前回の記事で紹介したエッセンの「ルール博物館」ではガイドさんにルール地方の産業史について説明を受けたが、そのとき私はこんな質問をした。

「エッセンにはきっと、アルバイター・ジードルンクがありますよね?どこか近くに見に行けるジードルンクはありませんか?」

アルバイター・ジードルンクとは労働者のための集合住宅のこと。近代以降、ドイツで多くの従業員を抱える企業により建設されるようになった「社宅」である。

工業が発達したエッセンには大企業クルップ社を始め、多くの企業がある。きっと面白いジードルンクがあるのではないかと思い、尋ねてみたのだ。

「マルガレーテン・ヘーエ(Margaretenhöhe)」を見に行かれてはいかがですか。正確には社宅ではなく市民のための住宅ですが、ドイツで初めて作られたガルテンシュタット・ジードルンクの一つですよ」

そうガイドさんは勧めてくれた。20世紀半ばからイギリスの田園都市をモデルとするガルテンシュタットと呼ばれる閑静な住宅街がドイツ各地に作られるようになった。その先駆けとなったジードルンクの一つ、「マルガレーテン・ヘーエ」はクルップ社3代目当主フリードリッヒ・アルフレット・クルップの未亡人、マルガレーテ・クルップが娘の結婚を記念して私財を投じ、市民のために建設させたものである。

ここがガルテンシュタット、マルガレーテン・ヘーエの入り口

マルガレーテン・ヘーエはエッセン南部の高台にある。

マルクト広場

マルクト広場横の長屋風住宅

マルガレーテン・ジードルンクの広さは115ヘクタール。1909年から1938年にかけて建設されたブロックIと戦後の1962 年から1980年に建設されたブロックIIに分かれている。

ほのぼの

ガイドさんから聞いたように、このジードルンクはクルップ社の従業員のための社宅ではなく(従業員の社宅は別のところに建設された)、公務員や自営業者など市民のための住宅として建てられた。庭付きの住宅は当時、大きな注目を集めたことだろう。

もちろん、今現在も普通に市民が住んでいる。

 

キヨスクも可愛いね

ジードルンクは建物を見るだけでも楽しいが、このようなジードルンクが次々に建設された時代の社会背景や人々の生活を想像するとより面白い。この頃に企業の従業員の福利厚生制度の基盤が作られ、また、文化的な生活が一般市民の手の届くものになっていったんだね。

近々、東ドイツのガルテンシュタットも訪れる予定で、とても楽しみである。