まだ9月の声を聞いていないのにすでに秋になったようなドイツである。今年の夏はなんだか短かったなあ。

私が住むブランデンブルクでは春から初夏にかけてコウノトリが多く繁殖する。ブランデンブルクで繁殖行為を終えたコウノトリたちは8月にはアフリカに向けて移動する。彼らが飛び立つ前に、コウノトリの村、リューシュテットへ行って来た。ブランデンブルクの外れにあるこの小さな村はドイツ最大のコウノトリの繁殖地でコウノトリの保護に力を入れている。アクセスが大変なのだが、ラジオで偶然、なぜこの村に多くのコウノトリが集まるのかについて聞いて、是非とも行ってみたくなったのだ。

すでに7月だったのでピークシーズンは過ぎていたが、それでも多くのコウノトリを見ることができた。コウノトリは大きな鳥だけあって、たくさんの個体が集まっている様子はなかなか壮観だった。野鳥観察は本当に楽しいなあ。

YouTubeチャンネル「ベルリン・ブランデンブルク探検隊」にスライド動画を公開したので、ご興味があったらぜひ見てください。

ダイナミックな自然風景が好きである。

街歩きもとても楽しいけれど、これまでの旅の体験の中でそのときの感動が後々までずっと心に残っているものはどんな体験かと考えると、真っ先に頭に浮かぶもののほとんどは自然体験なのだ。忘れられない景色は数多いが、その中の一つに米国のアリゾナ州にある「化石の森国立公園」がある。そこにはこんな風景が広がっている。

広大な砂漠地帯にたくさんの木が横たわっている。木とはいっても、これらは化石だ。およそ2億5000万年前、地質時代でいうと三畳紀の終わりに洪水によって熱帯の森林から流されて来た倒木が化石化したものだと知って圧倒された。

これらの木の化石は珪化木と呼ばれる。流されて来た木々は近くにある火山の活動によって周期的に火山灰に埋もれた。火山灰の成分である二酸化ケイ素が地下水に溶け込み、その水が木の内部に入り込んで、長い年月をかけて内部組織を二酸化ケイ素に置き換えていったのだという。断面を見ると、それがもはや木ではなく石であることがわかる。これだけでも驚きなのだが、地表に露出しているのは化石化した森林のごく一部に過ぎず、地下にはまだまだ多くの珪化木が埋まっているそうだ。

広い米国の国土には、都会で普通に生活していたら触れる機会のない、とんでもないスケールの自然風景がたくさんあるなあとつくづく感じた。

しかし、この景色を見た数年後、実はドイツにも「化石化した森」と呼ばれる場所がザクセン州ケムニッツにあることに気づいた。アリゾナほどのスケールではないが、ドイツの国土の大きさからすれば堂々たる規模の珪化木の集積地のようである。1740年代に初めて化石化した木の幹が発見されて以来、ケムニッツでは断続的に多くの珪化木が発掘されており、それらは標本としてケムニッツ自然史博物館に展示されている。このたび、ようやく見に行くことができた。

 

博物館のフロアに展示されている「化石化した森」

 

クローズアップ

ケムニッツの「化石化した森」はおよそ2億9000年前のペルム紀の森なので、アリゾナ州の化石の森よりもさらに古い。その頃、ヨーロッパでは火山活動が活発で、ケムニッツの北東ではツァイスィヒヴァルト火山(Zeisigwald-Vulkan)が噴火し、一帯に大量の火山灰を撒き散らした。火山灰に埋まって珪化木となったペルム紀の木が自然史博物館の内部で「森」として再現されているというわけだ。

 

結構たくさんの標本が展示されている

 

 

館内の説明によると、ペルム紀のケムニッツの森にはシダ植物やシダ種子類、トクサ属、その他の種子植物などが生えていた。

いろんな断面が面白い。これは根っこの断面

木にツル植物が絡み付いたまま化石化したもの

 

世界各地の珪化木の断面

木の種類やそれが埋まっていた火山灰に含まれていた鉱物の種類によっていろいろな色や硬さの珪化木になる。

メノウ化したケムニッツの珪化木

 

ケムニッツは観光地としての知名度が高い町じゃないけれど、良い博物館がたくさんあって、私にとってはかなり楽しめる町だ。博物館好きの人には穴場だと思う。

 

 

 

 

ドイツに暮らしていて面白いと思うことの一つは、いろいろな時代の建物があることだ。首都ベルリンには実に様々な時代に建てられた趣の異なる建物が不思議な調和を生み出している。

過去数十年間に建てられた近代的な建物は日本の都市にあるものとそう大きな違いはないが、それよりも古い建物は装飾が凝らされていたり、日本では見かけないフォルムや質感だったりでいくら眺めていても飽きることがない。

けれど、ドイツの歴史をほとんど知らずに街歩きをしていた頃は、そうした古い建物をすべて「西洋建築」というたった一つのカテゴリーで認識していて、どれがいつの時代のものなのかまったく見当がつかなかった。最近になってようやく、建物を外観からいくつかのグループに分類して認識できるようになって来て、ますます街歩きが楽しくなっている。

建築史におけるそれぞれのエポックは、単なる美的意識の移り変わりではなく、それぞれの時代の技術革新や政治、イデオロギーとも関わっていることがおぼろげながら見えて来た。

ベルリン・ブランデンブルク探検隊」では、相棒の由希さんが建物好きなこともあって建物をメインテーマの一つにしているが、今回は旧東ベルリンのカール・マルクス・アレーを中心にスターリン建築を取り上げた。長年ベルリンに住んだ由希さんが撮影した東ベルリンやワルシャワのスターリン建築と、私の手持ちの東ドイツの他の町や本場モスクワのスターリン建築の写真を合わせて以下のスライド動画ができた。スターリン建築は個人的には好みの建築様式というわけではないけれど、インパクトが大きいし、それらが建てられた背景はやはり興味深い。動画で紹介したものだけでなく、旧社会主義国のあちこちに類似の建築物がたくさん残っていることだろう。今後、もっと見る機会があればいいな。