UNESCO世界遺産ドロミテ旅行、前回の記事の続き。
プレダッツォのドロミテ地質学博物館を出るときに館内にあった観光パンフレットの中にブレッターバッハジオパーク(Geoparc Bletterbach)というジオパークのパンフレットがあるのに気づいた。地図で確認すると、そう遠くない。その日はヴェローナ空港からドイツの自宅に帰ることになっていたが、飛行機の時間まで少し時間があったので寄ってみることにした。
パンフレットによると、ブレッターバッハ(Bletterbach)とはコモ・ビアンコ山(ラディン語ではヴァイスホルン)から流れる川が数千年の年月をかけて形成した深い峡谷の名である。ジオパークはいくつかのハイキングルートから成り、峡谷を歩きながら険しい崖の地層を観察することができるらしい。4000年という大きな時間スケールの中でかたちづくられたドロミテ山塊の内部を覗くことができるというわけ。それは是非とも歩いてみたい。
ビジターセンターでハイキングルートについて聞いてみたところ、いくつかのルートがあるが、峡谷を歩くルート(以下の地図の赤いラインのルート)は1周するのに3、4時間かかるという。そこまでの時間の余裕はなかったので、残念ながら諦めることに。でも、谷を見下ろすビューポイントまでだったら1時間あれば往復できますよということだったので、ファミリー向けの短いハイキングルート、the Saurian trailを歩くことにした。
かつてここに生息した古生物や峡谷の地層を構成する岩石の情報を読みながら、緩やかな山道を20分ほど歩くと、崖を見下ろすビューポイント、Butterlochに着く。
ブレッターバッハの峡谷には岩石の層序がそのまま保存されており、剥き出しになった崖にその重なりを見ることができる。主な岩石層はコモ・ビアンコ(ヴァイスホルン)山の山頂から順に、浅い海に堆積した石灰藻の遺骸から成る白っぽい岩石のContrin formation、2億5200万〜2億4500万年前に海岸沿いで堆積した石灰岩、泥灰土、砂岩そして珪質粘土岩の細かい層から成るカラフルなWerfen formation、ペルム紀に珊瑚礁で生成された、石膏を含む Bellerophon formation、斑岩の侵食と堆積によってできた砂岩の層であるGardena sandstone、そしてその下にある、2億8000万年〜2億7400万年前の火山噴火によって堆積し、砂岩の元となった石英質斑岩、Borzano quartz porphyryだ。
それぞれの岩石層と、それらが形成された時期の環境についてはビジターセンター内の展示に詳しく説明されている。Werfen formationとBellerophon formationの境目は、古生代ペルム紀と中生代三畳紀の地質時代上の境目と一致している。Bellerophonというのは、この時代に生息していたカタツムリの名前である。ペルム紀末のおよそ2億5100万年前に起こった生物の大量絶滅で地球上の海の生物の約90%、陸上生物の約70%が絶滅したとされる。ジオパークの地層から見つかる多くの化石からは絶滅した生き物についてだけでなく、大量絶滅の後、生命がどのようにして再び繁栄していったのかを知ることができ、世界的にも稀な学習の場となっているのだ。
火山岩、堆積岩、そして多様な変成岩から成るドロミテは「岩石の本」だと言われる。ブレッターバッハ・ジオパークは2016年から欧州宇宙機関(ESA)の宇宙飛行士らの訓練の場としても使われている。
峡谷ハイキングしたかったなあ。今回は時間が足りなくて残念。また今度!
ドロミテの地質について、ドイツ語の良いドキュメンタリーが見つかったので貼っておこう。
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