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「過去旅風景リバイバル」米国編の4箇所目はアリゾナ州北部ウィンズローという町の近郊にあるバリンジャー隕石孔。バリンジャー隕石孔は、約4万9先年前に地球に衝突した隕石によって形成された直径約1.2キロメートルのクレーターで、その縁に上がってクレーター全体を眺めることができる、すごい場所だ。バリンジャー隕石孔の「バリンジャー」は、地面の巨大な窪みを隕石によって形成されたものだと主張した、鉱山技術者ダニエル・モロー・バリンジャー(Daniel Moreau Barringer)の名字である。隕石や隕石孔にはそれが落ちた場所の最寄りの郵便局の名前をつけられることが多いそうで、「ミティア・クレーター(Meteor Creter)」とも呼ばれる(Googleマップ上はメティア・クレーターと表記されている)。他にもいくつかの呼び名があるようだ。

先に行った人から「ただの穴だよ」と聞かされていたので、あまり期待して行くとガッカリするかな?と思ったけれど、実際に見たら、やっぱりすごーい!

ここに隕石が落ちたんだね、ひゃあー。直径30〜50メートルの鉄隕石だというが、それがこんなに大きな穴を作るとは。落下のスピードはThe Barringer Crater Companyのサイトによると、秒速12kmと推定されるらしい。途方もないスケールの話で、実際に地球上に起こったことなのに現実味がなく、怖いという感覚は湧かない。

ちなみに、私が住んでいるドイツにも隕石孔がある。ネルトリンゲンのリース・クレーターは直径25kmもあり、このバリンジャー隕石孔をはるかに超える巨大さだ。でも、全体を眺めるには大きすぎるし、クレーターの中に町ができているから、隕石が落ちた場所と言われてもピンと来ない。(ネルトリンゲン市内には「リース・クレーター博物館」というとても面白い博物館がある。それについてのレポートはこちら)そして、ネルトリンゲンの近郊、シュタインハイムにもリース・クレーターと同時期にできたシュタインハイム・クレーターがある。そちらは小さいので、近くの丘からぐるりと見回すことができるけれど(レポートはこちら)、牧草地なので、よーく見ればなるほど窪地になっているのがわかるものの、知らなければそのまま通り過ぎてしまうだろう。それらと比べ、このバリンジャー隕石孔は窪みが一目瞭然で、一度見たら忘れられない風景だ。

バリンジャー隕石孔はバリンジャーさんの子孫の私有地だというのもびっくりした。ビジターセンターで詳しく説明してもらったけれど、メモを取っていなくて、9年も前のことだから、どんな内容だったかすっかり忘れてしまった。やっぱり、面白いと思ったことは忘れないうちに記録しないとなあ。

 

 

前回の記事ではシュタインハイム・クレーターについて紹介したが、 シュタインハイムの隕石落下とおそらく同時期に、さらに大規模な直径約1000メートルの隕石がそこから40km北東に落下し、直径25kmにも及ぶ巨大なクレーターを作った。リース・クレーターと呼ばれるそのクレーターは、現在ジオパークになっている。クレーターの内側に位置するネルトリンゲンという町にはリース・クレーター博物館(Ries Kratermuseum Nörtlingen)があるらしい。シュタインハイム・クレーターを見たからには、その兄分であるリース・クレーターも是非訪れたかった。ということで、1週間滞在したシュヴェービッシェ・アルプを後にし、ネルトリンゲンへ向かった。

 

ネルトリンゲンは日本でもよく知られる観光ルート、ロマンチック街道沿いにあり、中世の街並みが人気だ。しかし、今回はまにあっく観光旅行なので、街並みを楽しむのは後回しにして、リース・クレーター博物館へ直行する。

 

入り口はあまり目立たない。

ネルトリンゲンのリース・クレーターとシュタインハイム・クレーターの位置関係と大きさの比較。両者は二重の小惑星によって形成されたとされている。

ミュージアムではリース・クレーターについてのみでなく、天体や隕石、クレーター全般について知ることができる。かなり充実した内容だけれど、なぜか展示はドイツ語のみだった。他ではなかなか見られない内容なのだから、英語の説明もあったらいいのに。

リース・クレーターはわずか10分の間に形成された。小惑星衝突の衝撃で地面がくぼむと同時に周囲が同心円状に盛り上がり、衝突の衝撃で砕けて溶け、空中に舞い上がった岩石が再び地表に降り積もってがれきの層を作った。この時、この地域の地層の様々な層の岩石が複雑に入り混じり、「ブンテ角礫岩(Bunte Breccie)」と呼ばれる特異な礫岩を形成した。また、ブンテ角礫岩の間には、隕石衝突の衝撃によって溶融した岩石が急冷してできたガラスの破片がとりこまれた「スエバイト(Suevite)」という特殊な角礫岩が混じっている。つまり、一言でいうと、リース・クレーターは「すごく珍しい岩石が見られる場所」なのである。

 

様々な岩石がリース・クレーター中心部からの距離と方向がわかるように展示されている。

中心部からやや離れた場所。

中心部のスクリーンでクレーター形成についての説明動画を見る。とても面白かった。しかし、リース・クレーターの形成が隕石によるものであることが明らかになったのはわりあい最近のことだそう。それ以前には火山活動によるものではないか、いや氷河によるものだろう、いやテクトニクスだと、様々な仮説が提示されていた。1904年にエルンスト・ヴェルナーが初めて隕石衝突説を唱えたものの相手にされず、1933年には米国アリゾナ州のバリンジャー・クレーターを訪れたオットー・シュトゥッツアーも改めて隕石説を発表したが、やはり笑い者になっただけだった。しかし、1960年、米国の天文学者、ユージン・シューメーカーがアポロ計画で採取された岩石を分析し、リース・クレーターが隕石衝突によって形成されたものであることを証明した。その後、リース・クレーターはミッション前の宇宙飛行士の訓練場にもなっている。

 

月の石

隕石に関する展示もとても興味深い。隕石のタイプには石質隕石、鉄隕石、石鉄隕石があるが、ネルトリンゲンに落下したのは数の上で最も多い石質隕石である。

これは、1822年にチリのアカタマ砂漠で見つかったイミラックと呼ばれる石鉄隕石。綺麗なので写真を撮ったのだが、あとで調べたところ、かなり希少な石鉄隕石らしい。

これは、2002年4月6日にバイエルン州ノイシュヴァンシュタイン城に落下した隕石。

チェリヤビンスク隕石。私は最近まで大学で自然科学を学んでいたのだが、たまたま小惑星の地球との衝突について学んでいた2013年2月、ふと勉強の合間にツイッターを開けると、「空から何かが降って来た!」と大騒ぎになっていてびっくりした。しばらくするとロシアのチェリヤビンスクに隕石が落下したというニュースが流れて再びびっくりしたのでよく覚えている。

 

リース・クレーターの形成時期は今から約1450万年前と推定されているが、絶対年代は先に述べたスエバイトに含まれるガラス質中の放射性同位体の崩壊を利用して測定される。それと並行して、堆積物中の化石を元にクレーターの地層の相対年代が測定される。

見事なアンモナイト!!

ボーリングの道具を利用した地層の展示。

シュタインハイムのメテオクレーター博物館でも見たが、ここでもモルダバイトが見られる。

 

かつてリース・クレーターは水で満たされ、湖となっていが、湖の岸辺だったと思われる場所では鳥の卵の化石が見つかっている。卵の化石は初めて見た。

 

これは恐竜絶滅をもたらしたとされるメキシコ、ユカタン半島のチュシュクルーブ・クレーター探索において米国ニューメキシコ州ラトン盆地で採取された岩石標本の断面。上部の濃いグレーの層(白亜紀)と下部のグレーの層(第三紀)の間には薄い白っぽい層が見られるが、この境界層には1トンにつき56gという大量のイリジウムが含まれている。イリジウムは地球上にはほとんど存在せず、下のグレーの層(第三紀)には1トンにつきわずか0.03gしか含まれていないことから、この境界の層は隕石が衝突した証拠とみなされるそうだ。

他にも興味深いものがたくさん展示されていたが、紹介しきれないので、このくらいに。リース・クレーター博物館のすぐ脇にはジオパーク・リース・インオメーション(Geopark Ries Infostelle)があり、小さいがこちらもとても面白い。博物館を出て、家で留守番をしている娘に土産でも買おうかと近くのアクセサリーショップに入ったら、店の女主人が「いつネルトリンゲンに来たの?ぜひ、クレーター博物館も見て行ってね!」と言うので、「あ、早速見て来ましたよ」と答えると、「よかったでしょ!やっぱり、ネルトリンゲンに来たらクレーター博物館を見ないと!見ないで帰っちゃう人もいるのよねえ。中世の街並みを見たくて来たって言う人も多いけど、中世の街並みなんて、他のところにもあるでしょう?ネルトリンゲンっていったら、クレーターなのよ」と女主人は力説した。確かにネルトリンゲンに来たならば、クレーター博物館は必見だろう。

しかし、クレーター博物館だけがネルトリンゲンならではの魅力ではない。博物館を見たら、今度は実際にジオパークの中を歩いてみなければこの町がクレーターの中にあることは実感できない。それについては次回の記事に。

 

 

 

シュヴェービッシェ・アルプ旅行では合計11の洞窟を見て回り、心はすっかり氷河期モードだったが、見たのは洞窟だけというわけでもない。拠点として滞在していたハイデンハイム近郊にはシュタインハイムという名の村がある。人口1万3000人弱の小さな村で、私はこれまで聞いたことがなかったのだが、実は知る人ぞ知る興味深い場所だった。というのも、氷河期からさらに時代をずっとずっと遡ること約1500万年前、隕石がここに落下し、その跡がクレーターとして残っているという。シュタインハイム村にはメテオクレーター博物館(Meteokratermuseum)があるが、毎年、10月31日までしか開館していないと読んで焦った。なぜならその日は10月31日。慌てて車を飛ばし、閉館時間の1時間前にギリギリ滑り込んだ!


 

Meteokratermuseum in Steinheim am Albuch

シュタインハイムは推定直径80メートル、質量90万トンの隕石が秒速25kmの速度で地球に衝突してできた直径およそ3.5kmのクレーター盆地の内側に位置する。衝撃で周辺が盛り上がって縁を形成し、中央部が隆起して丘となった。以下の図のような目玉焼き型の地形をしている。衝突時に放出されたエネルギー量は2.8 x 1017ジュール。これは、778億kw/hに相当し、シュタインハイム村の消費電力3188年分だというから凄まじい。

 

Meteokratermuseum in Steinheim am ALbuch

クレーターの内側は、ホワイト・ジュラ紀の地層の上に隕石衝突の衝撃で砕け散った岩石が再び落下して降り積もり、礫岩の層を形成している。その上には第三紀及び第四紀の堆積物が重なっているが、縁と中央丘はジュラ紀の地層がむき出しだ。

衝突でできた凹みにはやがて水が溜まり、湖となった。現在、水はなく主に牧草地となっているが、出土された多くの生き物の化石から写真のモデルのような豊かな生態系であったことがわかっている。

ミュージアムの展示はドイツ語のみだが、シュタインハイム・クレーターの誕生についての動画や隕石落下の条件などの説明を読むことができ、とても興味深い。シュタインハイム・クレーターは北東に約40km離れたネルトリンゲンのメテオクレーター(Nördlinger Ries)と同時期に形成されたと考えられている。ネルトリンゲンのクレーター盆地の方がずっと大きく、一般的によく知られているが、そちらに関しては別記事で改めて書くことにして、ここではシュタインハイマー・クレーターに集中したい。
これは今年(2017)、このミュージアムで偶然に発見された隕石のかけら。展示されていた石灰岩の塊にヒビが入ったため、展示から取り除こうとしたところ、亀裂断面に黒く光るものが見つかった。調べたところ、なんと隕石のかけらだった。


これまで、シュタインハイムに落ちた隕石は蒸発して完全に消滅したと考えられていたため、研究者らも驚いたらしい。

 

モルダバイト。隕石衝突時の高温と高圧力下で溶けた岩石が数百キロ遠くまでものすごい勢いで吹き飛ばされ、冷えて固まった天然ガラス(テクタイト)。チェコのモルダウ川周辺で最初に発見されたため、モルダバイトと名付けられた。光沢のある緑色をしている。後で知ったことには、パワーストーンだとして人気の石なのだってね。

 

これは「シャッターコーン」というもの。隕石の衝突時に衝撃波によって岩石表面に形成される円錐状の溝で、1905年にシュタインハイム盆地で初めて発見された。発生のメカニズムについては未だにわからない点があり、研究が続けられている。

展示を一生懸命読んでいたら閉館時間を過ぎてしまったが、「どうぞごゆっくり」と閉館を待ってくれた。ミュージアムを出るとき、「クレーターを一望できる場所はありますか」と聞いたら、すぐそばの小高くなったところから全体を眺められるとのこと。

もうすぐ日が沈みそう。急げ!

いつもと違うカメラだったのでパノラマ機能を素早く探すことができず、うまく全体を撮れなかった。手前の集落がシュタインハイムの村。その向こうのやや高くなっている(50m)ところがクレーター中央の丘だ。米国アリゾナ州のバリンジャー・クレーターを見に行ったことがあるが、バリンジャー・クレーターが「地面にぽっかり空いた穴」でわかりやすいのに対し、シュタインハイムのクレーターは堆積物が積もった上に植物も生えているので、説明されなければクレーターだとはわからない。クレーターに沿って歩くジオハイキングルートがあるので、周辺を観察しながらゆっくり歩いても楽しいかもしれない。

 

全体像のわかる動画を見つけたので貼っておこう。