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前回の記事では、オサ半島ラ・タルデでのナイトハイクについて書いた。エコロッジ、Ecoturistica La Tarde(略してELT)に滞在中は、もちろん昼間も一次林のトレイルやロッジ周辺の二次林を歩き回った。

昼間のジャングルは色鮮やかだ。

熱帯アメリカ原産の植物といえば、代表的なのはヘリコニア(オウムバナ)。コスタリカには35種以上のヘリコニアが生育する。その色やかたちは実に様々。でも実は、花のように見える鮮やかな色をした部分は実は花ではなく、苞と呼ばれる特殊化した葉で、花はその中に入っている。

ヘリコニアは主なポリネーターであるハチドリと共進化して来た。ハチドリもとても多くの種がいるが、決まった種のハチドリが決まった種のポリネーターであるそうだ。

Palicourea elata

この真っ赤な花弁を持つ植物の名は「娼婦の唇(Whore´s lips)」。これにもいろんな種類があるらしい。薬効があり、コスタリカの先住民族が伝統的に利用して来た。

あまりにいろいろな植物が生えていて、植物の知識がほとんどない私は、ガイドさんから聞いたことのうち、一部を記憶するだけで精一杯。ガイドツアーを重ねていけば、少しづつ、植物の世界にも入っていけるだろうか。

ジャングルにおいて、圧倒的な存在感で迫って来る最も印象深い木の一つは「締め殺しの木」だろう。他の木に巻きついて成長するつる植物で、最終的には宿主の木を枯らしてしまうのだ。主にイチジク属で、英語ではStrangler fig(締め殺しのイチジク)と呼ばれる。宿主の木の上に鳥が落としたイチジクの種が発芽し、下へ下へと伸びる根は、互いに絡まり合体して太くなり、幹となって宿主を覆い尽くす。

 

宿主の木がすでに消滅した巨大な締め殺しのイチジク。すごいなあ、、、。

 

ガイドのジョセフさんは、私の要望に応えてアニマルトラックを探すのにも連れて行ってくれた。

水場を歩くときにはゴム長靴必須。

アグーチの足跡

 

「ジャングルでは、匂いの情報がとても重要です。歩いていると匂いがどんどん変わります。ほら、この匂い。わかりますか?」

そう言われてみると、さっきまで植物の良い香りがしていたと思ったけれど、なんだか急に獣くさい匂いがする。「これはペッカリーのフェロモン。ペッカリーは強烈な臭いのフェロモンを出すので、すぐわかるんですよ」

ペッカリーの噛み跡

ガイドさんに案内して貰えば説明を受けられて良いけれど、ロッジの周辺はガイドなしで散策することもできる。私と夫は小さな滝のあるところまで歩くことにした。すると、ジョセフさんが「滝まで行きます?いいけど、滝の近くにガラガラヘビがいるんですよ。昼間はとぐろを巻いて寝ていますが、猛毒なので気をつけて」と言う。ガラガラヘビぃ?気をつけてと言われても、どう気をつければいいの?

「僕が先に行って、ガラガラヘビのいる場所をマーキングして来ますよ」と言いながら、ジョセフさんは出かけて行った。「ビニール袋を結びつけて来たから、すぐわかると思います」

手間をかけてもらったけど、私はガラガラヘビのいる場所にはさすがに行きたくない。ハイキングは別のルートにしようと夫を説得した。しかし、別の道を知っていると言うからついて行ったのに、「あれ?道を間違えた。来るつもりなかったのに滝の方に来ちゃった」。

滝の手前にはジョセフさんによるマーキングがあった。

あの下にガラガラヘビが?うう、、。近寄りたくない。これ以上は一歩も進みたくない。でも、ガラガラヘビの姿は一目見たい気もする。その場でカメラを構え、思いっきりズームで撮った写真がこちら。

ミナミガラガラヘビ (Crotalus durissus)

いる、、、、。怖い。写真を撮ったら即座にUターンし、来た道を戻った。去年、北海道旅行をしたときには、あちこちにある「ヒグマ出没!」の看板にビビっていたけれど、ここではヒグマの心配をしなくてもいい代わりに毒ヘビに気をつけなければならない。ネイチャーガイドさん達は毒ヘビを発見したらマーキングし、互いに情報交換をしているようで、旅行者が毒ヘビに噛まれるケースはごく稀だそうだが。

トレイルにはこんな張り紙がしてあった。「我々は、誇りを持って絶滅の危機にあるブッシュマスター(Lachesis stenophrys)を保護しています。見つけた方はご一報くださいますようお願い致します」。ブッシュマスターはコスタリカに生息する毒ヘビの中で最も猛毒のヘビだ。噛まれたら、まず助からない。絶滅の危機に瀕しているくらいだから、遭遇することはほぼないだろうけれど、、。

そう、エコトゥリスティカ・ラ・タルデのオーナーのエドゥアルドさんは、長年、ヘビの保護活動をしているのだ。ロッジの周辺にはかつてカカオのプランテーションやその他の農地だった。農家の人は、当然ではあるけれど、農地にヘビが出ることを喜ばず、見つけたら殺処分していた。エドゥアルドさんはそうしたヘビを農家から預かり、保護するようになった。エコロッジを経営する現在は、希望があれば旅行者に保護しているヘビを見せてくれる。毒のないおとなしいヘビは触らせてももらえる。

エドゥアルドさんの保護しているマツゲハブ(Bothriechis schlegelii)。これは毒ヘビなので、もちろん触らず見るだけ。

これはボア・コンストリクター (Boa constrictor)

こちらは私も持たせてもらった。ヘビの体はヌルヌルしているイメージだが、実際にはひんやりすべすべしている。コンストリクター(締め付ける者)と言うだけあって、ぎゅうっと締め付ける力がすごい。

 

さて、この後、夫はまたハイキングに出かけて行ったが、私は少し疲れたので、コテージに戻って休むことにした。テラスの椅子に座って、しば楽野鳥を眺めて過ごしていたら、なんだか蒸し暑くなって来た。風通しのよい場所に椅子の一つをずらそう。重い木の椅子を移動させて座り、ふと、椅子がもともとあった場所に目をやると、後ろの壁(というかネット)になにやらついている。遠目には大きな木製のブローチか何かに見えるが、なぜあんなところにそんなものが?

黄色い円で囲ったところに何かついている。

よく見ると、、、それは巨大なゴキブリだった。傍にあったフィールドガイドのページをめくると、同じものと思われるゴキブリが載っている。ジャイアントコックローチだって。ゴキブリの仲間としては最大級らしい。それにしても、いつからそこにいるんだろう?もしかして、私、椅子の後ろにいると知らずに座っていた?

この巨大なゴキブリ、確か、どこかの自然博物館で見たことがあった気がする。でもまさか、こんなところで実物に遭遇するとは思わなかったな。なんてことを考えながら、私はしばらくそれを観察していた。私も強くなったもんだ。初めて熱帯を旅行した20代には夜になるとホテルのバスルームに出る虫達が怖くて怖くて、夜中にはトイレに行きたくても行けずにいたのに。

タランチュラや毒ヘビのいるジャングルを歩き回った後だもん、ゴキブリくらい別にどうってことないよね。

そう思ったけど、ときどき思い出したように体をゴソゴソと動かすのを見ると、やっぱりちょっとゾワっと来る。どっか行って欲しいけど、自分でどかすのは嫌だなあと思っていたら、夫が戻って来た。

「すげ〜!」

夫もその大きさには目を丸くしていた。

 

ジャイアントゴキブリは夫が片付けてくれたのでよかった。

 

コスタリカで最もリモートな場所、オサ半島。大部分が森林に覆われたオサ半島に町らしい町はほとんどない。旅行者のためのインフラといえば、コルコバード国立公園の周辺に点在する人里離れたロッジくらいである。2015年に初めてオサ半島を訪れた際には、半島南部のカラテ(Carate)という場所に滞在したが、今回はコルコバードのロス・パトス(Los Patos)セクターに隣接するラ・タルデ(La Tarde)にあるエコロッジに滞在することにした。ロッジの名は、エコトゥリスティカ・ラ・タルデ(Ecoturistica La Tarde)、通称ELT。2022年12月に夫と息子がコルコバード国立公園を徒歩で横断した際に拠点として利用したエコロッジで、夫が周辺の環境をとても気に入った。また、その際に案内してくれたネイチャーガイドのルイスさんがベテランの素晴らしいガイドで、本当にたくさんの野生動物やその痕跡を見せてくれたので、ぜひ私を連れて行って、またルイスさんに案内をお願いしたいと、それ以来言い続けていたのである。私もとても楽しみにしていた。

しかし、四輪駆動ではなく前輪駆動の車を借りたというミスのために悪路に悩まされており、オサ半島に近づくに連れ、私は不安を募らせていた。コスタリカ中心部ですら、メジャーな観光地をちょっと離れると途端に道が悪くなるのに、オサ半島のような極地で果たして私たちの車は走れるのだろうか。

ELTはかなりの奥地にある。国道245号をゴルフォ・ドルセ湾沿いに南下し、ラ・パルマ(La Palma)という集落からは山道を登る。こちらの記事に書いたように、二日前に山道をやっとの思いで乗り越えた(運転したのは夫なので私はただ横に座っていただけではあるが)ところだったので、またあの状態になるのかと憂鬱だった。

夫は「去年も通った道だから大丈夫だ」と言う。アップダウンは多いが、道路の状態はそれほど悪くないのだと。しかし、実際にはまったく違い、山道は凄まじいほど石ころだらけだった。「おかしい。こんなはずでは」と呟きながら夫も真剣な顔になる。「前回来たときはこうじゃなかったのに。たった一度の雨季でこんなにも道路状況が変わるとは」。移動は困難を極めたが、「もう無理」と途中で諦めるわけにもいかない。あたりに民家はまったくなく、携帯の電波も届かないので、助けを呼ぶことはできないからだ。しかし、泣き言を言って真剣勝負の夫にストレスをかけるわけにもいかないので、私はひたすらおとなしくしていた。

恐ろしく長く感じた夫の格闘の末、ついに私たちはエコロッジに到着。オーナーのエドアルドさんが笑顔で迎えてくれ、本当にほっとした。(ラ・タルデへ行く人は、絶対に四輪駆動の車で行くか、事前にロッジに送迎を頼んでおきましょう

エコトゥリスティカ・ラ・タルデの入り口

夫が私を連れて行きたいと言っていたELTは、よく手入れのされた敷地内に小さなキャビンがいくつかとドミトリーが1つあるだけのアットホームなエコロッジで、私は一目で気に入った。「キャビンはすごくシンプルだよ。それだけは覚悟しておいて」と言われたようにキャビンはとても簡素な作りだが、パナマでこの宿に滞在して以来、私は自然を直に感じられる宿のファンになっているので、がっかりするどころか逆にワクワクした。

キャビンの内部。空調設備はないが、壁は下の部分のみなので、風通しが良い。

 

トイレと洗面所はキャビンの外側にあり、キャビンとカーテンで仕切られている。一応、ブリキ屋根の下なので、雨が降っても濡れることはない。

 

シャワーは完全に外でお湯は出ない。

きちんと清掃されていて、不潔感はまったくないけれど、アウトドアが苦手な人にはキツいかもしれない。水しか出ないシャワーというのは熱帯の国ではありがち。私は若い頃、東南アジアの安宿を渡り歩いていたことがあるから、水シャワーは体験済みで、これも難なくクリア。(とは言っても、お湯が出るならその方がいい)

ウッドテラス

キャビンのウッドテラスからの眺めはコルコバード国立公園へと続く広大な熱帯雨林である。地元の木材で作ったどっしりした椅子に座って森を眺める時間の素晴らしさといったら!昼間は目の前を蝶や野鳥が飛び交い、夕方になるとセミが大音量で鳴き出す。日が落ちると蛍が小さな光を放つ。そして、朝はホエザルの吠え声で目が覚める。これだからコスタリカはやめられない。

 

2月のコスタリカは乾期だが、ときどき雨が降った。熱帯雨林に降る雨もまた魅力がある。

霧の立ち込める森

ロッジの周辺にはいくつものトレイルがあり、地元のネイチャーガイドさんがその人の興味に応じたツアーを組んでくれる。トレイルについては次の記事に書くが、このロッジの敷地で過ごすだけでもとても楽しい。

私が特に気に入ったのは、入り口近くにある大きなマンゴーの木だ。

この木にはブランコとハンモックが取り付けてある。ハンモックに横になってゆらゆらと揺れながら上を見上げると、オオハシの大きな鳴き声が聞こえてくる。

オオハシの姿を探すと、いた!

クリハシオオハシ (Ramphastos swainsonii)

他にもたくさんの野鳥の姿を見ることができた。以下はその一部。

オリーブタイランチョウ (Tyrannus melancholicus)

Streak-headed Woodcreeper (Lepidocolaptes souleyetii)?

ホオグロミヤビゲラ(Melanerpes pucherani)?

オオハシノスリ(Rupornis magnirostris)

残念ながら写真は撮り損ねたけれど、とても印象に残った鳥がいる。その姿を目にしたときには、一瞬、頭が混乱した。それはあり得ないほど巨大なツバメだった。一体、あれは何?

フィールドガイドで調べると、ツバメトビ(Elanoides forficatus)というタカの仲間だった。本当にびっくりした。忘れないようにWikipediaのページを貼っておこう。

ツバメトビ

 

マヌエル・アントニオ国立公園の最寄りの町、ケポス(Quepos)を出発した私たちは、いよいよ今回の旅のメインの目的地であるオサ半島に向けて国道34号を南下した。チャカリタ(Chacarita)で右折し、国道245号に入り、ゴルフォ・ドゥルセ(Golfo Dulce)湾を回る。

オサ半島の付け根、Rincon de Osaからのゴルフォ・ドゥルセ湾の眺め

ここでまず、オサ半島(Península de Osa)とコルコバード国立公園(Parque Nacional Corcovado)についてまとめておきたい。

オサ半島は、コスタリカ南部の太平洋に突き出た半島で、その大部分が熱帯雨林に覆われている。町らしい町はなく、半島南東部にある最も大きな集落プエルト・ヒメネス(Puerto Jimenez)でも、人口は1800人に満たない。半島の東海岸沿いには道路が通っているが、西海岸は最南端部分を除いては車の通れる道路はない。このアクセスの困難さが、オサ半島が「コスタリカの最後の秘境」と呼ばれる所以だ。ゴルフォ•ドゥルセ森林保護地区から続くオサ半島の熱帯雨林のうちのおよそ4200ヘクタールが1975年に国立公園に指定されたコルコバード国立公園である。

コルコバード国立公園(画像はWikipediaより)

コルコバード国立公園は世界で最も生物多様性の高い場所とみなされており、エコツーリストや野生動物ファンにとって究極のデスティネーションだろう。公園内にはいくつかのトレイルがあるが、コスタリカの他の国立公園同様、観光客の人数を制限しており、また、認証を受けたネイチャーガイドと一緒でなければ入ることはできない。公園はいくつかのセクターに分かれており、6つのレンジャーステーション(La Sirena, Los Patos, La Leone, Los Planes, San Pedrillo, El Tigre)が置かれている。

6つのレンジャーステーションの中でも最もアクセスが困難なラ・シレナ・レンジャーステーション(La Sirena Rangerstation)は多くの人の憧れの地で、私もどうしても行きたいと思っていた。

ラ・シレナへの行き方は何通りかある。一つは、半島の南海岸に位置するカラテ(Carate)という集落から海岸沿いを歩いて公園にエントリーする方法だ。集落といっても、カラテにはロッジがいくつかあるだけで、店などはない。

まず、カラテに辿り着くだけでも相当に大変だ。首都サン・ホセからプエルト・ヒメネス(Puerto Jimenez)までは道路のコンディションは悪くないが、車やシャトルバスで5、6時間かかる。プエルト・ヒメネスには飛行場があり、コスタリカの国内線ネイチャーエアで移動することも可能だ。そこまでは良い。問題はそこから。プエルト・ヒメネスからカラテまでは半島を沿岸沿いにぐるっと回って行くか、Alfa Romeo Airという会社でセスナ機をチャーターして熱帯雨林を飛び越えるしかない。カラテまでの道路はかなり悪く、橋のない川を2度超える必要がある。2015年に初めてオサ半島を訪れた際にはセスナを選択した。私たちが乗ったセスナ機はけっこう古くて、こんなんで大丈夫なのかと離陸の際にはちょっと怖かった。

 

しかし、飛び立ってみれば、これ自体が特別な非日常体験で、恐ろしさは瞬時に吹き飛んだ。機体が一気に高度を上げると眼下に緑深いジャングルが広がった。私たちを乗せた小さな飛行機の横をコンゴウインコの群れが飛び、ジャングルを飛び越えて太平洋側の海岸沿いの滑走路を降りるとき、海の向こうに夕陽が沈んでいった。わずか7、8分の飛行時間だったが、あまりの感動でしばらく言葉が出なかったほど。

カラテ空港

このとき宿泊したのは、カラテの海岸から2kmほど内陸部に入ったLuna Lodgeというエコロッジ。オーナーのラナ・ウェドモア(Lana Wedmore)さんは米国人で、オサ半島の自然を守るため、コルコバード国立公園に隣接する土地を購入し、エコロッジを経営しながら保全活動に励んでいる。ここでは詳しいことは割愛するけれど、ルナロッジとその周辺環境は本当に素晴らしい。陳腐な表現だけれど、大自然を全身で味わうことのできる夢のような場所だとだけ書いておこう。

ちなみにラナさんは以下の映画『最後の楽園コスタリカ』にも登場する(2:00頃)。

さて、カラテからは海岸沿いを歩いてコルコバード国立公園にエントリーすることができる。ラ・シレナまではおよそ20km。

カラテの海岸

しかし、海岸はとても暑く、砂の上は歩きづらい。それに、コスタリカの太平洋側の海岸は離岸流が発生するので、満潮時は危険である。私はとても歩ききれそうになかった。それでこのときにはラ・シレナの手前にあるラ・レオーネ・レンジャーステーションまで日帰り往復するのに留めた。

ラ・レオーネ・レンジャーステーション

様々な動物の頭蓋骨が展示されている

カラテからラ・シレナまで歩くのは、体力のある人でなければ難しいということがわかった(2016年に夫と息子がコンプリートした)。でも、カラテ周辺の森や、ラ・レオーネまでハイキングするだけでもかなり楽しめる。

 

2つ目のルートは、ロス・パトス・レンジャーステーションに近いラ・タルデの集落からラ・シレナまで歩いて移動するルート。公園の縁を歩くカラテルートとは違い、ジャングルのど真ん中を突っ切るので、よりハードコアな体験になる。このルートは2022年12月に夫と息子が挑戦した。公園の北東にあるエコロッジEcotouristico La Tardeを出発点とした。後述するが、ラ・タルデも素晴らしい場所だ。

 ロス・パトスからラ・シレナへのトレイル

ラ・タルデからラ・シレナまでの移動距離はおよそ30km。ハイキングに慣れている人からすれば、それほどの距離ではないと思うかもしれない。しかし、極度の高温多湿環境の中、アップダウンの多いジャングルトレイルを30km歩くのは相当にキツいらしい。慣れている人でもラ・シレナまで最低8時間、平均だと10〜11時間かかるという。

このトレイルは雨季には通ることができない。夫らが行ったのは雨季が終わったばかりの季節で、トレイルはまだ整備がなされておらず鬱蒼としていて、さらに難易度が増した。それに、このルートは川を何度も歩いて渡らなければならない。

夜6時になれば日が落ちて真っ暗になるので、それまでにレンジャーステーションにたどり着く必要があり、休み休みのんびり歩くというわけにもいかない。どうにか歩き切った夫と息子も極限まで疲れたそうだ。でも、夫に言わせれば、まさに一生に一度の体験で、道中目にした野生動物の多さでも、これ以上の体験はまずないだろうとのこと。それを聞いて本当に羨ましく思うけれど、残念ながら私の体力では到底無理で、このルートは諦めるしかない。

アリクイ (Tamandua )

 

3つ目のルートは、半島の北西のドラケ湾(Drake Bay)からボートでアクセスするというもの。ほとんどの旅行者はこのルートを取る。今回、私たちもこのルートでラ・シレナへ行くことにした。このルートは歩かなくていいので体力を温存できるけれど、でも、ドラケ湾はかなりリモートな場所なので、まずそこまで行くのもそれなりに大変だ。シエルぺ(Sierpe)という場所から出ているボートでマングローブの林を通り、ドラケ湾まで行き、さらにそこからボートでラ・シレナに向かう。ドラケ湾には飛行場があるので、時間がなければサン・ホセから飛行機でドラケ湾に一っ飛びし、ボートでラ・シレナにアクセスすれば移動はぐっと楽になるだろう。

でも、それだとラ・シレナだけをピンポイントで訪れることになり、コルコバード国立公園の魅力を十分に味わうことは難しいのではないかと思う。一番楽な方法が一番素晴らしいというわけではなく、労力を使った分だけ深い体験ができるのがコスタリカ最後の秘境、オサ半島なのだろうね。

 

私たちは今回、ラ・シレナへの移動は3つ目のルートを選んだけれど、ラ・シレナに向かう前に2つ目のルートの拠点となるラ・タルデに数日滞在してコルコバード国立公園のロス・パトス(Los Patos)セクターの自然を楽しみ、ラ・タルデから陸路でドラケ湾へ移動した。そしてそれがまた困難の極みだった。それについては今後の記事で。

 

 

ケポス(Quepos)滞在4日目に当初の目的だったマヌエル・アントニオ国立公園 (Parque Nacional Manuel Antonio)にようやく入ることができた。

マヌエル・アントニオ国立公園は、コスタリカで最も小さい国立公園であると同時に、最も多くの観光客が訪れる国立公園でもある。入場制限をしているものの、かなり人が多かった。

公園入り口はケポスの中心部から海岸沿いに7km南下したところにある。徒歩で公園へ行けるから便利だろうという理由で私たちは入り口付近のホテルに泊まっていたが、これが失敗だった。道路を隔ててビーチに面しているのもあり、観光客でごった返していてとてもうるさいのだ。

公園入り口に並ぶ人々

入る前からやや興醒めしていたけれど、せっかく来たからにはやっぱり公園内に入りたい。列に並んで、荷物検査を受け(食べ物は持ち込み禁止、公園内に飲食スペースあり)、中に入った。

マヌエル・アントニオ国立公園が人気なのは、コンパクトな公園ながら野生動物が多いこと、海に面しているので熱帯一次林、マングローブ、海岸と変化に富んだ自然を短時間で体験できるからだろう。

野生動物の姿は実際にたくさん見ることができた。

木の上のイグアナ

オジロジカ (Odocoileus virginianus)

ただし、野生動物のいる場所には常に複数のガイドツアーのグループが固まっていて、それが数十メートルおきなので、他の国立公園や自然保護区のように自分のペースで動物を探して歩けるわけではない。

昼寝中のホエザル

特にたくさん見たのはノドジロオマキザル (Cebus capucinus)だった。

お母さんの背中に乗る子ザル

寄生虫のチェック中

そこらじゅうにいるので、間近で彼らの行動をじっくり見られて面白い。でも、ノドジロオマキザルって見た目はかわいいけれど、かなり怒りっぽいようで、すぐに威嚇する。

そして、薬草になる植物を使いこなすなど、とても頭が良いらしい。

ノドジロオマキザルはMonkey´s brushと呼ばれるこの植物を使って、毛皮の中に入り込んだ寄生虫などを除去する。

食べ物持ち込み不可なのに、スナックを持ち込んだ人がいたらしい。

 

ビーチは綺麗だけれど、荷物をその辺に置きっぱなしにするとすぐにサルに荒らされるので注意!

マングローブ林の遊歩道

マヌエル・アントニオ国立公園、一度は行っておきたかったので実現してよかったけれど、ここで見た野生動物は他の場所でも見たものばかりだったし、激混みとまでは言わないもののかなり混んでいるので、一度でいいかな。

ケポスは宿もレストランも高いし、その割に質は、、、という感じで、正直に言うとあまり好みの場所ではない。でも、眺めの良いカフェやレストランがいくつもあって、連日のハードなハイキングの後、くつろげるのはよかった。

Emilio´s Cafeからの眺め

レストラン El Avionからの眺め

 

さて、いよいよ翌日はコスタリカ旅行のハイライトとなるオサ半島に向けて出発だ。

 

 

数日来、何度か頭に浮かんでいた疑問を口にしたのは、出発から15kmほどの地点に到達したときだった。

「ねえ、どうして四輪駆動の車を借りなかったの?」

コスタリカに来て以来、私たちは連日、車でメジャーな観光地を離れたさまざまな場所を訪れていた。舗装されていない砂利道、でこぼこの道、くねくねと曲がる山道、穴の空いた道。走りやすいとは言い難い道が多かったが、このときまでは楽観視していた。

夫とロードトリップをするようになって、30年以上になる。これまでに世界の多くの国を訪れ、あらゆる悪路を通って来た。オフロード好きの夫は石ころだらけの急斜面や狭い崖の道など、都市生活をしていれば通る機会のない道を繰り返し走った。助手席の私は怖い思いをしたことが何度もある。最初のうちは「なぜこんな道を通らなければならないの」と文句も言っていた。でも、いつの間にか慣れてしまったのだ。運転が得意な夫は、どんな道も難なく走り抜けて来た。今回もきっと大丈夫だろう。そう軽く考える癖がついた。

ただ、いつもなら四輪駆動の車を借りる夫が今回借りていたのは、なぜか前輪駆動の車。いつも旅行の計画を立て、飛行機や宿の予約をするのは私だが、レンタカーだけは運転手の夫に任せている。サン・ホセのレンタカー会社で車を受け取った際、あれ、おかしいな?と思ったのだが、そのとき私は何も言わなかった。というのも、こちらの記事に書いたように、今回の私たちの旅行はハプニングに次ぐハプニングで始まっており、最初の数日はその処理に追われ、ストレスでかなり参っていた。ようやく車を借りられてほっとしたところで新たな問題提起をする気にはなれなかったのだ。

この日、私たちは滞在中のケポス(Quepos)から、25kmほど離れたロス・カンペシーノス(Los Campesinos)と呼ばれる、山間の小さな自然保護区へ向かっていた。そこでハイキングをするつもりだった。

この日も「なんとかなるさ」という気持ちで出発したが、山道を進むにつれ、道路の状態はどんどん悪くなっていく。本当にたどり着けるのだろうか?それで、とうとう口にしたのだ。「なぜ四輪駆動の車にしなかったのか」と。私の問いに夫は「予約するときにうっかりしてた。後から気づいたけど、四駆じゃなくてもなんとかなるだろうと思って、変更しなかった」と言う。えええ?

なんとかなるのか、これ?

ならないんじゃない?

難所に次ぐ難所。ただ横に座っているだけでも心臓が縮みそうだ。

結論を言うと、相当な時間をかけてソロソロと進み、どうにかこうにか目的地に辿り着くことができた。ロス・カンペシーノス自然保護区があるのはケブラダ・アロヨ村という、民家がいくつかあるだけのとても小さな集落だった。ロス・カンペシーノスとはスペイン語で「農夫達」を意味する。地元の農協メンバーのイニシアチブで一次林および二次林から成るおよそ33ヘクタールの土地が保護されるようになった。保護区内にはいくつかの小さなコテージがあり、宿泊客はさまざまな自然体験をし、持続可能な農業について学ぶことができる。ガイドツアーへの参加なしでも受付で入場料を払えば、保護区内のトレイルを歩くことが可能である。受付の女性は英語はまったく通じなかったので、私のカタコトのスペイン語の出番だった。

ロス・カンペシーノ自然保護区のトレイルマップ

保護区内には2本の吊り橋と2つの滝がある。

この日、私たちの他に観光客の姿は見当たらず、聞こえるのは鳥や蝉の声だけ。

コスタリカには吊り橋がたくさんある。私の知っている限りでは、コスタリカの吊り橋は目の細かいネットでできた幅の細いものが多く、吊り橋というよりも平均台とトランポリンを足したような感覚で、歩くとボヨヨン、ボヨヨンとしなるのが楽しい。

向こうに滝の見える長い吊り橋。

トレイルを歩くこと自体も素晴らしかったが、この自然保護区のハイライトはトレイルの終点にある大きな滝だ。期待を上回る美しい空間がそこには広がっていた。

 

滝の水は透き通る糸のように岩壁をつたい、岩の窪みに流れ落ちている。滝の下にはエメラルドグリーンの水を湛える天然のプールができている。この滝はこれまでにコスタリカで訪れた他の滝のような力強さはないが、その分、穏やかでとても落ち着く。前日のナウヤカの滝では水着を持参せず泳げなかったので、今回は忘れずに持って来た。着替えてさっそく天然プールに入る。最高!しばらく泳いでから、まるで露天風呂のような風情の小さな滝壺にも入ってみた。

ひんやりした水が気持ち良い。あ〜、ここは天国?こんな場所を独占できるなんて、信じられない。はるばる苦労してやって来た甲斐があったよ。

コスタリカは国立公園や国が指定する大規模な野生動物保護区の他にも大小様々な自然保護区が無数にあり、それぞれの場所でハイキングを楽しんだり、ネイチャーガイドによるツアーに参加できるのが素晴らしい。さすがエコツーリズム大国である。ガイドブックに載っているようなメジャーな保護区以外は混み合うこともなく、このように大自然を独り占めするチャンスもある。

素晴らしい自然を堪能した後、石だらけの道を慎重に戻り、無事にケポスに戻ることができた。

が、悪路に悩まされたのはこのときが最後ではなかった。「四輪駆動の車を借りなかった」というミスは、私たちにつきまとい、とんでもない結末を生むことになる。この時点ではまだそれを知らずにいたが、、。

 

 

 

 

観光地ケポス(Quepos)からは、マニュエル・アントニオ国立公園を始めとしたいくつかの観光ツアーが出ている。その中で興味を惹かれたのは、ナウヤカの滝とロス・カンペンシーノの滝だった。私たちはレンタカーを借りているので、ツアーには参加せず、自力で行ってみることにした。

最初に向かったのはナウヤカの滝(Cataratas Nauyaca)。ドミニカル(Dominical)から国道243号を内陸に向かっておよそ10km進んだ渓谷にある。滝に行くには、Nauyaca Waterfallsという名前の個人経営のツーリズム会社のオフィスでエントリーチケット(外国人は10米ドル)を購入する必要がある。

トレイルの入り口。

オフィスから滝までのトレイルは往復でおよそ12km。車があればオフィスから駐車場までの2kmを車で移動できるので、歩くのは往復8kmになる。そこそこアップダウンがあって、それなりにキツいらしい。歩きたくない人はジープで滝のそばまで連れて行ってくれるサービスもあったが、歩くことにした。途中、食べ物や飲み物の買える場所は一切ないので、要持参である。

バル川を渡り、二次林、そして一次林を歩き、目的の滝へと向かっていく。一生懸命歩いたので、途中の写真を撮るのを忘れてしまった。

ナウヤカの滝は2つのレベルからなる滝で、上段の滝は高さ45メートル。

コスタリカには迫力のある滝が多いなあ。

その下方に高さ20メートルの滝がある。広い滝壺には、たくさんの人が泳いでいた。そして、なんとこの滝は飛び込みスポットになっているのだ。滝は階段状になっており、下の方の段から飛び込む人、中程の段から飛び込む人、てっぺんから飛び込む強者(おそろしい!)など、その人の勇気に応じたチャレンジが繰り広げられている。ただし、勝手に飛び込むのは許可されない。必ず係員の補助を受けて飛び込むというのがルールだ。

実は、滝壺で泳げるというのを知らなかったので、この日は私たちは水着を持っていなかった。水がとても綺麗だったので、泳げなくて残念だなあとも思ったけれど、水着を持参していたら自分も飛び込みチャレンジをしなければならないような気分になっていたかもしれない。まさか、てっぺんから飛び込むことはあり得ないけど、真ん中あたりからやってみようかという考えが頭をよぎっていただろうか。

うーん。水着がなくて、むしろよかった。怖いことを考えなくて済んだから。

勇者たちのチャレンジをしばし見物し、往路についた。途中で、目の前の木の上にオオハシが止まっているのが見えた。オオハシにはいろいろな種類がいるが、コスタリカで最もよく見かけたのはこのクリハシオオハシ( Ramphastos swainsonii)だ。

さらに歩くと、セクロピアの木にミツユビナマケモノがぶら下がっている。

ノドチャミユビナマケモノ (Bradypus variegatus)

野生のナマケモノは今までに何度も見たことがあるけれど、いつも葉の生い茂る密林の高い木の上にいて、お尻しか見えないことがほとんどなので、こんなにはっきりと姿を見ることができて感激だった。しかも、ゆっくりと体を動かし、移動する姿を観察することができた。ナマケモノは一生の大部分の時間を木にぶら下がって過ごし、地面には1〜2週間に一度くらい、排泄のために地面に降りてくるだけだというが、もしかして今がそのトイレタイムなのだろうかと少し期待してしまった。残念ながら下には降りて来なかったけれど。それにしても、なぜわざわざ排泄のために手間暇かけて地面に降りる?木の上からすればよいではないか?気になって調べてみたところ、ナショナルジオグラフィックのこんな記事が見つかった。

ナマケモノ、危険なトイレ旅の見返りは?

ナマケモノを眺めていたら、観光客を乗せたジープがオフィスの方からやって来た。ナマケモノには気づかなかったのか、スピードをさげずにそのまま滝の方向へ走り去った。

なかなかくたびれるトレイルではあったけれど、ナマケモノをじっくり見ることができたから、ジープの送迎サービスを頼まずに自分で歩いた甲斐があったなあ。

 

 

 

コスタリカ北部の2つの国立公園、アレナル火山国立公園テノリオ国立公園のトレイルを楽しんだ後、私たちは南へと向かった。目的地はオサ半島だが、一気に移動するのはキツいので、中間地点のケポス(Quepos)に3泊することにした。ケポスは太平洋に面した国立公園、マニュエル・アントニオ国立公園(Parque Nacional Manuel Antonio National) に隣接した町で、コスタリカの一大観光地である。なんとなく予想はしていたが、実際に行ってみるとオーバーツーリズム気味でうるさく、好みの場所ではなかった。大人気のマニュエル・アントニオ国立公園のチケットも到着の翌日とその次の日の分はすでに売り切れており、滞在3日目のチケットをかろうじて抑えることができた。

さて、それまでの二日間は何をしよう?

すぐに思い浮かんだのは、ケポスから国道34号を40kmほどさらに南下した、ドミニカル(Dominical)にある野生動物保護区、ハシエンダ・バル (Hacienda Baru)だった。

いつも旅行を計画する際には、ガイドブックやネットで情報を集めるだけでなく、その国に関する書籍を探して読むことにしている。今回、下調べとして読んだ本のうちの一冊はコスタリカの自然に関するエッセイ集 “Monkeys Are Made of Chocolate – Exotic and Unseen Costa Rica“。米国人の著者、Jack Ewing氏は1970年代の終わりにコスタリカに土地を購入し、以来、自然再生及び野生動物の保護活動を続けている。とても興味深く読んだので、Ewing氏がハシエンダ・バルと名付けたその保護区に行ってみたいと思った。

 

ハシエンダ・バル入り口

ハシエンダ・バルは自然観察ツアーを提供する宿泊施設も兼ねていて、敷地にはこじんまりとした居心地の良さそうなコテージが並んでいる。この自然保護区について知ったときにはすでにケポスの宿を予約してしまっていたので、ここに泊まるのは断念したのだった。もっと早くに知ってここに滞在できたらよかったのにと少々後悔。

 

太平洋と国道34号に挟まれた、広さおよそのハシエンダ・バルの敷地はかつては牛牧場で、およそ150ヘクタールに渡って森林が破壊されていた。

1972年に撮影された航空写真。左下は太平洋。画像は敷地内の説明用立て看板の写真を撮影したもの。

 

個人のイニシアチブから始まった自然再生の試みだったが、Ewing氏らの継続的な活動の結果、敷地は多くの野生動物の生息地として蘇り、1995年、ハシエンダ・バルは国の野生動物保護区に認定されている。

自然再生が進んだ現在の様子。

 

敷地内にはいくつかのトレイルがあり、料金を払えば、宿泊者以外のビジターも歩くことができる。私たちも歩いてみることにした。

野生動物を観察したいなら、早朝か夕方が良い。昼間の暑い時間帯は動物たちは茂みなどの奥に隠れて休んでいるからだ。このときはちょうど昼間で、あまり動物は見られないだろうなあと期待していなかったが、意外に多くの生き物に遭遇した。

 

シロボシクロアリモズ (Thamnophilus bridgesi) これはメスかな?

 

鬱蒼とした茂みに挟まれた小径を歩いていくと、前方数十メートルの地面に何やら茶色い大きな物体が横たわっている、、、、と思ってよく見たら、それは3羽のオオホウカンチョウ (Crax rubra )のメスだった。

もう少しよく見ようともう一歩足を進めたら、そのうちの1羽が飛び上がり、横の茂みに入った。茂みの中から心配そうな声を上げ、仲間の2羽に呼びかけている。しまった、怖がらせてしまった。ごめんなさい。

オオホウカンチョウ(大鳳冠鳥)はコスタリカでは特に珍しい鳥ではないが、体長90cmにも及ぶその大きさと見事な頭の冠羽が特徴的で、目にするたびに目を見張ってしまう。

ちなみに、これは別の場所で撮った写真だが、オスは体全体が真っ黒で、嘴の上に黄色い大きなコブがある。

日頃、ドイツでバードウォッチングをする際、コーネル大学が開発した野鳥識別アプリ、Merlin Bird IDが大いに役に立った。グローバル対応のこのアプリは地域ごとのパッケージがあるので、現地に着いたら該当するパッケージを追加で無料ダウンロードすればすぐに使えて便利だ。コスタリカのネイチャーガイドさんたちも皆、使っているようだ。紙のフィールドガイドなら、やはりコーネル大学出版から発行されているシリーズのRichard Gariguess “The Birds of Costa Rica: A Field Guide” が良い。

 

胴の赤さが鮮やかなコシアカフウキンチョウ(Ramphocelus passerinii)のオス

こちらはメス。メスはコスタリカの東部と西部でカラーバリエションが異なる。このように胸元のオレンジ色が濃いのは西部(太平洋側)で見られる。

ナツフウキンチョウ (Piranga rubra)のオス。

ナツフウキンチョウ (Piranga rubra)のメス。

イグアナもいた。イグアナはフィールドガイドを見ても、種がよくわからない。(わかる方がいらしたら、是非是非教えてください)

 

哺乳類はクビワペッカリー( Tayassu tajacui) とマダラアグーチ(Dasyprocta punctata)に遭遇!

ペッカリーにはクチジロペッカリー (Tayassu pecari)というのもいるが、これはクビワペッカリーの方、なぜなら、

ほらっ!首の周りに白い毛がリング状に生えている。

巨大なネズミのような、あるいはリスのような、なんとも不思議な見た目のアグーチ。群れることなく単独で行動するが、昼行性の動物だから遭遇するチャンスはまあまあある。主に果物や植物の種を食べ、森に種を散布する、生態系において重要な役割を持つキーストーン種だ。

ざっくり2時間ほどのトレイルだったが、いろいろな生き物が見られてとてもよかった。エントランスに戻ってカフェエリアで飲んだ、冷えたスムージーもとてもおいしかった。次回はぜひハシエンダ・バルに宿泊して、ガイドツアーに参加したい。

 

 

 

前回の記事に書いたアレナル火山国立公園へ行くには、近郊の町、ラ・フォルトゥナを拠点とするのが一般的である。ラ・フォルトゥナは観光地化が進んでいて、欧米からの移住者も多く、洒落たレストランやカフェが立ち並び、英語もよく通じる。ただ、ローカル感が薄くて、個人的にはなんとなくつまらなく感じる。そこで今回はアレナル湖北岸に位置する小さな町(村?)、ヌエヴォ・アレナル(Nuevo Arenal)を拠点にしていた。

ヌエヴォ・アレナル。向こうに見えるのはコスタリカ最大の人工湖であるアレナル湖

スペイン語で「新アレナル」という意味のヌエヴォ・アレナルは比較的新しい集落だ。1978年にアレナル湖を造る際に立ち退きを余儀なくされた住民らの移住先として政府主導で整備された。これといって何があるわけでもない。観光客向けインフラとしては宿がいくつかとレストランがいくつか、それになぜかジャーマンベーカリーが一軒あるが、それだけ。でも、のんびりしていて気に入った。外国人の経営する各国料理レストランが多いラ・フォルトゥナとは違い、ヌエヴォ・アレナルはもっとローカルで、英語もそれほど通じない。

メインストリートにあるローカルレストラン。

たいした料理が出てくるわけではないけれど、味は悪くなく、サービスも田舎の食堂らしい感じで、暢気な心地よさがあった。

チキンタコスを注文したら出てきた料理。あまりにシンプルでちょっと驚いたけれど、味はよかった。

店内にあるテレビではローカルニュースをやっていた。スペイン語なので半分くらいしかわからなかったが、タコスを頬張りながら「インフレで個人経営の会社が次々倒産しています」とか、「グアナカステ県の橋の工事がイースター休暇後に始まります」「ポアス火山の噴火活動が活発化しているため、状況によってはハイキングルートが閉鎖になる可能性があります」なんていうニュースを見て、少しはコスタリカ国民の生活に近づいた気分で楽しかった。私は、現地の人の生活する場所と観光客が滞在するエリアが分かれているのが好きではなくて、大型リゾートなどに滞在する気にはなかなかなれない。コスタリカは大型リゾートが少ないという点でも気に入っている国だ。

前置きが長くなった。この記事の本題は、アレナル火山国立公園 からさらに北西に位置し、ヌエヴォ・アレナルからアクセスしやすいテノリオ火山国立公園について。テノリオ火山国立公園にはセレステ川(Rio Celeste)という、水の色が空のように青いことで知られる川が流れている。セレステ川沿いを歩くトレイルがあると知り、行ってみることにした。

 

ナビによると、ヌエヴォ・アレナルからセレステ川トレイルの入り口までは片道およそ1時間20分と表示されたが、道路の状態が悪く、思いのほか時間がかかった。詳しく後述するが、今回のコスタリカ旅行では、車での移動に本当に苦労させられることになる。

コスタリカの自然保護区はオーバーツーリズムによる自然破壊を避けるため入場制限をしており、事前に政府の自然保護区管理組織、Systema Nacional de Áreas de Conservación(SINAC)のサイトで予約し、チケットを購入しなければならない。人気の高い自然保護区はすぐに定員に達してしまうので、ある程度早めに予約をしておくことが重要だ。

トレイルの入り口から1.5kmほど離れたセレステ川の滝(Catarata Rio Celeste)に向かって、雨が上がったばかりのしっとりと濡れた熱帯雨林を歩いていく。トレイルの途中で、いろいろな野生動物の姿を見ることができる。

 

トレイル脇の地面に小さいマツゲハブ(Bothriechis schlegelii)がいた。目の上にまつげのような突起があることからマツゲハブと呼ばれる。樹上性のヘビだが、若い個体は地面近くにいることも多いらしい。

 

高い木のてっぺんにナマケモノの姿も見かけた。また、シロバナハナグマ(Nasua narica)が餌となる虫を探して地面を掘っている場面に遭遇した。

野生のシロハナグマはコスタリカで最もよく見かける哺乳類だと思う。よく群れで国道脇などに現れ、観光客から餌をもらっていたりする。もちろん、餌付けは禁止されている。

 

生き物を眺めながらゆっくりと歩いているうちに滝に到着した。

「空色の川」を意味するセレステ川の滝壺の水の色は確かに青かった。ただし、その青色は天候や季節によって変化するようだ。この日は雨が降ったり止んだりしていたので、やや白濁して見えた。

 

トレイルはさらに続く。

青い池、Laguna Azul

 

セレステ川は本当に美しいが、残念ながら泳ぐことはできない。

 

火山活動による熱水が噴き出す場所(Borbollones)も。

 

さらに歩き、真っ青な川にかかった小さな橋を渡ると、ブエナヴィスタ川(Rio Buenavista)とケブラダ・アグリア川(Rio Quebrada Agria)という二つの川が合流し、セレステ川となる場所、Los Teñiderosに行き着く。ブエナヴィスタ川もケブラダ・アグリア川もまったく青くはない。両者が合流することによって初めて、セレステ川の神秘的な色が生み出されるのだ。

 

ブエナヴィスタ川の水はアルミノケイ酸塩を含んでいる。ケブラダ・アグリア川の水と混じり合い、水の酸性度が変化することで、それらの粒子が184nmから570nmへと大きくなるのだという。粒子の一部は川底に沈み、白い沈殿物となるが、大部分は水の中に分散し、漂う。水面に日光が当たると、大きくなったこれらの粒子が光を強く散乱させる。波長の比較的短い青い光は散乱しやすい。水が青く見えるのはこのためだ。ふと、北海道、美瑛の「青い池」を思い出した。あれも同じような現象だったはず。

 

美瑛の青い池

 

セレステ川沿いのトレイルは往復約6km。高低差もそれほど大きくなく、歩きやすかった。

 

 

 

首都サン・ホセを出発した私たちがまず向かったのは、アレナル火山国立公園 (Arenal Volcano National Park)だ。計画では、旅の最初の3日間はモンテヴェルデ熱帯霧林自然保護区(Monteverde Cloud Forest Nature Reserve)でバードウォッチングを楽しむはずだったのだが、こちらの記事に書いたようなハプニングの連続で、その3日間が丸ごと吹っ飛んでしまったのだ。ああ、無念。でも、嘆いていてもしかたがない。仕切り直していこう。

アレナル火山国立公園は、サン・ホセから北西におよそ90kmに位置する。アレナル火山とチャット火山という二つの火山を囲む、広さ1万2000haの自然保護区だ。

アレナル火山はコスタリカで最も活動の激しい火山で、1968年からずっと噴火活動が続いている。富士山にも似た円錐型が美しい山だけれど、てっぺんが雲に隠れていることが多く、上の写真のようにくっきりと全容が見るのはなかなか難しいらしい。私がボルカン・アレナル国立公園を訪れるのはこれが2度目で、写真は前回の滞在時にかつてのスミソニアン研究所の火山観測所を改装したホテル、Arenal Observatory Lodge & Trailのテラスから撮ったもの。このときは1週間滞在して、溶岩原のトレイルを歩いたり、ネイチャーガイドによるナイトハイクに参加したり、近郊のタバコン温泉に浸かったり、ジップラインで熱帯雨林を滑走したりした。ジップラインについては書きたいことがあるので、別の記事にまとめよう。

今回の滞在では、前回やり残した、フォルトゥーナ滝までのトレイル(La Fortuna Waterfall Hike)を歩いてみた。

ちなみにトレイルは有料で、チケットは1人20米ドル。トレイルの長さは片道1.2km。たいしたことがないなと思ったけれど、高さ70メートルの滝を見るためには、急な階段530段を降りなければならない。

途中で木の上にホエザルがいるのを発見。

 

途中のプラットフォームから見たフォルトゥーナ滝。遠くてスケール感がよくわからない。

 

間近まで行って見ると、なかなかの迫力。

滝壺で泳いでいる人たちもいたけれど、危ないので私はここでは泳がずに、

少し離れた場所で泳いだ。透明なブルーの水が綺麗で、大きな魚もたくさんいてテンションが上がる〜。

しばらく泳いだ後は、また530段の急な階段を登って帰らなければならない。そこそこキツい。でも、これはまだ序の口。観光地だけにこのトレイルはよく整備されていて歩きやすく、後から思えば、これからコスタリカ滞在中に歩くことになる数々のトレイルのための準備運動だった。

さらに今回は、アレナル火山の西側、人口湖アレナル湖の南端近くに位置する蝶園、 Butterfly Conservatoryへも行ってみた。

これが意外にとてもよかった!「きっと観光客目当ての施設で、たいしたことないんだろう」となんとなく思っていたが、とんでもない先入観だった。

ブルーモルフォ (Morpho)

メムノンフクロウチョウ (Caligo memnon)

オオカバマダラ (Danaus plexippus )

シロモンジャコウアゲハ (Parides iphidamas iphidamas)

ラウレンティアアメリカコムラサキ (Doxocopa laurentia cherubina)

キングスワローテイルバタフライ (Heraclides thoas)

コスタリカにはおよそ1500種の蝶がいるとされている。中央アメリカに生息するすべての蝶の90%がコスタリカで見られる。今回の滞在中には至るところでたくさんの蝶を見ることになったが、常にひらひら動き回っていて写真を撮ることはおろか、じっくり見るのすら難しかったので、この蝶園でいろんな種が見られたのはよかった。

蝶だけでなく、カエルもいろいろ飼育されている。

アカメアマガエル(Agalychnis callidryas)。コスタリカは中央に山脈が走っており、その西(太平洋側)と東(カリブ海側)とでアカメアマガエルのお腹の色が違う。これはカリブ海側のアカメアマガエル。

マダラヤドクガエル(Dendrobates auratus)

そして、さらに嬉しいことに、蝶園の敷地内にはトレイルもあり、熱帯雨林の中を歩くことができる。観光客にはそれほど存在を知られていないのか、私たちの他にはほとんど誰もいなかった。

なんて癒される空間だろう。素晴らしいー!

 

 

この記事の参考サイト:

Arenal Volcano National Park

Costa Rica Butteflies, motos, and the Blue Morpho Butterfly

 

前回の記事に書いたように、出発時点からハプニングが連続し、すっかり出鼻を挫かれた今回のコスタリカ旅行だったが、延々3日半にわたる奮闘の甲斐あって問題がどうにか解決し、ようやく旅は始まった。

 

今回の旅のテーマは「生き物」だ。約3週間の滞在中にできるだけ多くの野生動物が見たかった。

 

コスタリカは世界の生物多様性ホットスポットの一つに数えられる、生き物大国である。世界の生物種のうちのおよそ5%にあたる種が生息するという。コスタリカで見られる鳥類はおよそ900種。ハチドリだけでも52種も生息する。哺乳類はおよそ230種、植物に至っては12000種という多様性を誇る。

ズアカエボシゲラ (Campephilus guatemalensis)

 

コスタリカの生物多様性がこれほどまでに高いのには、多くの要因がある。

 

  • コスタリカはおよそ300万年前に北米大陸と南米大陸が陸続きとなってできたパナマ地峡に位置する。パナマ地峡では両大陸の生物が互いに移動し、大規模な種の交換が起こった
  • 北緯10度という赤道に近い位置と北太平洋の暖流のおかげで、多くの生物種が最終氷期を生き延びた
  • 太平洋と大西洋に挟まれ、中央を山脈が走っているため、国土の西側と東側で気候が異なっている
  • 海岸沿いの低地から標高3000メートル近くの山間部まで、あらゆる高度があり、緯度との組み合わせによって多数の異なるエコシステムが存在する

セスナ機から見下ろしたオサ半島の熱帯雨林

 

生き物の宝庫コスタリカは自然保護を国の政策として大々的に打ち出しており、国土の26%が自然保護の対象である。小さな国土に25の国立公園を持ち、自然保護区の数は100を超える。エコツーリズムは国内総生産の6%を占める一大産業だ。フアン・サンタマリア国際空港に降り立つと、カラフルな野鳥や鋭い目をしたピューマの特大写真が観光客を迎え、期待感を大いに高めてくれる。オオハシやナマケモノなどのイラストがプリントされた土産物のパッケージも洗練されていて、「野生動物の楽園コスタリカ」としてのブランディングが実に上手いなあと感心してしまう。豊かな生態系をアピールして世界中から観光客を呼び寄せ、彼らが落としていくお金で自然保護のための措置をさらに強化していく。コスタリカは同時に、再生可能エネルギー率95%を誇る自然エネルギー推進のトップランナーでもある。

色のついているエリアは自然保護区。

 

コスタリカが環境保護先進国となったのは、20世紀後半、集約農業によって環境破壊が急激に進み、危機感が広がったことがきっかけだった、コーヒー、バナナ、パイナップルなどのプランテーション栽培で1945年には国土の75%を占めていた森林が1983年には26%まで減少したという。1996年に大々的な植樹を行い、2023年には60%まで回復している。

 

もちろん、すべてが理想的というわけではないだろうが、その先進性と実際の自然の豊かさが、コスタリカを訪れる価値のある国にしていることは間違いない。

 

ではこれから、コスタリカの自然を自らの足と五感で味わっていこう。

 

私たちは車に乗り込み、首都サン・ホセを後にした。

 

この記事の参考文献およびサイト: