(この記事は以前、他の場所で公開していた2019年6月のパナマ旅行記をリライトしたものです。)

パナマ運河を見学した後、再びUberを利用してパナマシティに戻った。次に訪れるのは、もしパナマに行くことがあれば必ず見たいと思っていた博物館、Biomuseoだ。生物多様性博物館とも呼ばれている。

そもそもパナマに来た目的は主にパナマの自然を楽しむことである。熱帯の国パナマは私の住んでいるドイツや故郷日本では見られない動植物が豊富に違いない。以前訪れたことのあるオーストラリアやタイ、インドネシア、コスタ・リカの熱帯雨林でカラフルな鳥や昆虫、花を見て感動したが、あらかじめ現地の生態系について少しでも知っておけばより楽しめるのではないか。そう思って、Biomuseoをまず見ておくことにしたのだ。

Biomuseoは2014年にオープンしたばかりの博物館で、アマドール・コースウェイという人工の細長い半島にある。見ての通り、目を見張る斬新な設計のカラフルな建物だ。設計者はフランク・ゲーリー。8つのテーマのギャラリーからなる建物を美しい公園が囲んでいる。

最初のギャラリーは生物多様性ギャラリー。パナマの国土は南北アメリカ大陸を繋ぐ東西に細長く伸びた地峡で、その地理条件がパナマの生態系をとても特徴的にしている。熱帯雨林と熱帯雲霧林、マングローブの森には1000種を超える蘭、約150種のパイナップル科植物、100種以上のシダ植物、そして数多くのフィロデンドロン、ヘリコニア、ユリ科の植物が生育する。パナマが原産の木は300種を超え、中央ヨーロッパの6倍にも及ぶそうだ。動物も哺乳類だけでおよそ240種、鳥や虫や魚の種類は想像を超える豊かさだろう。しかし、森林破壊や動物の密猟などで多様性がどんどん失われていっている。生物多様性ギャラリーではパナマにどのような動植物が生息し、それぞれがどの程度絶滅の脅威にさらされているのかをパネル展示で知ることができる。

 

シアターPanamaramaではパナマの自然を3面及び床面の大画面に映し出される映像で感じることができる。これ、すごく良かった。

 

地峡ギャラリー(Building the Bridge)の展示はパナマの国土がどのようにして形作られたかを示している。かつて南北アメリカ大陸の間には隙間があり、太平洋と大西洋は繋がっていた。太平洋プレートがカリブプレートの下に沈み込んでいく圧力と熱によって海底に形成された火山が海面から突き出して島となった。次々と現れる島々が次第に繋がってできたのがパナマだ。

約7000万年前の海底にあった枕状溶岩

約300万年前、パナマの国土が形成され南北アメリカが陸続きになったことで、それぞれの大陸の動物が大規模に移動して種の交換が起こった。これを生物学ではアメリカ大陸間大交差と呼ぶようだ。第4のギャラリー「The Worlds Collide」では北から移動して来た動物たちと南から移動して来た動物たちがパナマ地峡で出会う様子がダイナミックに示されている。なるほど、生物多様性博物館がパナマにあるもう一つの理由が理解できた。

ワクワクするディスプレイ

 

5つ目のギャラリーである建物の中央広場で人類が登場する。パナマに辿り着いた人々がどのように土地を利用し生活して行ったかを示す考古学及び文化についての展示だ。

 

海のギャラリー。パナマは太平洋とカリブ海に挟まれているが、二つの大きな水槽がそれぞれの生態系を示している。カリブ海と太平洋では同じ海でもいろいろな違いがある。カリブ海のサンゴ礁は様々な生息環境を提供するため、魚の種類が多い。透明度の高い海水の中では魚は主に視覚情報を使ってパートナーを探す。だからカリブ海の魚はカラフルだ。派手な模様は色とりどりのサンゴの間でのカムフラージュにも役立つ。それに比べ、太平洋の魚は見た目が地味だ。周辺環境がわりあい均等なので、多様性がカリブ海よりも低い。しかし、太平洋の魚の多くは集団で泳ぐため、それぞれの種の個体数が多い。

 

こちらがカリブ海の環境で

こちらが太平洋の環境

海の中って本当に綺麗で面白いなあ。私はスノーケルしかできないので、ダイビングは憧れである。

Biomuseoにはその他に生態系のネットワークを示す展示、パナマの生態系と世界の生態系のネットワークを示す展示がある。また建物の外の公園ではパナマの植物や生き物を眺めながら散策できて、最高である。

これでパナマシティで絶対に見たかった場所2つを見ることができたので、首都を離れ、パナマを探検することにしよう。アルブロック国内空港でレンタカーを借り、さあ出発だ。目指すはコスタリカとの国境近く、ボケテ高原である。

 

 

(この記事は以前、他の場所で公開していた2019年6月のパナマ旅行記をリライトしたものです。)

ドイツの人気絵本作家、ヤノッシュの作品に”Oh, wie schön ist Panama!(おお、パナマはなんて美しい)”というものがある。味わい深い可愛いイラストとユーモラスな文章が魅力的なヤノッシュの絵本の中で最も好きなものの一つだ。日本語のタイトルは「夢見るパナマ - きみのパナマを探しにいこう」。なんとも素敵なタイトルである。

パナマ。どんな国なのだろうか。本を初めて手にしたときから、いつか行ってみたいと思っていた。

2019年6月いよいよそのときが来た。私たちのパナマを探しにいくのである。ベルリン・テーゲル空港からアムステルダム経由でパナマシティへ飛ぶ。家を出発して約11時間後、トクメン国際空港に到着し、予約してあった市内のホテルに向かった。

パナマシティは高層ビルが立ち並ぶ大都会だ。ホテルの部屋の窓からの眺めに驚く娘。「ここは東京?」

時差で結構疲れていたので、その日の夕食はその辺で適当に済ませて寝る。

翌朝は時差ボケで早くに目が覚めた。朝食はホテルの朝食ルームで。パンにハムやソーセージ、チーズ、卵料理といった洋風の朝食の他にパナマの食べ物とみられるものがいくつかあったので食べてみる。お皿の右上のちょっと焦げ目のついた円盤状のものはトウモロコシのトルティーヤ、その横の長細いものはキャッサバ芋のフライ、左のものは茹でたキャッサバらしい。これらは後から調べてわかったことで、食べているときには自分が何を食べているのかわからなかった。トルティーヤは少しボソボソとした食感で、キャッサバフライはフライドポテトのよう、茹でキャッサバは味の薄い焼き芋という感じである。3つとも、美味しくないわけではないがすごく美味しいというわけでもなく、あまり味がしない。

さて、朝ごはんを食べたら、まずはパナマシティで是非とも見たい場所の一つ、パナマ運河に向けて出発だ。パナマシティ市内の移動はUberがとても便利である。スマホアプリで現在地と目的地を設定すると数分で車がやって来る。私たちはパナマ運河の水門の一つ、パナマシティから北西約20kmの地点にあるミラフローレス(Miraflores)閘門にあるビジターセンターに向かった。

ビジターセンターの展望台から水門を眺める。

 

 

パナマ運河は2016年に拡張工事が行われ、このミラフローレス閘門のやや南西に新たにココリ閘門が作られた。写真の水路は古い狭い方で、ココリ閘門の方の水路はもっとずっと広いらしいけれど、残念ながらビジターセンターの展望台からはほとんど見えない。新しい水路を見学するなら太平洋側ではなくカリブ海側のアグア・クララ閘門のビジターセンターに行くといいようだ。

パナマ運河の建設の歴史やミラフローレス閘門の仕組みについては宮﨑大輔さんがブログですでに詳しく書いていらっしゃるので、ビジターセンターの展示について少し書いておこう。

ビジターセンターの展示はパナマ運河が建設されるまでの苦難の歴史から始まる。1534年にスペイン王カルロス1世(神聖なローマ帝国皇帝カール5世)が運河建設のための調査を指示して以来、フランスが工事に着手して失敗し、米国が1914年についに運河を開通させるまでの、莫大な資金が注ぎ込まれ多くの命が失われることになった巨大プロジェクトの経緯を知ることができる。

運河建設のためにスコットランドで造られ、1912年に浚渫作業を開始したバケット浚渫船Corozal。52個のバケットで40分足らずの時間に1000トンもの土砂をすくい上げることができたとのこと。

これは運河の開通後、初めて運河を通行したSS Ancon。

 

ビジターセンターではパナマ運河の周辺の生態系についても展示スペースが設けられていて、興味深かった。運河流域にはチャグレス川国立公園(Chagres National Park)、ソベラニア国立公園(Soberania National Park)、カミーノ・デ・クルーセス国立公園(Camino de Cruces National Park)、アルトス・デ・カンパナ国立公園(Altos de Campana National Park)やスミソニアン熱帯研究所の運営するバロ・コロラド島の熱帯林など多くの自然保護区があり、保全活動が行われている。チャグレス川はパナマ運河の運用に必要な水の40%をもたらすだけでなく、合わせてパナマの人口の50%ほどを占めるパナマシティとコロン市に飲料水をもたらす大切な川だ。チャグレス国立公園内にはジャガーやオウギワシも生息しているという。

展示されていたゴキブリ。ゴキブリは大嫌い!のはずなのだけれど、私が知っているゴキブリとかなり違う姿なので、珍しくて、つい写真を取ってしまった。自分の家に出没する可能性がないとわかっていれば、意外と気持ち悪さは感じないものである。名前はGiant Cockroachだったかな。

 

パナマ運河は2016年に拡張工事が完成している。拡張工事をするかどうかは国民投票で決めたらしい。ビジターセンター内の新しい水路に関する展示スペースはとても賑わっていて、パナマ国民がこのプロジェクトをとても誇りに思っていることが窺えた。

拡張工事に使われた世界で最もパワフルな浚渫船D´Artagnan号。拡張工事により、これまでよりも大きな船が運河を通過できるようになった。パナマ運河を通過できる船の最大サイズを「パナマックス」と呼ぶそうだが、新しいパナマックスとして従来の約 5,000 TEU から 12,000 TEUへとサイズが改定されている。全幅は17mも広くなったというからかなりのスケールアップだね。

残念ながらビジターセンターに行ったのは船が通過する時間帯ではなかったので、船は見られなかったけれど、パナマの象徴ともいえるパナマ運河の見学で旅のスタートを切ったのは良いアイディアだった気がする。パナマシティでは是非とも見たいものがもう一つあった。それについては次の記事で。