北ドイツに住むようになって以来、氷河地形が気になってしょうがない。氷河地形といっても北ドイツのそれはアルプスのような山岳氷河が形成した地形ではなく、かつてスカンジナビアから北ドイツまでを覆っていた大陸氷河が広い大地に残した痕跡である。
こちらの過去記事に書いたように、ベルリンの北東には氷河地形をテーマにしたジオパーク、Geopark Eiszeitland am Oderlandがあり、「エンドモレーン」が観察できる。エンドモレーンというのは、氷河が移動することによってその末端に砂礫が堆積してできた地形だ。さらに、そのエンドモレーンにはドイツ語で「Stauchmoräne(シュタウホモレーネ)直訳すると「圧縮モレーン」」と呼ばれる特殊な地形があるらしい。それは、ヒダ状にうねった地形だという。一体どんなものだろう?それを見にブランデンブルク州とザクセン州の境でポーランドとの国境を跨ぐUNESCOグローバルジオパーク、ムスカウアー・ファルテンボーゲン(UNESCO Global Geopark Muskauerfaltenbogen)へ行って来た。
ムスカウアー・ファルテンボーゲンは、国境の町バート・ムスカウ(Bad Muskau)を中心にU字形に伸びている。上地図の茶色い部分だ。ファルテンボーゲンとは直訳すると「ヒダ(Falten)のある弧(Bogen)」という意味。なぜU字形をしているかというと、かつてここには長さ22km、幅20kmほどの舌のような形をした氷河があった。その縁に沿ってファルテンボーゲン、地質学用語でいうところのシュタウホモレーネが形成された。でも、ヒダ状の地形って、一体どんなの?
過去40万年の間にドイツは3度の氷期を経験した。氷期の名前は地域によって異なり、それぞれ川の名が付けられている。北ドイツでは新しい順にヴァイクセル氷期(Weichsel-Kaltzeit)、ザーレ氷期(Saale-Kaltzeit)、エルスター氷期(Elster-Kaltzeit)と呼ばれる(アルプス地域ではミンデル、リス、ヴュルム氷期)。3度の表記のうち最も古い、39万年前から32万年前まで続いたエルスター氷期には、氷床はこのジオパークのある現在のブランデンブルク州とザクセン州との州境あたりまで及んでいた。
では、ヒダヒダの地形はどうやってできたのか?ムスカウエリアの地層は厚さ500mにも及ぶ氷河の重みで潰され、割れて氷の縁の外側に押し出された。そのとき、割れた地層の塊は縦に起こされ、本棚に本を並べるような感じでくっついて、ヒダのような構造になったのだ。つまり、上の絵のように。
と、頭だけで理解しようとするのは難しい。ジオパークには散策ルートがたくさんあるが、ヒダヒダの地形がよくわかるドラゴン山ツアー(Drachenberg-Tour)というルートを実際に歩いてみた。森の中を4、5km歩くルートだ。
歩いてみると、確かにアップダウンが激しい。
登って降りて登って降りて。まるで扇子のように小高い部分と谷が数十メートルごとに交互に続いていく。まさにヒダヒダ!こんな地形を体験するのは初めて。とても面白い。
切り込んだような谷の部分はギーザー(Gieser)と呼ばれる。ムスカウ周辺の地層は褐の層を含んでいるが、ファルテンボーゲンが形成された際に地層が縦に起こされたので、褐炭の層は地表に対して帯状に分布している。ギーザーはそれら褐炭の帯に対応しているのだ。地表近くの褐炭が風化することで地表が沈み、溝のような谷ができた。
別の散策ルート、地質学ツアー(Geologie-Tour)のルート上にはギーザーの断面が見られる場所がある。
この地域では1800年代半ばから1970年代まで褐炭が採掘されていた。そのため、褐炭を掘り出した後の穴が無数にあり、そこに水が溜まって池になっている。
1901年から1908年まで採掘が行われたHorlitzaの採掘場の4つの池はそれぞれ水の色が違うので、「4つのカラフルな池」と呼ばれている。水の色の違いは水のpHや微生物、含まれるミネラル、温度などによるらしい。4つの池全部を写真に収めようとドローンで限界まで高度を上げて撮ったけれど、これが限界。曇りだったので、色の違いもそれほど明確ではないかな。(ジオパークのサイトのこちらのページに良い画像があるので、興味のある方は見てみてください。)
UNESCOグローバルジオパーク、ムスカウアー・ファルテンボーゲンには他にも見どころがたくさんあって、日帰りではとても回りきれなかった。さらに、バート・ムスカウのムスカウ城とその庭園であるムスカウ公園はUNESCO文化遺産に登録されているので、ジオ以外でも盛りだくさん。今回、時間切で見れなかったものを見に再訪したい。