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鉱石観光の第三弾。(第一弾第二弾もよろしければどうぞ)

イーダー・オーバーシュタインに来たからには「ドイツ貴石博物館(Deutsches Edelsteinmuseum)」は外せない観光スポットだ。イーダー・オーバーシュタインのオーバーシュタイン側には「ドイツ鉱石博物館(Deutsches Mineralienmuseum) 」もあり、どちらを先に見るか迷ったが、イーダー側にある貴石博物館を先に見ることにした。

この立派なヴィラがドイツ宝石博物館の建物

3階建ての建物内部にはおよそ1万点の展示物が展示されている。イーダー・オーバーシュタイン周辺で採れた貴石はもちろんのこと、世界中の希少な貴石や貴石を加工した美術品を見ることができる。

入り口を入ってすぐの展示室に展示されているのはこの地方で採れた石英やメノウ。イーダー・オーバーシュタインがドイツの宝石産業の中心地となったのはメノウが豊富に採れるからだ。イーダー・オーバーシュタインにおけるメノウの埋蔵に関する最古の記録は1375年に遡る。

展示室の中央には研磨工場のモデルが置かれている。イーダー・オーバーシュタイン周辺では貴石やダイヤモンドの研磨業がドイツ国内では他に類を見ない発展を遂げ、1924年にはなんと2400 もの研磨業者が存在したという。

私はどちらかというとアクセサリー用にカットされ磨かれた石よりも原石の結晶構造を眺めるのが好きで、また、単色の石よりもメノウやジャスパーのように様々な模様を作り出す石が好み。メノウの断面の模様は抽象画のようで、いろいろな色の組み合わせや模様のものがあって魅力的である。山田英春氏の「奇妙で美しい石の世界」を読んでとても興味を持つようになった。だから、イーダー・オーバーシュタインでメノウを見るのをとても楽しみにしていた。

見事なメノウの数々

写真の陳列棚の上に一つの石スライスしたものが一列に並べられているが、一枚ごとに模様が少しづつ変化して行くのが面白い。

クローバーの葉のような模様のメノウ(ピンボケ失礼)

これはフィレンツェ産のパエジナストーン

ついメノウばっかり撮ってしまうが、その他の様々な宝石や人工石、鉱石を加工した美術品も数多く展示されている。

今まで意識したことがなかったトルマリンもステンドグラスのような模様が良いなと思った。

どうも私は同じ博物館でも美術館系だと言葉でうまく説明できない。美しいものがたくさんだからとにかく見に行ってとしか、、、。

次回はドイツ鉱石博物館を紹介します。

 

イーダー・オーバーシュタイン鉱石観光の続き。

鉱石探しエクスカーションで水晶を収集するというアクティビティを楽しんだ翌日はイーダー・オーバーシュタイン近郊の観光貴石鉱山、Edelsteinminen Steinkaulenbergを見学した。この鉱山では遅くとも14世紀には鉱石採集が行われていたことがわかっている。19世紀後半に採算が取れなくなり閉鎖されたが、現在は観光鉱山として一般解放されている。ドイツには観光鉱山はいくつもあるが、岩肌で貴石を直接見ることのできる観光貴石鉱山は欧州全体でもここだけだということで(真偽のほどは定かでないが、テレビでそう紹介されていた)、とても楽しみだった。

こちらがEdelsteinminen Steinkaulenbergの受付け

内部の坑道の長さは約400メートル。ガイドさんに案内してもらって中を歩く。

入り口

内部は薄暗いが、ところどころライトアップされている

前の記事にも書いたように、このあたりの地層は溶岩流が流れて形成されたもので、岩石には溶岩内の気泡が冷えて固まった晶洞(ジオード)という空洞がたくさんできている。その空洞の内部に周辺の岩石中のミネラルが溶け出して結晶を作る。大きく成長した美しい結晶は装飾品や芸術品に加工された。この鉱山で採れるのは主に水晶、アメジスト、スモーキークオーツ、メノウ、ジャスパーだ。

岩肌のあちこちに結晶ができていて、それをこんな風に間近で見られるよ

アメジストや水晶の大きな結晶があちらこちらに

綺麗・・・・・

鉱脈が斜めに走っている。晶洞の涙型から溶岩の流れた方向がわかる。丸い側が頭で細くなっている方がお尻。

これはカーネリアン(Carnelian)という半貴石。カーネリアンのカーネは「肉」を意味するCarneに由来する(チリ・コン・カルネのカルネね)。確かに生肉っぽい色をしている。肉といえば、イーダー・オーバーシュタインの名物料理はシュピースブラーテン(Spießbraten)という肉料理である。シュピースというのは串のことで、肉の塊を串に刺して火で炙ったもの。全国で食べられる普通のドイツ料理だと思っていたのだが、イーダー・オーバーシュタインが発祥地だそうだ。19世紀に入りイーダー・オーバーシュタインの貴石採掘業の採算が取れなくなると、多くの人が南米へ移住した。ブラジルで大きな鉱脈を掘り当て、石を持ってイーダー・オーバーシュタインへ戻って来たが、ブラジルで知った炭火焼の肉の美味しさが忘れられず、故郷に戻ってもブラジル式串焼きが定番料理となった。余談だが、イーダー・オーバーシュタイン市は西のイーダーと東のオーバーシュタインが合併してできた町で、シュピースブラーテンの作り方はイーダーとオーバーシュタインで少し違うらしい。また、串焼きと言いつつ串に刺していないこともある。

採石が行われていた当時の鉱夫が使っていたハンマーとランプ。コツコツと岩を叩いて坑道を掘って行った。ライトアップされているとこの程度には明るいのだけど、、、

ランプの灯だけだとこんな感じ。ほとんど何も見えないに等しい。手探りでどこにあるかわからない石を求めてハンマーを打つとは、あまりに骨の折れる作業だ。鉱山の中は湿気が酷く、粉塵を吸い込んだりして健康を害する鉱夫が多買った。当時の鉱夫の平均寿命は35歳くらいだったという。

ところで、内部が結晶で完全に満たされている晶洞はドイツ語でMandelと呼ばれる。

メノウのMandel

それに対し、結晶が内部を完全に満たしておらず、中心に空洞があるものをドルーズ(Druse)と呼ぶそうだ。

これはジャスパー(碧玉)。メノウと同様に微細な石英の結晶が集まったものだが、不純物を多く含むため不透明となる。

鉱山出口に置かれた石アート

イーダー・オーバーシュタイン鉱石観光はまだ続く、、、、。

 

(おまけ。以下はドイツ語の関連テレビ番組です。)

前回の記事ではフンスリュック山地での化石探しエクスカーション、Steinerne Schätze Hunsrücks – Geführte Mineralien- und Fossiliensucheについてレポートした。今回はその同じ週末エクスカーションの二日目、鉱石探しについて書く。二日目はグッと参加者が減って、ガイドのヴァルターさんの他は3人だけだった。

そもそもイーダー・オーバーシュタインに来たのは鉱石を見るためだ。フンスリュック山地、特にイーダー・オーバーシュタイン周辺は昔から貴石、特にアメジストや瑪瑙がよく採れ、貴石の研磨・加工技術が発達した地域である。19世紀以降は産出量が減り、宝石産業は一時衰退したが、新天地を求めて多くの労働者が移住したブラジルで運よくも鉱脈を掘り当て、上質な貴石とともに帰還する。すでに研磨技術や加工ノウハウが蓄積されていたため、イーダー・オーバーシュタインはドイツの宝石産業の中心地となった。どちらかというとあまり目立たない町だが、現在もドイツの誇るhidden champions(隠れたチャンピオン)の一つとして世界的に重要な宝石貿易の拠点である。

さて、エクスカーションであるが、二日目の集合場所はイーダー・オーバーシュタインから北東12kmほどのところにある観光銅鉱山、Historisches Besucherbergwerk Fischbachだった。まずは500年以上前から1792年にフランス革命軍に占領されるまで銅の採掘が行われていたこの銅山を見学する。

ヘルメットを被って坑道の中へ

去年の秋にシュヴェービッシェ・アルプ地方で洞窟三昧の1週間を過ごしたので、洞窟にはすっかり入り慣れてしまっているが(例えばこれなど、ものすごいので見てね)、ここもかなりの規模で見応えがあった。

鉱夫の守護聖人、聖バルバラ

これは自然に形成された洞窟ではなく、鉱夫がハンマーで岩を叩いて広げていったものだが、これだけ掘るのに一体どれだけの労力が費やされたのだろうか。

今日もエクスカーションのガイド、ヴァルターさんに案内してもらった

内部の各所には鉱夫人形が置かれ、当時の作業の様子が伺える

ヴァルターさんは地質学的な説明だけでなく、社会文化史にも触れた説明をしてくださって面白かった。下の動画のように古い砕石機の実演などもあるので、子どもにも面白いと思う。今回の記事のテーマは鉱石探しなので、銅鉱山の詳しい説明は省略して次に行こう。

鉱山を見学した後は、山の裏手に回っていよいよ鉱石探しだ、

普通の山にしか見えないが、、、

地面を見るとカラフルな石がたくさんある。緑色はマラカイト(孔雀石)の色だそう。ヴァルターさんに「ここではMandelsteineを探しましょう」と言われた。Mandelsteineとは直訳すると「アーモンドの石」である。アーモンドの石とは何だろうか?

説明によると、この一帯はかつて火山活動によって溶岩が流れた地域で、火成岩内部で気泡が固まってできた空洞(晶洞、ジオード)が結晶で満たされたものをMandelと呼ぶそうだ。つまり、Mandelを割ると中に結晶を見ることができる。この地域で多く産出される瑪瑙もMandelの一種で、結晶が層状になり美しい縞模様を作る。(瑪瑙の話は改めて別記事で)

Mandelsteineを探しているところ。ヴァルターさんは「大きければ大きいほど良い」と言うが、大きなMandelはなかなか見つからなかった。

石英の結晶が詰まったMandel。

ピンボケの下の石には層状の模様があるが、なんだかよくわからない。化石探しも鉱石探しもまだ初心者なので、初めての採掘場所に行くと何をどう探していいのかわからないまましばらくうろうろしてしまう。残念ながらここで見つけられたのはこのくらいだった。

お昼ご飯を食べた後は、イーダー・オーバーシュタインから20kmほど北西のMorbachにある石英採石場へ移動。

今度はここで水晶を採るそうだ。許可なしで立ち入るのは禁止だけれど、専門家の同行するエクスカーションなのでこの日は特別だ。

作業したのは道路が通っている3段目

地層の湾曲やずれもすごくて、見るだけでもけっこう面白い

石英の結晶は岩の裂け目に形成されている。こうした裂け目のあたりをハンマーでガンガン叩き割り、透明な水晶を取り出すのだ。

しかし、、、はっきり言って危ないわ、これ。上から石が落ちて来る可能性があるし、足場もすぐにガラガラと崩れて滑り落ちそうになる。そもそも非力の私にはハンマーで岩を割るということからして難しい。ましてや急斜面では到底無理。鉱石探しワークショップがこんなサバイバル的なものだとは聞いていないぞ!仕方ないので力仕事は男性たちに任せ、私は水晶の埋まっていそうな場所を探すのを担当した。

でも、意外と地面にころんと転がってたりもする。ヴァルターさんは特別に繊細で美しい結晶を見つけ、「奥さんにプレゼントしよう」とつぶやいていた。なんか、いいなあ。お店で買ったものより嬉しいかもね。

私たちの収穫はこんな感じ

これが一番気に入った。

まあ、たかだか水晶の小さなかけらのためにわざわざ体を張って、、、と思わないでもない。でも、一生に一度くらいはこういうの体験してもいいんじゃない?面白かったよ。

ドローン動画を撮影したので、おまけに貼っておこう。