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こちらの記事に書いた通り、去年の春からドイツ・ブランデンブルク州にある野外教育機関、Wildnisschule Hoher Flämingでアニマルトラッキングを習っていた。私が受講したのはドイツ語ではWeiterbildungと呼ばれる成人向けキャリアアップ講座で、半年間、月に4日間のキャンプ実習を通してアニマルトラッキングの技術を学ぶというものだった。予定では昨年の10月に終了しているはずだったのが、先生がコロナに感染して9月のモジュールが延期になり、今月の振替モジュールをもって講座が完了。私も全モジュールに参加して終了証書をもらうことができた!

「アニマルトラッキングって、地面についた動物の足跡を見て、なんの動物かを言い当てるんだよね。面白そう」というだけで飛び込んでしまった講座の内容は、想像をはるかに超えていた。終了証書には講座の重点が以下のように記されている。

  • 環境中にフィールドサイン(つまり、野生動物の痕跡)を見つけ、スケッチし、測定し、記録する
  • 野生動物の歩行パターンを学び、地面に残った足跡からその動物の動きを読み取る
  • 足跡がついた時間を推測する
  • 野鳥の地鳴きと囀りを区別する
  • 野鳥の警戒声とその意味を解釈する
  • 生態系における相互関係を理解する
  • 野生動物について、問いを立てる
  • ストーリーテリングを通して自然について学ぶ
  • 五感を研ぎ澄ませて自然現象を認識する
  • 異なる種の間のコミュニケーションについて学ぶ
  • 直感を使ったトラッキングの方法

野外でのいろんな練習やネイチャーゲームを通しての学び、のべ150時間。濃かった〜。キャリアアップ講座なので、参加者の中には野生動物保護組織の職員、環境保護活動家、学校教師など、野生動物について事前知識や経験が豊富な人が多く、単に「野生動物が好き」というだけの私は、正直、ついていくのに必死だった。グループの中で落ちこぼれていたので、メンターに個別特訓されつつ、どうにか完走。ブランデンブルク州に生息する哺乳類の足跡はそれなりに見分けられるようになり、その他のフィールドサインを見つける目も少しはできて来たという実感がある。

うちのあたりの森に生息するシカは、ノロジカ、ダマジカ、アカシカ。足跡を見てどの種か言えるようになった。この足跡はダマジカのもの。

 

ムナジロテンの足跡

 

歩行パターンを読み取る練習。これが難しくて、泣かされた。

 

足跡だけでなく、地面に落ちているものもよく観察する。これはフンではなく、フクロウなどが食べ物のうち消化できなかったものを吐き出したもの。「ペリット」と呼ばれる。

 

キツツキは木の幹に環状に穴を開けて樹液を飲む。

 

換毛期には森の中にごっそりと抜けた毛が落ちていることも。これはイノシシの毛。

シカの下顎の歯

 

フィールドサインを見つけることができるようになると、本当に楽しい。アニマルトラッキングを始めると、山奥などに行かなくても、生き物の痕跡は家の周りの至るところにあることに気づく。単調つまらないと感じていた風景も、実は常に変化し続けているのだと感じられるようになった。

講座を終了したとはいっても、アニマルトラッカーとしてスタート地点に立ったばかり。野生の世界は知らないことばかり。足を踏み入れた世界を進んでいこう。

 

 

2月になって、少しづつ日が長くなっているのを感じる。とはいえ、まだまだ寒い日も多く、先週は地面にうっすらと雪が積もった。こちらの記事に書いたように、去年の5月からアニマルトラッキングを学び始めたのだが、雪が降るとトラッキングがとても楽しい。雪の上に残った動物の足跡は見つけやすいから。

キツネの足跡。

 

ノウサギ。

 

小さなハート型の可愛い足跡はノロジカのもの。

こちらもシカの足跡。副蹄がくっきりとついている。ダマジカかもしれない。

 

シカが倒木を超えていった跡が木の幹の表面についている。真ん中からやや左の手前にはキツネが前足を揃えて幹に乗せた跡。

 

これは大きさと形から、クロウタドリの足跡と思われる。

 

これはカラスの足跡っぽい。

大きさからして、この辺りにたくさんいるズキンカラスでしょう。

 

これもカラスだけど、さっきのより大きくて太い。雪が溶けている部分に降り立って、歩いていったのだろう。周りにはキツネの足跡もたくさん。

このサイズのカラスはワタリガラスしかいないよね?

 

確信ないけど、たぶんアオサギ。

 

尻尾を引きずって歩いたヌートリアの足跡。

 

最高に可愛いのはリスの足跡。倒木を端から端までぴょんぴょん飛んでいった跡がくっきり残っていた。

 

アニマルトラッキングのためのガイドブックはたくさん出ている。

Joscha Grolmsの”Tierspuren Europas”はヨーロッパのアニマルトラッカーのバイブル的な本で、とても詳しい。でも、情報量が膨大なので、初心者にはちょっと使いづらいかも。真ん中上の”Tierspuren und Fährten”はイラストのガイドブックで、使いやすい。すべてドイツ語なので用語をその都度調べる必要があるけど、野生動物の足跡やその他の痕跡が読めるようになって来ると、森の国ドイツでの散歩が何倍も楽しくなる。

 

 

野生動物が好きなので、数年前から地元ブランデンブルク州の自然保護団体がおこなっているヨーロッパヤマネコやビーバーのモニタリングプロジェクトにボランティア調査員として参加している。モニタリングとは、対象となる動物の痕跡を探して記録する活動で、集まったデータは保護活動やその基盤となる科学研究に使われる。

野生動物の痕跡を探す活動を「アニマルトラッキング(ドイツ語ではSpurenlesen)」と呼ぶ。痕跡というのは、動物足跡はもちろん、たとえばビーバーであれば齧られた木やビーバーダム、巣など、そこに動物がいたことを示すものすべてを含む。自然の中を散歩しながら生き物の痕跡を見つけるのはとても楽しいので、本格的に学びたいなあと思い、去年からWildnisschule Höher Flämingという自然教育の学校でアニマルトラッキングを習っている。

詳しくはこちらの記事に書いた通り。

トラッキングを学ぶのに大事なことは、とにかく野外を歩いて自然を観察すること。参考書も読むけれど、家の中にいては学べない。日々観察して気づいたことや写真を今年からTumblrに記録することにした。TumblrはSNSなので趣味や興味が似ている人をフォローしたりできるが、投稿すると、こんなふうにブログが自動生成されるのがとても便利!

 

ブログのテーマはいろいろなものから選べ、カスタマイズもできるようだ。自分のための記録が目的なので凝ったことをするつもりはなく、見やすく、後から検索しやすければいいかな。アーカイブも月毎及び投稿の種類ごとに自動生成されるようだ。

そもそも自分はインターネットを使って何がしたいのか?と自問してみると、「自分の興味を広げたり深めたりしたい」ということに尽きる。自分一人で黙々と興味のある情報を集めるのもいいけれど、同じような興味を持つ人の発信を参考にしたいし、自分も気づいたことをネット上にアップしておけばどこかの誰かの参考に多少なりともなるかもしれないと思って書き留めているのである。SNSのフォロワーを増やして影響力を持ちたいとか、注目されたいというわけではないし、仕事の一環としてやっているわけでもない。Tumblr は適度にマイナーなSNSで人目を気にせず好きなことを投稿でき、世間話よりも趣味について話したい自分のニーズに合っている気がする。投稿を後から編集できるのも嬉しい。

ということで、今後は旅の記録は引き続きこのChikaTravelブログに、日々の自然観察については姉妹ブログ「チカの自然観察日記」に書いていくことにしよう。

Tumblrのアカウント名は、chikawildlife。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今年(2022)の5月から10月までの半年間、アニマルトラッキングを学ぶことにした。

アニマルトラッキングは野生動物の痕跡を観察する活動で、ドイツ語ではSpurenlesenという。野生動物の痕跡には地面に残った足跡や巣、何かを食べた形跡、糞などいろいろなものがある。野生動物の痕跡を観察することで、その環境にはどんな野生動物が生息し、どのように行動しているのかを知ることができる。

身近な環境を散歩していると野生動物の痕跡らしきものを見かけることがよくあって、「何の動物の痕跡だろう?」といつも気になるのだ。特に2020年からヨーロッパヤマネコのモニタリングに参加し、そして今年からはビーバーのモニタリングも始めたことで、ますますいろいろな痕跡を目にするようになった。

凍った湖面に降り積もった雪の上についた動物の足跡

アナグマの巣穴?

面白いものを見つけるととりあえず写真に撮ってネットや手持ちの図鑑などで調べるのだが、よくわからないことが多い。知りたいなあ、見分けられるようになったら楽しいだろうなあと思っていたら、たまたま近場にアニマルトラッキングを教える学校があることに気づいた。これは良いチャンス!とすぐに申し込んだ。

私が参加することになった講座はWildnisschule Hoher Flamingという野外スキルを学べる学校の成人向け講座で、月1度、週末に4日間のキャンプをしながらアニマルトラッキングを学ぶ。申し込むまでまったく知らなかったのだが、米国ではブッシュクラフトと呼ばれるサバイバルスキルの一環としてアニマルトラッキングが捉えらることがあり、トラッキングスクールがたくさん存在するらしい。私が申し込んだ学校は米国の先住民からスキルを学んだ伝説的なアニマルトラッカー、Tom Brown Jr.や、その弟子のJon Youngのメソッドに基づいているという。

これまでに全部で5まであるモジュールの1と2を終了した。参加してみて、その濃さにびっくり。学校の敷地に各自テントを張り、朝7時頃から夜10時過ぎまで野外活動。野鳥の囀りに耳を傾けたり、動物の足跡や巣穴を観察したり、野生動物の骨格や歩き方を学ぶ。ハードな運動をするわけではないけれど、一日中外を歩き回って、同時に頭もフル回転させなければならないのでかなり疲れる。でも、講座の他の参加者たちとは妙に波長が合って、すぐに仲良くなることができた。少人数の講座で、年齢は20代の若者から60歳くらいまで様々だけど、好奇心が強いという点ではみんな一緒なのだ。

アニマルトラッキングで大切なことは野生動物の痕跡を見たらすぐに種を特定することではなく、まずは五感を使ってじっくりと観察し、なぜそこにその痕跡があるのか、その痕跡を残した生き物はどう行動したのかを考えることだそうだ。種名の特定は深い観察の後から自然について来るもので、すぐに種を特定してそれで満足してしまうよりも、問いを丁寧に解いていく方が野生動物をよく知ることに繋がるという。なるほどなあ。そして、観察の際にはスケッチをすることがとても重要だと教わった。講座の提供者は先生ではなくメンターと呼ぶ。答えを識者に教えてもらうのではなく、各自が自らの観察眼を養うことが講座の目的だからだそうだ。

モジュールの間はとにかく忙しくて写真を撮っている暇はほとんどない。最初のエクスカーションでクロヅルの足跡をかろうじて撮った。

 

想像していたよりもハードコアな内容に圧倒され続けているけれど、ほんの少し学んだだけでも景色が変わって見える。身の回りの景色の解像度が上がって、ずっとそこに合ったけれど今まで認識していなかったもう一つの世界を肌で感じられるようになるというか、不思議な感覚である。この地球環境を私たち人間は他の生き物たちと共有しているのだということを急に強く意識するようになった。夜、テントの中に横たわって、響き渡るナイチンゲールの歌を聴きながら眠りに落ちていくのは特別な感覚だ。

アニマルトラッキングを学ぶことにしたのには、身近な自然、とくに野生動物について知りたいということの他に、これといったスキルを持たないので何か一つくらいスキルを獲得したい、というのもあった。どうせなら、あまり多くの人がやらないことをやってみたい。歳と共に体力が衰えるのが心配で、なるべく野外で体を動かしたいというのもある。自然観察にはほとんどお金がかからないし、体を動かすのと同時に知的好奇心も満たされるのが良い。そして、トラッキングスキルを身につけることで今後の旅行もより充実したものになりそうな予感がする。