5月19日
ヒナ達が日に日に成長するのを見るのはとても嬉しいが、気になることがあった。それは、ヒナ同士の間の個体差もまたどんどん大きくなるということだ。シーちゃんやダンナが巣箱に入って来ると、元気のいい子は勢いよく飛びついて餌をもらう。だから、どんどん大きくなる。その逆に、おとなしい子はなかなか食べ物にありつけないので、小さいままだ。巣箱の中が狭くなるにつれ、ヒナ達は重なり合うようになった。すると、どうしても小さい子が大きい子の下敷きになってしまう。
お相撲さんのように丸々太った一番大きい子(マルちゃんと名付けた)が一番上になっていることが多い。写真の丸で囲んだ小さい子は潰れてしまいそう。全部で8羽いるはずなので、他にも下になっている子がいる。心配だ。
5月20日
危惧していたことが起こってしまった。昨夜、大きい子達の下敷きになっていた小さい子が昨夜と同じポジションのまま、微動だにしない。シーちゃんが餌を持って来て他の子達が一斉にわっと動いても反応しない。どうやら死んでしまったようだ。よくあることなのかもしれないが、とても悲しい。8羽揃って巣立つところを見たかったのに。ヒナは7羽になった。
気を取り直して観察を続ける。シーちゃんとシーちゃんのダンナはますます忙しそうだ。よくもあんなにひっきりなしに餌を運んで来られるものだと感心する。自分が食べる暇はあるのだろうか。
5月21日
青空の広がる爽やかな朝。シーちゃんとダンナは高らかに鳴いている。そして、巣箱に出たり入ったり出たり入ったり、ほとんど分刻みだ。今日あたり、ヒナ達が巣立つのかもしれない。
しかし、巣の中をよく見ると、また1羽が死んでしまっていた。小さい方から2番目の子だ。辛い、、、。でも、中くらいの大きさだった子達がその分、一回り大きくなっているのがわかる。
この6羽は元気に巣立ってくれるだろう。左手前がマルちゃん。「ヂヂヂヂヂ、ヂヂヂヂヂ」と大声で鳴いて、バタバタ羽ばたいている子もいる。まるで、運動会の朝のよう。いよいよか?今日はいろいろPC作業をしなければならないけど、巣立ちの瞬間を見逃したくないから、庭でやることにしよう。巣箱の見える場所にテーブルと椅子を出した。これで準備は万端だ。ワクワクしながら待つ。
しかし、日よけのパラソルが目立ち過ぎて警戒されているのか、いくら待ってもヒナ達は出てこない。私は巣箱が気になって、作業がちっとも捗らない。そうこうしているうちに日が暮れた。あ〜、残念。
シーちゃんが巣箱に戻って来た。もう添い寝も限界だね。マルちゃん(左上)が巨大!
5月22日
朝起きて巣箱を見ると、昨夜6羽いたヒナが5羽になっている。また1羽死んでしまったのか?とゾッとしたが、よく見ると、いないのはマルちゃんだ。一番体の大きいマルちゃんが死んだということはまず考えられないし、それらしき死骸も見当たらない。きっと、先頭を切って外に飛び出していったのだろう。マルちゃんの巣立ちを見られなかったのは残念だ。
他のヒナ達が巣箱を出るのを今か今かと待っていたが、なかなか飛び出す気配がない。お昼頃、ようやく1羽が巣穴から顔を出したが、ちょっと迷ってまた引っ込んでしまった。そうこうしているうちに夜になり、寝る時間に。しかし、シーちゃんは巣箱に現れず、子ども達だけで寝ている。もう添い寝は不要とシーちゃんは判断したのだろうか。それとも、先に巣を出たマルちゃんに付き添っていなければならないからだろうか。その辺はよくわからないが、シーちゃんもマルちゃんもいないので、巣箱の中は再びスペースにゆとりができて、5羽は今夜はゆっくり寝られているようである。
5月23日
日曜日だけど、朝5時半に目が覚めた。巣箱アプリを開けると、1羽が巣穴に向かって羽ばたいているのが見えた。慌ててカメラを手に取り、パジャマのまま庭に出た。空は曇っていて、肌寒い。スマホの画面を見つつ、巣穴に向かって望遠レンズを向けていたら、ついに1羽が穴から顔をのぞかせた。が、飛ぶのはやっぱり怖いみたい。すると、シーちゃんが餌を口にくわえて巣穴まで迎えに行った。
シーちゃんに誘導されて、5羽のうち3羽はわりと楽に飛び立つことができた。でも、4羽目の子が臆病で、なっかなか出られない。顔を出しては引っ込むのを繰り返すこと約2時間。ようやく飛んだ。
そして、最後の子。この子も慎重派のようだ。
時間かかったけれど、飛ぶときは一瞬だね。さあこれで、マルちゃんを含めて6羽のヒナが無事、飛び立った!バンザーイ!!
飛び出したヒナ達は近くの枝に止まった。
1羽はバーベキュー用の窯の上に降り立ったはいいが、そこからどうしていいかわからず、「おかあさーん!」とシーちゃんを呼んでいる。
外の世界は危険がいっぱい。まだしばらくは親の保護が必要なようだ。もう少しの間、みんなでうちの庭にとどまってくれるだろうか。
と、ほのぼのしていたら、早速、とんでもないことが起きた。1羽が池のそばの茂みの中に入り込んで出られなくなっている。体の小さい子だ。早くシーちゃん、気づいてくれないかなと思っていたら、あろうことに、その子は自力で出ようとして羽ばたいて失敗し、池の淵に落ちてしまった!!池の淵は泥と藻でぬかるんでいる。まずい!助けてやらなければと思った瞬間、その子は再び羽ばたいた。
ボチャン!
水音がした。もしかして池に落ちた?慌てて水面を見るが、どこにいるのかわからない。池の淵の茂みの中も探ったが、ヒナは見当たらない。どうしよう!あんなに勇気を出して巣箱から飛んだばかりなのに、もう死んでしまうなんて、そんなの辛すぎる。ああ、なんてこと。幸せな気持ちが一気に黒雲に覆われてしまった。
ヒナ達がある程度大きくなってもシーちゃんが巣立ちに慎重だった理由が理解できた。生存率を高めるためにはヒナ達に可能な限り体力をつけさせることが重要なのだ。だからギリギリまであんなに一生懸命、食べさせてやっていたのだね。
そう考えながらもう一度池に目をやった。すると、、、、小さなヒナが水に落ちたと思われる場所から2メートルほど離れた池の淵で、ヒナが羽をバタバタさせてぬかるみの中を必死にもがいている。「いた!!」と大声で叫んで夫を呼び、二人で救助を開始。棒のついた網でヒナをぬかるみからすくい出した。全身ぐっしょりと濡れている。これでは飛べない。人間が生き物の世界にむやみに介入するのは良くないだろうけれど、寒い日で、自然に羽が乾くのを待っていたら、体温が下がってそのまま死んでしまうかもしれない。シーちゃんがあんなに頑張って育てた子をみすみす死なせたくない。
夫が家の中からドライヤーを持って来たので、庭のコンセントに繋ぎ、弱風を遠くから静かに当てて、羽を乾かした。チビちゃんはしばらくの間、目をつぶってじっとしていたが、温るにつれて次第に元気を回復した。兄弟ヒナ達の「ヂヂヂヂヂ」という鳴き声がよく聞こえる場所にそっと置いたら、そのうち目を開けて辺りを見回しながら、「ヂヂヂヂヂ」と鳴き出したので、シーちゃんが迎えに来やすいように私たちはその場を離れた。
1時間ほど経ってから様子を見にいってみると、チビちゃんはもういなかった。幸い、他の動物に襲われた形跡もない。無事に家族と合流できただろうか。あんな小さな体で、外界に出た早々に大変な目に遭って、それでも生きる気力を失わずにがんばったチビちゃん。どうか無事に生き延びて欲しい。
さて、我が家のシジュウカラの育児観察もこれでおしまいだ。約1ヶ月半の間、ハラハラする瞬間や悲しいこともあったけれど、シーちゃん夫婦の子育ての一部始終を見せてもらって、とても楽しかった。ヒナの成長のスピードにも驚いたが、なによりも感動したのはシーちゃんのノンストップの献身ぶりだった。私にも育児経験があるから、「ふふふ。鳥の育児も人間の育児も変わらないね」と共感するシーンも多々あったけど、あんなにたくさんの子どもを同時に育てるなんて、私にはとても無理だ。かなわない。シーちゃん、あなたは本当に立派な母親です。
シーちゃんのダンナも褒めてやらなければ。最初はちょっと頼りなそうに見えたけど、子どもが生まれてからは奮闘していた。最後まで名前もつけずに悪かったね。
空になった巣箱は掃除して、またもとの場所に取り付けておいた。また来てね、新しい命を育に。