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ノルウェー旅行記の第二弾は、ヨトゥンハイメン国立公園(Jotunheimen National Park)での山登りについて。

ヨトゥンハイメン国立公園は首都オスロから北西に300kmほど移動したところに広がる山岳地帯。オスロから拠点となるロム(Lom)の町までは車移動で4時間から4時間半かかる。

地形が複雑なノルウェーでは移動にとても時間がかかる。今回のノルウェー旅行は1週間という短い日程だったので、内陸部のジャコウウシが見られるドブレフエル国立公園(詳しくはこちらの記事を)とヨトゥンハイメン国立公園とフィヨルドの両方を見るのは時間的に難しかった。何を優先しようか迷った末、今回はフィヨルドはパスして山地へ行くことにした。その理由は、「氷河が見たかったから」。

いくつかの過去記事に書いているが、北ドイツに住んでいる私にとって、氷河は特別な意味を持つ存在なのである。というのは、北ドイツはかつて氷河に覆われていた。今も風景の至るところにその痕跡を認めることができる。北ドイツの平野に転がっている石の大部分は氷河によってスカンジナビアから移動して来たものだ(過去記事: 氷河の置き土産 北ドイツの石を味わう)。それらの石を眺めるたびに、「これらの石を運んで来た氷河のパワーはどれほどのものだったんだろう?」と考えてしまう。ヨトゥンハイメン国立公園には北欧最高峰のガルフピッゲン山(Galdhøpiggen)があり、登頂するのにはいくつかのルートがある。その中に氷河を横切るルートがあると知り、ぜひやってみたいと思ったのだ。

出発点となるのは標高1851メートルの高さに位置する山小屋、Juvasshytta。ヨトゥンハイメン国立公園への拠点となるLomの町から山道を車で35分ほど登ったところにある。Lomは緑深い森に囲まれているが、山道を登る途中で森林限界を越え、Juvasshyttaに着いたら、そこはまったくの異世界だった。

Juvasshytta。世界一標高の高い宿泊施設だそう。

山小屋は氷河湖Juvvatnetに面している。

グレーと白とブルーのコントラストが綺麗。

うわー、迫力!

Juvasshyttaは、山小屋と呼ぶのに似つかわしくないほど快適だった。

食堂からの眺め

部屋からの眺め

向こうに見える3つのピークのうち、一番右がガルフピッゲン山。宿から山頂までは片道およそ3時間、頂上での休憩も含め、往復で7時間ほどかかるという。北欧最高峰といっても標高2,469mでそれほど高くないけれど、日頃から山に登り慣れているというわけではないし、氷河をわたるという特殊なシチュエーションなのでドキドキである。氷河渡りは危険を伴うので、プロのガイドなしで渡ってはいけない。Juvasshyttaが提供するツアーに申し込む必要がある(申し込みはこちらから)。

 

山小屋からガルフピッゲン山頂までのルートは3つのステージから成る。

1つ目のステージは、山小屋から氷河まで(上の地図の黄色い線)。距離は3つのステージの中で一番長く、所要時間は平均でおよそ1時間。2つ目のステージは氷河上の移動(水色の線)で、渡りきるのに大体45分から50分かかる。最後のステージで急な坂を山頂まで登る(赤い線)。地図上で見ると距離が短いけれど、3つのステージの中で最もハードでさらに1時間ほどを要する。

尾根づたいに登る

私は氷河を渡ることに特に不安はなかったが、ふだん平地に住んでいてキツい斜面は登ったことがないので、最後のステージをやりきれるか、自信がなかった。それに、特別山に登りたかったわけでもなく、氷河が渡れればそれでよいという気持ちだった。しかし、氷河を渡ったところでグループから抜けて自分だけ引き返すという選択肢はなく、ツアーに参加するからにはなにがなんでも山を登り切らなければならない。

幸い、当日はまずまずのお天気だった。でも、山は天気が変わりやすいし、ガルフピッゲンでは8月でも普通に雪が降るので、しっかりとした登山靴と冬の服装(手袋、帽子含む)が必須。氷河の上は眩しいのでサングラスもあった方がいい。ランチ、飲み物も各自持参である(ランチ代を払えば、山小屋の朝食ビュッフェから好きなものをお弁当に持っていくことができる)。ガイドさんの説明を聞き、ハーネスを装着して、午前10:00に山小屋を出発した。

第一ステージ

山小屋から氷河までの第一ステージは傾斜が緩やかだけれど、ゴツゴツと角ばった石の上を歩くので、歩きやすいとはいえない。うっかり足を挫いたりしないように注意が必要だ。このステージは各自のペースで歩いてよいが、一定時間以内に氷河まで辿り着く必要がある。1時間半経っても辿りつかない場合は、みんなと一緒に山頂まで登る能力がないとみなされ、山小屋へ引き返すように要請されるとのことだった。この日は参加者全員がほぼ1時間で第一ステージを歩き終えた。いよいよ氷河渡りだ!

氷河に着いたら、装備を装着する。

靴にクランポン(アイゼン)を装着。装備はツアー代金に含まれている。

腰に装着したハーネスのカラビナをロープの結び目に引っ掛けて、全員が1本のロープで繋がった状態で氷河を渡る。

第二ステージ、しゅっぱーつ!

渡る氷河の名前はStyggebreen氷河といい、現地の方言で「危険な氷河」という意味だそうだ。ガイドさんによると、雪がたくさん積もっているとクレバスが見えないのでとても危険だけれど、夏場の今は雪がなくて氷だけなのでクレバスの位置がわかるからそれほど危険ではないらしい。とはいっても、ガイドなし、装備なしで渡るのはダメ。

クランポンをつけていれば、氷の上を歩くのは難しくなかった。ただ、ロープで繋がっていると前後の人と常に歩調を合わせなければならないので、その点で少し緊張する。お天気はよかったのだが、氷河が流れている場所は谷なので風が強く吹きつけ、氷の粒が顔を叩いた。

氷河を無事渡り終え、いよいよ第3ステージである。

この岩崖をよじ登る。

第3ステージでは300メートルを超える急登だ。一部、幅がすごく狭いところがあって、左右は崖なので、高所恐怖症の人にはキツいかもしれない。でも、途中で休憩できるようなスペースはないし、目の前の岩をよじ登るのに背一杯で、崖の下を見下ろしている余裕はそもそもない。前にも後ろにも人がいるのでもたもたするわけにもいかず、一気に登った。

もうすぐ山頂

 

着いたー!!

Galdhøpiggenは周囲を氷河に囲まれている。すごい眺めだ。これを見られたのだから、登った甲斐があった。

 

雄大な眺めをたっぷりと堪能!と言いたいところだけど、山頂はやはりかなり寒いので、石造りのロッジに入ってお弁当のサンドイッチを食べ、暖を取った。45分ほど休憩したら下山だ。

登るよりも降りる方がむしろ大変。

 

そして再び氷河渡り。行きよりも氷が溶けていた。

氷河を渡り終わって、やれやれ、あとは山小屋へ戻るだけ、もうハイキングは終わったようなものだと思ったのだけれど、この時点ですでに足がけっこう疲れてもつれて来たので、石ころだらけの道を戻るのは難儀だった。

ぴったり7時間でJuvasshyttaの暖かい部屋に到着。やりきったー。

子どもの参加者もいたし、ガイドさんは二人とも若い女性だったし、私でも登れたのだから難易度が高いわけでもなく、健康な人なら誰でも登れる山だと思う。でも、氷河を渡るという新しい体験ができたし、「北欧最高峰を登頂した」のだと思うとやっぱりちょっと特別な気持ちがする。

そして、登るのはそこまでハードではないとはいえ、危険がないわけではない。私たちが登った日は幸い、お天気に恵まれたけれど、悪天候になって視界が悪くなれば、崖登りのハードルはその分上がるだろうし、寒いのが苦手な人は防寒対策をしていても辛いかもしれない。それと、山頂のロッジにはトイレはない。7時間に渡るハイクの途中、木も生えていなければ茂みもないので、ちょっとその辺でというわけにもいかない。この点は要注意!

 

 

 

 

 

「過去旅風景リバイバル」シリーズ米国編、思い出の景色の第二弾はヨセミテ国立公園(Yosemite National Park)で見た花崗岩ドーム。前回の記事に書いたモノ湖へはサンフランシスコからヨセミテ国立公園を横切るタイオガ・パス・ロード(Tioga Road)を通って行った。以下の写真はその途中で見た景色。

えーと、これはどの地点からどちら方向を見て撮ったんだったっけな?見慣れない風景に「わあ、すごい!」と思ったのは覚えている。でも、9年も前のことで、当時は細かい記録をメモを取っていなかったので、記憶が曖昧だ。Googleマップを見ながら考えるに、タイオガ・パス・ロード沿いのビューポイントの一つ、オルムステッド・ポイント(Olmsted Point)から見た花崗岩ドーム、「ハーフドーム(Half Dome)」ではないかと思う。Twitterにこの画像を上げて、わかる人はいませんかと聞いてみたところ、同じ推測を頂いたので、たぶん間違いない。

ハーフドームはヨセミテ国立公園のアイコンで、ハイキングする人も多い。ネット上によく上がっている写真はグレイシャーポイントという別のビューポイントからの眺めで、球を縦に半分に割ったような形状をしているのでハーフドームと呼ばれているそうだ。オルムステッド・ポイントからは切り立った崖側は見えない。

ヨセミテ国立公園にはハーフドーム以外にもボコボコした花崗岩ドームがたくさんある。このような変わった地形はどうやってできたんだろう?この景色を見た当時はまだ地質学にそれほど興味を持っていなかったので、「すごい景色だなあー」と圧倒されたものの、それで終わってしまった。今さらだけど、成り立ちを調べてみよう。

ヨセミテ国立公園はシエラネバダ山脈(Sierra Nevada)の西山麓に沿って広がっている。花崗岩は深成岩だから、マグマが地下の深いところでゆっくりと冷えて固まってできる。ヨセミテの花崗岩の丘は、シエラネバダ・バソリスという巨大なマグマ溜まりが固まって形成された岩体が地下から押し上げられ、その上の土壌が侵食を受けることで地表に剥き出しになってできた。

オルムステッド・ポイントの丘の斜面に座る子どもたち

オルムステッド・ポイントの丘の表面には割れ目がたくさんあった。昼間、岩が温まって膨張し、夜間に冷えて縮むことで割れ目ができる。岩は層状になっていて、風化で表面の層が玉ねぎの皮が剥けるように剥離し、そのプロセスが特定の条件下では特徴的なドームの形状を作る。当時ティーンだったうちの子どもたちが座っている斜面のところどころに石がちょこんと乗っかっているのが見える。これらの石は、かつてここを覆っていた氷河が遠くから運んで来て置き去りにした「迷子石」だということに今、気づいた。

えー、9年前にヨセミテで「迷子石」を目にしていたなんて!

というのは、私が住んでいるドイツのブランデンブルク州にはいたるところに迷子石があるのだ。いつからか迷子石に興味を持つようになり、このブログに迷子石に関する記事をいくつも書いているのだ。(「迷子石」でサイト内検索すると関連記事が表示されます)

氷河の置き土産 〜 北ドイツの石を味わう

ブランデンブルクではヨセミテのように岩盤が地表に剥き出しになっていないので、氷河で運ばれた石は土の中に埋まっているか、農作業や工事の際に掘り出されて地面の上にあるので、同じ迷子石でもそのたたずまい(っていうかな?)はヨセミテのそれとはかなり違うが。ヨセミテでそれらの石を見たときにはまだ「迷子石」という概念を知らなかったので、何も考えずにスルーしていた。

このときの旅行では行きたい場所がたくさんあって、ヨセミテ国立公園はサーッと通過してしまった。何日か公園内に滞在して氷河がかたちづくった景観をじっくり味わえばよかったなあ。今になってすごく悔しい、、、。

 

 

 

まにあっくドイツ観光、今週末はザクセン州東部、オーバーラウジッツ地方にあるFindlingspark Nochtenへ行って来た。

Findlingsparkとは何か。日本語に訳すと「迷子石公園」となる。迷子石とはなんぞやと思う人もいるかもしれない。実は私も数年前まで、「迷子石」という言葉もドイツ語の「Findling」も知らなかった。

 

まいごいし【迷子石 erratics】

捨子石(すてごいし)ともいう。氷河によって運搬された岩石塊が,氷河の溶けたあとにとり残されたもの。ヨーロッパやアメリカでは氷河時代に運ばれた岩石塊が数百kmも離れた所に見られる。特定の地域にしか産しない岩石の迷子石を追跡調査し,その分布状況から氷河時代の氷床の拡大方向が推察できる。【村井 勇】世界大百科事典第2版

 

そう、ドイツでは氷河時代にスカンジナビア半島から運ばれて来た岩石があちこちに見られるのだ。特に旧東ドイツの褐炭採掘が盛んな地域では、地面を掘り起こすと迷子石が大量に出て来る。小さなものは無数にあるが、巨石も少なくない。ドイツで見つかった迷子石で最大のものは大きさ200㎥、重さ550トンもある。地質学研究において迷子石は重要なもので、大きさが10㎥以上あるものはゲオトープとして保護することになっているが、大きな塊がゴロゴロ出て来るので、置き場に困り、邪魔といえば邪魔だ。そこで近頃は、その土地で産出された迷子石を利用したジオパークが作られ始めている。今日訪れたFindlingspark Nochtenは、ドイツ最大の迷子石公園だ。

コットブス市とゲルリッツ市の中間地点にあり、ポーランドとの国境が近い。

 

なかなか壮観である。2003年に開園した広さ20ヘクタールのこのジオパークには現在、およそ7000個の迷子石が配置されている。このような公園を作った背景には、褐炭採掘で荒れた土地を再生し環境を守ろうという意図や、ドイツ統一後に産業が廃れて人口が減少したこの地域を観光地にして活性化しようという目的もある。

 

公園の西側にあるこの丘は迷子石が流れて来たスカンジナビア半島をシンボライズしている。芝生の部分は海。

 

この図のように、スカンジナビアを覆っていた氷河がヨーロッパ大陸北部へと移動したときに一緒にもたらされ大陸のあちこちに置き去りにされたのが迷子石というわけである。

 

17億7000万年前の花崗岩。

 

斑岩。写真では大きさがよくわからないが、幅は30cmくらい。火山岩は地表に放出されたときに急激に冷え、ヒビが入って細かく砕けることが多いので、大きな塊は珍しい。(と、家に帰って来てから岩石の本で読んだ)

 

ミグマタイト。特殊な岩石らしいが、よくわからない。岩石に詳しい弟を連れて来られればよかったなあ。

 

丘のてっぺん。これは迷子石アート。地面のパイプは氷河が流れたルートを示している。

 

公園内には様々な植物が植えられ、季節ごとに違った表情が楽しめるようだが、たまたま今の季節はあまり花が咲いていなかった。

 

 

公園のすぐ向こうは褐炭発電所。なんだかすごい景色だ。

 

売店に売っていた石。私は宝石を身につけることにはほとんど興味がないが、石を眺めるのは好きである。ここにはフリントもあったので、ふとリューゲン島で見た広大なフリントフィールドを思い出した。それについても別の機会に書こうと思う。

 

このジオパークは現在のところはまだ観光客もそれほど多くはなく、静かに散策することができる。東ドイツの良いところは、観光地がまだ飽和しておらず、のんびりと見て回れることだ。また、10年後、20年後にはどう発展しているかなと想像する楽しみもある。このジオパークもまだ完成形ではない。今後より充実して行くだろう。

 

エコツーリズムも楽しいが、ジオツーリズムも興味深い。世界のいろんなジオパークを訪れてみたい。ジオパークに関心のある方は、こちらの記事も是非読んでみてください。