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内陸部に住んでいるので、あまり海に行く機会がない。ドイツにも北部に海はあるのだけれど、真夏でも水が冷たくて泳ぐ気になれない。海の楽しさを忘れかけていたが、去年の秋にセイシェルに旅行に行って、シュノーケルが大好きだったことを思い出した。

セイシェル・ヨットクルージング④ シュノーケルで海の生き物を観察

カラフルな熱帯魚と一緒に泳ぐほど幸せなことはない!と強く感じた日々だった。シュノーケルでもこんなに感動するなら、ダイビングはきっともっと素晴らしいに違いない。ああ、海に潜ることができたら!

しかし、私は自他共に認める運動オンチ。そんな私にダイビングのような難しそうなこと、できるわけがない。いや、もしかして、やってみたらできるかも?ダメダメ、無理だって。やる前から諦めずにやってみる?やめとけ。試すだけでも?一人二役押し問答をしばらく続けた末、「できなかったらやめればいいことじゃないか。とりあえずやってみよう」という結論に達した。

そんなわけで、ダイビングのメッカ、紅海へ行って来た。紅海はアフリカプレートとアラビアプレートが分裂して形成された細長い海で、その海岸線に沿ってサンゴ礁がおよそ4000kmも続いている。世界で最も長い一続きのサンゴ礁だ。気候変動の影響で世界中でサンゴの白化現象が進む中、紅海では今のところ良い状態が保たれているという。これまでに確認されている魚は1200種を超え、そのうちの約10%は固有種というのだから、世界中のダイバーの憧れの的なのも頷ける。

滞在先は南エジプトのマルサアラム(Marsa Alam)に決めた。ポピュラーなのはフルガダ(Hurghada)だけれど、メジャーな場所が好きではない天邪鬼な私なので、まだあまり観光地化されていないマルサアラムのダイビングリゾート、The Oasisを予約した。ベルリンからマルサアラムまでは直行便があり、4時間50分で行ける。

上のマップで一目瞭然なように、ホテルは海に面しているが周りはどこまでも続く砂漠で、それ以外には何もない。

パッと見は普通のビーチリゾートホテル風。でも、実は全然違う。このホテルはダイビングをするため「だけ」の宿泊施設である。

部屋はこんな感じで広々としていて、悪くない。でも、部屋にはテレビもWiFiもルームサービスも何にもない。ここに宿泊する人はダイビングのみが旅の目的のようで、余計なものは求めていないようだ。

目の前は海で、海岸線を縁取るように浅い礁池がある。砂浜から海へと延びた桟橋の先から水の色が急に深い青になり、白波が立っている。そこはドロップオフと呼ばれる、深い海へと続くサンゴ礁の断崖だ。ダイビングライセンスを持っている宿泊客はここで1日に一度、ホテル併設のダイビングセンターが提供するガイド付き無料ダイビングツアーや有料のナイトダイビングに参加できる。

マルサアラムの海岸線はところどころが入江になっていて、砂浜からダイビングの装具を身につけて歩いて海に入ることのできる場所もある。このホテルの便利なところは、毎日、午前と午後に1回づつ、ジープでいろいろな入江に連れて行ってくれるダイビングツアーが組まれていること。

ダイビングセンターの壁に貼ってあるダイビングスポットの説明を読んで、行きたいスポットのリストに名前を書き込んで参加する。

面倒な手続きなしにいろんな場所でダイビングができるシステムが便利だ。とはいっても、私はまだダイビングをしたことがないので、まずは体験ダイビングに申し込んだ。

体験ダイビングには経験もスキルも要らない。インストラクターが海の中を案内してくれるので、自分は呼吸と、ときどき耳抜きだけすればよく、難しいことはなにもなく、ひたすら素晴らしかった。わずか20分くらいの間だったが、6メートルの深さまで潜った。普段はシュノーケルで水面から見ていたサンゴ礁を横から見るとまた違った感動がある。昔話に出て来る竜宮城が頭に浮かんだ。ミノカサゴがゆらゆらと揺れていたり、大きなイカが頭上を静かに泳いで行ったり、海の中は陸上とは生き物の動きが異なり、なんだか神秘的である。ダイビングでは重力を感じずに水平に進むというのも新感覚だ。なにより感動したのは、シーグラスの生えた海の底を泳いでいたら、上から2匹のコバンザメをくっつけたアオウミガメがゆっくりと降りて来て目の前に着地し、シーグラスを食べ始めたこと。テレビのドキュメンタリーで見るような世界が目の前に広がり、夢を見ている気分だった。

これで心は決まった。ダイビングライセンスを取得してダイバーになろう。

夫と一緒に初級ライセンス「オープンウォーター」の講習に申し込んだ。では早速始めましょうということになったが、まずは学科を学んだり、プールで練習したりするものかと思っていたら、最初からダイバー達と一緒にジープに乗せられ、入江に連れて行かれてびっくり。

たくさんある入江の一つ。一見、遠浅の海に見えるけれど、スロープ状になっていてすぐに深くなる。

砂浜に敷いたシートの上でウェットスーツを着、ウェイトベルトを締め、BCD(ベスト)を羽織り、タンクを背負ったらインストラクターと一緒に海に入る。初めて装具を身につけて、あまりの重さに驚愕。なんと10kg近くものウェイト(鉛の錘)を腰に巻くのである。紅海は塩分濃度が高くて沈みにくいことや、初心者は呼吸で浮力をうまく調整できないので、多めのウェイトが必要だということらしい。こんな重い装具を背負って腰を痛めたらどうしよう〜と思いながらヨタヨタと水辺まで歩きながら、「ダイビングって、こんなに大がかりスポーツなんだ、、、」と、海に入る前にすでに不安になって来た。

で、講習はどうだったかというと、、、、。

それはそれは大変でございました。いわゆるクラッシュコース的なもので、わずか56時間ほどで必要な技能と学科を全部終わらせる。短期間でライセンスを取ってすぐに潜り始めたいという人には便利に違いないが、運動オンチを誇る私には無理があった。ちなみに、講習の言語は英語またはドイツ語。私のインストラクターはスイス人だったので、ドイツ語で指導を受けた。

海から出たら、水を張ったタライにシューズのまま入って砂を落とす。

ダイビングの装置のこともダイビングテクニックもまるっきり何も知らないまま、プシューとベストの空気を抜いて海の底に降りるという生まれて初めての体験。そしてその状況下でレギュレーター(呼吸のための器材)を口から外してまた入れろとか、ダイビングマスクを外してまた付けろとか、ウェイトベルトを外してまた付けろとか、ええ?というタスクを次々に課される。しかも、インストラクターの指示がよくわからず、確認しようにも水中では喋れない。はっきり言って、かなり怖い。

これはヤバいことになった、、、。なんでこんなこと始めちゃったんだよう〜。

慣れれば一つ一つはそれほど難しいことではないのかもしれないが、たったの3日では心の準備をする暇も慣れる時間もない。休暇先でのクラッシュコースではなく、家の近くのスクールで時間をかけてゆっくり学ぶべきだったようだ。途中までがんばったけど、胃が痛くなったので、泣く泣くギブアップ。憎たらしいことに、夫は最後まで受講してライセンスを取得した。その後は私はダイバーたちを眼科に眺めながら一人シュノーケル。

そんなわけで、せっかくエジプトに行ってダイビングリゾートに泊まりまでしたのに、ライセンスが取れなかった私である。しくしく。やっぱりダイビングなんて、私にはどだい無理だったのね。

としょんぼりしていたのだけれど、実はダイビングのライセンスには「オープンウォーターダイバー」の手前に「スクーバダイバー」なるレベルがあって、その基準はすでに満たしているとのことで、私も認証機関ISSの「スクーバダイバー」の認証を得ることができたのだ。自動車の運転免許でいうと仮免のようなものかな?「オープンウォーター」ではプロの同伴なしで18メートルの深さまで潜ることができるのに対し、「スクーバダイバー」はプロがついていれば12メートルまで潜って良い。そして、未履修の講習を受けて学科テストをクリアすれば「オープンウォーターダイバー」に昇格できるらしい。よかった、すべてが無駄になったわけじゃなかった。

帰る前日に最後にもう一度インストラクターとダイブしたら、そのときには怖さはかなり軽減していて、時間をかければ、やっぱり私にもできそうな気がして来た。自動車の運転だって最初は怖い怖いと言っていたけど、乗っているうちにだんだん慣れたもんね。ダイビングもそうだと信じたい。

想像以上に美しかった紅海。シュノーケルでも楽しめるけれど、せっかく紅海へ行って潜らないのはもったいない。次回こそ「オープンウォーターダイバー」を取得して、驚異の海中世界を味わいたいものである。

 

以下はシュノーケル中に撮ったマルサアラムの水中動画。

 

 

 

 

ケムニッツ旅行二日目。朝、目が覚めたら前日の長距離運転と博物館巡りの疲れがまだちょっと残っていたが、だらだらしているわけにはいかない。ベッドから飛び出し、宿を早々にチェックアウトして外に出た。

というのは、ケムニッツの北の外れの丘陵地にあるという洞窟、Felsendomeを訪れるつもりだったから。そこは、かつて石灰石の採掘場だったところらしい。ガイドツアーに申し込まなければ中に入ることができないが、ツアーは一日に一回、午前中のみ。ホテルからの移動にどのくらいかかるかわからない。遅れてツアーに間に合わないと困ると、朝ごはんも食べずに車に乗って出発した。

 

思ったより近く、ケムニッツ中心部から20分ほどで到着。ケムニッツは「Stadt der Moderne(近代的な町)」と呼ばれていて、中心部に古い町並みはほとんど残っていないのだが、この洞窟のあるRabenstein地区は静かな住宅地で景色が美しく、趣がある。

早く着き過ぎたので、近くのガソリンスタンドでコーヒーとサンドイッチを買って、洞窟付近の空き地で食べた。ふと、「なぜ自分は一人でこんなことをしているのだろう?」と思わないでもなかったけど、せっかくここまで来たからには洞窟に入りたい。

ツアーに申し込んだのは私と、5歳くらいのお孫さんを連れた年配の女性の3人だけだった。ザクセン訛りの強いガイドさんにヘルメットを手渡される。

 

洞窟入り口。

「洞窟の内部は写真撮影できません」とガイドさんに釘を刺された。フラッシュを当てると石灰石の壁が変質する恐れがあるからだろう。写真を撮れないのは残念だけど、自然保護のためだから仕方がないね。

 

通路は狭く低く、腰を屈めないと歩けない。年配の女性はヘルメットを被り、お孫さんの手を引いてズンズンと前を進んで行く。なんだかカッコいい。

この洞窟がいつから石灰石の採掘に使われていたか正確にはわかっていないが、遅くとも1365年には利用されていた記録が残っているそうだ。1865年からは、洞窟内の気温が年間を通して約7 ℃に保たれることからビールの貯蔵庫として使われた。その後、観光化され、旧東ドイツ時代には国民の人気観光スポットとなっていた。ドイツが再統一されてからは旧東ドイツの外の観光地へも自由に行けるようになったので、以前ほど多くの人は訪れなくなったとのことである。

 

洞窟内にはコウモリの巣がたくさんあり、目の前の暗闇をバタバタとコウモリが飛んで、雰囲気満点。お孫さんは「すごい!」「かっこいい!」を連発している。

中はこんな感じ。(写真が撮れないので、絵葉書で紹介します)

 

 

ガイドの説明を聞きながら中を見て歩くだけでも十分に面白いが、この中で結婚式も挙げることができるというのだ。一番広い洞穴には椅子が並べてあった。

「ロマンチックでしょう?それに、音響がいいのでね。ちょっと椅子に座ってみてください」

言われた通りに腰掛けると、ガイドさんはプレイヤーのスイッチを入れ、音楽をかけてくれた。婚姻手続きのためのテーブルのカバーを外し、燭台を並べる。なるほど、確かにロマンチックだ。でも、気温は7℃。ウェディングドレスでは寒そうだなあ。それに、新郎新婦が入って来るにも、バージンロードはドロドロ。相当マニアックなカップル向けかもしれないと可笑しくなった。ドイツ人は変わったところで結婚するのが結構好きなのだ。たとえばこんなところとか。

 

さらに、この洞窟内ではダイビングもできる!(詳しくは以下の動画をどうぞ)

 

 

これは、、、、かなり上級者向けだろう。

 

 

出口。30分ほどでまた外界に出た。なかなか面白かった!

 

お孫さんも満足したようだ。おばあさんは私の方を見て、「子どもには小さいうちにいろんな経験をさせなきゃね!」と言い、孫を車に乗せルト、「じゃあね!」と颯爽と走り去った。

カッコいい〜。こんなおばあさん、いいなあ!

 

さてと、私も次のスポットへ移動することにしよう。