2020年から始めた庭の巣箱カメラを通した野鳥の営巣観察、早いもので今年で5年目!

思えばこれまでにいろいろなことがあった。最初の年、2020年の春にはオークの木に取り付けたばかりの巣箱でシジュウカラが営巣をし、9つの卵を産んだ。そのうち1つは孵らなかったものの、8羽のヒナが無事に巣立ち、その一部始終を巣箱の中に取り付けたカメラを通して観察することができた。巣箱からヒナたちが順番に飛び立つ瞬間も見ることができ、とても感動的だった。

その後、同じ巣箱で2回目の営巣が始まったが、母鳥が巣を離れている間に生まれたヒナたちが巣材を喉に詰まらせて次々に窒息、全滅するという痛ましい結果に。その様子をカメラを通して目にすることになり、どうにかしてあげたいのに何もできず、辛かった。

翌年の2021年はシジュウカラが卵を2つ産み、そのうちの1つが孵った。たった1羽のヒナを夫婦で過保護に育てる様子がなんとも可笑しかった。また、庭の垣根でクロウタドリも営巣し、無事にヒナたちが巣立った。

2022年春。シジュウカラが巣箱で営巣していたが、母鳥の不在中にクロジョウビタキが巣箱に侵入し、戻って来た母鳥とバトルに。母鳥はクロジョウビタキには勝ったけれど、なぜかそのまま巣を放棄してしまった。かなりがっかりだったけれど、庭の周辺でいろんな野鳥が繁殖し、親鳥たちがヒナを連れて我が家の餌場に集まってとても賑やかな春となった。

2023年は巣箱で初めてアオガラが営巣し、10個の卵を産んだ。しかし、ヒナ達が孵って喜んだのもつかの間、夜中にアライグマが庭に現れ、巣箱の中に手を突っ込んで母親を捕らえて食べてしまった。母親を失ったヒナ達の運命は言わずもがなである。

こんな風に野鳥の子育ては常に危険と隣り合わせで、毎年ハラハラして見守っている。

さて、今年の状況はというと、これまでとは少し違っている。去年までは営巣期間以外には巣箱は使われていなかったが、今年の冬は現在3つあるすべての巣箱がシジュウカラに寝ぐらとして使われていた。なぜ今年に限ってそうなったのだろう?巣箱が冬の寝ぐらとして便利だと思いついたシジュウカラがうちの庭にたまたま何羽もいた?それは偶然がすぎる気がする。1羽が巣箱を寝ぐらとして使い始めたのを見て他の個体がそれを真似したのだろうか。あるいは同じ餌場に集まる仲間同士、「巣箱で寝ればあったかくていいんじゃない?」というコミュニケーションがあったのか。わからないが、とにかく冬の間ずっと巣箱が使われていたので、もしかしたら春になったらそのまま営巣が始まるのではと期待していた。

そして、4月2日の状況はこんな具合である。

ハウス1 (去年まで旧館と呼んでいた巣箱)

シジュウカラが営巣。この子は本日(4/2)営巣を開始。それまでもちょくちょく昼間に巣箱に入ってはいたが、のんびりさんなのか、「ここで巣を作ろっかなー、どうしよっかな〜」と考えてでもいるかのように頭を傾げたりキョロキョロするばかりでいっこうに作業を始めなかったのだ。ようやく心が決まったのか、今朝から慌ただしく巣材を運んでいる。

今日1日でここまでできた。やる気になれば早いらしい。

 

ハウス2(去年までは新館と呼んでいた巣箱)

この巣箱ではアオガラが営巣中。実はこの巣箱では3/22日にシジュウカラが営巣を始め、突貫工事でたった1日で7割方完成していたのだが、なぜかその後放置されていた。夜になっても寝に戻って来ることがなかったので、この巣箱のシジュウカラの身に何かがあったのかもしれない。3/29の昼間、庭仕事をしていた夫が、「アオガラのオスがメスをハウス2に案内していたよ」と言う。すでに土台のできた巣があるので、いってみれば「家具付き物件」と言うことになる。メスも「タイパがいいわ!」と気に入ったのか、翌日から営巣を始めて、夜も寝泊まりしている。

なぜか画像が白黒だけど、現在の巣の様子。

 

ハウス3 

こちらのシジュウカラはコツコツ型で3/11に作業を開始し、毎日少しづつ進めていっている。パートナーのオスも巣作りに積極的に参加し、せっせと巣材を運んで来たりと仲がよい。

3つの巣箱の中で作業が一番進んでいる。

 

さて、今年はどうなるか。何が起こってもおかしくない野鳥の子育てなので心配だけど、3つの巣箱で同時進行の繁殖活動を観察できるのは初めてなので観察で忙しくなりそう。みんながんばって。成功を祈ってるよ。

コスタリカ滞在中、多くの野鳥を見た。その中で、最もよく目にし、かつ存在感の大きい野鳥はコンドルだったのではないか。コスタリカの至る場所で、コンドルの群れが滑空していた。

子どもの頃から「コンドル」と聞くと、羽を大きく広げて広い空を優雅に飛ぶ姿が目に浮かび、なんとなく憧れがあった。しかし、パナマやコスタリカで実際のコンドルを目にするようになって、すっかり印象が変わってしまった。そう、コンドルは「ハゲタカ」と総称される、腐肉を食べる野鳥の仲間なのだ。生き物の死骸に群がり、肉を食いちぎる様はグロテスクで優雅なイメージとは真逆である。でも、頻繁に姿を見かけるだけに、気になる野鳥である。

手持ちのフィールドガイドによると、コスタリカには3種のコンドルがいる。その中で最も多く目にするのは、クロコンドル(Coragyps atratus )だ。

クロコンドル (Coragyps atratus

コンドルの頭が禿げている、つまり羽毛がないのは、死骸に頭を突っ込むようにして食べるため、頭部が不衛生になるかららしい。

動物の死骸に群がるクロコンドルたち

クロコンドルは視覚に優れ、大きな群れで死肉を探して滑空する。道路脇で車に轢かれた動物などの死骸に群がっている場面によく遭遇した。あまりいい気持ちのする光景ではないけれど、ロードキルをすばやく片付けてくれるお掃除屋さんだと思えば、ありがたい存在にも思える。ただし、彼らは死肉を食べるだけでなく、産卵中のウミガメなど、無防備な生き物を襲うこともある。

クロコンドルほどではないが、ヒメコンドル(Cathartes aura)もコスタリカ各地で頻繁に見かけた。

ヒメコンドル (Cathartes aura

ヒメコンドルはクロコンドルのように大きな群れで行動することは少ない。視覚だけでなく嗅覚にも優れており、その両方を駆使して死肉を探す。

羽を広げたヒメコンドル

顔と脚が赤いこと、広げた羽の下半分が白いことで、上空を飛んでいてもクロコンドルと簡単に区別がつく。(クロコンドルは羽の先だけが白く、全体は黒い)

そして、コスタリカに生息するコンドルの仲間のうち、最も大きいのはトキイロコンドル (Sarcoramphus papa)だ。羽を広げると2メートルにも及ぶ。羽全体の色は白、広げた羽の下部のみ黒い(若鳥は全体が黒)。「トキイロコンドル」という和名は頭部がカラフルだからつけられたのだろう。

トキイロコンドルは単独で行動することが多い。クロコンドルやヒメコンドルと違って、目はあまりよくなく、嗅覚で獲物を探す。深い森など視界の開けていない場所では強い嗅覚は有利だ。そのため、都市に近い場所で目にすることは稀らしい。私はオサ半島で上の写真を撮ることができた。

コンドルはコミュニケーション能力に長け、死肉発見情報はコンドル達の間で瞬く間に共有されるらしい。Jack Ewing著 “Monkeys are made of Chocolate – Exotic and Unseen Costa Rica”には著者が経験したこんなエピソードが書かれている。1972年、著者はニカラグアとの国境に近いコスタリカ北東部のグアナカステ州に頻繁に滞在していた。コスタリカの他の地域同様、グアナカステ州でも至るところでコンドルの姿を見た。しかし、その年の12月にニカラグアの首都マナグアで大地震が起き、1万4000人もの人が亡くなった。新聞は人々の遺体に大量のコンドルが群がっていると伝えていた。そして、大地震の発生から2週間ほどの間、著者はグアナカステ州からコンドルの姿がすっかり消えていることに気づいたそうである。

 

死骸を食べる野鳥はコンドル以外にもいる。たとえば、カンムリカラカラというハヤブサ科の野鳥。

カンムリカラカラ(Polyborus plancus

オレンジ色のクチバシに真っ白な喉、黄色い足。ポップな美しい見た目をしていて、死肉をあさるようには思えない。カンムリカラカラという和名も面白い響きで親しみが湧く。でも、彼らが死骸を食べる現場を目撃した。

道路に転がったネズミか何かの死骸を食べているところ。

道路に転がっている小動物の死骸を見つけて、一羽のカンムリカラカラがやって来た。死骸をつついていると、仲間らしい別の1羽が向こうから歩いて来て、仲良く死骸を食べ始めたのだった。カンムリカラカラは生きた小動物を捕らえて食べることもあるが、狩りはあまり得意でないそうで、落ちているものがあればラッキーという感じなのだろうか。カンムリカラカラは現地ではquebrantahuesosと呼ばれている。直訳すると「骨を折る者」。動物の死骸を掴んで空に飛び上がり、硬い地面に落として骨を砕いて食べる習性があるのだそう。

キバラカラカラ (Daptrius chimachima)

こちらは同じハヤブサ科のキバラカラカラ(Daptrius chimachima)。これもいかにも上品な姿の野鳥だが、カンムリカラカラ同様に死肉を主食としている。

 

この記事の参考文献:

Fiona A. Reid, Twan Leenders, Jim Ook & Robert Dean “The Wildlife of Costa Rica – A Field Guide”

jack Ewing “Monkeys are made of Chocolate – Exotic & Unseen Costa Rica”

楽しくもハードだったオサ半島滞在が終わり、約3週間のコスタリカ旅行も終盤に近づいた。ドイツの自宅に戻る前に、あと2つ、行っておきたいエリアがあった。その一つはロス・ケツァーレス国立公園 ( Parque Nacional Los Quetzales )。この国立公園は広さ50km2と小規模ながら、標高は低いところで1,240m、最も高いところは3,190mとかなりの幅がある。標高に応じて異なる種の野鳥が生息するバードウォッチャーのパラダイスだ。コスタリカでバードウォッチングというとモンテヴェルデ熱帯霧林自然保護区がメジャーだけれど、今回の旅では飛行機の遅延のせいで予定していたモンテヴェルデでの3日間の予定がまるごとなくなってしまっていたので、ロス・ケツァーレス国立公園に期待をかけていた。世界一美しい野鳥として名高いケツァールの名前を冠しているから、もしかしてケツァールを見るチャンスがあるかもしれない。

オサ半島からは国道2号(Inter American Highway)に出て、首都サン・ホセ方面に向かってひたすら進むだけ。舗装された道路だから安心である。パルマー・ノルテ(Palmar Norte)で右折し、川沿いをしばらく走ると、そこからはグングンと標高が上がっていく。高温多湿のオサ半島を出発したときには半袖にサンダル履きだったが、進むにすれて気温が下がっていき、肌寒さを感じ始めた。あたりの景色もどんどん変化していく。

ラ・タルデでお世話になったネイチャーガイドのジョセフさんに「ロス・ケツァーレス方面へ行くならぜひ、寄って」と勧めてもらった場所がある。それはラ・アスンシオン山(Cerro La Asuncion)という山で、タパンティ国立公園(Parque Nacional Tapanti)内にある。標高3,335mと、とても高い山だが、頂上が国道2号の道路脇にあり、100mも登らずにてっぺんに上がれてしまうという。天気が良ければ、頂上からは太平洋とカリブ海を同時に両方見ることができるらしい。

ラ・アスンシオン山の頂上付近

頂上への登山口が見つかったので、登ることにした。登山道はかなり急だけれど、たいした距離ではないから楽勝だろう。そう思って登り始めたのだが、海抜ゼロに近いオサ半島から急に3000メートルを超える高山に来たからだろうか。少し登っただけで心臓がバクバクした。わー、これはちょっと危険。

頂上

頂上からの眺め

雲があって残念ながら海は見えないけれど、向かって左がカリブ海側、右が太平洋側。コスタリカが日本同様、国土の真ん中に山脈が走る細長い国だということがわかる。

 

ラ・アスンシオン山からさらに国道2号を北上すると、まもなくロス・ケツァーレス国立公園の入り口がある。

ロス・ケツァーレス国立公園入り口

この国立公園は訪問者が少ないので、事前にチケットを購入しなくても余裕で入れる。

トレイルは部分的に閉鎖中で、歩ける距離はそう長くないが、オサ半島など低地のトレイルとは植生がまったく異なっていて新鮮だ。

見晴らし台からのロス・ケツァーレス国立公園の眺め

あっという間に歩き終わったので、ひとまず宿へ行くことにした。ホテルやコテージは深く切り込む谷の道路に沿って建っている。

幸い、道路は舗装はされているもののかなり急な斜面を降り、予約していたコテージに到着した。部屋は広いが、標高が高い上に谷だから、日当たりが悪くてけっこう寒い。それなのにコテージの床はタイル張りで冷え冷えとしている。もしやと思い、シャワーを確認してみたら、案の定、熱いお湯は出ない。一気にテンションが下がった。オサ半島で四六時中汗だくになっていたのも辛かったが、今度は寒すぎなのである。過酷すぎないか、今回の旅?

部屋で震えていてもしょうがないので、洋服を何枚も着込んで、コテージの向かいにあるレストラン、Miriam´s Quezalesへお茶を飲みに行くことにしよう。

レストランの奥には谷に面したテラスがあった。テラスに一歩出た瞬間、私は目を見張った。テラスの向こうのバードフィーダーに、たくさんの野鳥が集まっていたのだ!すごい!!沈んでいた気分が一気にぱあっと晴れた。そこにいたのは、

ドングリキツツキ (Melanerpes formicivorus

クロキモモシトド (Atlapetes tibialis)

ニシフウキンチョウ(Piranga ludoviciana

アカエリシトド (Zonotrichia capensis )

アオボウシミドリフウキンチョウ (Chlorophonia callophrys)のオス

Long-tailed silky flycatcher (Ptiliogonys caudatus)

マミジロアメリカムシクイ (Leiothlypis peregrina)

メジロクロウタドリ (Turdus nigrescens)

バフムジツグミ (Turdus grayi) 地味だけど、コスタリカの国鳥

ギンノドフウキンチョウ (Tangara icterocephala)

ハチドリもいろいろいたけど、種は識別できず。

すごいすごい!やっぱりロス・ケツァーレスへ来てよかった!これまで訪れた場所ではまったく目にして来なかったいろんな野鳥がいる。それも1箇所でこれだけ多くの種が見られるとは。

ところで、ケツァールも見られるのだろうか?レストランの女主人に聞いたところ、ケツァールがよく見られる場所を教えてくれた。谷をさらに20分ほど下ったところらしい。それらしき場所へ行ってみたが、よくわからないので、近くのお店で「ケツァールが見られる場所を探しているんですが」と尋ねてみた。

すると、「ケツァールなら、うちの主人がガイドツアーをやっています。明日の朝もやりますよ」とのこと。「ツアー?どこへ行くんですか?」との私の質問に女性は店の後ろの急な斜面を指さした。

「そこを登るんですか?」「はい」

ダメだ、急斜面過ぎる。ラ・アスンシオン山に登ったときの心臓のバクバクを思い出したのだ。コテージからこの谷をここまで車で下って来るだけでもかなりの標高差である。そしてここから歩いて山を登るとなると、降りたり登ったりで体にかなり負担がかかってしまいそうだ。おまけに、ツアーは早朝なので、水シャワーしかないあの寒いコテージで相当早くに起きなければならない。うーん、、、ちょっと無理。諦めよう。

そんなわけで、幻の鳥、ケツァールは見れずじまいだったが、それでもたくさんの美しい野鳥が見られて満足である。ケツァールは、またいつか機会があるといいな。

 

 

前回の記事の続き。

どのくらい寝ただろうか。2段ベッドのずらりと並ぶコテージの板の間を常に誰かしらが歩き、その度に懐中電灯の灯りがあっちこっちへと動く。枕元のスマホで時間を確認すると、まだ朝の4時だった。午前5時には朝のハイキングに出発することになっている。そろそろ起きなくちゃ。

洗面所へ行くと、すでに大勢の宿泊者らが薄暗い中で歯を磨いていた。開放的な造りのコテージの外からはホエザルの低い吠え声が響いて来る。なんとも不思議な光景。今、私は本当にコルコバード国立公園にいるんだと実感する。

大変な道のりだったけれど、私たちはとうとうラ・シレナ・レンジャーステーションにやって来ていた。1泊2日のこのツアーではネイチャーガイドさんと一緒にレンジャーステーションを起点とする4つのトレイルを歩き、植物や野生動物を観察しながらガイドさんの説明を聞く。

1日目は到着直後の午前中と夕方にそれぞれ3時間ほど歩いた。

フィールドスコープを担いで歩くネイチャーガイドのドニーさんについて行く。

動物を見つけると、ガイドさんはネイチャースコープを設置して、グループのみんなに見せてくれる。

スコープを覗き込むメンバー

昼寝中のジェフロイクモザル (Ateles geoffroyi)

これは私のカメラで撮ったジェフロイクモザルたち

コスタリカにはマントホエザル(Alouatta palliata)、ノドジロオマキザル(Cebus capucinus)、セアカリスザル(Saimiri oerstedii)、そしてジェフロイクモザル(Ateles geoffroyi)の4種のサルが生息する。いずれも新世界ザル(広鼻猿)だ。コルコバード国立公園ではこの4種のサルがすべて見られるのだ。

「クモザル」は英語名でもspider monckeyという。腕や脚が長いからクモに例えられるのだろうと思っていたが、ドニーさんによると、彼らの手には親指がなく、両手合わせて指が8本だからクモザルだそう。クモザルは親指がない代わりに長くて強い尾で器用に木の枝を掴むことができる。

 

コルコバード国立公園には、シレナ川とパヴォ川という2つの川が流れており、両者はシレナ海岸近くで合流し、太平洋に流れ込んでいる。

川にはメガネカイマン ( Caiman crocodilus )やアメリカワニ (Crocodylus acutus )がいるので注意。

メガネカイマン ( Caiman crocodilus )

 

2日目。ドニーさんについて、夜明け前のジャングルをヘッドランプをつけて歩いていく。そのうちに少しづつ空が白み始め、木々の輪郭がはっきりして来た。ドニーさんはバクを探しているようだった。バクは夜行性で、昼間は茂みに隠れて眠る。バクのいそうな場所を、なるべく音を立てないよう気をつけながらそっと歩いた。

ベアードバク (Tapirus bairdii)

茂みの中で1頭のバクが横になっていた。邪魔をしないように、少し離れたところにしゃがみ、息を潜めて茂みの奥を見つめる。しかし、バクは目を覚ましてしまった。立ち上がって周囲の植物の葉を食べ始めたので、その様子をしばらく観察した。ベアードバクの体長はおよそ2メートル。体重は重い個体だと300kgにも及ぶと言う。こんな大きな野生動物を間近で観察できるなんてすごいな。コルコバードに来た甲斐があったというものだ。ドニーさんによると、このメスのバクは妊婦さんである。中央アメリカ全体ではベアードバクの個体数は激減しており、コルコバードは重要な生息地だ。無事に赤ちゃんが産まれて育つことを願うばかり。

バクの足跡。巨大!

 

朝食後のハイクではたくさんの野鳥を目にした。

カンムリシャクケイ (Penelope purpurascens)

ワライハヤブサ (Herpetotheres cachinnans)

ムナフチュウハシ ( Pteroglossus torquatus)

ハチクイモドキ (Motmot)

他にも写真を撮れなかった野鳥がたくさん。

 

レンジャーステーションの近くにはハキリアリ(Atta cephalotes)のゴミ捨て場があり、ゴミ捨て係のアリがせっせとゴミを運んでいた。ハキリアリは、切り落とした葉を巣に運んで餌となるキノコを栽培することで知られているが、養分が抜けてゴミとなった葉や死んだアリは巣から運び出され、特定のゴミ捨て場に廃棄されるということを知った。

 

他にも目にしたもの、聞いた説明などたくさんあって、とても書ききれない。2日目の最後のハイキングで面白い新しい経験をすることができたので、それを記しておこう。

ある高い木の下で、ドニーさんが「みんな、この木の根を見て」と言うので地面に目をやると、

太い根の1箇所がぱっくりと開いて、中が空洞になっている。

「入ってみてください」

人が入れるほど中は広いのだろうか?

「全員入れる広さですよ。危険なことはないので、さあ、どうぞどうぞ」

私たちは恐る恐る、順番に中に潜った。

動画には映っていないが、木の中はずっと上までがらんどうだ。樹洞の中ではコウモリたちが休んでいた。「木の中って、なんだかワクワクするね」。グループのメンバーはみんな大人だけど、なんだか子どもに戻ったような気分だ。

 

さて、楽しかったラ・シレナでの時間もそろそろ終わりである。レンジャーステーションに戻り、荷物をまとめてボートの出る海岸へと歩いた。海岸に着きボートを待っていると、急に当たりがどよめいて、みんなが同じ方向を凝視している。「バクが歩いているよ!」

バクがゆっくりと茂みに沿って砂浜を歩いている。

バクは、たくさんの観察者に見守られる中、食事をしながらゆっくりと砂浜を移動していった。ツアーの最後の最後に大サービスという感じ。

多くの野生動物が見られて、私としては大満足だ。でも、ラ・シレナに来たのが3回目の夫は「過去の2回はもっと多くの動物が見られたよ。やっぱり、以前と比べて訪問者の数が増えているから、動物たちは奥地に引っ込んでしまうんだろうね」と言う。ガイドツアーで歩けるエリアはコルコバード国立公園全体のわずか2%に過ぎない。野生動物の密度が最も高いとされるコルコバード湖(Laguna Corcovado)を中心としたエリアは、特別に許可を得た科学者以外、近寄ることが禁じられている。動物たちには人間に邪魔されることなく生活できる場所が必要だから。

動物の側からすれば、人間など近づいて来ないに越したことはない。でも、野生動物を見るのは多くの人にとって大きな喜びだし、観察の機会があって初めて保護の必要性に気づくという側面もある。そのバランスを取るのはとても難しいことだけれど、コスタリカは失敗も経験しながらも、エコツーリズムのトップランナーとして経験を蓄積していっている。とても評価すべきことで、そのコスタリカの中でも最も重要性の高いコルコバード公園に来ることができてよかった。

 

 

楽しかったラ・タルデ(La Tarde)での数日の滞在が終わり、いよいよコルコバード国立公園のラ・シレナ・レンジャーステーション(La Sirena Ranger Station)へ向けて出発する日が来た。前日の夜更けから雨が降り出し、夜通し降る激しい雨粒がコテージのブリキ屋根に当たって大きな音を立てていた。

普通なら、ジャングルの中で雨音を聞きながら眠るのは、自然を直に感じられるから嫌いではない。でも、この夜は違った。翌朝のドライブが心配だったのだ。なにしろ、ラ・タルデに来るまでの山道の状態が極めて悪く、やっとの思いで辿り着いたのだ。あの道をまた戻らなくてはならない。雨が降れば山から石が落ちて来て、道路状態がますます悪化するのではないか。戻れるのだろうか。そう思うと、雨が気になってよく眠れなかった。

朝になったら雨は止んでいた。どうにか山道を突破して念願のラ・シレナへ行きたいという気持ちと、ラ・タルデを去るのが名残惜しい気持ちとが入り混じった複雑な気分で私たちは出発した。幸い、山道を下るのは登るよりは楽で、大きな障害にぶつかることなく麓の集落、ラ・パルマを抜け、国道沿いのリンコン(Rincon)まで戻ることができた。問題はそれからだ。再び舗装されていない森の中の道を30km以上走って、ラ・シレナ行きのボートが出るドラケ湾(Bahia Drake)まで移動しなければならない。

ドラケまでの道は最初は比較的良かった。

このくらいなら、特に問題はない

ところどころ道路の上にロープが張られている。

ロープは道路によって分断された森を野生動物(主にサル)が無事に渡るための橋だった

ドラケ湾に近づくに連れ、道路は勾配を増していった。急なカーブのところだけ部分的に舗装されているので助かったけれど、アップダウンの度にヒヤヒヤしながら進んだ。時間はかかったけれど、幸い、何事もなく、昼下がりに遂にドラケ湾に到着。

ドラケ湾

次の日にこの湾からボートでラ・シレナへ出発することになっていた。ラ・シレナへのツアーは半年ほど前からドラケ湾のメインビーチにあるCorcovado Info Centerのサイトで予約してあった。ドラケ湾からは近くのカニョ島へのスノーケリングやダイビングツアーも出ており、ビーチ付近はホテルやレストランもそこそこあって、ある程度観光地化されている。ただし、銀行やATMはないので注意が必要だ。翌朝の集合時間が早いので、その日はビーチから徒歩数分のホテルに泊まった。久しぶりにエアコンやお湯の出るシャワーのある近代的な部屋で快適である。

翌朝6時。ビーチの指定された場所で待っていたら、ガイドのドニーさんが現れた。私たちのグループはドニーさんを除いて6人。1泊2日のラ・シレナツアーの間、共に行動するメンバーだ。私たち以外はアメリカ人、オーストラリア人、ポルトガル人、スペイン人と欧米人ばかり。そういえばコスタリカに来てから、日本人の姿は一度も見ていない。

こちらの記事に詳しく書いた通り、ドラケ湾からのボートはラ・シレナ・レンジャーステーションへの唯一の交通手段である。徒歩で到達する方法もあるにはあるが、強者向け。そして、ボート移動もそう甘くはない。まずドラケ湾まで来るのが大変だし、ドラケ湾からのボートはかなり揺れた。1時間半ほどの移動だけれど、船酔いしやすい人には辛いだろうなあ。

私たちはロス・パトス・セクター(白い転線で囲んだ場所)からコルコバード国立公園の北側をぐるりと回ってラ・シレナ(赤い転線の場所)に到達した。

 

海岸のエントランス

ボートがシレナ海岸に到着し、いよいよ上陸である。ウェットランディングなので、背の低い私は腰まで水に浸かってちょっと大変だった。岸に上がったら、まず、エントランスで荷物検査を受ける。国立公園への食べ物やペットボトルの持ち込みは固く禁じられている。荷物検査を終えて、ドニーさんの後についてレンジャーステーションまでおよそ1kmの道のりを歩く。その短い時間の間にもクモザルをはじめとする野生動物に遭遇した。

ラ・シレナ・レンジャーステーション敷地

ラ・シレナ・レンジャーステーション (La Sirena ranger Station)はコルコバード国立公園の保護や学術的研究活動の拠点であると同時に、公園を訪れる旅行者の宿泊施設でもある。上記リンクのサイトの写真では古びて見えるが、数年前にリニューアルされ、衛生的な施設になった。

レンジャーステーションのロッジ

宿舎は蚊帳付きの2段ベッドがずらりと並ぶ大部屋のみ。ベッドはガイドツアーのグループごとに割り当てられる。

コルコバード国立公園は特に厳しく入場制限をしている。記憶が不確かだけれど、ドニーさんは確か1日最大200人と言っていたような。日帰りのツアーもあるので、宿泊者の人数はもっと少ない。現在の衛生的な宿舎ができてからコルコバードを訪れる旅行者の数が増え、宿舎はほぼいつも満杯の状態らしい。

1泊ツアーのスケジュールは以下の通り。朝6時にドラケ湾を出発し、およそ2時間後にレンジャーステーションに着いて荷物を置いたらグループごとに午前のハイキングに出かける。ハイキングの後、レンジャーステーションに戻って昼食を取り、2時間ほど休憩したら夕方のハイキング。ナイトハイクはなく、消灯は20:00。翌日は5時から朝のハイキング、朝食後に最後のハイキングと、合計4回のハイキングがプログラムとして組まれている。最後のハイキングから戻ったら荷物をまとめ、13:00にボートに乗り込み、ドラケ湾で解散である。

レンジャーステーション周辺のトレイル地図

ラ・シレナ・セクターは平地だし、ハイキングは野生動物や植物を観察しながらゆっくり歩くので、特にハードではない。でも、レンジャーステーションに来るまでにすでに結構な体力を使い、高温多湿の環境の中、立て続けに4度のハイキングをするわけだから、それなりに体に負担はかかる。参加者に若い人が多いのも頷ける。オサ半島は素晴らしいところだけれど、私にとって辛いのは湿度があまりにも高いことだった。少し歩くだけで汗だくになるので、何度着替えてもすぐに着ているものが汚くなってしまう。洗濯物が溜まるのも嫌だし、洗っても高湿度環境では洗濯物がしっかり乾き切ることがなく、常にじめっとした服を着ているのもストレスになった。もう一つ不快だったのは、肌に日焼け止めと虫除けをスプレーすると余計に汗をかきやすくなり、日焼け止めと虫除けの成分に汗が混じると皮膚が痒くなってしまうこと。

そんなわけで、憧れのラ・シレナ滞在はなかなかにキツい体験だった。でも、それでもやっぱり、ここでしか得られない経験があるから、来た甲斐があったと感じた。

ツアーの内容については次の記事に。

 

前回の記事では、オサ半島ラ・タルデでのナイトハイクについて書いた。エコロッジ、Ecoturistica La Tarde(略してELT)に滞在中は、もちろん昼間も一次林のトレイルやロッジ周辺の二次林を歩き回った。

昼間のジャングルは色鮮やかだ。

熱帯アメリカ原産の植物といえば、代表的なのはヘリコニア(オウムバナ)。コスタリカには35種以上のヘリコニアが生育する。その色やかたちは実に様々。でも実は、花のように見える鮮やかな色をした部分は実は花ではなく、苞と呼ばれる特殊化した葉で、花はその中に入っている。

ヘリコニアは主なポリネーターであるハチドリと共進化して来た。ハチドリもとても多くの種がいるが、決まった種のハチドリが決まった種のポリネーターであるそうだ。

Palicourea elata

この真っ赤な花弁を持つ植物の名は「娼婦の唇(Whore´s lips)」。これにもいろんな種類があるらしい。薬効があり、コスタリカの先住民族が伝統的に利用して来た。

あまりにいろいろな植物が生えていて、植物の知識がほとんどない私は、ガイドさんから聞いたことのうち、一部を記憶するだけで精一杯。ガイドツアーを重ねていけば、少しづつ、植物の世界にも入っていけるだろうか。

ジャングルにおいて、圧倒的な存在感で迫って来る最も印象深い木の一つは「締め殺しの木」だろう。他の木に巻きついて成長するつる植物で、最終的には宿主の木を枯らしてしまうのだ。主にイチジク属で、英語ではStrangler fig(締め殺しのイチジク)と呼ばれる。宿主の木の上に鳥が落としたイチジクの種が発芽し、下へ下へと伸びる根は、互いに絡まり合体して太くなり、幹となって宿主を覆い尽くす。

 

宿主の木がすでに消滅した巨大な締め殺しのイチジク。すごいなあ、、、。

 

ガイドのジョセフさんは、私の要望に応えてアニマルトラックを探すのにも連れて行ってくれた。

水場を歩くときにはゴム長靴必須。

アグーチの足跡

 

「ジャングルでは、匂いの情報がとても重要です。歩いていると匂いがどんどん変わります。ほら、この匂い。わかりますか?」

そう言われてみると、さっきまで植物の良い香りがしていたと思ったけれど、なんだか急に獣くさい匂いがする。「これはペッカリーのフェロモン。ペッカリーは強烈な臭いのフェロモンを出すので、すぐわかるんですよ」

ペッカリーの噛み跡

ガイドさんに案内して貰えば説明を受けられて良いけれど、ロッジの周辺はガイドなしで散策することもできる。私と夫は小さな滝のあるところまで歩くことにした。すると、ジョセフさんが「滝まで行きます?いいけど、滝の近くにガラガラヘビがいるんですよ。昼間はとぐろを巻いて寝ていますが、猛毒なので気をつけて」と言う。ガラガラヘビぃ?気をつけてと言われても、どう気をつければいいの?

「僕が先に行って、ガラガラヘビのいる場所をマーキングして来ますよ」と言いながら、ジョセフさんは出かけて行った。「ビニール袋を結びつけて来たから、すぐわかると思います」

手間をかけてもらったけど、私はガラガラヘビのいる場所にはさすがに行きたくない。ハイキングは別のルートにしようと夫を説得した。しかし、別の道を知っていると言うからついて行ったのに、「あれ?道を間違えた。来るつもりなかったのに滝の方に来ちゃった」。

滝の手前にはジョセフさんによるマーキングがあった。

あの下にガラガラヘビが?うう、、。近寄りたくない。これ以上は一歩も進みたくない。でも、ガラガラヘビの姿は一目見たい気もする。その場でカメラを構え、思いっきりズームで撮った写真がこちら。

ミナミガラガラヘビ (Crotalus durissus)

いる、、、、。怖い。写真を撮ったら即座にUターンし、来た道を戻った。去年、北海道旅行をしたときには、あちこちにある「ヒグマ出没!」の看板にビビっていたけれど、ここではヒグマの心配をしなくてもいい代わりに毒ヘビに気をつけなければならない。ネイチャーガイドさん達は毒ヘビを発見したらマーキングし、互いに情報交換をしているようで、旅行者が毒ヘビに噛まれるケースはごく稀だそうだが。

トレイルにはこんな張り紙がしてあった。「我々は、誇りを持って絶滅の危機にあるブッシュマスター(Lachesis stenophrys)を保護しています。見つけた方はご一報くださいますようお願い致します」。ブッシュマスターはコスタリカに生息する毒ヘビの中で最も猛毒のヘビだ。噛まれたら、まず助からない。絶滅の危機に瀕しているくらいだから、遭遇することはほぼないだろうけれど、、。

そう、エコトゥリスティカ・ラ・タルデのオーナーのエドゥアルドさんは、長年、ヘビの保護活動をしているのだ。ロッジの周辺にはかつてカカオのプランテーションやその他の農地だった。農家の人は、当然ではあるけれど、農地にヘビが出ることを喜ばず、見つけたら殺処分していた。エドゥアルドさんはそうしたヘビを農家から預かり、保護するようになった。エコロッジを経営する現在は、希望があれば旅行者に保護しているヘビを見せてくれる。毒のないおとなしいヘビは触らせてももらえる。

エドゥアルドさんの保護しているマツゲハブ(Bothriechis schlegelii)。これは毒ヘビなので、もちろん触らず見るだけ。

これはボア・コンストリクター (Boa constrictor)

こちらは私も持たせてもらった。ヘビの体はヌルヌルしているイメージだが、実際にはひんやりすべすべしている。コンストリクター(締め付ける者)と言うだけあって、ぎゅうっと締め付ける力がすごい。

 

さて、この後、夫はまたハイキングに出かけて行ったが、私は少し疲れたので、コテージに戻って休むことにした。テラスの椅子に座って、しば楽野鳥を眺めて過ごしていたら、なんだか蒸し暑くなって来た。風通しのよい場所に椅子の一つをずらそう。重い木の椅子を移動させて座り、ふと、椅子がもともとあった場所に目をやると、後ろの壁(というかネット)になにやらついている。遠目には大きな木製のブローチか何かに見えるが、なぜあんなところにそんなものが?

黄色い円で囲ったところに何かついている。

よく見ると、、、それは巨大なゴキブリだった。傍にあったフィールドガイドのページをめくると、同じものと思われるゴキブリが載っている。ジャイアントコックローチだって。ゴキブリの仲間としては最大級らしい。それにしても、いつからそこにいるんだろう?もしかして、私、椅子の後ろにいると知らずに座っていた?

この巨大なゴキブリ、確か、どこかの自然博物館で見たことがあった気がする。でもまさか、こんなところで実物に遭遇するとは思わなかったな。なんてことを考えながら、私はしばらくそれを観察していた。私も強くなったもんだ。初めて熱帯を旅行した20代には夜になるとホテルのバスルームに出る虫達が怖くて怖くて、夜中にはトイレに行きたくても行けずにいたのに。

タランチュラや毒ヘビのいるジャングルを歩き回った後だもん、ゴキブリくらい別にどうってことないよね。

そう思ったけど、ときどき思い出したように体をゴソゴソと動かすのを見ると、やっぱりちょっとゾワっと来る。どっか行って欲しいけど、自分でどかすのは嫌だなあと思っていたら、夫が戻って来た。

「すげ〜!」

夫もその大きさには目を丸くしていた。

 

ジャイアントゴキブリは夫が片付けてくれたのでよかった。

 

私たちの滞在したオサ半島のエコロッジ、エコトゥリスティカ・ラ・タルデ(Ecoturistica La Tarde)は熱帯雨林に囲まれている。熱帯雨林には人為的な影響を受けていない原生林である一次林(primary forest)と、人為的な活動により破壊された原生林が再生した二次林(secondary forest)があるが、コルコバード国立公園のロス・パトス・レンジャーステーションから5kmの地点に位置するエコロッジの周辺は主に一次林だ。多くの異なる植物種による多層的な林冠構造をした一次林は、多種多様な生き物の生息地として極めて重要だ。

私は、ロッジ周辺を地元のネイチャーガイド、ルイスさんに案内してもらうのをとても楽しみにしていた。ルイスさんはラ・タルデで生まれ育ち、ジャングルを知り尽くしているベテランのスペシャルガイドだ。2022年に夫と息子がコルコバード国立公園を徒歩で横断した際、ルイスさんに同行して頂き、素晴らしい体験ができたと繰り返し言っていた。ルイスさんは野生動物の痕跡にもとても詳しいとのことで、アニマルトラッキングを学んでいる私(過去記事)は、ぜひともルイスさんと一緒にラ・タルデのジャングルを歩きたかったのだ。

ところが!直前になってルイスさんからメッセージが入り、「体調を崩してしまい、同行できなくなった」という。なんと、、、。本当にガッカリである。それが目的で来たのに。

代わりに、ジョセフさんという若いネイチャーガイドさんに案内してくれることになった。エコツーリズム大国コスタリカにはネイチャーガイドが大勢いる。でも、正直、レベルはそのガイドさんによってまちまちだと思う。ジョセフさんはガイドになってまだ数年で、経験値ではルイスさんに及ばないが、とても知的でモチベーションの高い、良いガイドさんだった。

まずはナイトハイクに連れて行ってもらった。

ゾクゾクする体験だった。ナイトハイク自体は以前も参加したことがあったが、メジャーな観光地で大勢の旅行者と一緒にゾロゾロとホテルの周辺を1時間程度歩いただけだった。今回のようにジョセフさんと私と夫の3人だけで真っ暗なジャングルに足を踏み入れ、たっぷり2時間半も歩くというのは全く別の体験だといっていい。

記事タイトルに注意書きをしたように、このナイトハイクで見たものは主に昆虫などの小さな生き物だ。虫は苦手な人が多くて、画像を目にするだけでも無理という人もいるので、ネット上に画像を上げるときには気を遣ってしまう。かく言う私も若い頃は虫がとても苦手だった。でも、一時期ナショナルグラフィックの記事を翻訳する仕事をしていたことがあり、その際に昆虫の記事が多かったので、だんだんと面白いと思うようになった。毒のあるものや刺してくる虫は困るけど、そうでなければOKだ。

ナイトハイク中、セミがバサバサと何度も体にぶつかって来た。

 

ジョーセフさんが懐中電灯であたりをチェックしながら進み、何かを見つけると説明してくれる。

後尾中のヤスデ

緑のナナフシ(ナナフシモドキ?)

昆虫は種が多くて、フィールドガイドを見てもどの種なのかよくわからない。ナイトハイクの難点は、ガイドさんに生き物の名前を教えてもらっても、暗くてその場ではメモできないのですぐに忘れてしまうこと。(と書いて気づいたけど、スマホで音声入力すればよかった)

これはなんというクモだったっけな?

このクモを眺めていたら、ジョセフさんが「この辺りにはタランチュラがいるんですよね」と言う。え、タランチュラ?

「あっ。ここにいた!見て。早く早く!」数十メートル前を歩いていたジョセフさんに言われて急いで近づいたが、タランチュラは地面の穴にサッと隠れてしまった。惜しい!野生のタランチュラを目にする機会なんてまずないのに、残念だなあ。

 

ところで、毒のある虫にも注意しなければならないが、気をつけるのはそれだけではない。ジャングルの中にはトゲトゲの木や植物がたくさんある。足元が不安定だからといって、よく見ずに近くの木を掴んだりしてはいけない。

ものすごい棘。でも、虫が敵から身を守るのには便利みたいだね。

 

植物も生き物同様に様々な生存戦略を持っているのが興味深い。英語ではBullhorn acacia(「牛の角のアカシア」の意)と呼ばれるアカシア・コルニゲラ(Vachellia cornigera)は、牛の角のようなかたちをした棘を持つ。この棘は仲が空洞になっていて、先に開いた小さな穴からアリが出入りしている。アリがアカシアの樹液を狙う動物を攻撃してアカシアを守る一方で、アカシアはアリに住処を提供している。つまり、アカシア・コルニゲラとアリと共生関係にあるのだ。

 

ベニスカシジャノメ (Cithaerias pireta)

羽が透き通ったとても綺麗な蝶がいた!暗闇と紅い羽のコントラストが美しく、うっとりしてしまう。写真がピンボケになってしまって、本当に残念。

再び歩き出し、数十メートル進んだときだった。ジョセフさんが「あっ、これは!」と地面を凝視しながら立ち止まった。「これは脱皮したテルシオペロの皮です」。テルシオペロ (Bothrops asper) は日本語ではチュウオウアメリカハブとも呼ばれる猛毒のヘビである。ジョセフさんは皮を拾い上げ、「まだ湿っている。脱皮したばかりです。まだこの辺にいるかもしれないので、気をつけないと」

ひえ〜。

「安全を確保するのはガイドの勤めです」と言いながら、ジョセフさんは持っていた先端の丸く曲がったスネークスティックで地面を慎重に確認し始めた。「このヘビの皮、もらっていいですか?」と夫が聞くと、「どうぞ」と返事が帰って来たので、夫は皮をそっと摘んでリュックに入れた。

そこからは、ヘビがいないか確認しながら進むジョセフさんの後ろをゆっくりゆっくりと歩いた。そして、出発から2時間ほどが経過し、もう少しでロッジというところで、前方の木の上で何か大きなものが動いた。

「アリクイだ!」

暗闇の中で白い毛が浮かび上がった。よく見ようと私たちが立ち止まった瞬間、アリクイは体の向きを変えて茂みの中に入ってしまった。顔は見えなかったけれど、大きな体は確認することができた。ついにアリクイに遭遇できて嬉しい!

 

いろいろな昆虫たちが生活を営んでいただけでなく、タランチュラが巣穴から顔を出し、毒ヘビが脱皮して這い、木の上ではアリクイが歩き回っていた夜の熱帯雨林。なんだかあまりに現実離れしているようで、不思議な感覚だ。

エコロッジの敷地に戻ると、澄み切った空いっぱいに星が瞬いていた。本当に夢みたいだな。そう思いながらベッドに横になり、眠った。

 

でも、夢ではない証拠に、翌朝起きたとき、拾って来たテルシオペロの皮はリュックの中にやはりあったのだった。

脱皮した後のヘビに遭遇しなくてよかったなあ….

 

 

 

 

コスタリカで最もリモートな場所、オサ半島。大部分が森林に覆われたオサ半島に町らしい町はほとんどない。旅行者のためのインフラといえば、コルコバード国立公園の周辺に点在する人里離れたロッジくらいである。2015年に初めてオサ半島を訪れた際には、半島南部のカラテ(Carate)という場所に滞在したが、今回はコルコバードのロス・パトス(Los Patos)セクターに隣接するラ・タルデ(La Tarde)にあるエコロッジに滞在することにした。ロッジの名は、エコトゥリスティカ・ラ・タルデ(Ecoturistica La Tarde)、通称ELT。2022年12月に夫と息子がコルコバード国立公園を徒歩で横断した際に拠点として利用したエコロッジで、夫が周辺の環境をとても気に入った。また、その際に案内してくれたネイチャーガイドのルイスさんがベテランの素晴らしいガイドで、本当にたくさんの野生動物やその痕跡を見せてくれたので、ぜひ私を連れて行って、またルイスさんに案内をお願いしたいと、それ以来言い続けていたのである。私もとても楽しみにしていた。

しかし、四輪駆動ではなく前輪駆動の車を借りたというミスのために悪路に悩まされており、オサ半島に近づくに連れ、私は不安を募らせていた。コスタリカ中心部ですら、メジャーな観光地をちょっと離れると途端に道が悪くなるのに、オサ半島のような極地で果たして私たちの車は走れるのだろうか。

ELTはかなりの奥地にある。国道245号をゴルフォ・ドルセ湾沿いに南下し、ラ・パルマ(La Palma)という集落からは山道を登る。こちらの記事に書いたように、二日前に山道をやっとの思いで乗り越えた(運転したのは夫なので私はただ横に座っていただけではあるが)ところだったので、またあの状態になるのかと憂鬱だった。

夫は「去年も通った道だから大丈夫だ」と言う。アップダウンは多いが、道路の状態はそれほど悪くないのだと。しかし、実際にはまったく違い、山道は凄まじいほど石ころだらけだった。「おかしい。こんなはずでは」と呟きながら夫も真剣な顔になる。「前回来たときはこうじゃなかったのに。たった一度の雨季でこんなにも道路状況が変わるとは」。移動は困難を極めたが、「もう無理」と途中で諦めるわけにもいかない。あたりに民家はまったくなく、携帯の電波も届かないので、助けを呼ぶことはできないからだ。しかし、泣き言を言って真剣勝負の夫にストレスをかけるわけにもいかないので、私はひたすらおとなしくしていた。

恐ろしく長く感じた夫の格闘の末、ついに私たちはエコロッジに到着。オーナーのエドアルドさんが笑顔で迎えてくれ、本当にほっとした。(ラ・タルデへ行く人は、絶対に四輪駆動の車で行くか、事前にロッジに送迎を頼んでおきましょう

エコトゥリスティカ・ラ・タルデの入り口

夫が私を連れて行きたいと言っていたELTは、よく手入れのされた敷地内に小さなキャビンがいくつかとドミトリーが1つあるだけのアットホームなエコロッジで、私は一目で気に入った。「キャビンはすごくシンプルだよ。それだけは覚悟しておいて」と言われたようにキャビンはとても簡素な作りだが、パナマでこの宿に滞在して以来、私は自然を直に感じられる宿のファンになっているので、がっかりするどころか逆にワクワクした。

キャビンの内部。空調設備はないが、壁は下の部分のみなので、風通しが良い。

 

トイレと洗面所はキャビンの外側にあり、キャビンとカーテンで仕切られている。一応、ブリキ屋根の下なので、雨が降っても濡れることはない。

 

シャワーは完全に外でお湯は出ない。

きちんと清掃されていて、不潔感はまったくないけれど、アウトドアが苦手な人にはキツいかもしれない。水しか出ないシャワーというのは熱帯の国ではありがち。私は若い頃、東南アジアの安宿を渡り歩いていたことがあるから、水シャワーは体験済みで、これも難なくクリア。(とは言っても、お湯が出るならその方がいい)

ウッドテラス

キャビンのウッドテラスからの眺めはコルコバード国立公園へと続く広大な熱帯雨林である。地元の木材で作ったどっしりした椅子に座って森を眺める時間の素晴らしさといったら!昼間は目の前を蝶や野鳥が飛び交い、夕方になるとセミが大音量で鳴き出す。日が落ちると蛍が小さな光を放つ。そして、朝はホエザルの吠え声で目が覚める。これだからコスタリカはやめられない。

 

2月のコスタリカは乾期だが、ときどき雨が降った。熱帯雨林に降る雨もまた魅力がある。

霧の立ち込める森

ロッジの周辺にはいくつものトレイルがあり、地元のネイチャーガイドさんがその人の興味に応じたツアーを組んでくれる。トレイルについては次の記事に書くが、このロッジの敷地で過ごすだけでもとても楽しい。

私が特に気に入ったのは、入り口近くにある大きなマンゴーの木だ。

この木にはブランコとハンモックが取り付けてある。ハンモックに横になってゆらゆらと揺れながら上を見上げると、オオハシの大きな鳴き声が聞こえてくる。

オオハシの姿を探すと、いた!

クリハシオオハシ (Ramphastos swainsonii)

他にもたくさんの野鳥の姿を見ることができた。以下はその一部。

オリーブタイランチョウ (Tyrannus melancholicus)

Streak-headed Woodcreeper (Lepidocolaptes souleyetii)?

ホオグロミヤビゲラ(Melanerpes pucherani)?

オオハシノスリ(Rupornis magnirostris)

残念ながら写真は撮り損ねたけれど、とても印象に残った鳥がいる。その姿を目にしたときには、一瞬、頭が混乱した。それはあり得ないほど巨大なツバメだった。一体、あれは何?

フィールドガイドで調べると、ツバメトビ(Elanoides forficatus)というタカの仲間だった。本当にびっくりした。忘れないようにWikipediaのページを貼っておこう。

ツバメトビ

 

ケポス(Quepos)滞在4日目に当初の目的だったマヌエル・アントニオ国立公園 (Parque Nacional Manuel Antonio)にようやく入ることができた。

マヌエル・アントニオ国立公園は、コスタリカで最も小さい国立公園であると同時に、最も多くの観光客が訪れる国立公園でもある。入場制限をしているものの、かなり人が多かった。

公園入り口はケポスの中心部から海岸沿いに7km南下したところにある。徒歩で公園へ行けるから便利だろうという理由で私たちは入り口付近のホテルに泊まっていたが、これが失敗だった。道路を隔ててビーチに面しているのもあり、観光客でごった返していてとてもうるさいのだ。

公園入り口に並ぶ人々

入る前からやや興醒めしていたけれど、せっかく来たからにはやっぱり公園内に入りたい。列に並んで、荷物検査を受け(食べ物は持ち込み禁止、公園内に飲食スペースあり)、中に入った。

マヌエル・アントニオ国立公園が人気なのは、コンパクトな公園ながら野生動物が多いこと、海に面しているので熱帯一次林、マングローブ、海岸と変化に富んだ自然を短時間で体験できるからだろう。

野生動物の姿は実際にたくさん見ることができた。

木の上のイグアナ

オジロジカ (Odocoileus virginianus)

ただし、野生動物のいる場所には常に複数のガイドツアーのグループが固まっていて、それが数十メートルおきなので、他の国立公園や自然保護区のように自分のペースで動物を探して歩けるわけではない。

昼寝中のホエザル

特にたくさん見たのはノドジロオマキザル (Cebus capucinus)だった。

お母さんの背中に乗る子ザル

寄生虫のチェック中

そこらじゅうにいるので、間近で彼らの行動をじっくり見られて面白い。でも、ノドジロオマキザルって見た目はかわいいけれど、かなり怒りっぽいようで、すぐに威嚇する。

そして、薬草になる植物を使いこなすなど、とても頭が良いらしい。

ノドジロオマキザルはMonkey´s brushと呼ばれるこの植物を使って、毛皮の中に入り込んだ寄生虫などを除去する。

食べ物持ち込み不可なのに、スナックを持ち込んだ人がいたらしい。

 

ビーチは綺麗だけれど、荷物をその辺に置きっぱなしにするとすぐにサルに荒らされるので注意!

マングローブ林の遊歩道

マヌエル・アントニオ国立公園、一度は行っておきたかったので実現してよかったけれど、ここで見た野生動物は他の場所でも見たものばかりだったし、激混みとまでは言わないもののかなり混んでいるので、一度でいいかな。

ケポスは宿もレストランも高いし、その割に質は、、、という感じで、正直に言うとあまり好みの場所ではない。でも、眺めの良いカフェやレストランがいくつもあって、連日のハードなハイキングの後、くつろげるのはよかった。

Emilio´s Cafeからの眺め

レストラン El Avionからの眺め

 

さて、いよいよ翌日はコスタリカ旅行のハイライトとなるオサ半島に向けて出発だ。

 

 

コスタリカ北部の2つの国立公園、アレナル火山国立公園テノリオ国立公園のトレイルを楽しんだ後、私たちは南へと向かった。目的地はオサ半島だが、一気に移動するのはキツいので、中間地点のケポス(Quepos)に3泊することにした。ケポスは太平洋に面した国立公園、マニュエル・アントニオ国立公園(Parque Nacional Manuel Antonio National) に隣接した町で、コスタリカの一大観光地である。なんとなく予想はしていたが、実際に行ってみるとオーバーツーリズム気味でうるさく、好みの場所ではなかった。大人気のマニュエル・アントニオ国立公園のチケットも到着の翌日とその次の日の分はすでに売り切れており、滞在3日目のチケットをかろうじて抑えることができた。

さて、それまでの二日間は何をしよう?

すぐに思い浮かんだのは、ケポスから国道34号を40kmほどさらに南下した、ドミニカル(Dominical)にある野生動物保護区、ハシエンダ・バル (Hacienda Baru)だった。

いつも旅行を計画する際には、ガイドブックやネットで情報を集めるだけでなく、その国に関する書籍を探して読むことにしている。今回、下調べとして読んだ本のうちの一冊はコスタリカの自然に関するエッセイ集 “Monkeys Are Made of Chocolate – Exotic and Unseen Costa Rica“。米国人の著者、Jack Ewing氏は1970年代の終わりにコスタリカに土地を購入し、以来、自然再生及び野生動物の保護活動を続けている。とても興味深く読んだので、Ewing氏がハシエンダ・バルと名付けたその保護区に行ってみたいと思った。

 

ハシエンダ・バル入り口

ハシエンダ・バルは自然観察ツアーを提供する宿泊施設も兼ねていて、敷地にはこじんまりとした居心地の良さそうなコテージが並んでいる。この自然保護区について知ったときにはすでにケポスの宿を予約してしまっていたので、ここに泊まるのは断念したのだった。もっと早くに知ってここに滞在できたらよかったのにと少々後悔。

 

太平洋と国道34号に挟まれた、広さおよそのハシエンダ・バルの敷地はかつては牛牧場で、およそ150ヘクタールに渡って森林が破壊されていた。

1972年に撮影された航空写真。左下は太平洋。画像は敷地内の説明用立て看板の写真を撮影したもの。

 

個人のイニシアチブから始まった自然再生の試みだったが、Ewing氏らの継続的な活動の結果、敷地は多くの野生動物の生息地として蘇り、1995年、ハシエンダ・バルは国の野生動物保護区に認定されている。

自然再生が進んだ現在の様子。

 

敷地内にはいくつかのトレイルがあり、料金を払えば、宿泊者以外のビジターも歩くことができる。私たちも歩いてみることにした。

野生動物を観察したいなら、早朝か夕方が良い。昼間の暑い時間帯は動物たちは茂みなどの奥に隠れて休んでいるからだ。このときはちょうど昼間で、あまり動物は見られないだろうなあと期待していなかったが、意外に多くの生き物に遭遇した。

 

シロボシクロアリモズ (Thamnophilus bridgesi) これはメスかな?

 

鬱蒼とした茂みに挟まれた小径を歩いていくと、前方数十メートルの地面に何やら茶色い大きな物体が横たわっている、、、、と思ってよく見たら、それは3羽のオオホウカンチョウ (Crax rubra )のメスだった。

もう少しよく見ようともう一歩足を進めたら、そのうちの1羽が飛び上がり、横の茂みに入った。茂みの中から心配そうな声を上げ、仲間の2羽に呼びかけている。しまった、怖がらせてしまった。ごめんなさい。

オオホウカンチョウ(大鳳冠鳥)はコスタリカでは特に珍しい鳥ではないが、体長90cmにも及ぶその大きさと見事な頭の冠羽が特徴的で、目にするたびに目を見張ってしまう。

ちなみに、これは別の場所で撮った写真だが、オスは体全体が真っ黒で、嘴の上に黄色い大きなコブがある。

日頃、ドイツでバードウォッチングをする際、コーネル大学が開発した野鳥識別アプリ、Merlin Bird IDが大いに役に立った。グローバル対応のこのアプリは地域ごとのパッケージがあるので、現地に着いたら該当するパッケージを追加で無料ダウンロードすればすぐに使えて便利だ。コスタリカのネイチャーガイドさんたちも皆、使っているようだ。紙のフィールドガイドなら、やはりコーネル大学出版から発行されているシリーズのRichard Gariguess “The Birds of Costa Rica: A Field Guide” が良い。

 

胴の赤さが鮮やかなコシアカフウキンチョウ(Ramphocelus passerinii)のオス

こちらはメス。メスはコスタリカの東部と西部でカラーバリエションが異なる。このように胸元のオレンジ色が濃いのは西部(太平洋側)で見られる。

ナツフウキンチョウ (Piranga rubra)のオス。

ナツフウキンチョウ (Piranga rubra)のメス。

イグアナもいた。イグアナはフィールドガイドを見ても、種がよくわからない。(わかる方がいらしたら、是非是非教えてください)

 

哺乳類はクビワペッカリー( Tayassu tajacui) とマダラアグーチ(Dasyprocta punctata)に遭遇!

ペッカリーにはクチジロペッカリー (Tayassu pecari)というのもいるが、これはクビワペッカリーの方、なぜなら、

ほらっ!首の周りに白い毛がリング状に生えている。

巨大なネズミのような、あるいはリスのような、なんとも不思議な見た目のアグーチ。群れることなく単独で行動するが、昼行性の動物だから遭遇するチャンスはまあまあある。主に果物や植物の種を食べ、森に種を散布する、生態系において重要な役割を持つキーストーン種だ。

ざっくり2時間ほどのトレイルだったが、いろいろな生き物が見られてとてもよかった。エントランスに戻ってカフェエリアで飲んだ、冷えたスムージーもとてもおいしかった。次回はぜひハシエンダ・バルに宿泊して、ガイドツアーに参加したい。

 

 

 

首都サン・ホセを出発した私たちがまず向かったのは、アレナル火山国立公園 (Arenal Volcano National Park)だ。計画では、旅の最初の3日間はモンテヴェルデ熱帯霧林自然保護区(Monteverde Cloud Forest Nature Reserve)でバードウォッチングを楽しむはずだったのだが、こちらの記事に書いたようなハプニングの連続で、その3日間が丸ごと吹っ飛んでしまったのだ。ああ、無念。でも、嘆いていてもしかたがない。仕切り直していこう。

アレナル火山国立公園は、サン・ホセから北西におよそ90kmに位置する。アレナル火山とチャット火山という二つの火山を囲む、広さ1万2000haの自然保護区だ。

アレナル火山はコスタリカで最も活動の激しい火山で、1968年からずっと噴火活動が続いている。富士山にも似た円錐型が美しい山だけれど、てっぺんが雲に隠れていることが多く、上の写真のようにくっきりと全容が見るのはなかなか難しいらしい。私がボルカン・アレナル国立公園を訪れるのはこれが2度目で、写真は前回の滞在時にかつてのスミソニアン研究所の火山観測所を改装したホテル、Arenal Observatory Lodge & Trailのテラスから撮ったもの。このときは1週間滞在して、溶岩原のトレイルを歩いたり、ネイチャーガイドによるナイトハイクに参加したり、近郊のタバコン温泉に浸かったり、ジップラインで熱帯雨林を滑走したりした。ジップラインについては書きたいことがあるので、別の記事にまとめよう。

今回の滞在では、前回やり残した、フォルトゥーナ滝までのトレイル(La Fortuna Waterfall Hike)を歩いてみた。

ちなみにトレイルは有料で、チケットは1人20米ドル。トレイルの長さは片道1.2km。たいしたことがないなと思ったけれど、高さ70メートルの滝を見るためには、急な階段530段を降りなければならない。

途中で木の上にホエザルがいるのを発見。

 

途中のプラットフォームから見たフォルトゥーナ滝。遠くてスケール感がよくわからない。

 

間近まで行って見ると、なかなかの迫力。

滝壺で泳いでいる人たちもいたけれど、危ないので私はここでは泳がずに、

少し離れた場所で泳いだ。透明なブルーの水が綺麗で、大きな魚もたくさんいてテンションが上がる〜。

しばらく泳いだ後は、また530段の急な階段を登って帰らなければならない。そこそこキツい。でも、これはまだ序の口。観光地だけにこのトレイルはよく整備されていて歩きやすく、後から思えば、これからコスタリカ滞在中に歩くことになる数々のトレイルのための準備運動だった。

さらに今回は、アレナル火山の西側、人口湖アレナル湖の南端近くに位置する蝶園、 Butterfly Conservatoryへも行ってみた。

これが意外にとてもよかった!「きっと観光客目当ての施設で、たいしたことないんだろう」となんとなく思っていたが、とんでもない先入観だった。

ブルーモルフォ (Morpho)

メムノンフクロウチョウ (Caligo memnon)

オオカバマダラ (Danaus plexippus )

シロモンジャコウアゲハ (Parides iphidamas iphidamas)

ラウレンティアアメリカコムラサキ (Doxocopa laurentia cherubina)

キングスワローテイルバタフライ (Heraclides thoas)

コスタリカにはおよそ1500種の蝶がいるとされている。中央アメリカに生息するすべての蝶の90%がコスタリカで見られる。今回の滞在中には至るところでたくさんの蝶を見ることになったが、常にひらひら動き回っていて写真を撮ることはおろか、じっくり見るのすら難しかったので、この蝶園でいろんな種が見られたのはよかった。

蝶だけでなく、カエルもいろいろ飼育されている。

アカメアマガエル(Agalychnis callidryas)。コスタリカは中央に山脈が走っており、その西(太平洋側)と東(カリブ海側)とでアカメアマガエルのお腹の色が違う。これはカリブ海側のアカメアマガエル。

マダラヤドクガエル(Dendrobates auratus)

そして、さらに嬉しいことに、蝶園の敷地内にはトレイルもあり、熱帯雨林の中を歩くことができる。観光客にはそれほど存在を知られていないのか、私たちの他にはほとんど誰もいなかった。

なんて癒される空間だろう。素晴らしいー!

 

 

この記事の参考サイト:

Arenal Volcano National Park

Costa Rica Butteflies, motos, and the Blue Morpho Butterfly

 

前回の記事に書いたように、出発時点からハプニングが連続し、すっかり出鼻を挫かれた今回のコスタリカ旅行だったが、延々3日半にわたる奮闘の甲斐あって問題がどうにか解決し、ようやく旅は始まった。

 

今回の旅のテーマは「生き物」だ。約3週間の滞在中にできるだけ多くの野生動物が見たかった。

 

コスタリカは世界の生物多様性ホットスポットの一つに数えられる、生き物大国である。世界の生物種のうちのおよそ5%にあたる種が生息するという。コスタリカで見られる鳥類はおよそ900種。ハチドリだけでも52種も生息する。哺乳類はおよそ230種、植物に至っては12000種という多様性を誇る。

ズアカエボシゲラ (Campephilus guatemalensis)

 

コスタリカの生物多様性がこれほどまでに高いのには、多くの要因がある。

 

  • コスタリカはおよそ300万年前に北米大陸と南米大陸が陸続きとなってできたパナマ地峡に位置する。パナマ地峡では両大陸の生物が互いに移動し、大規模な種の交換が起こった
  • 北緯10度という赤道に近い位置と北太平洋の暖流のおかげで、多くの生物種が最終氷期を生き延びた
  • 太平洋と大西洋に挟まれ、中央を山脈が走っているため、国土の西側と東側で気候が異なっている
  • 海岸沿いの低地から標高3000メートル近くの山間部まで、あらゆる高度があり、緯度との組み合わせによって多数の異なるエコシステムが存在する

セスナ機から見下ろしたオサ半島の熱帯雨林

 

生き物の宝庫コスタリカは自然保護を国の政策として大々的に打ち出しており、国土の26%が自然保護の対象である。小さな国土に25の国立公園を持ち、自然保護区の数は100を超える。エコツーリズムは国内総生産の6%を占める一大産業だ。フアン・サンタマリア国際空港に降り立つと、カラフルな野鳥や鋭い目をしたピューマの特大写真が観光客を迎え、期待感を大いに高めてくれる。オオハシやナマケモノなどのイラストがプリントされた土産物のパッケージも洗練されていて、「野生動物の楽園コスタリカ」としてのブランディングが実に上手いなあと感心してしまう。豊かな生態系をアピールして世界中から観光客を呼び寄せ、彼らが落としていくお金で自然保護のための措置をさらに強化していく。コスタリカは同時に、再生可能エネルギー率95%を誇る自然エネルギー推進のトップランナーでもある。

色のついているエリアは自然保護区。

 

コスタリカが環境保護先進国となったのは、20世紀後半、集約農業によって環境破壊が急激に進み、危機感が広がったことがきっかけだった、コーヒー、バナナ、パイナップルなどのプランテーション栽培で1945年には国土の75%を占めていた森林が1983年には26%まで減少したという。1996年に大々的な植樹を行い、2023年には60%まで回復している。

 

もちろん、すべてが理想的というわけではないだろうが、その先進性と実際の自然の豊かさが、コスタリカを訪れる価値のある国にしていることは間違いない。

 

ではこれから、コスタリカの自然を自らの足と五感で味わっていこう。

 

私たちは車に乗り込み、首都サン・ホセを後にした。

 

この記事の参考文献およびサイト:

ドイツの野鳥シリーズ、第一回はキツツキだった。今回はツルについて。

ドイツで観察できる野生のツルはヨーロッパクロヅル(Grus grus grus)のみだが、メクレンブルク=フォアポンメルン州やブランデンブルク州には多く飛来し、一部は繁殖もする。私の住むブランデンブルク州では結構、至るところでツルの姿を見ることができ、身近なのが嬉しい。秋になると、我が家の庭の上をもツルの群れが鳴きながら通り過ぎていく。田舎暮らしで良かったなと感じる瞬間だ。

ベルリン・ブランデンブルク探検隊の方でスライド動画を作ったので、このブログで記事としてまとめる代わりにリンクを貼っておく。

 

 

 

 

旭川市周辺のジオサイト(カムイミンタラジオパーク構想における見どころ)を見た後は、いよいよ楽しみにしていたアポイ岳ジオパークに向かうことにした。でも、旭川からアポイ岳ジオパークの中心地である様似町はかなり遠い。現地は宿が少なく、すでに予約がいっぱいの様子だったので帯広市へ移動し、帯広から日帰りでアポイ岳ジオパークへ行くことにした。帯広市へ行く途中には「とかち鹿追ジオパーク」がある。とかち鹿追ジオパークに位置する然別湖の周辺には風穴地帯というものがあるらしい。風穴(ふうけつ)というのは、岩場の岩の隙間から涼しい空気が吹き出す現象であるそうだ。通り道なので、風穴を体験したい。

前回立ち寄ったスポット、層雲峡から然別湖へは国道273号線を南下し、三国峠を超えて行く。三国峠からの眺めは絶景だった。

 

三国峠から見る松見大橋

幌鹿峠と鹿追町の間でたくさんのエゾシカに遭遇した。

可愛い親子。ポーズを取ってくれた?

漢字が読めない夫は鹿追町の町名表示板のローマ字表記「Shikaoi」を「シカオオイ(鹿多い)」と読んだようで、「そのまんまだね」と笑っていた。

沢にはキタキツネも

三国峠を超えてしばらくすると、だんだんと雲行きが怪しくなって来た。然別湖に着いた頃には霧がかかって、かなり視界が悪くなった。

 

霧の然別湖

湖畔に車を停めて降りてみた。残念ながら景色はよく見えない。それでも、湖の神秘的な雰囲気にはゾクゾクするものがある。晴れていたらさぞかし美しいだろうと思わされる。こんな湖でカヌーに乗ったら素晴らしいだろうなあ。道路の反対側に然別ネイチャーセンターというのがあったので、中で風穴のある場所を聞くと、東ヌプカカウシヌプリ登山口付近で見られると教えてくれた。

これがその場所。ごろごろとした岩が斜面に溜まっている。こうした場所はガレ場(岩塊斜面)と呼ばれる。東ヌプカウシヌプリは然別火山群に属する溶岩ドームである。凍結して割れた岩が山の斜面を崩れ落ち、麓の斜面を覆った。冬季の「しばれ」の厳しいこの地域では、岩の下で地下水が凍り、越年地下水となる。岩の下で越年地下水によって冷やされた空気は、暖かい季節になると隙間から外へ吹き出して来るのだ。

近づいて隙間に手を翳してみると、確かにスースーする。面白い〜。

 

とかち鹿追ジオパークのサイトに風穴とその周辺の自然環境についてのわかりやすい説明動画があったので、貼っておこう。

 

この記事の参考文献、ウェブサイト:

とかち鹿追ジオパークブログの風穴のページ

北海道大学出版会 『北海道自然探検 ジオサイト107の旅

 

野生動物に興味があるので、地元のいくつかの野生動物保護団体のニュースレターを配信登録したり、SNSでフォローしたりしている。先日、Facebookを見ていたら、NABUの「専門家が哺乳類のデータを収集するのを見学しませんか」というお知らせが流れて来た。

面白そうなので問い合わせてみたら、ブランデンブルク州でコウモリの保護活動をしている人たちが週末に集まり、個体数調査を実施することになっており、一般の見学参加を受け付けるという。もちろん申し込んだ。

うちの近くでも夏の夜にひらひらと小さいコウモリが飛んでいるのを見かけることがある。庭に死骸が落ちていたこともある。でも、ドイツのコウモリについての知識はまったくと言っていいほどなかった。コウモリ調査ってどんな感じなんだろう?

そんなわけで、今回の記事はコウモリ調査の見学記録である。

コウモリは夜行性だから、調査を行うのは夜間だ。大きな池のある公園で20:00過ぎから準備が始まった。

まず、池の周りにかすみ網と呼ばれる網を張る。北ドイツでは7月半ばの20:00はまだ明るい。コウモリが寝ぐらから出て、餌となる昆虫を探して飛び回るのは22:30くらいからだそうで、それまでの間、コウモリが発する超音波を検出するコウモリ探知器(バットディテクター)をセットしたりしながらコウモリたちの出現を待つ。

超音波を可聴域に変換するコウモリ探知器。

超音波を分析する装置。コウモリの種によって波形が異なるので、グラフを見ればどんなコウモリが飛んでいるのかがわかるそうだ。

コウモリの発する超音波を出してコウモリを誘うための装置もある。

そうこうしているうちにいよいよ暗くなって来た。

かかった!

コウモリを傷つけないように気をつけながら、網から外す。コウモリは狂犬病ウィルスに感染していることがあるので、触る際には手袋をはめるのが一般的なルールだ。特に大型のコウモリは噛む力が強く、噛まれると相当痛いらしい。調査員さんたちはコウモリの扱いに慣れているので、小さくておとなしい種は素手で掴んでいたが、経験のない人は真似しない方が良いだろう。

捕獲した個体は、種類、大きさ、重さ、性別、大人のコウモリかそれとも子どものコウモリか、などを確認して記録する。

翼の幅を測っているところ

袋に入れて棒計りで体重を測る。

性別チェック。これは見ての通り、男性。繁殖期が近づいて来ると、オスはテストステロンの分泌が活発になり、体臭が濃くなる。

メス。乳首を確認して授乳中であれば、できるだけすみやかに解放してやらなければならない。お腹を空かせた子どもが待っているからね。

記録が終わった個体は、二重にカウントするのを防ぐため、ホワイトペンでマーキングしてから解放する。

コウモリの調査といっても、同じ場所で捕獲できるのはきっと1種か、せいぜい2、3種なのだろうなとなんとなく想像していたが、この晩に確認できた種は11種に及んだ。コウモリはその種によって活動時間にズレがあるので、調査は一晩中やるのが理想だ。でも、さすがにそれは大変なので、この調査では夜中の1:00頃まで作業するということだった。捕獲できなかった種もいるだろうから、実際にはもっと多くの種が調査した池の周辺に生息しているのだろう。ドイツ全国では全部で25種のコウモリが確認されている(全25種の画像付きリストはこちら)。私が住むブランデンブルク州にはそのうちの18種がいることがわかっている。

ドイツのコウモリには大きく分けて、樹洞などを寝ぐらとする「森コウモリ」と建物に棲みつく「家コウモリ」がいる。かすみ網を使った調査の対象は「森コウモリ」だ。

代表的な森コウモリの一つは、ドーベントンコウモリ。ドイツ名はWasserfledermaus(学名 Myotis daubentonii)。直訳すると「水コウモリ」だ。池や湖の水面すれすれを飛んで虫を捕まえるので、裸眼でも観察しやすい。コウモリというとドラキュラのイメージで、不気味な生き物と敬遠されがちだけれど、このドーベントンコウモリは小さくて、顔もなかなか可愛い。背中を触らせてもらったら、モフモフしていた。

器用そうな指

アブラコウモリ (Zwergfledermaus、学名 Pipistrellus pipisterellus)はさらに小さい。

解放しようとしても、なかなか飛んでいってくれない子もいた。(笑

次々に網にかかるので、データを取るのが忙しい。網から外したコウモリはいったんバスケットなどに入れておくが、攻撃的な種とおとなしい種は別々の容器に入れないとならない。

いろんな種を見せてもらったけれど、コウモリを見慣れていないので、どれも同じように見えてしまう。これは確か、ヤマコウモリ (Abendsegler, 学名 Nyctalus)の1種だったと思う。(間違っていたらごめんなさい)

耳の長いウサギコウモリ (Braune Langohrfledermaus, 学名 Plecotus auritus)はわかりやすい。

顔は、コワかわいい?

ウサギコウモリはわかりやすいと書いたけれど、耳の長いコウモリはウサギコウモリだけではなかった。

ベヒシュタインホオヒゲコウモリ(Bechsteinfledermaus, 学名 Myotis bechsteinii)。

 

さて、コウモリ調査は夜間のみ行うのではなく、昼は昼でやることがある。家コウモリがいないか、教会の塔をチェックするのだ。村の小さな教会ばかりだったけれど、10箇所近く回って調査するので、なかなか大変だ。

でも、こんな梯子を登って塔の内部に入る機会は滅多にないから、ワクワク。

ある教会の塔の床には大量のフンが落ちていた。一見、ネズミの糞のようだけれど、見分け方がある。近くで見ると光沢があり(餌となる昆虫の外皮にあるキチンという成分を含むため)、押して潰すとサラサラしていて床にくっつかなければコウモリの糞だと教えてもらった。フンだらけの場所を歩くのは気持ちのいいものではない。病気が移ったりはしないだろうか。日本語でネット検索すると、コウモリが家に棲みつくと不衛生だと書いてあるサイトが多いけれど、ドイツ語の情報は「コウモリのフンには人間にとって危険な病原菌は含まれておらず、狂犬病にかかっているコウモリのフンでも、それによって人間が感染することはない」というものがほとんど。コウモリの糞は庭の植物の良い肥料になりますよと書いてあるサイトもある。自然環境や住環境の変化によってコウモリの住む場所が失われつつあり、個体数が減っていることから、自然保護団体NABUは家をコウモリフレンドリーにすることを推奨しているほどだ。(ソースはこちら)

それにしても、フンの量にはびっくり。ここに現在、コウモリがいるのは確実。

やっぱりいた!

ここではセロチンコウモリ (Breitflügelfledermaus,学名 Eptesicus serotinus )が育児中だった。夏の間、コウモリのメスは集団で子育てをする。メスはそれぞれ1匹か、せいぜい2匹しか子を産まず、赤ちゃんは4〜6週間の間、お母さんのおっぱいを飲んで育つのだ。森コウモリは水場で捕獲して数えることができるが、家コウモリは個体数を把握するのが難しい。フンの量や落ちている死骸の数から概算するしかない。

1970年代には激減し、いくつかの種は絶滅の危機に瀕していたドイツのコウモリは、過去20年間の保護団体の活動の甲斐あって、現在、個体数は低いレベルながらも安定しているそう。

過去に参加していたヨーロッパヤマネコの調査ビーバーの調査では動物そのものを目にすることはほぼないのに対して、コウモリ調査ではじゃんじゃん網にかかるので、調査のし甲斐があって面白いなあと思った。今回、いろんな種類のコウモリが身近にいるんだなと認識できたし、コウモリの性別を確認するという、なかなかできない体験ができた。機会があったら、また参加したい。

 

ドイツ国内最大の野鳥園、ヴァルスローデ世界バードパーク(ヴェルトフォーゲルパーク・ヴァルスローデ Weltvogelpark Walsrode)へ行って来た。ニーダーザクセン州ヴァルスローデにあるこの野鳥園には650種、個体数でおよそ4000個体の野鳥が飼育されている。それほど多くの野鳥が見られる野鳥園は世界でも類を見ないという。ヨーロッパには生息しない珍しい野鳥もたくさん見られるに違いない。大いに期待して出かけた。

野鳥園があるのは小さな町ヴァルスローデ(Walsrode)のさらに郊外で、アクセスが良いとは言えない。最寄りの大きな町はハンブルク、ブレーメン、ハノーファー。その3都市の中間に位置し、それぞれの町からは車で片道1時間ほどだ。

駐車場から橋を渡って公園内に入る。

注意したいのは、当日窓口でチケットを買うのと事前にオンラインで買うのとでは入園料がかなり違うこと。オンラインチケットの方がかなり割安なので、事前に購入すべし。

公園の広さは24ヘクタール。大人気のライプツィヒ動物園とほぼ同じくらいの広さだが、野鳥だけで24ヘクタールというのはすごい。園内は順路に沿って4kmほど歩くと一巡できるように設計されている。

公園内にはコウノトリ(シュバシコウ)の巣がいくつもあり、たくさんのコウノトリがカタカタと嘴を鳴らしたり、頭上を常に飛び回っている。シュバシコウはドイツの北東部ではありふれた野鳥で、特別に飼育されているというよりも公園内で生活していると言う方が正確だろう。コウノトリやカモのようなローカルな鳥とアフリカや中南米、東南アジアなどのエキゾチックな鳥が同じ空間に共存しているのが楽しい。

そこには実にいろいろな種がいた。熱帯の美しい小鳥がたくさん見られるのも素晴らしいが、見応えのある大型の鳥も豊富で満足度が高い。印象的だったのはサイチョウ科の鳥で、様々な種類がいた。サイチョウはクチバシの上にもう一つのクチバシのようなコブがついた鳥で、コブがまるでサイのツノのようだからサイチョウと呼ばれる。いかにも邪魔そうだけれど、コブの中身はスカスカで軽いらしい。

メスは子育て中だそうで、邪魔者が来ないようにオスがしっかり見張りをしていた。

その大きさだけでもかなり威圧感があるが、鳴き声もまたすごい。隣のスペースから犬の吠え声が聞こえて来たので不思議に思ったら、アカコブサイチョウの鳴き声だった。

 

そして、今までありふれた鳥だと感じていたハトにも派手な種がいることがわかった。

カンムリバト

ミノバト

園内にはシュバシコウだけでなく、他のコウノトリもいる。たとえば、、、

シロエリコウ

ズグロハゲコウ

アフリカハゲコウ。実に大きい。

 

鮮やかな鳥は、見ていてやっぱり楽しい。

目が覚めるような朱色をしたショウジョウトキ

羽繕いをする姿が優雅なベニヘラサギ

 

私の好きなツルもいろいろいる。

草むらにひっそり佇むヒナを連れたソデグロヅル

 

気品のあるホオジロカンムリヅル

 

しかし、なんといっても圧巻なのはハシビロコウだ。

 

猛禽類コーナーも見応えがある。

ハクトウワシ

コンドル

中南米に生息する猛禽類最強とされるオウギワシ。餌付けを見学した。

フクロウコーナー。

ウラルフクロウ

シロフクロウと子どもたち

ここに挙げたのはもちろんごくごく一部。なにしろ650種もいるのだから、一つ一つの種をじっくり見ていたらいくら時間があっても足りない。園内はよく手入れされていて魅力的だった。生息に適した環境がそれぞれ異なるあれだけの数の野鳥を飼育・維持するには相当な知識とスキルを持ったスタッフが必要なはずだが、唯一無二の野鳥園であるわりには一般認知度がそこまで高くなさそうなのがとてももったいなく感じた。今はハイシーズンなのでそれなりに賑わっていたけれど、冬場はそれほど人が来ないかもしれない。貴重な施設なので、採算が取れずに閉園してしまうようなことにはならないで欲しい、

個人的にちょっと残念だったのは、説明パネル等が少なめで、野鳥関連の書籍も売っていなかったこと。園内には子どもの遊び場がいくつもあって、ショップには楽しいグッズがたくさん売られているので、家族連れで楽しめる施設だと思うけれど、大人の学びのための資料ももう少し欲しかった。

それはともかく、この野鳥園でしか見られない鳥が多いので、行った甲斐があった。家から日帰り圏内にこのような施設があって、本当にラッキーだな。

 

 

アニマルトラッキングをするようになってから、あちこちでアライグマの足跡や糞を目にするようになった。アライグマの足跡は特徴的である。まるで指を開いた人間の手のようで、他の動物と区別しやすいのだ。

泥の上についたアライグマの足跡

「アライグマ」という名前が示唆する通り、特に水辺で見かけることが多い。

とはいえ、アライグマは食べ物を洗うために水場に来るわけではない。食べ物を洗う習性があるからアライグマと呼ばれているのかと思っていたが、それは誤解だった。アライグマは足の触覚がよく発達している。水場で前足を使って食べられるものを探し、その感触を確かめる仕草があたかも食べ物を洗っているかのように見えるということらしい。実際にアライグマが餌を食べる場面を見たことがある。すぐそばに池があるにもかかわらず、洗わずに平気で食べていた。別にきれい好きというわけではないようだ。

アライグマはドイツでは外来種である。毛皮を取るために北米から輸入されたアライグマの一部が1930年代の半ば、ヘッセン州エーデル湖付近に放たれたのがドイツにおけるアライグマ野生化の発端だ。オオカミがいったん絶滅したドイツには天敵が存在せず、雑食で適応力の高いアライグマはどんどん増えていった。最初はヘッセン州北部やニーダーザクセン州南部などドイツ西部の限られた地域のみだったが、第二次世界大戦中の1945年、さらなる増殖を引き起こす事件が起きる。ベルリン近郊のシュトラウスベルクにあった毛皮ファームに爆弾が落ちたのだ。そのとき工場敷地から逃げ出したアライグマは、現在に至るまでベルリンやその周辺のブランデンブルク州で増え続けている。ベルリンはいまやアライグマだらけで、「欧州のアライグマ首都」と呼ばれるほどである。

アライグマは見た目は愛嬌があるけれど、人の住んでいるところへもやって来て建物の中に入り込んで寝ぐらにしたり、畑を荒らしたりするので、なかなかやっかいな生き物である。回虫や狂犬病媒介のリスクもある。多種多様な動植物を捕食するので、在来生態系への影響もかなり懸念されているが、外来種として駆除するべきか、すでに定着した野生動物として扱うべきか、ドイツでは意見が割れている。駆除して個体数を減らすと、その分たくさん子どもを産んで盛り返して来たり、安全なエリアを求めて移動し、結果として生息範囲が広がるなど、逆効果な面もあってなかなか減らない。ベルリン市内ではアライグマをいったん捕獲して不妊手術をし、再び放つという取り組みをする市民イニシアチブが始まったが、効果のほどはまだわからないらしい。

どのような対策を取るにせよ、全国のアライグマ繁殖状況を把握することが重要だ。そこで、アライグマを含む外来種の痕跡を見つけた市民がアプリを通して報告するシチズンサイエンスプロジェクト、ZOWIACが立ち上がった。

私たちが家の近くに設置しているトレイルカメラも頻繁にアライグマの姿を捉えている。散歩の途中にアライグマのトイレと思われる場所を目にすることもよくある(汚いので画像は自粛)。昼間、目にすることはほとんどないが、アライグマは身近にたくさんいるようだ。私もアプリをダウンロードし、ZOWIACプロジェクトに参加することにした。よーし、これからどんどん報告するぞー!

ところがその矢先、予想していないことが起こった。なんと、我が家のガレージにアライグマが侵入した。報告第一弾は自分の家に出没したアライグマということになってしまったのである。

 

抜き足、差し足、忍び足。その姿はまるで泥棒。目の周りの黒い毛が目隠しのようで、泥棒感をさらに演出している。思わず笑ってしまう。しかし、笑ってる場合ではないことがまもなく判明する。

夜になりガレージから出たアライグマは庭に出て、木にぶら下げてある鳥の餌のファットボールに手を出した。さらには、餌台によじ登って中に入り込み、鳥たちの食べ残した餌を平らげてしまった。

 

アライグマは木登りの天才で、どんなところにもよじ登るらしい。庭には野鳥観察のためにカメラを複数設置してあるのだが、それらに映ったアライグマの器用さと大胆さは驚くばかりである。さあ大変なことになった。野鳥の餌はあくまで野鳥のためのものなので、アライグマに食べ尽くされてしまうわけにはいかないのである。この日から夕方まで残った餌は片付けてから寝ることにした。

でも、これはまだほんの序の口だった。本当の悲劇はこの数日後に起こった。

過去記事に書いている通り、我が家の庭には野鳥のためのカメラ付き巣箱を設置してある。野鳥の営巣や子育ての様子をリアルタイムで観察するのが春の大きな楽しみなのだ。今年は初めてアオガラが巣作りをし、10個の卵を産んだ。ヒナが孵るのを今か今かとワクワクして待ち、ついに元気いっぱいなヒナたちが生まれたところだった。親鳥が夫婦でせっせと巣に餌を運ぶ姿を微笑ましく見ていたのだ。

それなのに、、、、。

ヒナが生まれて3日目の朝、カメラを覗くと巣に異変が生じていた。そこに母鳥の姿はなく、巣が荒れている。ヒナ達は横たわり、動かない。一体、夜の間に何があった?

過去にさかのぼって録画を再生したところ、そこには衝撃的なシーンが記録されていた。アライグマが巣箱の中に手を入れ、母鳥を捕まえて食べてしまったのだ。ショッキングな映像なのでここには貼らないが、よく動く、あの人間のような手が親鳥に伸びた瞬間、耐えきれず悲鳴を上げてしまった。ああ、なんということだろう。

もちろんアライグマだって野生動物、本能に従って行動しているだけだ。残酷なようだけれど自然とはそういうものだと言われればそうに違いない。でも、やっぱりショック。アオガラのヒナ達が元気に巣立つ姿を見たかったのに。さらに腹立たしいことには、隣の奥さんに事件について話すと、「うちも鳥の巣を3つも荒らされた」という。そして、斜め向かいのお宅でも、、、。連続野鳥キラーである。恐るべしアライグマ。

このような理由で今年の春の野鳥営巣観察は悲しい結末となってしまった。とても残念。でも、これまでその生態をほとんど知らなかったアライグマを身近で観察する機会が得られたのは、それはそれで一つの収穫と言えるかもしれない。そう思うしかない。

 

 

 

 

前回の記事の続き。

せっかくはるばる自然保護区ベルトリングハルダー・コークまでやって来たからには、できるだけくまなく保護区を見て回りたい。自転車を車に積んで来たので、保護区内をサイクリングすることにした。

地図に入れた紫のラインが今回のサイクリングルート。ホテルArlauer Schleuseを出発し、北回りでだいたい25kmくらいかな。カオジロガンの群れのいる見晴らし台Aussichtturm Kranzを通り過ぎ(カオジロガンの群れについては前記事の通り)、1kmくらい進んだところで左に曲がり、Lüttmoordammという舗装された道を海に向かって真っ直ぐ走る。

この写真は翌日に撮ったので曇っているが、サイクリングをした日は快晴で気持ちがよかった。

真っ平らなので、野鳥に興味がなければ単調な景色に感じるかもしれない。しかし、至るところにいる野鳥を眺めながら、自転車を走らせるのは最高なのである。三角形をした保護区の北西側に広がる湿った草地や淡水池、塩沼にはたくさんのシギがいた。

エリマキシギ (Kampläufer)

オスのエリマキシギ。繁殖期のオスの体の模様にはいろいろなバリエーションがある。首の後ろの羽を襟巻きのように広げて求愛行動をおこなう。残念ながら、広げている姿は見られなかった。

オグロシギ (Uferschnepfe)。草地の地面に巣を作る。

タゲリ(Kiebitz)の姿もあちこちで見られた。

周囲の色と一体化していて、よく見ないとわからないものも。

ミヤコドリ(Austernfischer)。

ソリハシセイタカシギ (Säbelschnäbler)

ここにもたくさんのカオジロガンが。

こちらはコクガンの一種であるネズミガン(Ringelgans)。

ツクシガモ(Brandgans)

巣で抱卵中のガン。

ハイイロガンのヒナはすでにたくさん生まれていて、家族連れで歩いているのをそこらじゅうで見た。

保護区内ではウサギもたくさん駆け回っている。

リュットモーアダムを先端まで行くと、保護区のビジターセンターがあり、ベルトリングハルダー・コークの生態系やその保護についての展示が見られる。

ビジターセンターを見た後は、すぐ前の堤防に上がってみた。

堤防からは海へ線路が延びている。

干潮時にしか利用できないこの線路はHalligと呼ばれるワッデン海特有の小さな島へと続いている。高潮時の海面からわずか1メートルほどの高さしかないHalligが、ワッデン海には10つある。

ハリク、ノルトシュトランディッシュモーア(Nordstrandischmoor)。この小さな島はかつて、シュトラント島というもっと大きな島の一部だった。1634年に起きた高潮によってシュトラント島は海に沈み、ノルトシュトランディッシュモーアはかろうじて残ったその断片なのだ。盛土がされた場所にいくつかの建物が見える。わずかながら人が住んでいて、学校もある。ドイツで最も生徒の少ない学校だそう。

さて、サイクリングを続けよう。

堤防を南に向かって走ると、左手には塩沼に縁取られた塩湖が広がっている。その南側は立ち入り禁止の野生ゾーンだが、その縁を徒歩または自転車で通ることができる。出発地点に戻る途中にはさまざまな景色があり、いろいろな野鳥がいた。

ヨーロッパチュウヒ (Rohrweihe)

 

ヨシキリ(Schilffrohrsänger)

ツメナガセキレイ (Schafstelze)

タゲリ(Kiebitz)とツルシギ(Dunkelwasserläufer)

姿を見たけれど写真撮れなかった野鳥や声を聞いただけの野鳥もたくさんいて、正味1日半の短い滞在だったけれど、大満足。次回はぜひ、ハリクのいくつかを訪れたい。

 

 

 

 

野鳥を見に、ワッデン海国立公園へ行って来た。ワッデン海はオランダからデンマークまで続く世界最大の干潟を持つ沿岸地域で、その特殊環境はユネスコ世界遺産に登録されている。そのうち、ドイツの沿岸にあたる部分はニーダーザクセン・ワッデン海国立公園、シュレスヴィヒ=ホルシュタイン・ワッデン海国立公園、ハンブルク・ワッデン海国立公園という3つの国立公園から構成されている。ワッデン海へ行くのはこれが2度目。こちらの記事に書いたように、前回はニーダーザクセン・ワッデン海国立公園を訪れた。夏の終わりで渡鳥のシーズンにはまだ早かったにもかかわらず、たくさんの野鳥を見ることができて大感激し、次に来るときには野鳥の種類が特に多くなる春にしようと決めていた。

今回目指したのは、シュレスヴィヒ=ホルシュタイン・ワッデン海国立公園のベルトリンクハルダー・コーク(Beltringharder Koog)。港町フーズム(Husum)から北西におよそ15kmのところに位置している。ベルトリンクハルダー・コークに限らず、ワッデン海沿岸には地名にコーク(Koog)とつく場所が多くある。聞く慣れない言葉だが、潮の満ち引きの影響で時間帯によって冠水したり陸地になったりする地形、つまり塩性湿地という意味だと知った。

ベルトリンクハルダー・コークは堤防によって海と隔てられた自然保護区で、塩湖や淡水池、塩沼、湿った草地など異なるゾーンから成る。その環境の多様性ゆえに、さまざまな野鳥がここに集まるのである。

現地で入手したパンフレットの地図。環境ゾーンが色分けされている。

今回の2泊3日の旅行ではバードウォッチングに集中したかったので、ベルトリンクハルダー・コーク唯一のホテル、Hotel Arlau-Schleuseに泊まった。抜群のロケーションで、部屋も快適。

 

ホテルのすぐ前の堤防に上がると湿地が広がっている。

ホテルから堤防に沿って北にわずか数分歩くと、Aussichtsturm Kranzと呼ばれる見晴らし台が立っている。到着した日、見晴らし台に登り、辺りを見渡して驚いた。なんとそこにはおびただしい数のカオジロガンがいたのだ。

一体何羽いるんだろう?

カオジロガンたちは堤防を挟んで海側の湿地と畑を行ったり来たりしているようだった。

 

頭の上を黒いベールが風に乗って通り過ぎていくかのようで、圧倒される。

Zugvögel im Wattenmeer – Faszination und Verwantwortung“(タイトルを訳すと、「ワッデン海の渡鳥 〜 その魅力と私たちの責任」となる)という資料によると、カオジロガンは真冬の間は沿岸よりもやや内陸で過ごし、ワッデン海の塩沼には植物が豊富になる3月の終わりにやって来る。そこでお腹いっぱい食べてエネルギーを蓄え、4月の終わりから5月にかけて旅立ち、ノンストップで繁殖地である北極圏のカニン半島へ移動する。ちょうどシーズンなので今回見られるかもしれないとは思っていたが、ここまで大きな群れとは想像していなかった。これを見られただけで、来た甲斐があった。

お腹が丸々しているのはたっぷり食べている証拠

カオジロガンはドイツ語ではWeißwangengans(直訳すると「白い頬のガン」)またはNonnengans(「修道女ガン」)と呼ばれる。修道女と言われると、確かにそんな風に見えなくもない。

野鳥天国ベルトリングハルダー・コークで見られるのはもちろんカオジロガンだけではなく、今回のわずか1日半の滞在中にいろいろな野鳥を見ることができた。それについては次の記事に記録しよう。

 

(おまけ)ホテルの朝食。ドイツの朝食は一般的にはパンとハム、チーズだけれど、海辺ではお魚もあるのが嬉しい。

 

 

野鳥の繁殖シーズンが今年もやって来た!2020年の春、庭のナラの木に初めてカメラ付きの巣箱を設置してから、2020年2021年2022年と3年連続でシジュウカラの子育ての様子を観察することができた。ヒナたちが無事に巣立つこともあれば、いろいろなハプニングで悲しい結果になることもあり、毎年ハラハラである。今年は3月にエジプト旅行に出かけていたので清掃した巣箱を木に戻すのが少し遅くなってしまい、3月31日にようやく設置。すると、すぐさまにアオガラが巣材を運び入れ始めた。他の年も、最初に巣箱に入るのはいつもアオガラだった。しかし、ほんのわずかのコケを運び入れた後、そのまま放置し、いつ本格的に営巣を始めるんだろうと思っているうちにシジュウカラがやって来て巣箱を占領するというのがいつものパターン。だから、今年もそうなるのでは?

 

と思ったら、今年は最初から本気モードで、わずか半日で基盤がおおかたできてしまった。手慣れたものである。ここまで進めたのなら、もう中断はしないだろう。今年は初めてアオガラの子育てが観察できそうだ。

 

メスの作業中、パートナーのオスと思われるアオガラも頻繁に巣箱を訪れている。でも、ちょっと不思議なのである。オスが来るとメス(アオガラのアオちゃんと名付けた)は食べ物をねだって口を開けるが、オスは食べ物を見せるだけで食べさせないのだ。見せるだけ見せて巣箱の出口に戻る。それを数回繰り返す。これはどういうことなんだろう?まるで、食べ物で釣ってアオちゃんを巣箱の外におびきだそうとしているかのよう。このような場面がなぜか数日間に渡って繰り返し見られた。

 

営巣開始から11日目にカメラの映像を見ていると、大変なことが起こった。アオちゃんが巣にいるところにまたオスがやって来た、と思いきや、2羽の間で激しいバトルになったのだ。ということは、やって来たアオガラはパートナーのオスではなく、別のメス???アオちゃんは床にねじ伏せられ、大ピンチ!

実は去年のシジュウカラの営巣では、メスが巣を留守にしている間にクロジョウビタキが巣に侵入し、戻って来たシジュウカラのメスが怒って激しく攻撃した結果、侵入者のクロジョウビタキが命を落とすという事件があったのだ(そのときの記録はこちら)。そんなことがあったものだから、また死闘を目撃することになるのではと焦ったが、格闘の末、1羽が巣箱から出て行き、決着がついたようだ。勝者がどちらなのか、映像からははっきり判断できないが、巣に残ったのはアオちゃんの方であると信じたい。でも、もしかしたら乗っ取りかもしれない。すごく気になる、、、。

 

その翌日、巣に残ったメスは卵を一つ産んだ。口移しで食べ物をくれそうでくれないオスといい、前日のバトルといい、いろいろ謎が残るのだが、めでたく卵が産み落とされたことだし、便宜上、卵を産んだこのメスがアオちゃんだという前提で記録を進めたい。

 

卵の数は毎日1つづつ増えていき、10日後に10つになった。すごいすごい。

 

そして、いよいよ抱卵モードに!ヒナが孵るのが楽しみである。どうか途中でハプニングがありませんように。

 

(続く)