過去4回に分けてイーダー・オーバーシュタインでの鉱石観光についてレポートして来た。ここで話はイーダー・オーバーシュタイン滞在1日目の化石エクスカーションに戻る。ガイドさんの案内のもとフンスリュック地方で見つかる様々な年代の化石を探し集めるという大変満足なエクスカーションに参加した。終了時にガイドさんから「これ、知り合いがやってる店なんだけど、よかったら行ってみて」とチラシを手渡された。近郊のヘルシュタイン(Herrstein)という町にあるワインとアクセサリーの店、Goldbachs Weine & Steineのチラシだった。
私はワインは飲めないし、買い物もそれほど好きではないので、店は見なくていいか、、、、と思ったのだけれど、チラシをよく見ると「Geomuseum(地質学博物館)」と書いてある。どうやらこのお店は小さな博物館を併設しているようだ。たいして遠くもなかったので、行ってみることにする。
チラシの住所の建物の中に入ると確かにワインの店である。が、奥の部屋が博物館だという。
なるほど、これが博物館。写真がちょっと暗くなってしまったが、磨き上げられたショーケースに化石が美しく展示され、小さいながらもかなりいい感じの空間だ。さて、では化石をちょっと見せてもらおうかと思ったところに店の主人と思われる男性が入って来た。
「私のコレクションをご覧になりたいのですね。では、ご説明致します」と言うと、店のご主人はここにプライベート博物館を作った経緯を熱く語り始めた。ご夫婦は30年以上に渡って趣味で化石や鉱石を収集しており、それらを展示(一部は販売)するための場所を長らく探していた。ようやく見つけた古い建物を大々的にリフォームし、このショップ兼博物館をオープンするに至ったとのことである。ご主人はとても感じの良い人で説明もわかりやすいが、いわゆる「話が長いタイプ」だ。「ひえ〜、チラッと見るだけのつもりで来たのに、こりゃ時間かかるな」と思ったけれど、まあこちらは休暇中だし、せっかくだからいろいろ見せてもらおうと覚悟を決めた。
店主ゴルトバッハさんの収集した化石は年代ごとに整理されている。写真のケースは最も年代の古いカンブリア代からシルル代の化石。ゴルトバッハさんは一つ一つのケースからお気に入りの化石を取り出して見せてくれた。
目までくっきりの三葉虫化石
気室の一つ一つがはっきり見える頭足類
アンモナイトを含む頭足類は気室と呼ばれる部屋を一つ一つ増やしながら成長し、常に最新の気室野中のみで生活していたそうだ。使わなくなった部屋の中はガスで満たされ、海水の中で浮力を調整していた。
この途中まで巻いている化石は名前を聞いたけれど、このときたまたまメモ用紙を持っていなかったので、残念ながら忘れてしまった。グーグル検索したところ、こちらのリツイテスというものと似ている。年代的にも同じオルドビス紀なので同じものか近縁の古生物ではないだろうか。
年代順に一つ一つのショーケースの中身を説明してくださった。
おおっ、これは先日のアイフェル地方旅行で見たデボン紀のサンゴ化石ではないか!
私と夫がアイフェル地方で見つけたサンゴ化石
アイフェル地方のゲロルシュタイン近郊では耕したばかりの畑に上の写真のような化石がゴロゴロ落ちていて本当にびっくりした。その時の記事はこちら。
こちらのケースにはフンスリュックの粘板岩によく見つかるデボン紀の化石が並んでいる。
ヒトデ
ウミユリ
このような粘板岩の化石は1日目のエクスカーションで自分でも拾ったりクリーニングしたりした。
エクスカーションでの化石クリーニング風景
粘板岩に化石が含まれている部分は硬くふくらんでいるが、そのままではなんだかよくわからないものが多い。周囲を削り取ると化石が浮かび上がって来る。
こちらは石炭紀の植物化石。そういえばこの年代の化石はエッセンのルール博物館(Ruhrmuseum)でたくさん見たな。エッセンのあるルール地方はかつて炭鉱業で栄えた地方だ。石炭というのは植物が炭化したものだものね。
エッセンのルール博物館で見たシダの化石
話が横に反れるが、ルール博物館はユネスコ世界遺産に登録されているかつての炭鉱、ツォルフェアアインの建物の中にある第一級の博物館で、ルール地方で見つかった化石の素晴らしいコレクションの展示コーナーもある。化石ファン必見の博物館だと思う。(過去記事)
バルト海リューゲン島のチョーク化石。これもこの夏、探しに行って来たばかり。
リューゲン島で見つけたベレムナイト
リューゲン島はチョークの地層自体が微化石の集合体だが、目に見える化石もたくさん見つかる(過去記事)。
当ブログ「まにあっくドイツ観光」でこれまでにたくさんの場所を訪れレポートして来たが、見たものがだんだんと繋がって行く感覚がある。気づいたらすっかりブログのメインテーマのようになっている化石だけれど、実は最近急に興味を持つようになった分野で、最初は化石という広く深い分野の中の何を見ているのか自分でもさっぱりわからなかった。けれど、ここでこうしてゴルトバッハさんのドイツ化石コレクションを眺めていると、すでにドイツ国内のいろいろな年代と種類の化石を目にして来たなあと感じた。
これらは1日目のエクスカーションで拾ったのと同じ年代(第三紀)の松かさ化石
メクレンブルク=フォルポンメルン州Sternbergの貝の化石
ゴルトバッハさんのコレクションは自然史博物館の化石コレクションのように大規模ではないけれど、よく整理されていてドイツで見つかる化石の全体像を掴むのにとても良い!頭を整理するのにとても役立った。それに、マンダーシャイトの鉱物博物館、Steinkisteでも感じたことだけれど、個人の収集家は自分のコレクションを愛していて、とても熱心に説明してくれるので、大きな博物館とはまた違った面白さがある。
Weine & Steineには化石だけでなく鉱石の展示室もあって、ここでも素晴らしいメノウの数々を見ることができた。
ところでこのお店兼博物館のあるヘルシュタインは中世の街並みが残る、なかなか素敵な場所だ。
ノスタルジックなCafé Zehntscheuneは料理も美味しい
イーダー・オーバーシュタインに来たら足を伸ばしてみる価値あり。