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今回は超地元のスポット、ブランデンブルク州カプート村の郷土博物館、Heimathaus Caputhを紹介することにしよう。

大抵の町や村には郷土博物館がある。様々な種類の博物館の中で郷土博物館は特に好きなものの一つだ。そもそも私の博物館を巡る旅は故郷の郷土博物館から始まったのだ。小学校4年生か5年生のときだったと思う。学校の社会見学で地元の郷土博物館を訪れた。その博物館を見たのはそのときが初めてだったのだが、白い洋館という珍しい建物にハッとしたのを覚えている。中に何があったのか、細かく覚えていないけれど、古い生活用具などが展示されていた。「なんか、、、おもしろい」。後日、自転車に乗って一人でもう一度その博物館へ行った。今、自分がいるこの場所で、かつて人は違う生活をしていた。想像すると不思議で興味深い。

現在私の住んでいるブランデンブルク州カプート村の郷土博物館は、週末と祝日のみ開館する小さな博物館だ。村の郷土史クラブの方々が運営している。

開館している日はこのように戸が開いていて、自由に入ることができる。先日、久しぶりに行ったらクラブの方達は裏庭に集まっていた。私が「中を見せてくださいね〜」と言うと、「OK 。リーザ、出番よ!」とリーダー格の女性が中庭に座っていた年配の女性に声をかける。この博物館のガイド役、リーザさんはさっと立ち上がった。現在80代と見られる年長者のリーザさんは村の暮らしの変化を自ら体験して来た人で、また、それを語り継ぐ事のできる貴重な存在なのである。さあ、リーザさんと一緒に博物館の中を見ていこう。

入り口付近のテーブルには古い通学カバンと国語の教科書、ノートというものがまだなかった頃に使われていた小さな黒板と黒板消しの海綿スポンジ。「この文字を見たことはある?ジュッターリン筆記体(Sütterlin)というものですよ。昔はね、学校でジュッターリンとラテン文字の両方を習ったの」。「ジュッターリン文字はいつから使わなくなったんですか」「1941年に禁止になりましたよ。今じゃ、読める人がほとんどいなくなったわね。古い書物には貴重な資料がたくさんあるのに、残念なことね」

リビングの窓辺

戸棚を開けて刺繍を施したリネンのクロス類を見せてもらう。縁リボンには「夏の風に吹かれて咲き、緑の河畔で漂白され、今はそっと戸棚に置かれたドイツ女性の誇り(のリネン)」と赤い文字で刺繍されている。

棚の上には金銀の縁取りと絵柄のコーヒーセット。夫婦が銀婚式を迎えると銀の縁取りの食器を、金婚式を迎えると金の縁取りの食器を記念にあつらえる習慣があったのだそうだ。「でも、使わずにこうして飾っておくだけ」とリーザさん。

「これはなんだかわかる?これはね、銀婚式に妻が被った冠。そしてあっちのは金婚式のものね」

「金婚式や銀婚式だけじゃないの。節目の結婚記念日にはそれぞれ冠を作って、その日が過ぎると額に入れて飾っておくのが習わしでしたよ。今ではすっかり廃れた風習だけれど」

うーむ。伝統文化に興味のない人が増えたというだけでなく、現代は離婚率が高くて銀婚式金婚式にたどり着くカップルがそもそも少ないよねえ。

部屋の奥には婚礼衣装や手入れの行き届いた子ども服が下がっている。写真には写っていないが左側にはグリーンのタイルオーブンがある。

「このブラウス、どう?可愛いでしょう?手で仕上げたものですよ。傷んでないから今でも着られるわね」

「この写真は私の従姉妹の結婚式の写真ですよ。このレースの帽子は式を挙げた後のパーティで従姉妹が被ったの。ほら、女性が結婚することを “unter die Haube kommen(被り物を被る)”と今でも言うでしょう?昔は既婚女性は髪を被り物で覆わなければならなかったの。それからこの湯たんぽ。コップを入れるところがついていて、飲み物を保温できるの。便利でしょ?」

リーザさんはベッド脇の洗顔や身だしなみ用具の中から鉄のハサミのようなものを取り上げた。「これは、髪をカールする道具。熱して髪を間に挟んで巻いていたんですよ」。ええーっ、ヘアアイロンなの?昔からこんな道具があったのか。「ふふふ。でも、温度調整ができないから、気をつけないと大変でしたよ。髪を焦がしちゃったりね」

リーザさんはご自身の小学校の通信簿や学級写真まで見せてくださった。この博物館に展示されているものの中にはリーザさんや彼女のご親族のものもある。

ドールハウスや手芸品の展示されたコーナー。

次はキッチンへ。

「このカップ、ここにFett(高脂肪)って書いてあるの、わかる?」

「反対側はMager(低脂肪)。さて、何のことでしょう?」「ミルク入れ?でも、高脂肪で低脂肪ってどういうことですか?」「それはね、ほらっ」

なーるほど。中で分かれているなんて、楽しいミルク入れ。小さい方にコンデンスミルクを入れていたのかな。

「じゃ、中はこのくらいにして庭へ出ましょうか」「ちょっと待って!この車輪付きのステッキのようなものは何ですか?」「買い物カートですよ。上のフックに買い物袋を引っ掛けて押して歩いたの」「へえ〜。初めて見た!」

前庭に張られたロープには婦人ものの下着がかかっている。「見てよ、このパンツ」。見ると、なんと股割れパンツである!「スカートの下にこういうパンツを履いていて、しゃがむとそのまま用が足せたの」

裏庭にはジャガイモなどを計っていた古い秤や農具などが置かれている。一角に小さな木のドアがあった。「開けてもいいですか?」「もちろん。そこは洗濯室だったところですよ」

こういうの、なんかワクワクするな〜。

「昔は洗濯は1日がかりの作業だったから、大変でしたよ」「どのくらいの頻度で洗ってたんですか」「1ヶ月に1回よ」「1ヶ月に1回!」「だって洗濯物を何時間もぐつぐつ煮ていましたからね。煮なきゃきれいにならないもの」

「昔は洗濯機どころか脱水機もなかったから、それはもう大変で」「洗濯機が普及したのっていつ頃でしたか」「いつ頃だったかしらね。戦後になってからだけど。洗濯機よりも脱水機がまず普及して、洗濯機はそれからでしたよ。そして洗ったものはマンゲルに挟んで延ばしてしわを取っていたの」。マンゲルというのは写真の左右のような装置で、2本のローラーの間に布を挟んでローラーを回転させてプレスするもので、現在でもシーツやテーブルクロスなど大きな布を延ばすのに電動式のマンゲルを使用する家庭がある。私の義両親も電動マンゲルを持っている。

他にもいろいろなものを見せてもらった。リーザさんのお話、面白いなあ。

「コーヒーはいかが?」と声がかかった。明るい庭のテーブルでコーヒーと手作りケーキを頂きながら、クラブの人たちとしばしお喋り。カジュアルでのんびりしたひとときが楽しい。また来ようっと。