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今回まとめるのは余市市から積丹岬へのドライブについて。積丹半島の地形も小樽周辺同様に海底火山活動によって形成されている。つまり、今回の記事は前回の記事「小樽の地形と石と石像建築」の続き。

忍路湾から再び国道5号線に戻り西へ向かうと、余市川を渡ってすぐの入船町に余市漁港がある。その漁港には「太古の岩」と呼ばれる岩礁があるという。

 

目的の岩礁は思ったより目立たず、どこにあるのかとしばらくウロウロし、ようやく駐車場の横に柵で囲まれた「太古の岩」の看板を見つけた。

余市漁港は溶岩とその砕屑物によって形成された岩盤の上に造られている。漁港を造る際、この岩礁を「太古の岩」として残し、保存することになった。マグマが流れた跡が縞模様として残る流紋岩の岩礁だ。漁港のすぐ背後に迫るモイレ山もまた流紋岩でできている。

近づいてみると、マグマの流れを表す縞模様(流理構造)がはっきり見られる。

捕獲岩もみっけ!

こういうのを見ると、石って本当にタイムカプセルだなあと思う。

さて、次の目的地は白岩町の白岩海岸だ。


現在は閉鎖されている旧ワッカケトンネルの上の崖に、白岩海岸の名前の由来である真っ白な岩が見える。その上には重々しい灰色の岩が乗っかっている。そのコントラストがすごい。

白い地層は軽石や火山灰が堆積して固まった凝灰岩で、

その上の岩体はハイアロクラスタイト。このような異なる2つの岩体が重なった構造になったわけは、それぞれのもととなったマグマの種類が違うからである。(下部の白い岩体は流紋岩マグマ由来で、上部の灰色の岩体は安山岩マグマ由来。)同じマグマでも種類によってこんなに見た目が全然違う岩になるんだなあ。

 

白岩海岸は海側にもまた、目を見張る景色が広がっている。

恵比寿岩(左)と大黒岩(右)。合わせて夫婦岩。大黒岩の上には鳥居がある。

浅瀬にそそり立つ2つの奇岩。これらは火山円礫岩という礫岩でできている。海底火山活動によってできたハイアロクラスタイト(水中砕石岩)が崩れて流れ、水の作用を受けて丸くなり、それらが再堆積したものという理解でいいのかな。

小樽から余市までの海岸は景勝地のオンパレードで、1箇所1箇所見ていたら時間がいくらあっても足りない。でも、せっかくここまで来たからには、積丹ブルーが見たい。さらに積丹岬まで足を延ばそう。

積丹岬の駐車場に車を停め、積丹岬自然遊歩道を歩くつもりだった。ところが、、、、。

クマ出没で遊歩道は閉鎖されていた!ショック。今年は北海道全域でヒグマの出没が多発しているようで、この後に訪れたあっちでもこっちでも遊歩道が閉鎖され、行動が制限されることになった。私は野生動物が好きでアニマルトラッキングもやっているけれど、さすがにヒグマ出没エリアに足を踏み入れるのは危なすぎる。残念だけれど、遊歩道ハイキングは諦めよう。駐車場のすぐ近くの島武意海岸展望台へは「クマに注意しながら」なら、行っても良いらしい。クマ鈴をつけて展望台へのトンネルを潜った。

展望台に出たが、なんとここにもロープが張られ、海岸へは降りられないようになっている。ああ、残念。

クマのせいで、上から眺めるだけになってしまったが、積丹岬はさすが日本の渚百景の一つ、碧い海と岩々の織りなす絶景は息を呑む美しさ。この日は曇っていたけれど、晴天だったらどれほど鮮やかだろうか。

海から突き出す屏風岩。屏風を立てたように見えるからそう呼ばれるそうだが、この不思議な形は一体どうやってできたのだろう。これは海底火山が形成されたときにマグマの通り道だったところ、つまり岩脈で、その後火山体は海底で侵食されてなくなり、岩脈だけが隆起した。マグマの上昇は繰り返し何度も起こったので、複数の岩脈が重なっている。

積丹の海岸は本当にダイナミックだ。でも、積丹半島にあるのは海岸だけではない。実は、積丹半島では「積丹ルビー」と呼ばれる石が採れるという、気になる情報を入手していた。積丹ルビーは「ルビー」とつくけれど実際にはルビーではなく、菱マンガン鉱(ロードクロサイト)というもので、ピンク色をしており、質の良いものは半貴石として取引されているそうだ。

菱マンガン鉱は積丹半島のどこで見つかるのだろう?調べてみると、菱マンガン鉱は別の名を稲倉石といい、今は閉山した稲倉石鉱山で採取されていたとわかった。そこで、稲倉石鉱山跡へ行ってみることにした。

これが結構な奥地で、草木が生い茂る真夏に鉱山跡付近に辿り着くだけでも冒険だった。

やっと辿り着いた稲倉石鉱山跡の入り口。

はるばる来たけれど、日が暮れて来たし、誰もいない山の奥でクマが出て来そうで怖い。これ以上進むのは危ないからやめておいたほうがいいだろう。せめて地面に落ちている石の中に菱マンガン鉱が混じっていないかなあ。

薄いピンク色の結晶のある石がいくつか見つかった。これ、菱マンガン鉱かなあ?それとも別の石?

 

積丹半島、まだまだ見どころがたくさんありそうだけれど、行きたい場所、見たいもののリストは長い。次に進もう。

 

この記事の参考文献:

北海道大学出版会 『札幌の自然を歩く 第3版 道央地域の地質あんない

北海道大学地質学会北海道支部 『北海道自然探検 ジオサイト107の旅

前田寿嗣著『行ってみよう!道央の地質と地形

 

これから3回に分けてニーダーザクセン州オスナブリュック近郊の自然公園、TERRA.vitaの見どころを紹介しようと思う。正確にはTERRA.vita Natur- und Geopark(テラヴィタ自然・地質学公園)という名称で、オスナブリュック市を中心に北西から南東に斜めに広がる約1550㎢の大きな自然公園だ。6つのエリアを包括し、見どころがたくさんあるが、特に地質学的に面白い場所が多いようでUNESCOグローバルジオパークに登録されている。

公園内の3つのスポットを訪れた。今回紹介するのはオスナブリュック市郊外にあるピースベルク(Piesberg)という山とオスナブリュック産業博物館だ。なぜピースベルクへ行こうと思ったのかというと、石炭紀の化石が拾いたかったから。当ブログで何度も書いているように、私と夫は最近、化石収集にハマっていて、ドイツ国内のあちこちの地層から出る化石を集めている。これまでにデボン紀から古第三紀までの地質時代の化石を拾ったが、石炭紀のものはまだ持っていなかった。オスナブリュックのあたりは約3億年前、つまり石炭紀には海岸沿いの湿地帯だった。やがてその一帯の植物は枯れて地中に堆積し、石炭となった。だから、ピースベルクからは石炭紀の植物化石が出る。以前、訪れたエッセン市のルール博物館であまりに見事な石炭紀の植物化石の標本を目にして以来、石炭紀の化石は私にとって憧れである。

ピースベルクへの山道を車で登るとオスナブリュック産業文化博物館というのがあったので、入ってみた。

 

 

博物館の建物はかつての炭鉱の建物で、パッと見たところ建材は私の住むブランデンブルク州では見かけないものだ。色や質感から推測するに、砂岩のようだ。後で知ったところによると、ピースベルクでは石炭だけでなくピースベルク砂岩という砂岩も採掘されて来たらしい。

博物館の中には過去150年ほどのオスナブリュックとその周辺地域の産業に関連する展示品が並べられている。蒸気機関のような大型機械から家電、工具、工場の設計図などいろいろなものがあって楽しめる。

建物の内壁には漆喰が塗ってあるのだけど、展示の一要素としてなのか、中の建材がむき出しになっている壁があった。立派な外観の建物なので、中のブロックは整然と積まれているのだろうとなんとなく想像していたけど、いろんな種類と大きさの石材が結構無造作に積んであって意外だ。こういうものなんだろうか?

炭鉱に関する展示にはかなりのスペースが割かれていて、炭鉱で見つかった植物化石の標本もあった。そうそう、こういうのが好きなんだよね。

博物館の展示スペースはかなりの広さだが、この博物館の目玉はかつての坑道内を歩けること。

こういう地下道、大好き!

この坑道はよく整備されてそれほど暗くもなく、今までに入ったことのある坑道と比べて特にスリリングというわけではないかなあ。でも、長さは30メートルもあって、その点では歩きがいがある。

興味深く思ったのは坑道内にあったこの図で、石炭の層は山の斜面に沿って何層もあり、ところどころ断層ができていることがわかった。私が歩いている坑道は一番上の石炭の層から採掘した石炭を地上に運び出すための水平のトンネルというわけね。

 

博物館の敷地はかなり広く、他にもいろいろ見どころがある。でも、ここでは省略して、いよいよ炭鉱跡へ行ってみよう。

 

道路を渡って山を登り出すと、石炭を運ぶトロッコ列車のレールが延びている。レール沿いに山を登って行く。

うわ、面白い風景!

石炭の層が見えるー!さっきの図で見た通り、層が斜めになってるね。

しばらく登っていくと傾斜が急になり、長い階段があった。「地質時代の階段にようこそ」と書かれていて、それぞれの地質時代に典型的な生き物が描かれている。階段はそれぞれの地質時代の長さに応じた段数で色分けされていて、階段を上がりながら地球の歴史を体感できるというコンセプトのようだ。でも、急な階段なので普通に登るだけで結構疲れて、「おっ、今は石炭紀を進んでいるな」とか感慨に浸ってもいられなかったけど、、、、。

階段を登り切ると、そこには大きな風車が立っていて、そのふもとには「化石集め場」が設けられていた。児童公園の砂場のような感じで、一瞬がっかり。ここじゃたいした化石は見つけられないなあ〜。

山の裏側を見下ろすと、大きな石切場が見えた。現在も砂岩の採掘が行われている石切場で、一般人は許可なく入ることはできない。夫は「ああ〜、あそこに絶対いい化石があるはずなのに!」と悔しがっている。実を言うと、この石切場での化石エクスカーションに参加する予定があったのだ。コロナを理由にエクスカーションがキャンセルになってしまったので、せめてその周辺で化石が拾えないかと考えてここまで来たのであった。

まあ、悔しがったところでしかたがないと気を取り直して、地面に撒かれた石の中を見てみる。すると、子どもだましの体験コーナーだとバカにした石捨て場は植物化石だらけ。侮れないのである。石切場から定期的に新しい石を運んで来るんだろうね。そこそこ大きいものもあるし、悪くない。でも、小さい子どもが熱心に化石集めをしている中で大の大人が大量に持って帰るわけにはいかないから、小さいものを少しだけにしておこう。

石炭の地層を見て触れて、化石も拾えるジオパーク。この日は動いていなかったが、通常はレールを走るトロッコ列車に乗ることもできるそうだ。オスナブリュックの市内からも遠くなく、家族連れにもぴったりの観光スポットだ。

 

 

先日、ノルトライン=ヴェストファーレン州のジーゲンを訪れる機会があった。ジーゲンを中心とする一帯はジーガーラントと呼ばれる。雨の多い地方で、その日も小雨が降ってややジメッとしていた。ジーガーラントにはスレート屋根の街並みが美しいフロイデンベルクやクロンバッハ醸造所のあるクロイツタールなどの見どころが知られているが、ジーゲンの町にはどんな面白いものがあるのだろうか。簡単なリサーチの結果、ジーガーラント博物館(Siegerlandmuseum)へ行くことにしよう。

ジーゲンの旧市街は丘の上にある。駅から坂道を登って行き、登りきったところにあるお城(Oberes Schloß)の中に博物館がある。(注意 Oberers SchloßとUnteres Schloßの二つのお城がある)

門の奥に見えるのが博物館入口

ジーガーラント博物館はカテゴリーとしては郷土博物館だけれど、4階建てで思っていたよりも内容が充実していた。ジーゲンの町の歴史やジーガーラントの炭鉱史に関する展示の他、ルーベンスの絵画ギャラリーもあり、また、現在はファン・ダイクの特別展示を開催中である。一通り見たが、美術関係の展示は写真撮影不可ということもあり、この記事では私が重点的に見たジーガーラントの炭鉱史に的を絞って紹介したい。

ジーガーラントの鉱山業の始まりは約2500年前に遡る。紀元前600年頃、この地方に定住しラ・テーヌ文化を開花させたケルト人がすでに鉄鉱石を利用していたことを示す記録がある。鉄器の製造に使われていたケルト人の窯も見つかっている。

15世紀に火薬が発明されたことで坑道が掘られるようになり、19世紀の産業革命期にはジーガーランドは欧州で有数の鉱山業及び製鉄業の拠点となった。鉱山は1965年に全て廃坑となったが、 金属加工業は今なお地域を支える重要な産業だ。

様々な鉱石を使って作った鉱山のモデル

ジーガーラント博物館では鉱業に使われた道具や機械、鉄鉱石の採掘時に一緒に掘り出された様々な鉱物が展示されている。

坑夫の使っていた手持ちランタン

ドリル

製鉄に使われた送風機(1840)

「放蕩息子の帰還」の描かれた窯の外板

博物館の地下には体験坑道もある。

おおっ。いい感じ!足元が滑りやすいので危険が全くないわけではない。見学したい人は自己責任で、と貼り紙がしてあった。地下に潜るのが好きなのでもちろん降りて行く。深さは地下14メートル。

平日の午前中だったせいか、見学者は私だけ。貸切状態だ。

体験坑道は100メートルほどの長さなので、あっという間に終わってしまった。本物の鉱山をいくつも見学して来た私としてはちょっと物足りなかったかな。

他の展示室も面白く、ルーベンスの間では特に「ローマの慈愛」が印象的だった。

 

 

 

まにあっく観光マップの第8段が完成した。今回作ったのは「ドイツ観光鉱山・鉱業マップ」だ。古くから鉱山業の盛んなドイツには鉱山業に関する博物館がたくさんある。また、現在は採掘が行われていない旧鉱山の多くが観光鉱山として整備されている。観光鉱山では坑道を歩き、内側から観察することができる。炭鉱から銀・銅鉱山、貴石鉱山など、種類もとても豊富だ。全国に一体どのくらいの数があるのだろうか?とふと思い、マッピングすることにしたが、その多さは想像を超えていた。

観光鉱山と鉱山業博物館を登録したけれど、両者を厳密に分けるのは難しかった。観光鉱山が博物館を併設しているところ、博物館の一部として鉱山を見学できるところ、鉱山とは独立した博物館、技術博物館の一部に鉱山業の展示があるところなど様々だ。観光鉱山を併設しない博物館と展示がメインのスポットは博物館アイコン、それ以外は炭鉱アイコンで表示。例によって、赤色は私がこれまでに訪れたスポットだ。

カテゴリーは採掘される資源の種類別に「石炭・褐炭・石油・天然ガス」「金・銀・銅」「塩」「粘板岩」「石灰石・チョーク・砂岩」「鉄」「その他の鉱石(スズ、亜鉛、鉛、コバルト、ニッケル、黄鉄鉱、ウラン、石英、石膏、蛍石、マンガン、黒鉛、アメジストなど)」「鉱業全般」の8つ。

カテゴリーごとに表示すると、ドイツにおける特定資源の分布がわかる。たとえば炭鉱があるのは、ルール地方やハルツ地方(主に石炭)、ラウジッツ地方(褐炭)、南バイエルン(ピッチ炭)。

アイコンを押すと、そのスポットの画像が出るので、観光鉱山ってどんな感じ?と気になる方はいろいろ押してみてね。この画像は南バイエルンの風光明媚な避暑地、ベルヒテスガーデンの岩塩坑のもの。ここは私が一番最初に見学した観光鉱山で、トロッコにまたがって坑道を滑り台のように滑り降りるという体験がとてもエキサイティングで気に入った。そもそも私はこれがきっかけで観光鉱山が好きになったのだ。

こちらはベルリン近郊の石灰石採掘場がオープンエアミュージアムになったMuseumpark Rüdersdorf。ここではパーク内で石灰窯などの設備や展示がみられる他、隣接する石切場をジープで回るツアーもある。さらには化石採集もできるという充実ぶりだ(見学記録はこちら)。

そしてこちらは、最近行って来た宝石の町、イーダー・オーバーシュタイン近郊にある貴石鉱山 Edelsteinminen Steinkaulenberg(記事はこちら)。

 

この通り、ドイツの観光鉱山はよりどりみどり。地下道や洞窟を歩く鉱山見学は冒険っぽくてそれ自体が楽しいのだけれど、実は鉱山はいろいろなものの要となる分野でもある。人類の歴史は資源獲得・活用の歴史でもあったわけで、鉱山は技術史や政治史、社会文化史に繋がっている。そして、地下を掘れば化石が出て来たり、遺跡が出て来ることもあるので古生物学や考古学とも大いに関係があるのだ。

と、こう書いても鉱山の魅力は伝わりにくいかもしれない。少しでも楽しさを知ってもらえたらいいなあと思い、ポッドキャスト「まにあっくドイツ観光裏話」で鉱山の何がどういう風に面白いかを語ってみたので、よかったら聴いてください。

まにあっく観光裏話 7 鉱山は面白い