ。特に2020年からヨーロッパヤマネコのモニタリングに参加し、そして今年からはビーバーのモニタリングも始めたことで、ますますいろいろな痕跡を目にするようになった。

凍った湖面に降り積もった雪の上についた動物の足跡

アナグマの巣穴?

面白いものを見つけるととりあえず写真に撮ってネットや手持ちの図鑑などで調べるのだが、よくわからないことが多い。知りたいなあ、見分けられるようになったら楽しいだろうなあと思っていたら、たまたま近場にアニマルトラッキングを教える学校があることに気づいた。これは良いチャンス!とすぐに申し込んだ。

私が参加することになった講座はWildnisschule Hoher Flamingという野外スキルを学べる学校の成人向け講座で、月1度、週末に4日間のキャンプをしながらアニマルトラッキングを学ぶ。申し込むまでまったく知らなかったのだが、米国ではブッシュクラフトと呼ばれるサバイバルスキルの一環としてアニマルトラッキングが捉えらることがあり、トラッキングスクールがたくさん存在するらしい。私が申し込んだ学校は米国の先住民からスキルを学んだ伝説的なアニマルトラッカー、Tom Brown Jr.や、その弟子のJon Youngのメソッドに基づいているという。

これまでに全部で5まであるモジュールの1と2を終了した。参加してみて、その濃さにびっくり。学校の敷地に各自テントを張り、朝7時頃から夜10時過ぎまで野外活動。野鳥の囀りに耳を傾けたり、動物の足跡や巣穴を観察したり、野生動物の骨格や歩き方を学ぶ。ハードな運動をするわけではないけれど、一日中外を歩き回って、同時に頭もフル回転させなければならないのでかなり疲れる。でも、講座の他の参加者たちとは妙に波長が合って、すぐに仲良くなることができた。少人数の講座で、年齢は20代の若者から60歳くらいまで様々だけど、好奇心が強いという点ではみんな一緒なのだ。

アニマルトラッキングで大切なことは野生動物の痕跡を見たらすぐに種を特定することではなく、まずは五感を使ってじっくりと観察し、なぜそこにその痕跡があるのか、その痕跡を残した生き物はどう行動したのかを考えることだそうだ。種名の特定は深い観察の後から自然について来るもので、すぐに種を特定してそれで満足してしまうよりも、問いを丁寧に解いていく方が野生動物をよく知ることに繋がるという。なるほどなあ。そして、観察の際にはスケッチをすることがとても重要だと教わった。講座の提供者は先生ではなくメンターと呼ぶ。答えを識者に教えてもらうのではなく、各自が自らの観察眼を養うことが講座の目的だからだそうだ。

モジュールの間はとにかく忙しくて写真を撮っている暇はほとんどない。最初のエクスカーションでクロヅルの足跡をかろうじて撮った。

 

想像していたよりもハードコアな内容に圧倒され続けているけれど、ほんの少し学んだだけでも景色が変わって見える。身の回りの景色の解像度が上がって、ずっとそこに合ったけれど今まで認識していなかったもう一つの世界を肌で感じられるようになるというか、不思議な感覚である。この地球環境を私たち人間は他の生き物たちと共有しているのだということを急に強く意識するようになった。夜、テントの中に横たわって、響き渡るナイチンゲールの歌を聴きながら眠りに落ちていくのは特別な感覚だ。

アニマルトラッキングを学ぶことにしたのには、身近な自然、とくに野生動物について知りたいということの他に、これといったスキルを持たないので何か一つくらいスキルを獲得したい、というのもあった。どうせなら、あまり多くの人がやらないことをやってみたい。歳と共に体力が衰えるのが心配で、なるべく野外で体を動かしたいというのもある。自然観察にはほとんどお金がかからないし、体を動かすのと同時に知的好奇心も満たされるのが良い。そして、トラッキングスキルを身につけることで今後の旅行もより充実したものになりそうな予感がする。

 

 

2020年春に庭にライブカメラ付きの巣箱を設置し、シジュウカラの営巣の様子を観察している。2020年と2021年の観察記録は過去記事(20202021)の通りだが、3年目の今年も4月に営巣が始まった。

 

巣箱で営巣するメスには名前を付けている。このメスは「マイちゃん(Meiseのマイちゃん)」と命名。長い枝で巣のフレームを作ろうとしているが、なかなかうまく置けないのか、枝をぶんぶん振り回している。

 

営巣を始めて1週間後。卵を産む準備が整ったのか、巣箱の中で寝始めた。

 

動物の毛など、フワフワの素材を次から次へと運んで来てクッションを整える。ネコの毛のような白い毛だけでなく、茶色や緑色など、いろんな色の素材があり。ブロンドの人毛らしき束も混じっていてびっくり。そういえばうちの裏の人、ときどき庭で散髪しているなあ。

 

パートナーのオスも、甲斐甲斐しく餌を運んで来る。マイちゃんは多産ではないようで、21日までに卵を2つ産んだのみ。でも、毎日マメに巣を整えていて順調な様子。と思っていたのだが、今日の昼間、ふとカメラを覗いたら、巣箱の中で異変が起きていた。なぜか巣の真ん中にクロジョウビタキが座っており、その背ろでマイちゃんがオロオロとしているのである。何事かとびっくりして自動録画をプレイバックしてみたところ、なんとマイちゃんがちょっと巣を離れた隙にクロジョウビタキが巣箱に入り込み、戻って来たマイちゃんと大バトルになっていたのだった!

ショッキングな映像なので短くカットしたが、実はこの激しいバトルは数十秒続き、クロジョウビタキはマイちゃんにコテンパンにやられてしまった。クロジョウビタキにしてみれば、良さそうな巣箱があったからちょっと入ってみただけだったかもしれない。しかし、マイちゃんにしてみれば、大事な卵がある巣に近寄られてはたまらない。必死に卵を守ろうとしたのだった。

マイちゃんは戦いには勝ったものの、ぐったりしたクロジョウビタキは卵の上にうずくまったまま動かない。そこをどいてくれないと卵を温められない。どうしたものかと困り果てるマイちゃん。その状態ですでに2時間が経過していた。映像を見ながら、夫と私も「どうする?」と言い合った。野生の生き物同士のことに人間はできるだけ介入すべきではないけれど、このままだと卵もダメになってしまう。ここは巣箱の大家の権限ということで、夫が介入することになった。(私は背が低くて巣箱に手が届かないので)

まず外から巣箱をノックして、鳥たちが自分から外に出て来るかやってみたが、出て来る様子がないのでドアを開けたら、マイちゃんは穴から外に飛び出した。クロジョウビタキはボロボロの姿だったが出血はしていなかったので、空いている別の巣箱に入れて、中で休んでもらうことに。そちらの巣箱にもカメラがついているので、しばらくカメラ越しに様子を見た。パートナーが巣箱の穴から中を覗き込んで呼びかけているのを見てせつなくなる。彼らもきっとこれから子育てをする予定だったのだ。数時間後、クロジョウビタキは亡くなった。自然界は厳しい、、、。

マイちゃんの方はどうなったかというと、人間が介入したことで抱卵をやめてしまうのではないかと心配したが、じきに巣箱に戻って来た。

何事もなかったかのように(内心では「あー、やばかったー」と思っているかもしれないが)、巣を整えている。2つの卵も無事だったみたい。よかった、よかった。

……とホッとしたものの、この2日後からマイちゃんは巣箱に戻らなくなってしまった。

何が原因なんだろうか?この巣箱は子育てに適していないと判断して放棄した?それとも、夫が介入して人間の匂いがついたので放棄したのかもしれない。あるいは、マイちゃん自身の身に何かが起こって巣箱に戻れなくなった可能性もある。

そんなわけで、今年のシジュウカラの育児観察はヒナが生まれる前に終了してしまってとても残念。

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後日談。

数日前、家の中にいたら、窓の外から「ヂヂヂヂヂ、ヂヂヂヂヂ」というシジュウカラの幼鳥の声が賑やかに聞こえて来た。しばらく後に庭の餌台に取り付けたカメラを除いたら、なんと若いシジュウカラが5羽も餌を食べに来ている!

もうかなり大きくなっているので、巣立ってから数週間経過していそうだ。巣箱での抱卵を放棄したマイちゃんが別の場所で新たに営巣して産まれた子達なのか、それとも別のシジュウカラのメスの子達なのかはわからないけれど、こうして元気なシジュウカラの子どもたちの姿が見られて嬉しい。

 

 

 

 

この数年、身近な環境で野生動物を観察するのに夢中になっている。あくまで趣味の範疇なのだけれど、多少なりとも自然保護に貢献できたらいいなと思い、2020年の冬から自然保護団体BUNDによるヨーロッパヤマネコのモニタリングプロジェクトに参加している(実践レポはこちら)。今年の冬で3年目になり、なかなか楽しいので、別の野生動物モニタリングもやってみたいなあと思っていたところ、ブランデンブルク州ヌーテ・ニープリッツ自然公園でのビーバーモニタリングに参加しないかと声をかけられた。二つ返事で参加を決めた。我が家の近くの湖畔や水路沿いにビーバーに齧られた木や巣らしきものをよく見かけるので、以前からビーバーが気になっていたのだ。

ビーバーに齧られた木

ビーバーはかつては北半球の水域のほとんどに生息していた。毛皮や肉、肛門の香嚢から分泌される海狸香を求めて乱獲され、およそ100年前にヨーロッパ全域でほぼ絶滅したが、保護・再導入活動の甲斐あってかなり増え、現在はドイツ全国に4万個体を超えるビーバーが生息している。

ビーバーにはアメリカビーバー(学名:Castor canadensis)とヨーロッパビーバー(学名: Castor fiber)の2種類がいる。ヨーロッパビーバーの大きさは体重およそ30kg、体長1.35mほど。ヨーロッパにおける最大の齧歯類である。

ビーバーモニタリングの目的はビーバーの縄張りを確認し、ビーバーが生息できる環境を保護することにある。なぜなら、ビーバーは個体数が少なくても存在することによって生態系に大きな影響を及ぼす「キーストーン種」だからだ。ビーバーは水域にダムを作ることで知られるが、ビーバーダムによってできる湿地は多くの生物種の生息地となり、生物多様性を高める。また、ビーバーダムは洪水や火災リスクを下げ、有害物質を含む堆積物を堰き止めることで水を浄化する役割も持つ。だから、ビーバーを保護することはビーバーそのものだけでなく、生態系全体を守ることに繋がる。

モニタリングプロジェクトには誰でも参加することができる具体的にどんなことをするかというと、担当地域の水域に沿って歩き、ビーバーの痕跡(齧られた木、ダム、巣など)を探す。

ビーバーに齧られた木

ビーバーに齧られた木は目立つので、見つけるのは難しくない。ただし、古い噛み跡はビーバーが現在そこに生息していることを示すものではないので、齧られてから時間が経っていない場所を見つけることが肝心である。ビーバーは草食で夏に食べる植物の種類は数百種に及ぶが、冬場には主にポプラやヤナギの木の皮を食べる。

噛み跡は簡単に見つかるが、ビーバーの巣(ドイツ語でBiberburgという)を見つけるのは、慣れないと少し難しい。

湖の縁の斜面を利用して巣ができていることが多い。枝が重なり合い、間に泥などが詰まって盛り上がっている。巣の出入り口は水中にあるので見えない。ビーバーは水中では耳や鼻の穴を塞ぐことができ、口の中も歯の後ろを塞げるので、水中でも木を齧ることができる。この巣は長年手入れがされていないようなので、今は使われていないと思われる。

こちらは新しい枝が載っているので、使用中かな。

水場から数メートル離れたところに巣があることもあって、よく見ないと見落としがちである。ビーバーの縄張りは水路1〜3kmほどで、縄張りの中に複数の巣があることもある。ビーバーは一夫一婦制でパートナーを変えない。巣で生活するのは夫婦とその年に生まれた子ども、そして前の年に生まれた子どもである。子どもは2年たつと独立して新しい縄張りを作る。

こちらはビーバーのダム。わかりやすい。

別のダム。

ダムで明らかに水位が変わっているのがわかる。

小さなダム。縄張りの中に複数の小さなダムを作ることもある。

ビーバーは主に夜行性で、人の気配を感じると隠れるので、ビーバーそのものは滅多に目にすることができない。でも、水場を歩けばビーバーがいる痕跡をたくさん見つけることができるので楽しい。モニタリングは繁殖期が始まる前の冬におこなうので、冬場の良い運動にもなって一石二鳥なのだ。

これは私ではなく、プロジェクトメンバーのある女性

でも、モニタリング作業は実はそんなに楽ではないのだ。ビーバーがいるのは人がほとんど来ないような場所なので、遊歩道になっていたりはしない。うっそうと生い茂る葦やいばらの茂みをかき分けて進まなければならないし、基本的に湿地なので靴がびしょびしょになることも。冬だから虫に刺されないで済むのはいいけれど。

ビーバーの痕跡を見つけたらスマホで写真を撮り、GPSで位置を確認してプロジェクトのデータベースにコメントとともにアップロードする。集まったデータはマッピングされ、縄張りが確認された場所は保全の対象になるというわけだ。

 

(この記事は以前、他の場所で公開していた2019年6月のパナマ旅行記をリライトしたものです。)

パナマ旅行の最後の数日はパナマシティに滞在し、そこから日帰りできる場所を楽しむことにした私たち。パナマシティは近代的な高層ビルの立ち並ぶ大都市だが、都会は他の国にもいくらでもあるので、パナマではできるだけ熱帯の自然を楽しみたかった。

パナマは首都周辺も自然がとても豊かだ。パナマ運河地帯は広範囲が森林に覆われていて、いくつもの国立公園や自然保護区がある。他の場所では絶滅の危機にある希少な動植物が多く生息しているそうだ。運河の右岸に細長く広がるソベラニア国立公園(Soberania National Park)はパナマシティからわずか25km。森林をハイキングしたり、チャグレス川をボートでクルーズしながら動植物を観察できるという。

行ってみて、その素晴らしさに驚いた。特に野鳥の多さは感動的で、小一時間ほどのクルーズの間にすごくたくさんの水鳥を見ることができた。ソベラニア国立公園で生息が確認されている鳥類は525種にも及ぶそうだ。ボートの上から撮影したのでピンボケの写真ばかりになってしまったが、たとえば、

ルーフェセント・タイガー・フェロン(Rufescent tiger heron)

アメリカササゴイ(Green Heron)

ヒメアカクロサギ(Little Blue Heron)の幼鳥?

キバラオオタイランチョウ(Great kiskadee)

アメリカムラサキバン(Purple Gallinule)

アカハシリュウキュウガモ(Black-bellied Whistling-Duck)

アメリカヘビウ(Anhinga)

アメリカレンカク(Northern Jacana)の幼鳥?

痛感したことは、熱帯に行くときにはその土地の野生動物や植物が載っているフィールドガイドを持って行った方が絶対にいいということだ。見たことのない生き物ばかりなので、フィールドガイドがないと「綺麗な鳥」「変わった動物」というので終わってしまう。それでも楽しいことには変わりないけど、なんという種類なのかわかった方がより楽しさが増すと思うのだ。私はパナマえはそれ以前のコスタ・リカ旅行の際に現地で買ったフィールドガイドを持って行った。生態系に共通項が多いので、まあまあ役に立った(画像の下の種名は今、この記事をリライトする際に調べて書いた。間違いがあったら是非コメントで教えてください)。実はこのときまで野鳥にはそれほど興味がなかったのだが、ソベラニア国立公園でたくさんの野鳥を見てすっかり魅了され、今ではすっかりバードウォッチャーになっている。

ボートから水鳥や亀、魚を眺めて楽しんでいると、そのうちにボートの運転手が「サルを見せてやる」と言って小島の岸辺にボートを寄せた。「バナナ持ってる?」と聞かれたので「ない」と答えると、「ちぇっ。ないのか」と言いながらも島の木々の上の方に向かって奇声を発してサルを呼んでくれた。餌をもらえると期待したノドジロオマキザルが数匹、木を降りて来た。枝伝いにボートに近づいて来る。

こういう展開を想定していなかったので、餌を用意していなかった。でも、野生のサルに餌付けをするのはどうなのかなあ。持ち合わせがなくてかえってよかったのかも。しばらくすると他の観光客らを乗せたボートが近づいて来て、彼らのうちの一人がバナナを岸に向かって投げたので、サルたちはそちらへ行ってしまった。

さて、私たちはそろそろ戻ろうかと思ったときだった。「見ろ!イグアナだ!」。夫の声に岸辺を見ると、そこには立派なイグアナがいた。すると、ややっ?2ひきのノドジロオマキザルがイグアナに近づいて行って威嚇を始めた。

そしてこのような結末に。予期せず面白い場面に遭遇し、興奮に沸く私たちであった。

 

ボートクルーズの後は公園内の森を散策。

「公園」とはいってもジャングルだからね。靴はすぐにドロドロになってしまう。汚れるのが好きでない人にはおすすめしない。毎日のようにこんなことをしているので、どんどん汚くなって行く私たち。

首都から30分の地点でこんな豊かな自然体験ができるなんて、パナマは信じられない国だ。そして、私たちはすでに2週間以上に渡って野外活動を楽しんでいる。こんな贅沢な機会を与えてくれるパナマの自然環境に感謝するのみである。