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今回ヨットの旅を初めて試してみて、陸に滞在する旅と比べてよかったこと、残念だったことを最後にメモしておこう。

テリハボク (Calophyllum inophyllum)。セイシェルではTakamakaと呼ばれる。Takamakaはセイシェルのラム酒ブランドでもある。

よかったこと

  • とにかくたくさんの島を回ることができた 10泊11日のクルーズ中に訪れた島の数は10。また、同じ島でも複数のビーチで泳ぐことができた。島ごとに特徴があるので、それぞれの島でアクティビティが楽しめる。
  • 陸に滞在するよりも割安だった セイシェルはホテル代がとても高く、ホテル滞在で離島へも行こうと思うと、ホテル代+食事代+移動費用(またはエクスカーション参加費)となり、大変な出費となってしまう。クルーズの場合、1泊のホテル代と同じくらいの代金の中に食事3食(水、コーヒー、紅茶も無料)と移動費用が含まれているので、思ったよりも割安の旅になった。
  • 海の生き物観察を満喫できた 連日シュノーケルができただけでなく、セーリング中にもイルカやサメ、ウミガメなど多くの生き物を見ることができた。
  • 釣ったお魚を毎日食べられた セーリング中、釣りが楽しめ、新鮮なお魚をほぼ毎食食べられるという贅沢が味わえた。それも追加料金はなし。
  • 自分で荷物を運ぶ必要がない ずっと同じヨットの上なので、荷物を運ばなくて良いのは楽。

 

残念だったこと

  • クルーズの仲間と言葉が通じなかった いろんな国の人が参加し、みんなで英語で話すことを想定していたのに、実際には私と夫以外は全員フランス語話者で英語が通じなかった。お喋りを通じた情報交換を楽しみにしていたので、とてもがっかり。フランスからの参加者は明るい気のいい人たちで険悪な雰囲気になることはまったくなかったものの、わからない言語で交わされるジョークを四六時中聞いているのは辛いものがあった。かなり大きなデメリットだったので、次回クルーズに参加するときには言語的マイノリティにならないように、最低でも自分たちの他に2人は言葉の通じる人を誘っていこうと心に決めた。(とはいえ、フランス人との10日間はそれはそれで、フランス人のバカンスの楽しみ方を観察する面白い機会にもなった)
  • 陸で過ごす時間が限定的だった 島に自力で上陸することはできず、ヨットからゴムボートで送り迎えをしてもらう必要があるので、時間を気にせず好きなように動き回れるわけではない。島の生態系をじっくり観察したり、現地の人たちと交流したかったが、その点では多少物足りないものがあった。
  • ホテルほどは快適ではない キャビンはホテルの部屋よりも狭く、清掃サービスもない。カタマランは揺れにくいヨットだけれど、やはり多少は揺れる。個人的には気にならなかったけれど、快適さを重視する人にとってはマイナスポイントになり得る。

 

その他の感想

  • ヨットの上ではネットに繋がなかったので、デジタルデトックスになってとてもよかった。今後も旅の際にはSNSはオフにしようと思う。
  • セーシェルでのクルージングは釣りと魚料理が楽しめるので、日本人の気に入ると思う。
  • 海の生き物についてもっと知りたくなった。
  • 引き続きいろんな国の自然保護の事例について知りたい。
  • ヨットクルージングに限らず、これまで未経験のタイプの旅をいろいろ試してみたい。

 

これでセイシェル・ヨットクルージングに関する記事は終わりです。

楽しかった10泊11日のヨット・クルージングも遂に最終日となり、私たちはマエー島のマリーナへ戻った。マエー島に上陸する前にサンタンヌ島のビーチに寄り、最後の一泳ぎを楽しんだ。

サンタンヌ島のビーチ

この島にはクラブメッドのリゾートがある。私たちはクラブメッドの敷地内には絶対に入らないようにと言われていたが、ビーチを利用することはできた。

白い砂浜の綺麗なビーチなのだけれど、、、、過去9日間、超絶美しいビーチの数々を訪れて来たので期待値がすっかり上がってしまった私たち。サンタンヌ島とマエー島は目と鼻の先なので、海の向こうに見えるのは町の風景である。海の水もなんとなく違うように見える。「なんか、たいしたことないね」「高いリゾートに泊まって町の景色を眺めて過ごすより、ヨットの方が割安だし、あちこち回れて良かったね」などと、クルーズメンバーと言い合ったのだった。

さて、クルーズが終わり、エデンアイランドのマリーナでクルーズの仲間たちとの別れを惜しみつつ下船した私たちは、帰途に着く前の最後の1日を首都ヴィクトリアで過ごした。ヴィクトリアは小さな町で、見どころは多くない。

ヴィクトリアの中心にあるクロックタワー。

サー ・セルウィン ・セルウィン・ クラーク ・マーケット(Sir Selwyn Selwin Clarke Market)

セイシェルはアフリカおよびヨーロッパにルーツを持つ「クレオール」と呼ばれる人々、インドやマダガスカル、中国にルーツを持つ人々など、異なるエスニシティの人々が混じり合い、大きな摩擦を起こさずに平和的に暮らしている社会だと言われる。今回の旅ではほとんどの時間を洋上で過ごしたので、ヨットのクルー以外の現地の人々と接する機会が少なく、セイシェルの生活文化には残念ながらほとんど触れることができなかった。食文化についても、観光客を相手に料理をする一人のコックさんの料理からは現地の人々の一般的な食事について知ることは難しい。ヴィクトリアの市場やスーパー、モールなどを覗いた限りでは、アフリカ、ヨーロッパ、アジアの要素がブレンドされた独自のものになっているのではないかという印象を持ったのみである。

最近は自然体験をメインにした旅行をすることが多くなっているが、その国の歴史や文化をまったく知ることなく帰って来てしまうのは残念だ。2019年のパナマ旅行の終わりにそうしたように(記事はこちら)、今回も旅の終わりにヴィクトリアの国立歴史博物館でセイシェルの歴史に触れたいと思った。

 

国立歴史博物館

奴隷貿易から始まったセイシェルの歴史は苦しみに満ちている。セイシェルの島々の存在は数百年前からアラビアの商人たちに知られていたとされるが、ヨーロッパ人が最初にセイシェルを発見したのは大航海時代のことである。無人島だったセイシェルに人が定住するようになったのは、1742年、フランスの探検隊が最大の島(現在のマエー島)に上陸したのが始まりで、1768年にフランス領になり、入植がおこなわれた。開拓のためにアフリカから多くの人が奴隷として連れて来られたのである。1790年までにマエー島の人口は572人に達したが、そのうちヨーロッパ人は65人、507人が奴隷だったとされる。

当初フランスの植民地だったセイシェルは、1814年からはイギリスの統治下に置かれる。独立国となったのは1976年で、それからまだ50年も経っていない。公用語が英、仏、クレオール語の3つなのはこうした背景からで、クレオール語は支配者であるフランス人、イギリス人と、奴隷の身を余儀なくされていたアフリカ各地出身の人々のコミュニケーションの手段として発達した言語だったのだ。

歴史博物館では、セイシェルの歴史を知る上で決して避けて通ることのできない奴隷制に重点が置かれている。私にとっても最も強く印象づけられた内容だったので、ここではそこに的を絞って記録しよう。

輸出品となるシナモンやナツメッグなどのプランテーションの労働力として連れて来られた人々は、そのおよそ45%がマダガスカル、およそ40%がモザンビークを中心とするアフリカ東部、13%がインドのポンディシェリー、残る2%がアフリカ西部の出身だった。

奴隷となった人々を拘束するために使われた道具も展示されていて、見るのがとても辛い。

19世紀初頭になると、イギリスで政治家ウィリアム・ウィルバーフォースが主導する奴隷廃止運動が高まっていったが、1833年に奴隷制度が廃止された後も、セイシェルでは引き続き奴隷の保持が続けられ、ようやく解放されたのは1835年になってからだ。

解放された人たち

奴隷制の廃止後、すでに衰退していたスパイスや綿花、トウモロコシなどの従来のプランテーションから、より生産性の高いココヤシの栽培への転換が図られていた。奴隷市場のあったアフリカ東部のザンジバルから、解放された多くの人々がセイシェルへ移住し、労働者としてココヤシのプランテーション栽培を支えた。こうしてセイシェルの人口は増え、首都ヴィクトリアも発展していったそうだ。

セイシェルの伝統的な服装。ヨーロッパの服装をベースに熱帯の気候に適したアレンジが加えられている。

現在のセイシェルは独立国家だが、自由を奪われ虐げられた苦しみと悲しみ、憤りに満ちた200年の過去をルーツとして持つ国民のナショナルアイデンティティとはどのようなものなのだろうか。

こう書きながらふと思い出したのは、プララン島の海岸近くでアンカリングをして夕食を食べていたある晩、岸辺で焚き火をしているのか、暗闇の中で1点が光っているのが見えたこと。

花火でもしているのかな?と不思議に思ってそちらを見つめていると、リズミカルな楽器の音と歌声がかすかに聞こえて来た。火の周りで踊っている気配がある。それはMoutyaと呼ばれるセイシェルの伝統のダンスだった。からだ一つで遠い未開の島へと連れて来られた人々が持っていたものは、恋しい故郷の思い出、そして自らの体と声だけだった。心の痛みや悲しみを歌を歌い、ダンスをすることで表現し、子孫へと伝えていく。そんな伝統が今でも残っているという。

 

セイシェルの国旗は放射線状に青、黄、赤、白、緑の5色に塗り分けられた珍しいデザインだ。青は空と海、黄は太陽、赤は統一と愛のための働く国民の決意、白は調和と正義、そして赤は緑は豊かな自然環境を象徴するらしい。

現在のセイシェルの主要産業は、観光と漁業。こちらの記事でも触れたように、自然保護にも大きく力を入れており、持続可能なツーリズムのパイオニア的な存在でもある。限られた場所しか見ていないので一般化できるかどうかはわからないけれど、ビーチにはゴミ一つなく、首都ヴィクトリアも綺麗だった。島国で利用できる土地が限られており、生活必需品の大部分を輸入に頼っているせいか、物価は高い。しかし、生活水準は比較的高いように見受けられた。

10日間のクルーズを共にしたキャプテンはヨットの航海士という職業柄、一年の大部分を洋上で過ごさなければならず、自宅で過ごせる日はわずかだという。でも、毎日必ず妻に電話するのだと言いながら、スマホで結婚式の写真を見せてくれた。「家族と一緒に過ごせる時間は少ないけど、妻は本当に愛情深く、決して不満を言ったりしない。幸せな家庭を持つことができた自分は恵まれている」と語った。敬虔なクリスチャンの彼は、お酒は飲むけれど決して酔っ払うことはない。家で妻や子どもたちと食卓を囲むときには神にお祈りをするのだという。ギターを演奏するので、わずかなフリータイムにはキーボードを弾く娘さんと一緒にゴスペル音楽を演奏して楽しんでいるそうだ。シャイで口数の少ないコックさんも家族の写真を見せてくれた。巨漢の彼の横に美しい妻と小学校低学年くらいの男の子が2人が写っていて、とても心が和んだ。

その一方で、ホテルから空港まで乗ったタクシーの運転手さんからはこんな話を聞いた。

「セイシェルは美しい国だけれど、政治は腐敗しています。観光で持っている国だけど、ホテルの経営者はほとんどが外国人ですよ。あなたが泊まったホテルも中国人の経営で、フロントの女性はジンバブエから出稼ぎに来てるんです。地元の人間はダメです。働かない。なぜだと思います?ドラッグですよ。国民の10%はヘロイン依存です」

ええっ、まさか?と驚く私たちに運転手さんは続ける。

「今、道路を渡って行った3人組の若者ね。彼ら、ディーラーですよ。見ればすぐにわかるんだ。ほら、あそこに飲み物を売ってるワゴンが停まってるでしょう?あそこでヘロインが買えるんですよ。ハタチそこそこの男が、私が10年必死で働いて買ったこの車よりも高い車に乗っている。なぜそんなことが可能なのか、わかりますよね?私にはティーンエイジャーの娘がいるので、ドラッグに手を出したりしないか、心配しています。私はこの国を愛しているけど、変えたいと思っています。このままではダメだ。なんとしてでも変えて行きたい」

どんな国も、美点もあれば問題もあるのは当たり前で、旅において触れることができるのはその国を構成するもののたったひとしずくでしかない。通りすがりにわかることなど、ほとんど何もない。それでも、ほんの一瞬でも接触した人たちの言葉がその国への興味のドアを開けてくれるものだと感じる。また一つ、私のとって気になる国が増えたのだった。

 

この記事の参考文献及びサイト:

National Museum of History, Seychelles

History Media-HD: History of Seychelles

ガイドブックシリーズ Richtig Reisen、”Seychellen” (2010) Dumont Verlag

 

今回の旅のテーマは主に「海の生き物」だったけれど、陸の生き物にも大いに興味がある。陸にいた時間は短かったけれど、それでもいくらかの生き物を目にすることができた。その中で特筆すべきはセイシェルの固有種、アルダブラゾウガメ とセーシェルオオコウモリだろう

まず、アルダブラゾウガメは、主にセイシェルの外諸島に属するアルダブラ環礁に生息する陸亀で、今回回った内諸島ではキューリーズ島、クザン島、ラ・ディーグ島、グラン・スール島で多く見た。

アルダブラゾウガメ

オスは最大で体重400kgにもなる巨大なリクガメである。英語ではAldabra Giant tortoiseと呼ばれる。かつて、インド洋には何種ものゾウガメが生息していたが、環境破壊や捕獲によって19世紀半ばに絶滅してしまい、唯一、生き延びたのがアルダブラゾウガメだとされていた。ところが、近年、「セーシェルセマルゾウガメ」と「セーシェルヒラセゾウガメ」という2つの亜種が、世界の動物園などで生き延びていることが確認されているという。これについて調べていたら、たまたま名古屋市の東山動植物園のウェブサイトがヒットした。同園の「アルダブラゾウガメ舎」で飼育されているアルダブラゾウガメのうち、1匹のオスの甲羅の形が他の個体と違うことに気づいた飼育員さんが不思議に思って調べてみたところ、「アシュワル」という名のその個体はセーシェルヒラセゾウガメである可能性が極めて高いということがわかったそうだ。なんて興味深い。(詳細は以下のリンクの記事の通り)

東山動植物園オフィシャルブログ 「アルダブラゾウガメのアシュワルは他と少し違うかも?」

ゾウガメは地球全体では他にガラパゴスゾウガメ(Testudo elephantopus)がいる。アルダブラゾウガメとガラパゴスゾウガメは見た目はよく似ているけれど、近縁ではない。アルダブラゾウガメはガラパゴスゾウガメよりも大きく、頭が小さく、頭部分のウロコが大きく、鼻の穴が縦長で、鼻から水を飲むことができるという特徴があるらしい。

言われてみれば、細長い鼻の穴。

現在、およそ10万匹の野生のアルダブラゾウガメの98 %が生息するアルダブラ環礁は、1982年からUNESCO世界自然遺産に登録されている。

基本的に草食で、草や葉っぱを食べる。

ちっちゃーい

内諸島のキューリーズ島にはアルダブラゾウガメの保育園があり、ゾウガメの赤ちゃんを観察することができる。

キューリーズ島の水場の周りにはアルダブラゾウガメのものと思われる足跡がついていた。趣味でアニマルトラッキングをやっている私は動物の足跡に興味があるのだ。

当たり前だけど、私の住んでいるドイツではこんな足跡を目にしたことはない。象って、こんな足跡なのね。

アルダブラゾウガメの足。なるほどね〜。

キュリーズ島のマングローブの林を流れる小川の横にもゾウガメの足跡が続いていた。

と思ったら、いた!

野生のゾウガメがたくさん見られてとても嬉しい。

さて、セーシェルオオコウモリについても書いておこう。ヨットクルーズの前日にマエー島のホテルに1泊したときのこと。首都ヴィクトリアから山を少し登ったところにあるホテルで、とても眺めが良かった。

マエー島の山の景色

木々を飛び回る野鳥をテラスからなんとなく眺めていたら、猛禽類のような大型の鳥が行ったり来たりしているのが目についた。でもどこか飛び方が普通ではない。一体なんだろうと目を凝らすと、それは鳥ではなく、大きなコウモリだった。

広げた翼は1メートルにも及ぶ。

オレンジ色のふさふさした頭のコウモリは、セーシェルオオコウモリ。英語名はSeychelles Fruit Bat。その名の通り、果物を食べる草食性のコウモリである。

果物を食べるセーシェルオオコウモリ

哺乳類コウモリ目には大きく分けて、ココウモリとオオコウモリがいる。セーシェルオオコウモリはもちろん、オオコウモリに属する。ココウモリとオオコウモリの違いは単に大きさだけではない。目がよく見えないため超音波で獲物の距離や方角を測る能力を発達させたココウモリと違って、オオコウモリは視覚を使って行動するので、目が大きく、その代わり耳はあまり発達していない。顔はキツネっぽく、英語ではFlying foxとも呼ばれる(ちなみに、ドイツ語ではFlughundと呼ばれ、これは「飛ぶ犬」という意味である)。これまでにオーストラリアやスリランカでもオオコウモリを見たことがあったけれど、いつ見ても、その大きさに興奮してしまう。

じゃれ合うセーシェルオオコウモリ。鳴き声は結構うるさい。

セーシェルオオコウモリは今回訪れたほぼすべての島でたくさん見ることができた。かつて無人島だったセイシェルの島々に人間がやって来たことで、島に固有の生き物の多くが絶滅してしまったが、セーシェルオオコウモリにとっては人間の到来はむしろ幸運だったようだ。なぜかというと、いろんな果物の木が島にもたらされ、農園が作られたから。逆に、農園の経営者にとっては果物を食べてしまう邪魔者である。オオコウモリの肉は美味しいらしく、捕まえて食べてしまうこともあるそうだ。

その土地に固有の生き物を見るのは旅の大きな楽しみだ。今回も珍しい生き物が見られて嬉しい。

 

今回のセイシェル旅行で初めて陸地滞在ではなくヨットクルージングを選択して、良かったこともあればやや物足りないと思うこともあった。とても良かったのは、10日間という短い期間にたくさんの入江やビーチを訪れることができたこと。クルージングならではの大きな魅力だ。

シュノーケルに関してはすでにこちらの記事に書いたので、今回はビーチについて書き記しておきたい。

全部で10箇所くらいのビーチを回った中で、最も素晴らしかったのはグランド・スール島(Grand Soeur, 英語ではBig Sister Islandと呼バレる)の東側のビーチである。世界で一番美しいビーチとすら思った。もちろん、私の主観ね。

この日、キャプテンが発表したプログラムは、「グランド・スール島でバーベキューをする」というもの。ヨットはグランド・スール島へ向かい、西側の海岸付近でアンカリングをして、私たちは島に上陸した。

島に上陸

島の西海岸には屋根付きのバーベキュースペースがある。キャプテン・レジスとコック・カルロスは「バーベキューの用意をしてるから、その間、遊んでて」と言う。島の反対側にもビーチがあるというのだ。言われた通りに島の反対側に向かって歩き始める。ビーチからビーチへは歩いて数分の距離だ。

ヤシの木の下の芝生は綺麗に刈られて、公園のよう。

芝生のあちらこちらにリクガメがいる。

ヤシの林を抜けたら、目の前はもうビーチだった。

!! あまりの美しさに息を呑んだ。

セイシェルで最も人気のあるビーチといえば、ラ・ディーグ島のアンス・ソース・ダルジェントかもしれない。アンス・ソース・ダルジェントの景観は文句なく美しいのだけれど、人気なだけにやはり人が多い。それとは対照的に、このグラン・スール島のビーチにはほとんど人がいない。このとき、この真っ白な海岸にいたのは私たちクルーズメンバーの8人だけ。

海の中から撮った写真。砂浜に座っているのはクルーズの仲間たち。

「楽園」とか「天国」とか、キッチュな言葉は使いたくない。でも、他に形容詞が見つからないほどの圧倒的な美しさ。もう二度とこんな景色は見られないかもしれない。今この瞬間を思い切り味わわなくては!

このグラン・スール島はプライベートアイランドで、許可なしには上陸できないが、クルーズ会社の方であらかじめ許可を取ってくれてあった。

しばらく海で泳いだらご飯の時間。再び島を横切って西海岸へ戻る。

お肉もお魚もよく焼けてる!

美味しくて、楽しくて。

野鳥を眺めながら食べるお昼ご飯は最高だ。これはベニノジコ(Madagascar Red Fody, Foudia madagascariensis)

セーシェルタイヨウチョウ (Seychelles sunbird, Cinnyris dussumieri)

夕方まで遊んだら、ゴムボートに乗ってヨットに戻る。この日も自然の美しさを心から楽しめた素晴らしい1日だった。

 

セイシェルでは大部分の時間を海の上で過ごしていたが、クルーズの半ばにプララン島に上陸し、ヴァレ・ド・メ自然保護区(Vallée de Mai Nature Reserve)を訪れた。広さ20ヘクタール弱のヴァレ・ド・メ自然保護区は天然のヤシの森がほぼ手付かずの状態で残る、世界最大の種を持つヤシの木、オオミヤシが生息することで知られる。


オオミヤシは実の驚異的な大きさ(平均15-20kg)だけでなく、その魅惑的な形状のために多くの伝説を生んで来た摩訶不思議な植物だ。オオミヤシは、セイシェルの島々が発見されるよりも以前から、その存在が知られていた。ときおり、インドやアフリカ、モルディブの海岸に流れ着く魅惑的な木の実が一体どこからやって来るのか、そしてそれはどんな木の実なのか、長い間、誰も本当のことを知らないまま、観賞の対照として、また薬効や魔力があると信じられ、多くの国で珍重された。セイシェルでオオミヤシがフランス語で「海のヤシ」を意味するココデメール(Coco de Mer)の名で呼ばれるのは、かつてオオミヤシは海の底に生えているのだと信じられていたことに由来するのかもしれない。ヨーロッパへは交易の旅から戻ったポルトガル人によって初めてもたらされたそうだ。学名がLodoicea maldivicaなのは当時モルディブでよく見つかっていたからだそう。

しかし、オオミヤシの木が自然に生育するのは、世界中でプララン島とキューリーズ島だけだ。他の場所でもオオミヤシを見ることはできるけれど、それらはすべて人の手で植えられたもので、育てるのが非常に難しいので成功例は多くない。ちなみに、ベルリン植物園の温室にもオオミヤシがある。

真ん中に割れ目があるオオミヤシの実

これまでに見つかったうち最大のものは42kgだという。両手で抱えてもずっしりと重くて、長いこと持っていられない。真ん中に割れ目のあるハート形が女性のお尻を連想させることから、セイシェルでは豊穣のシンボルとされる。

オオミヤシは雄雌異株、つまり雄花と雌花をそれぞれ別々の個体につける。雄株の花は長い鞘状をしていて、これまたまるで男性の生殖器を思わせる形状なのだ。人々にあらぬ想像を掻き立てたのも無理もない。オオミヤシのオスとメスは嵐の夜に巨大な葉をワサワサと揺らしながら結合すると言い伝えられて来た。しかし、それを実際に目撃したものはいない。なぜなら、目撃した者は呪われ、死ぬ運命だからだ。

葉も異様に大きい。生育に必要な水分と養分をたっぷりと集めることができる。

森でよく見るヤモリはオオミヤシの受粉係

オオミヤシの雌株

オオミヤシの成長はゆっくりで、雌株が実をつけるようになるまでには25〜40年もかかる。

現在、4000本ほどのオオミヤシの木が存在するが、外来種の侵入や違法な採取、森林火災などで減少が危惧されており、厳重に保護されている。1983年にヴァレ・ド・メ自然保護区はUNESCO世界遺産に登録された。オオミヤシの実の中にはゼリー状の果肉があるが、食べるのは絶対禁止。1980年代まではアーユルヴェーダの薬の原料として年間100個のオオミヤシがインドに輸出されていたが、現在は停止しており、販売許可されるオオミヤシの数は限定されている。1つ数万円するそうだ。

オオミヤシはセイシェルの人々にとってナショナルアイデンティティだ。観光客向けのお土産もオオミヤシの実を象ったものがたくさん売られている。ペンダントなどもあって、ちょっと惹かれたけれど、オオミヤシのことを知らない人が見たら、その形から何か勘違いされるかもと思ったので、買うのはやめておいた。

森にはオオミヤシの他に5種のヤシが生育する。

ジャックフルーツもたわわになっている。

ヴァレ・ド・メはクロオウムの最後の生息地の一つでもある。鳴き声はしていたけど、残念ながら姿を見ることはできなかった。

 

この記事の参考文献及びウェブサイト:

ガイドブックシリーズ Richtig Reisen、”Seychellen” (2010) Dumont Verlag

Robert Hofrichter “Naturführer Seychellen: Juwelen im Indischen Ozean” (2011) Tecklenborg Verlag

Seychelles Island Foundationのウェブサイト

 

 

セイシェルの主な産業は観光業と漁業である。同時に、セイシェルは自然保護に大きな力を入れている国でもある。美しい自然以外の観光名所はないので、自然環境を維持できなければ観光業も成り立たなくなってしまう。また、観光マーケティングでは「楽園」とか「秘境」「手付かずの自然」といった言葉が安易に使われがちだけれど、過去に深刻な環境破壊を経験して来たことではセイシェルも例外ではない。

「楽園」と形容されるセイシェルの自然だけど、、、

セイシェルという国の歴史は浅い。もともと人が住んでいなかった島々が1770年代から フランス、そして英国の植民地となり、シナモンやココナツ、タバコなどの大規模なプランテーション栽培がおこなわれた。20世紀初頭までにプランテーションはセイシェルの全域に広がり、自然林は広範囲に失われてしまった。人間が入って来たことで島に外来生物が導入され)、食糧として生き物が捕獲された。また、セイシェルのサンゴ礁には「グアノ」と呼ばれる海鳥の糞などが堆積し化石化したものが多くあったが、肥料になることから大々的に採集された。そして、20世紀後半に農薬が導入されたことによって、環境破壊は複合的な問題となった。

 

しかし、1970年代から80年代にかけて、プランテーション経営の採算が取れなくなったため、セイシェルは観光業へと大きく舵を取る。その結果、セイシェルは小さな国でありながら、環境の再生においては世界のトップレベルにあるという。現地の環境保護団体、NatureSeychelles と土地の所有者、政府が一丸となって、ラットの除去、島の再森林化、固有種の動物の再導入などに取り組み、成果を上げているのだ。絶滅の危機に瀕した種を保護することでツーリズムのポテンシャルが高まり、それがホテル所有者の環境保護努力を後押しすることになる。セイシェルはオーバーツーリズムにならないよう、観光客の数も制限している。

クザン島(Cousin Island)へは現地の自然保護センターの有料ツアーに参加することでしか上陸できない。保護センターからヨットまでセンターの人が小型ボートで送迎してくれる。

 

数々の取り組みのなかで、クザン島の野鳥保護活動はセイシェルの自然保護の看板ともいうべき大きな成功例である。1969年、絶滅の危機に瀕していたセイシェルの固有種セイシェルウグイス(Seychelles warbler) の最後の29羽を保護するため、野鳥保護団体International Counsil of Bird Conservation(現  BirdLife International)がクザン島を購入した。これがセイシェル初の生態系再生プロジェクトのきっかけとなった。自然保護の成功例を見に、クザン島へ行ってみよう!

ガイドさんと一緒に森へ入る。ガイドツアーは英語またはフランス語。

かつて、クザン島ではココナツの集約栽培が行われていたため、自然再生はココナツが無制限に増殖しないように木から落ちたココナツを拾い集めることから始まったという。努力の結果、海鳥が種を運んで来た固有種が再び繁殖するようになった。1975年、セイシェル政府は島を特殊保護区に指定した。1990年代初頭までには残っていたココナツ農園も概ね除去され、現在、島の植生は、その大部分が固有種となっている。幸い、クザン島にはラットが全く入って来なかったので、駆除のためにネコが導入されることもなかった。

 

野鳥の島だと聞いてはいたが、ガイドさんと一緒に歩いてみて、島の野鳥密度には驚くばかりである。狭い森の至るところに野鳥がいるのだ。

クロアジサシ(Brown Noddy, Anous stolidus)またはインドヒメクロアジサシ (Lesser Noddy, Anous tenuirostris)。島には両方いるが、色が微妙に違うだけなので、見分けがつかなかった。

シロアジサシ (White Tern, Gygis alba)。セイシェル空港のロゴにもなっているエレガントな鳥。巣は作らず、木の股に卵を1つだけ直接産む。

木の上で親を待つアジサシの幼鳥

セイシェルの野鳥保護のきっかけとなったセイシェルウグイス(Seychelles warbler, Acrocephalus sechellensis)。個体識別のための足輪をしている。

クザン島の鳥たちはまったく人を恐れる様子がない。ガイドさんにあらかじめ「鳥にストレスを与えないため、1メートル以内には近づかないでください」と言われたが、「え?たったの1メートル?」と耳を疑った。近過ぎでは?なるべく近づかず、望遠レンズで写真を撮った。

シラオネッタイチョウ (White-tailed tropicbird, Phaethon lepturus)。地面に卵を生む。長い尾をひらひらさせて飛ぶ姿はとても優雅だ。

シラオネッタイチョウの幼鳥

少し大きくなった子ども

セーシェルシキチョウ (Seychelles magpie robin, Copsychus sechellarum)。かつてはセイシェルの花崗岩の島にはどこにでもいたが、地面でしか食べない鳥なので、ネコが入って来てから激減してしまった。クザン島に再導入され、繁殖している。

森の中で見た石壁。ココナツのプランテーション栽培をしていた頃の名残で、リクガメによってココヤシが傷つけられるのを防ぐために作られたものだそう。リクガメについては改めて記事にする。

クザン島は野鳥だけでなく、トカゲやヤモリの生息密度も世界トップクラスだ。

Seychelles Skink(Seychellen-Mabuye)という、セイシェルでよく見るトカゲ

こちらはより珍しいWright´s skink(Trachylepis wrightii)。一回り大きい。ラットのいない4つの島にしか生息していない。

ヒルヤモリの1種。似ているのが複数いるので学名はわからない。

セイシェルブロンズゲッコー(Seychelles Bronze-eye gecko, Ailuronyx seychellensis)

さらに、クザン島はインド洋における最も重要なタイマイ(hawksbill turtles, Eretmochelys imbricata)の繁殖地の一つだ。年間30-100個体のタイマイが浜辺に産卵にやって来る。世界の他の場所ではタイマイは夜間に産卵するが、クザン島では昼間も産卵の様子が見られるという。

島ではタイマイの産卵のモニタリングがおこなわれている。

クザン島では生態系保全のブートキャンプをやっていて、世界から参加者を募っている。1回につき6名限定の小規模なキャンプだ。こんな場所で野鳥やタイマイのモニタリングができたら楽しいだろうなあ。
クザン島には是非行きたいと思っていたので、今回、行くことができて本当によかった。

 

この記事の参考文献・サイト:
Adrian Sekret & Ian Bullock  “Birds of Seychelles” (2001) Princeton University Press
Robert Hofrichter “Naturführer Seychellen: Juwelen im Indischen Ozean” (2011) Tecklenborg Verlag

いつからか、野生の生き物を観察することが大きな趣味の一つとなっている。自宅の庭や周辺でバードウォッチングをするほか、アニマルトラッキングや野生動物のモニタリングボランティアなどもしている。しかし、私の住んでいるドイツは国の北側にしか海がなく、北海やバルト海は夏でも水が冷たくて泳ぐのにはあまり適していない。だから、トロピカルな海に飢えているところがある。

そんなわけで、セイシェルではシュノーケルで海の生き物を見ることをとても楽しみにしていた。10日間のクルーズ中、毎日数時間シュノーケルをすることができたので、とても満足だ。セイシェルの内部諸島の多くはこちらの記事に書いたように、花崗岩の島だが、その周囲をサンゴ礁が囲んでいるので、シュノーケルスポットは豊富にある。たくさんのシュノーケルスポットに連れて行ってもらったうち、特に気に入った場所は、サン・ピエール島の周辺。その他、マエー島近くのサンタンヌ海洋公園(Sainte Anne Marine National Park)のサンタンヌ島とモワイヨンヌ島の間のコーラルリーフもとても良い。

サン•ピエール島。この島は花崗岩ではなく、海の生物の死骸が堆積してできた石灰岩でできた小さな無人島だ。

たとえばどんな生き物が見られるのか、GoProで撮った動画をいくつか貼っておこう。

イカの群れ。

シマハギ、パウダーブルーサージョンフィッシュ、ニシキブダイなど。

サンゴ礁は世界の海全体の1%に満たないが、海の生き物の25%がサンゴ礁に生息するとされている。セイシェルのサンゴ礁はおよそ300種のサンゴが形成し、魚は400種ほどだという。ただ、セイシェルの海でもやはり気候変動によるサンゴの白化現象はかなり進んでいるように見えた。サンゴには浅い海に分布する造礁サンゴと深い海に分布する宝石サンゴがある。シュノーケルで見えるのは造礁サンゴで、本来は褐色系の地味な色をしているものが多い。それは、サンゴは共生する褐虫藻が光合成によって作る栄養分に依存して生きているから。ところが、海水の温度が上がると褐虫藻が抜け出し、サンゴが餓死してしまう。つまり、白くなったサンゴは死んでいる。それでもかなりいろいろな魚を見ることができたけれど、本当に残念で、心配だ。

たぶん、ニセタカサゴの群れ。

スズメダイやマツカサの群れ。

ツバメウオ、スナブノーズポンパノなど。

マダラトビエイ。

ナンヨウブダイかな。

過去にシュノーケルをしたときには水中動画や写真は撮らなかったので、水中にいるときには感動しても、時間が経つと何を見たのだったかすぐに忘れてしまった。今回はこうして記録できたので、図鑑を見ながら種の同定を試みている。まったく知識がないので、図鑑を見てもあまりに種類が多くて、最初のうちはなかなか同じ魚を見つけられなかったけれど、しばらく取り組んでいたら少しづつ大まかなグループが把握できるようになって来てとても楽しい。また、水の中で見ているときには1つの種だと思っていた魚が実は微妙に異なる3〜4種だということがわかったりして面白い。地味な魚は同定が難しいけれど、ブダイやベラなどの派手なものは調べやすい。でも、ブダイだけでもすごくたくさんの種類があるんだなと驚く。未知の世界に足を踏み入れてしまった。

サザナミヤッコの幼魚

これは何ブダイ?

ミヤコテングハギ

ニシキブダイ

チェッカーボードベラ

トゲチョウチョウウオ、キガシラチョウチョウウオ

これまでに見分けることができたのは50種ちょっと。写真を撮れなかったものや、不鮮明でよくわからないものも多いので、ざっと70種くらいは見ることができたかな。

シュノーケルは本当に楽しい。お魚の種類を調べるのも楽しい。これで、ハマることがまた一つ増えてしまったのだった。

 

この記事の参考文献:

Mason-Parker & Walton “Underwater Guide to Seychelles” (2020) John Beaufoy Publishing Limited.

山城秀之 「サンゴ 知られざる世界」(2016) 成山堂書店

前回の記事で、ヨットの上で釣りをしたことについて触れた。今回はクルージング中の釣りと料理についての記録である。

クルージング中は3食ともヨットの上でコックさんが調理してくれたものを食べる。実は、出発前には私はあまり食事に期待していなかった。というのも、今までいろんな国を旅して来たが、食文化の発達している国もあればそうでもない国もあった。過剰に期待するとガッカリすることがあるので、「美味しければラッキー」ぐらいのつもりでいることにしているのだ。

今回は小さな船なので食材をそんなに積み込めるわけではないし、キッチン設備も限られている。そんなにすごい料理が出てくるはずはないだろうと踏んでいた。

ところが、である。

釣り糸を海の中に垂らして移動したら、初日からじゃんじゃん魚が釣れる。

どんどん釣れるカツオ

予約したクルーズの内容には釣りは特に含まれていなかった。「少しでも楽しんでもらえるように」とキャプテンが自前の釣竿や釣り糸を持参して、アクティビティに加えてくれたのだ。これにはみんな大喜び!釣りとは言っても、勝手に引っかかる魚を順番に引き揚げるだけなのだけれど、2チームに分かれて、どちらのチームがたくさん釣るかを競い合ったら、ものすごく盛り上がった。

私が引き上げる番になった。一生懸命引っ張るが、すごく重い。

キャプテンが引き揚げるのを手伝ってくれた。なんと、私と同じくらいの身長のキングフィッシュだった!

これは、ジョブフィッシュというお魚。これもよく釣れた。

 

夫が釣ったキハダマグロ

 

すごく大きいのがかかった!

バラクーダ

釣ったお魚はコックさんが調理してくれる。新鮮なお魚だよ、わーい!

鱗取り

毎日毎日、お魚三昧。コック・カルロスによるお魚料理のバラエティは驚愕ものだった。お刺身だけでも、お醤油とライムで、サフランソースで、マスタードソースで、またはパッションフルーツをかけてなど、いろんな食べ方がある。火を使った魚料理はムニエル、オーブン焼き、バーベキュー、カレー、炒め物、グラタン、魚ピッツァなど、とにかく飽きさせない。

カツオのお刺身パッションフルーツがけ

セビーチェ

ムニエルみたいな料理

サフラン風味のオーブン焼き

バーベキュー

お刺身のマスタードソースがけ

手前のお皿はお魚と野菜の中華風炒め

蒸したジョブフィッシュとカツオのカレー

お魚グリルのサフランソース添え

真ん中はキハダマグロのお刺身オリーブオイルかけ

蒸したジョブフィッシュ、オレンジ風味

手前はジョブフィッシュのクリームソース

船の上の小さなキッチンで作り出される美味しい料理の数々には本当にびっくり。献立はあらかじめきっちり決まっていたわけではないようだ。初日に「ベジタリアンの方、食物アレルギーのある方はいますか?」と聞かれた。私たちの中にはベジタリアンの人も重大なアレルギーを持つ人はいなかった。もし、いたら対応してくれていたのだと思う。冷凍庫にはお肉が入っていて、もし私たちが「また魚か」という反応をすれば、お肉中心のメニューになっただろう。皆がお魚を美味しい、美味しいと言って大喜びで食べるので、コックさんは張り切って連日、お魚料理を作ってくれたのだ。メインの食材がその日釣れたお魚なので、安上がりの食事である。でもそれが逆に大変な贅沢で、食事にそれほど期待していなかっただけに、喜びが大きかった。

お魚料理以外の料理もどれも美味しく、毎日出たサラダもバラエティに飛んでいた。一般的なグリーンサラダやポテトサラダのほかに、トロピカルフルーツや野菜を使ったサラダなど、食べたことのないクリエイティブなものが多くて、食事のたびに今度は何が出てくるかなと楽しみなのだった。

ヨットに積み込まれた野菜や果物

なんだかもう、これらの食事だけでクルーズ費用の元が取れたという気がする。もし、ホテル滞在にしていたら、毎日どこかレストランで食事することになり、その都度お金がかかっていただろうと思うと、かなり得した気分である。

前記事ではセイシェルの地理と地形についてまとめた。今回は10泊11日のクルージング中、どのように過ごしていたのかについて書き留めておこう。

初日はお昼頃、マエー島のエデンアイランドのマリーナからヨットに乗り込んだ。エデンアイランドは、2006年、首都ヴィクトリアから3kmのところに作られた人工島である。アパートメントやレストラン、ショッピングモールなどがあり、東京で言えばお台場のようなところだが、もっと規模が小さく、高層ビルなどはない。私には特別面白い場所には思えなかったけれど、マリーナがあるのでボートを所有している人が住むのに適しているのだろう。

乗船する際、余裕がなくてヨットの外観写真を撮り忘れてしまった。乗ったヨットは60フィートのカタマランヨットということだが、カタマランに乗るのは初めてなので、良いヨットか、それとも良くないヨットかと聞かれてもわからない。新しくはないが古さも特に感じないという感じ。実際に乗ってみて、ホテルに比べれば快適度は劣るけれど、私はもともと宿にあまりこだわらないので、まずまず満足かな。

当然ながら、クルージング中は1日の大半、ヨットの上にいるわけである。幸い、お天気に恵まれたので、ほぼいつもデッキで過ごしていた。

食事は3食ともデッキで乗客みんなで一緒に食べる。

室内にもソファーやテーブルがあるが、備品置き場になっていて、また、クルーがここで休むこともあり、私たち乗客はこのスペースは全然使わなかった。

キッチン。窓際に湯沸とトースターと炊飯器が置いてある。

キッチンの前の階段を降りるとキャビンがある。

キャビンには広さ5m2と6m2の2種類あり、うちは夫が高身長なので、広い方にした。クルーズ中は夜はヨットをアンカリングして寝るので、ホテルのようにお掃除の人が部屋を掃除してくれるわけではない。一度だけ、クルーズの半ばにマリーナに寄港した際に、清掃スタッフが入ってタオルやシーツを交換してくれた。それ以外はなるべく汚さないように気をつけて使った。それぞれのキャビンには専用のトイレ・洗面所がついているが、トイレは同時にシャワー室でもあり、シャワーを浴びる際にはシンクのホース付き蛇口を引っ張り出して壁にかけて使う。つまり、トイレの床や壁は常に濡れているし、洗面所の鏡もいつも曇っている。トイレットペーパーが湿らないように気をつけなくてはならない。

ヨットクルージングの宣伝にはよく「豪華」とか「ラグジュアリー」などの枕詞が使われるけれど、別に豪華でもラグジュアリーでもなく、むしろキャンプに近いなと思った。小綺麗な服装のシニアの男女がデッキでシャンパングラスを傾けていたりする広告写真を見るけれど、あれはあくまでイメージであって、実際には全然違うのであった。だって、朝から晩まで海に入ったり出たりしているのだから、髪の毛は常に濡れていて、当然すっぴんだし、服装は水着の上に1枚羽織っただけ。そして船の上では常に裸足である。お洒落からは程遠いのだ。激しく日焼けもするし、美容を重視する人には勧められないかも。

でも、ヨットの上で過ごす時間はとても楽しく、退屈することがなかった。毎朝、8時に朝食を取った後、次のアンカリングポイントへ移動するのだが、その途中にシュノーケルポイントや美しいビーチに寄って泳ぐ。ヨットにはカヤックも積んであるので、カヤックを漕いで遊ぶこともできる。

海に入らなかったとしても、景色を見ているだけでも楽しい。時々、海面に生き物の姿を見つけて、「カメだ!」「サメだ!」「イルカだ!」とみんなで大喜びした。

ウミガメはほぼ毎日、目にした

ある朝起きてデッキに上がったら、繁殖行動中のイルカのカップルを目にして感動。

イルカはヨットのギリギリ側まで来ることもある。

うまく写真が撮れなかったけれど、これはジンベイザメ。

 

そして、これは太字で強調したいポイントなのだが、移動中の大きな楽しみは海釣りである!! 予約したツアーのプログラムには釣りをするとは書いていなかったが、キャプテンの計らいで釣り糸をずっと垂らしながら移動した。お魚がじゃんじゃん連れて、予期せぬおまけに大興奮。

カツオを釣るキャプテン

釣りと釣ったお魚の料理については書くことがたくさんあるので、次の記事で。

 

夕方は暗くなる前にアンカリングする。デッキの上から太陽が沈むのを眺めるひとときは素晴らしい。

雲のないに日は、暗くなってからデッキに立って星空を眺めるのも楽しい。インターネットに接続しないで過ごす時間は思いのほか、気持ちがよかった。自然を体で感じ、今ここにいることを味わうのに集中できる。たまにはネットから離れるのもいいなと感じながら過ごしていた。

 

 

 

クルーズについて書く前に、セイシェルの島の成り立ちについてまとめておこう。

旅行会社のパンフレットだったか、それとも雑誌で見たのかは覚えていない。数十年以上前に白い砂浜の海岸を巨石が縁取るセイシェルの美しくも特異な風景を初めて見たとき、こんな景色がこの世にあるのかと信じられない思いだった。こんな場所へいつか行ってみたい。でも、セイシェルはあまりに遠くて現実感がなく、ずっと夢物語だった。

それが実際に行く気になったのは、セイシェルの島々は「ゴンドワナ大陸のかけら」だということをどこかで目にしたからかもしれない。ゴンドワナ大陸のかけら?それは、どういうことだろう?

グラン・スール島の海岸

去年の夏休暇にはイタリアのエオリエ諸島に行った。シチリア島の北にあるエオリエ諸島は海底火山の活動によって生まれた火山弧である。一番大きなリーパリ島の海岸にはマグマ由来の艶やかな黒曜石が転がっていた。パナレーア島付近では海底から水面へブクブクと火山ガスが吹き上がり、ストロンボリ島では火山がひっきりなしに火を吹いていた。(→ エオリエ諸島への旅レポートはこちら

同じ島でも、インド洋セイシェルの島々には火山はない。セイシェルの島々に特徴的な丸みを帯びたグレーの岩は、およそ5億5000年前、南半球に存在したゴンドワナ大陸を形成した花崗岩だ。2億年前にゴンドワナ大陸は分裂を始め、現在のアフリカ大陸、南アメリカ大陸、インド亜大陸、オーストラリア大陸、南極大陸の原形ができた。分離したそれらの大陸は、長い時間をかけて互いに離れていき、インド洋が誕生した。そして、インド洋には大陸のかけらがいくつか、島となって残った。大きなかけらはスリランカやマダガスカルになった。セイシェルの島々はうんと小さなかけらだ。こう書いていたら、大きなクッキーが目に浮かんだ。1枚の大きなクッキーをいくつかのピースに割ったとき、割れ目からこぼれ落ちたクッキーのくず。セイシェルはそんな場所だと言っても構わないだろうか。

 

 

「かけら」とはいっても地球スケールでの話。ラ・ディーグ島の巨大な岩

同じくラ・ディーグ島の南西に見られる花崗岩の巨石、Giant Union Rock。太古の大陸が剥き出しになっているのを見るのは不思議な気がする。

ラ・ディーグ島の大人気ビーチ、アンス・ソース・ダルジェント(Anse Source d´Argent)

セイシェルは115の島から成り立っているが、そのうち、継続的に人が住んでいるのはマエー島、プララン島、シルエット島、そしてラ・ディーグ島の4島だけ。10万人弱のセイシェル全国民の大部分が首都のあるマエー島に住んでいる。人が住める陸地の総面積はわずか455㎢。領海は39万㎢と広大だけれど、陸地だけで考えればとても小さな島国で、首都のヴィクトリアも都市というよりも村に近い規模である。

 

先にセイシェルは花崗岩でできた島だと書いたけれど、実はこれは厳密には正しくない。

セイシェルはマエー島を中心とする内部諸島(Inner islands)と、その南西に広がる外部諸島(Outer islands)から成り立っている。花崗岩でできている島は内部諸島のうちの10ほどで、外部諸島はサンゴ礁の島だ。そのほかに石灰岩の島もある。つまり、セイシェルの島の成り立ちはいろいろなのだけれど、花崗岩の島が観光立国セイシェルのイメージとなっているのだ。景観が最も「セイシェルらしい」とされるのはラ・ディーグ島で、ガイドブックの表紙やポスターの写真のほとんどはラ・ディーグ島で撮影されているとのことである。

マエー島の山の中腹からの眺め

一番大きなマエー島は山がちで緑に覆われ、てっぺん付近以外では岩はそれほど見えない。山は険しく、平らな土地は海岸付近のみ。土の層が薄いので斜面に家を建てるのはあまり安全とは言えないらしい。

岩が見えている部分

2004年のスマトラ沖地震の際に発生した津波はマエー島の東海岸にも到達した。幸い、津波そのものはそれほど大きな被害をもたらさずに済んだとのことだが、その直後に激しい雨が降り、土砂崩れで多くの建物が崩壊したらしい。そのため、なるべく平らなところに人が住むようにと、マエー島の東側には埋め立て地がいくつも作られている。

ヴィクトリアを見下ろす

向こうに見える赤い屋根の建物が並ぶ島は、ヨットハーバーのあるエデンアイランド

風車と太陽光パネルが設置された埋立地が見える

 

さて、今回のヨットクルーズの主な目的は「海の生き物を見ること」である。毎日スノーケリングをするつもりなので、どれだけたくさんの海の生き物が見られるか、楽しみだ。でも、セイシェルの面白さはもちろん海だけにあるわけではない。陸の生態系もまた、興味深い。というのも、セイシェルはアフリカ大陸から1600kmも離れているので、ゴンドワナ大陸の分裂後にアフリカで繁栄した陸上哺乳類が上陸することがなく、後に人間によってもたらされたネズミや犬猫以外に哺乳類がほとんどいないのだ。その一方で、孤立した地理条件のもとでセイシェル固有の動植物が進化した。そうしたセイシェル特有の生態系やその保護の状況についても知りたい。

 

この記事の参考文献:
ガイドブックシリーズ Richtig Reisen、”Seychellen” (2010) Dumont Verlag
Robert Hofrichter  “Seychellen: Juwelen im Indischen Ozean. Naturführer  (2011) Tecklenborg Verlag

 

インド洋のセイシェルへ行って来た。

いつもと少し違った旅の仕方をしてみたくて、初めてヨットでの旅を試してみた。首都ヴィクトリアのあるマエ島のマリナから10日間かけてインナーアイランドと呼ばれる島々を回るクルーズである。

 

これまでの旅行で、滞在地から近隣の島へ日帰りのボートツアーに参加したことは何度もあったけれど、10日間船に乗りっぱなしというのは初めてで、いくつか不安材料があった。個人旅行が好きなので、いつもはレンタカーを借りたりして自分で計画したルートを回る。でも、ヨットは自分で操縦できないので、クルージングの会社が提供するクルーズに申し込むことになる。つまり、受け身の旅行ということになるが、そこのところどうかなあ?と。

不安材料の2つ目は、少人数とはいえ、知らない人たちとずっと一緒に過ごすことになるので精神的に疲れないかな、ということ。

3つ目は、夜もヨットで寝るので、船酔いしないかどうか。これについては事前の下調べでカタマランヨットというタイプのヨットなら安定していて揺れが少ないこと、また、セイシェルの海は11月頃がもっとも穏やかであることがわかったので、11月中のカタマランクルーズに的を絞って予約した。

結論から言うと、新しい体験で何から何まで新鮮だったし、クルーズの内容もとても充実していた。私はまったく船酔いせずに済み、やや気分が悪くなった夫も持参した酔い止めの薬が効いて問題なく楽しめた。

今回乗ったカタマランヨットはEleuthera 60というヨットで(注: サムネイルのヨットは私たちが乗ったものとは違います)、クルージングメンバーは客8名とクルー2名(スキッパー+コック)の合計10名。クルーは英語、フランス語、クレオール語が話せる。

マエー島、エデンアイランドのマリナから出発

 

回った島は以下の10島。

  • マエー島 Mahé
  • シルエット島 Silhouette
  • プララン島 Praslin
  • キュリーズ島 Curieuse
  • ココ島   Cocos
  • サン•ピエール島  St. Pierre
  • クザン島  Cousin
  • グラン・スール島  Grand Sœur
  • ラ・ディーグ島  La Digue
  • サンタンヌ島   Ste. Anne

島を回るといっても島で過ごす時間は限定的で、基本的にはずっと洋上にいる。船でごはんを食べ、シュノーケルスポットでシュノーケルをしたりビーチで泳いだりしながら移動する。ときどき島に上陸して数時間を陸で過ごすが、日が暮れる前に島の近くにアンカリングしたヨットに戻って寝るというパターンだ。これがなかなか面白い体験で、ヨットというのは水上キャンピングカーみたいなものだなと感じた。

島に上陸する際には、クルーにゴムボートでヨットと岸の間を送り迎えしてもらう

 

次からの記事に、セイシェルの地形、遭遇した海の生き物、セイシェルの自然保護区や野鳥、海釣りとクルージングの食事、セイシェルの歴史などについてまとめていきます。