イーダー・オーバーシュタインでの休暇の最終日。旅の目的だった鉱石観光は無事終了し、中途半端に時間が余ったので近郊のブンデンバッハ(Bundenbach)にあるケルトの集落、アルトブルク(Altburg)へ行ってみることにした。1971 年から 1974 年にかけブンデンバッハの丘の上に紀元前170年頃に建設され、ローマ軍に占領されるまでケルト人が生活を営んでいだ集落の遺跡が見つかった。その集落の一部が再建され、オープンエアミュージアムになっている。

ケルト集落は観光鉱山Herrenbergから5分ほど歩いたところにある。鉱山入り口でチケットを買うと、受付の女性に「主人がミュージアムを案内します。バイクですぐに行くので先に行っていてください」と言われたので、山道を歩き出す。

斜面を少し登ると台地に出た。柵に囲まれた藁葺きの建物がいくつか並んでいる。それがミュージアムだ。

ガイドさんがバイクに乗ってやって来た。アルトブルクのケルト集落はおよそ1.5ヘクタールの台地に建設され、周囲は厚い壁と溝に囲まれていたことが明らかになっている。最も高い場所には有力者が住んでいた。その一角に5棟の住居と5棟の倉庫の建物が再建されている。

この台地で発見されたのは地面に開いた掘立柱を立てるための穴と柵溝だ。全部で3500ほどもあった穴の位置から当時の住居の配置を計算し、建物を再建した。この集落はカエサル率いるローマ軍に占領され、ローマ帝国の領土に組み込まれることになったが、その際に破壊行為が行われた形跡はなく、徐々に衰退し消滅したと考えられている。

左側が倉庫の建物。右が住居

メインの建物が展示室

オリジナルの地下室が残っている。右側に3段ほどの階段が見える。この地下室の用途は明らかでないが、宗教儀式が行われたのではないかと考えられている

亜麻から繊維を取り出す道具(Flachsbrecher)

このミュージアムでは毎年夏にケルト祭りが催される。またその他のイベントなども通じ、ケルト文化を伝えている。

ケルト文化に典型的とされる安全ピン

別の建物の内部。えっ、普通に住めそうじゃない、ここ?と思ったら、イベント時などに運営者が寝泊まりすることがあるそうだ。テーブルや椅子はケルトの資料に基づいて作製されたものだけれど、奥のベッドはIKEAのものだとか。

パンを焼く竃

ミュージアムの閉館時間が近づいていたのでガイドさんはさっさと案内を終了したかったようで、早口のさらっとした説明で終わってしまった。ギリギリに行った私たちが悪いが、もうちょっと詳しく聞きたかったなあ。

というわけであまり多くはわからなかったけれど、ドローン動画を撮影したのでケルト人が生活していたのはどんな場所なのか、雰囲気を感じてもらえれば。

ケルト関連の観光スポットはマンヒンクのケルト・ローマ博物館に続いてこれがまだ2つ目。これからもっといろいろなケルト関連スポットを訪れたい。

ケルト集落から西方向を眺めると、中世の城、Schmidtburgの廃墟が見える。以下はおまけの写真とドローン動画。

上から見たところ

 

過去4回に分けてイーダー・オーバーシュタインでの鉱石観光についてレポートして来た。ここで話はイーダー・オーバーシュタイン滞在1日目の化石エクスカーションに戻る。ガイドさんの案内のもとフンスリュック地方で見つかる様々な年代の化石を探し集めるという大変満足なエクスカーションに参加した。終了時にガイドさんから「これ、知り合いがやってる店なんだけど、よかったら行ってみて」とチラシを手渡された。近郊のヘルシュタイン(Herrstein)という町にあるワインとアクセサリーの店、Goldbachs Weine & Steineのチラシだった。

私はワインは飲めないし、買い物もそれほど好きではないので、店は見なくていいか、、、、と思ったのだけれど、チラシをよく見ると「Geomuseum(地質学博物館)」と書いてある。どうやらこのお店は小さな博物館を併設しているようだ。たいして遠くもなかったので、行ってみることにする。

チラシの住所の建物の中に入ると確かにワインの店である。が、奥の部屋が博物館だという。

なるほど、これが博物館。写真がちょっと暗くなってしまったが、磨き上げられたショーケースに化石が美しく展示され、小さいながらもかなりいい感じの空間だ。さて、では化石をちょっと見せてもらおうかと思ったところに店の主人と思われる男性が入って来た。

「私のコレクションをご覧になりたいのですね。では、ご説明致します」と言うと、店のご主人はここにプライベート博物館を作った経緯を熱く語り始めた。ご夫婦は30年以上に渡って趣味で化石や鉱石を収集しており、それらを展示(一部は販売)するための場所を長らく探していた。ようやく見つけた古い建物を大々的にリフォームし、このショップ兼博物館をオープンするに至ったとのことである。ご主人はとても感じの良い人で説明もわかりやすいが、いわゆる「話が長いタイプ」だ。「ひえ〜、チラッと見るだけのつもりで来たのに、こりゃ時間かかるな」と思ったけれど、まあこちらは休暇中だし、せっかくだからいろいろ見せてもらおうと覚悟を決めた。

店主ゴルトバッハさんの収集した化石は年代ごとに整理されている。写真のケースは最も年代の古いカンブリア代からシルル代の化石。ゴルトバッハさんは一つ一つのケースからお気に入りの化石を取り出して見せてくれた。

目までくっきりの三葉虫化石

気室の一つ一つがはっきり見える頭足類

アンモナイトを含む頭足類は気室と呼ばれる部屋を一つ一つ増やしながら成長し、常に最新の気室野中のみで生活していたそうだ。使わなくなった部屋の中はガスで満たされ、海水の中で浮力を調整していた。

この途中まで巻いている化石は名前を聞いたけれど、このときたまたまメモ用紙を持っていなかったので、残念ながら忘れてしまった。グーグル検索したところ、こちらのリツイテスというものと似ている。年代的にも同じオルドビス紀なので同じものか近縁の古生物ではないだろうか。

年代順に一つ一つのショーケースの中身を説明してくださった。

おおっ、これは先日のアイフェル地方旅行で見たデボン紀のサンゴ化石ではないか!

私と夫がアイフェル地方で見つけたサンゴ化石

アイフェル地方のゲロルシュタイン近郊では耕したばかりの畑に上の写真のような化石がゴロゴロ落ちていて本当にびっくりした。その時の記事はこちら

こちらのケースにはフンスリュックの粘板岩によく見つかるデボン紀の化石が並んでいる。

ヒトデ

ウミユリ

このような粘板岩の化石は1日目のエクスカーションで自分でも拾ったりクリーニングしたりした。

エクスカーションでの化石クリーニング風景

粘板岩に化石が含まれている部分は硬くふくらんでいるが、そのままではなんだかよくわからないものが多い。周囲を削り取ると化石が浮かび上がって来る。

こちらは石炭紀の植物化石。そういえばこの年代の化石はエッセンのルール博物館(Ruhrmuseum)でたくさん見たな。エッセンのあるルール地方はかつて炭鉱業で栄えた地方だ。石炭というのは植物が炭化したものだものね。

エッセンのルール博物館で見たシダの化石

話が横に反れるが、ルール博物館はユネスコ世界遺産に登録されているかつての炭鉱、ツォルフェアアインの建物の中にある第一級の博物館で、ルール地方で見つかった化石の素晴らしいコレクションの展示コーナーもある。化石ファン必見の博物館だと思う。(過去記事

バルト海リューゲン島のチョーク化石。これもこの夏、探しに行って来たばかり。

リューゲン島で見つけたベレムナイト

リューゲン島はチョークの地層自体が微化石の集合体だが、目に見える化石もたくさん見つかる(過去記事)。

当ブログ「まにあっくドイツ観光」でこれまでにたくさんの場所を訪れレポートして来たが、見たものがだんだんと繋がって行く感覚がある。気づいたらすっかりブログのメインテーマのようになっている化石だけれど、実は最近急に興味を持つようになった分野で、最初は化石という広く深い分野の中の何を見ているのか自分でもさっぱりわからなかった。けれど、ここでこうしてゴルトバッハさんのドイツ化石コレクションを眺めていると、すでにドイツ国内のいろいろな年代と種類の化石を目にして来たなあと感じた。

これらは1日目のエクスカーションで拾ったのと同じ年代(第三紀)の松かさ化石

メクレンブルク=フォルポンメルン州Sternbergの貝の化石

ゴルトバッハさんのコレクションは自然史博物館の化石コレクションのように大規模ではないけれど、よく整理されていてドイツで見つかる化石の全体像を掴むのにとても良い!頭を整理するのにとても役立った。それに、マンダーシャイトの鉱物博物館、Steinkisteでも感じたことだけれど、個人の収集家は自分のコレクションを愛していて、とても熱心に説明してくれるので、大きな博物館とはまた違った面白さがある。

Weine & Steineには化石だけでなく鉱石の展示室もあって、ここでも素晴らしいメノウの数々を見ることができた。

 

ところでこのお店兼博物館のあるヘルシュタインは中世の街並みが残る、なかなか素敵な場所だ。

ノスタルジックなCafé Zehntscheuneは料理も美味しい

 

イーダー・オーバーシュタインに来たら足を伸ばしてみる価値あり。

前回の記事で紹介したドイツ貴石美術館を見た後は、続けてドイツ鉱石博物館(Deutschas Mineralienmuseum)へ行った。こちらでは貴石に限定せず幅広い鉱石のコレクションが見られる。貴石博物館がイーダーにあるのに対し、鉱石博物館はオーバーシュタインにある。似たようなミュージアムといえば似たようなのだが、私は敢えて装飾品としての観点を前面に出している前者を美術館、より学術的な後者を博物館と訳してみた。美術館も博物館もドイツ語ではMuseumなのだけれど。

建物は貴石美術館よりは地味

特に説明することもないので今回もほぼ画像のみで紹介することにする。

巨大な結晶が並べられた展示室。多くはブラジル産のもの。

このスモーキークオーツはなんと2トンもある

古い鉱石研磨作業用の作業台。首を研磨機の方へ向け、窪みにお腹をつけてうつ伏せの姿勢で腕を前に伸ばし、研磨機の回転部分に鉱石を当てて磨いていたらしい。かなり不自然な体勢での作業だよね。

宝石の様々なカット

アクセサリー用にカットされた石よりも鉱物の結晶構造を眺めている方がワクワクする私なので、いろんな結晶が見られてとても楽しかった。

板状結晶のバライト

これは何だったか、メモ取るのを忘れてしまった

藍銅鉱

松茸水晶

亀甲石(セプタリア)

展示は全体的に見応えがあるが、なんといってもメノウコレクションが凄い。

メノウの部屋

展示の仕方はかなり地味。でも、一つ一つの石が素晴らしくて感動!全部写真を撮りたいと思ってしまうほど。気に入ったものの画像を並べていたらキリがないので、ほんのいくつかだけ。

まるで真珠のようなブラジル産のメノウ

メノウ化した珊瑚

デンドライトメノウ

パイライト入りのメノウ

美しい模様の涙型マンデル

シマウマ模様のジャスパー

一つのメノウから作った銘々皿(?)

パエジナストーンもある

蛍光鉱物のコーナー

鉱石を使った美術品の展示コーナーもとても良かった。

素敵なクリスタルのチェス盤。私はチェスはしないけれど、チェス盤にはとても惹かれる

鉱石を使って様々な人種を表したもの。これは現代の感覚では、、、、。

鉱物結晶コレクションの充実度では以前見たフライベルクのTerra Mineralia(記事はこちら)には敵わないものの、かなり満足できる博物館だ。そして、メノウコレクションは私が今までに見た中では最も素晴らしかった

これでイーダー・オーバーシュタイン観光の鉱石編は終了。でも、イーダー・オーバーシュタイン観光自体はもう少し続く。

鉱石観光の第三弾。(第一弾第二弾もよろしければどうぞ)

イーダー・オーバーシュタインに来たからには「ドイツ貴石博物館(Deutsches Edelsteinmuseum)」は外せない観光スポットだ。イーダー・オーバーシュタインのオーバーシュタイン側には「ドイツ鉱石博物館(Deutsches Mineralienmuseum) 」もあり、どちらを先に見るか迷ったが、イーダー側にある貴石博物館を先に見ることにした。

この立派なヴィラがドイツ宝石博物館の建物

3階建ての建物内部にはおよそ1万点の展示物が展示されている。イーダー・オーバーシュタイン周辺で採れた貴石はもちろんのこと、世界中の希少な貴石や貴石を加工した美術品を見ることができる。

入り口を入ってすぐの展示室に展示されているのはこの地方で採れた石英やメノウ。イーダー・オーバーシュタインがドイツの宝石産業の中心地となったのはメノウが豊富に採れるからだ。イーダー・オーバーシュタインにおけるメノウの埋蔵に関する最古の記録は1375年に遡る。

展示室の中央には研磨工場のモデルが置かれている。イーダー・オーバーシュタイン周辺では貴石やダイヤモンドの研磨業がドイツ国内では他に類を見ない発展を遂げ、1924年にはなんと2400 もの研磨業者が存在したという。

私はどちらかというとアクセサリー用にカットされ磨かれた石よりも原石の結晶構造を眺めるのが好きで、また、単色の石よりもメノウやジャスパーのように様々な模様を作り出す石が好み。メノウの断面の模様は抽象画のようで、いろいろな色の組み合わせや模様のものがあって魅力的である。山田英春氏の「奇妙で美しい石の世界」を読んでとても興味を持つようになった。だから、イーダー・オーバーシュタインでメノウを見るのをとても楽しみにしていた。

見事なメノウの数々

写真の陳列棚の上に一つの石スライスしたものが一列に並べられているが、一枚ごとに模様が少しづつ変化して行くのが面白い。

クローバーの葉のような模様のメノウ(ピンボケ失礼)

これはフィレンツェ産のパエジナストーン

ついメノウばっかり撮ってしまうが、その他の様々な宝石や人工石、鉱石を加工した美術品も数多く展示されている。

今まで意識したことがなかったトルマリンもステンドグラスのような模様が良いなと思った。

どうも私は同じ博物館でも美術館系だと言葉でうまく説明できない。美しいものがたくさんだからとにかく見に行ってとしか、、、。

次回はドイツ鉱石博物館を紹介します。

 

イーダー・オーバーシュタイン鉱石観光の続き。

鉱石探しエクスカーションで水晶を収集するというアクティビティを楽しんだ翌日はイーダー・オーバーシュタイン近郊の観光貴石鉱山、Edelsteinminen Steinkaulenbergを見学した。この鉱山では遅くとも14世紀には鉱石採集が行われていたことがわかっている。19世紀後半に採算が取れなくなり閉鎖されたが、現在は観光鉱山として一般解放されている。ドイツには観光鉱山はいくつもあるが、岩肌で貴石を直接見ることのできる観光貴石鉱山は欧州全体でもここだけだということで(真偽のほどは定かでないが、テレビでそう紹介されていた)、とても楽しみだった。

こちらがEdelsteinminen Steinkaulenbergの受付け

内部の坑道の長さは約400メートル。ガイドさんに案内してもらって中を歩く。

入り口

内部は薄暗いが、ところどころライトアップされている

前の記事にも書いたように、このあたりの地層は溶岩流が流れて形成されたもので、岩石には溶岩内の気泡が冷えて固まった晶洞(ジオード)という空洞がたくさんできている。その空洞の内部に周辺の岩石中のミネラルが溶け出して結晶を作る。大きく成長した美しい結晶は装飾品や芸術品に加工された。この鉱山で採れるのは主に水晶、アメジスト、スモーキークオーツ、メノウ、ジャスパーだ。

岩肌のあちこちに結晶ができていて、それをこんな風に間近で見られるよ

アメジストや水晶の大きな結晶があちらこちらに

綺麗・・・・・

鉱脈が斜めに走っている。晶洞の涙型から溶岩の流れた方向がわかる。丸い側が頭で細くなっている方がお尻。

これはカーネリアン(Carnelian)という半貴石。カーネリアンのカーネは「肉」を意味するCarneに由来する(チリ・コン・カルネのカルネね)。確かに生肉っぽい色をしている。肉といえば、イーダー・オーバーシュタインの名物料理はシュピースブラーテン(Spießbraten)という肉料理である。シュピースというのは串のことで、肉の塊を串に刺して火で炙ったもの。全国で食べられる普通のドイツ料理だと思っていたのだが、イーダー・オーバーシュタインが発祥地だそうだ。19世紀に入りイーダー・オーバーシュタインの貴石採掘業の採算が取れなくなると、多くの人が南米へ移住した。ブラジルで大きな鉱脈を掘り当て、石を持ってイーダー・オーバーシュタインへ戻って来たが、ブラジルで知った炭火焼の肉の美味しさが忘れられず、故郷に戻ってもブラジル式串焼きが定番料理となった。余談だが、イーダー・オーバーシュタイン市は西のイーダーと東のオーバーシュタインが合併してできた町で、シュピースブラーテンの作り方はイーダーとオーバーシュタインで少し違うらしい。また、串焼きと言いつつ串に刺していないこともある。

採石が行われていた当時の鉱夫が使っていたハンマーとランプ。コツコツと岩を叩いて坑道を掘って行った。ライトアップされているとこの程度には明るいのだけど、、、

ランプの灯だけだとこんな感じ。ほとんど何も見えないに等しい。手探りでどこにあるかわからない石を求めてハンマーを打つとは、あまりに骨の折れる作業だ。鉱山の中は湿気が酷く、粉塵を吸い込んだりして健康を害する鉱夫が多買った。当時の鉱夫の平均寿命は35歳くらいだったという。

ところで、内部が結晶で完全に満たされている晶洞はドイツ語でMandelと呼ばれる。

メノウのMandel

それに対し、結晶が内部を完全に満たしておらず、中心に空洞があるものをドルーズ(Druse)と呼ぶそうだ。

これはジャスパー(碧玉)。メノウと同様に微細な石英の結晶が集まったものだが、不純物を多く含むため不透明となる。

鉱山出口に置かれた石アート

イーダー・オーバーシュタイン鉱石観光はまだ続く、、、、。

 

(おまけ。以下はドイツ語の関連テレビ番組です。)

前回の記事ではフンスリュック山地での化石探しエクスカーション、Steinerne Schätze Hunsrücks – Geführte Mineralien- und Fossiliensucheについてレポートした。今回はその同じ週末エクスカーションの二日目、鉱石探しについて書く。二日目はグッと参加者が減って、ガイドのヴァルターさんの他は3人だけだった。

そもそもイーダー・オーバーシュタインに来たのは鉱石を見るためだ。フンスリュック山地、特にイーダー・オーバーシュタイン周辺は昔から貴石、特にアメジストや瑪瑙がよく採れ、貴石の研磨・加工技術が発達した地域である。19世紀以降は産出量が減り、宝石産業は一時衰退したが、新天地を求めて多くの労働者が移住したブラジルで運よくも鉱脈を掘り当て、上質な貴石とともに帰還する。すでに研磨技術や加工ノウハウが蓄積されていたため、イーダー・オーバーシュタインはドイツの宝石産業の中心地となった。どちらかというとあまり目立たない町だが、現在もドイツの誇るhidden champions(隠れたチャンピオン)の一つとして世界的に重要な宝石貿易の拠点である。

さて、エクスカーションであるが、二日目の集合場所はイーダー・オーバーシュタインから北東12kmほどのところにある観光銅鉱山、Historisches Besucherbergwerk Fischbachだった。まずは500年以上前から1792年にフランス革命軍に占領されるまで銅の採掘が行われていたこの銅山を見学する。

ヘルメットを被って坑道の中へ

去年の秋にシュヴェービッシェ・アルプ地方で洞窟三昧の1週間を過ごしたので、洞窟にはすっかり入り慣れてしまっているが(例えばこれなど、ものすごいので見てね)、ここもかなりの規模で見応えがあった。

鉱夫の守護聖人、聖バルバラ

これは自然に形成された洞窟ではなく、鉱夫がハンマーで岩を叩いて広げていったものだが、これだけ掘るのに一体どれだけの労力が費やされたのだろうか。

今日もエクスカーションのガイド、ヴァルターさんに案内してもらった

内部の各所には鉱夫人形が置かれ、当時の作業の様子が伺える

ヴァルターさんは地質学的な説明だけでなく、社会文化史にも触れた説明をしてくださって面白かった。下の動画のように古い砕石機の実演などもあるので、子どもにも面白いと思う。今回の記事のテーマは鉱石探しなので、銅鉱山の詳しい説明は省略して次に行こう。

鉱山を見学した後は、山の裏手に回っていよいよ鉱石探しだ、

普通の山にしか見えないが、、、

地面を見るとカラフルな石がたくさんある。緑色はマラカイト(孔雀石)の色だそう。ヴァルターさんに「ここではMandelsteineを探しましょう」と言われた。Mandelsteineとは直訳すると「アーモンドの石」である。アーモンドの石とは何だろうか?

説明によると、この一帯はかつて火山活動によって溶岩が流れた地域で、火成岩内部で気泡が固まってできた空洞(晶洞、ジオード)が結晶で満たされたものをMandelと呼ぶそうだ。つまり、Mandelを割ると中に結晶を見ることができる。この地域で多く産出される瑪瑙もMandelの一種で、結晶が層状になり美しい縞模様を作る。(瑪瑙の話は改めて別記事で)

Mandelsteineを探しているところ。ヴァルターさんは「大きければ大きいほど良い」と言うが、大きなMandelはなかなか見つからなかった。

石英の結晶が詰まったMandel。

ピンボケの下の石には層状の模様があるが、なんだかよくわからない。化石探しも鉱石探しもまだ初心者なので、初めての採掘場所に行くと何をどう探していいのかわからないまましばらくうろうろしてしまう。残念ながらここで見つけられたのはこのくらいだった。

お昼ご飯を食べた後は、イーダー・オーバーシュタインから20kmほど北西のMorbachにある石英採石場へ移動。

今度はここで水晶を採るそうだ。許可なしで立ち入るのは禁止だけれど、専門家の同行するエクスカーションなのでこの日は特別だ。

作業したのは道路が通っている3段目

地層の湾曲やずれもすごくて、見るだけでもけっこう面白い

石英の結晶は岩の裂け目に形成されている。こうした裂け目のあたりをハンマーでガンガン叩き割り、透明な水晶を取り出すのだ。

しかし、、、はっきり言って危ないわ、これ。上から石が落ちて来る可能性があるし、足場もすぐにガラガラと崩れて滑り落ちそうになる。そもそも非力の私にはハンマーで岩を割るということからして難しい。ましてや急斜面では到底無理。鉱石探しワークショップがこんなサバイバル的なものだとは聞いていないぞ!仕方ないので力仕事は男性たちに任せ、私は水晶の埋まっていそうな場所を探すのを担当した。

でも、意外と地面にころんと転がってたりもする。ヴァルターさんは特別に繊細で美しい結晶を見つけ、「奥さんにプレゼントしよう」とつぶやいていた。なんか、いいなあ。お店で買ったものより嬉しいかもね。

私たちの収穫はこんな感じ

これが一番気に入った。

まあ、たかだか水晶の小さなかけらのためにわざわざ体を張って、、、と思わないでもない。でも、一生に一度くらいはこういうの体験してもいいんじゃない?面白かったよ。

ドローン動画を撮影したので、おまけに貼っておこう。

今年のドイツは信じられないほど晴れた日が続いた長い夏だった。しかし、もう10月も半ばである。野外活動を楽しめるのもあとわずかだ。寒さがやって来る前に今年最後のジオ旅行に出かけよう。今回の目的地はラインラント=プファルツ州のフンスリュック山地。宝石の研磨産業で有名なイーダー・オーバーシュタイン(Idar Oberstein)の町があり、ドイツの観光街道の一つ、「ドイツ宝石街道」が伸びている。貴石を旅のテーマにイーダー・オーバーシュタイン周辺で数日を過ごすことにした。

せっかくなので博物館で鉱石を眺めるだけでなく、自分でも探すことができないかとイーダー・オーバーシュタインの観光サイトを見たところ、化石&鉱石ガイドツアー (Steinerne Schätze Hunsrücks – Geführte Mineralien- und Fossiliensuche)なるものを発見した。専門家と一緒に週末二日かけて化石と鉱石を探すエクスカーションだ。鉱石だけでなく化石もついているとは素晴らしい!

そんなわけで参加することになったジオ・エクスカーションである。プログラムによると、1日目の土曜日は化石探しとのことだった。朝9:15分にイーダー・オーバーシュタイン近郊の指定の場所で集合とのことだったので、ホテルで朝食を取り、車で集合場所へ。番地はおろか通りの名前もないハイカー用の小さな駐車場に数名の参加者が待っていた。

ガイドさんはオランダ人の地質学者Wouter Südkamp氏、参加者は高校の地学教師とその母親、それに趣味の化石コレクター2人、そして私たち夫婦の合計6人である。ガイドさんが自分のオランダ名Wouterが発音しづらければドイツ式にヴァルターと呼んでもらって構わないと仰るので、ここではヴァルターさんと書かせて頂こう。ヴァルターさんによると、フンスリュック山地では様々な地質年代の化石を見つけることができる。3つの異なる地層を結ぶ約40kmのルートを案内するから私の車の後についていらっしゃいとのことで、5台編成で山道を移動することになった。

まもなくSteinhardt(石のように硬い、という意味)という村の石灰岩採石場場採石場に到着。まだ半分寝ぼけていて周辺の写真を撮るのを忘れてしまったが、この石切場では第三紀の植物化石がよく見つかるらしい。ヴァルターさんは瓦礫の山を指差し、「ジャガイモのような丸い石を探してください」と言う。見ると砂にまみれた白っぽくてまん丸な石がところどころに見える。丸いものは重晶石の塊で、割ると中に木の断片や松ぼっくりのようなものが入っているかもしれないというのだ。

収穫。松ぼっくり入りはなかったけれど、木や葉っぱの化石入りは結構たくさん見つかった。炭化した木が入っているものも。ジャガイモのような石をハンマーで叩いて、パカっと割る。何も入っていない「はずれ」も多いけど、「あたり」だったときはかなり嬉しい。ドイツには卵型をした「びっくり卵」なるチョコレート菓子があって、中からおまけが出て来るので子どもに人気なのだが、この石の塊は「大人のびっくり卵」という感じだ。

満足するまでおまけ入り卵を採ったら、今度はレンガ工場の敷地に移動した。ここではRotliegend層と呼ばれる赤い地層に緑色をした板状の石が混じっている。このRotliegend層に見られるのはペルム紀の化石で、主にシダなどの植物化石である。板の側面から層の間に垂直に鑿を当ててハンマーで叩いて剥がす。ゾルンホーフェンの板状石灰岩に化石を探したときと同じ要領だ(やり方はこちら)。

小さな丸い葉っぱがたくさん。

こちらは葉脈くっきり。

一番すごかったのはこれ。開いた瞬間に大きな葉と茎が現れて、「うわぁ!」と叫び声が出てしまった。内側になっていた表面はしっとりとしている。乾かないように新聞紙に包んで保存する。

そして3箇所目は、ブンデンバッハというところにあるフンスリュック粘板岩(スレート)という石の廃棄場だった。フンスリュック山地やその周辺地方ではスレート葺きの屋根をした建物が多い。

これはフンスリュックではなくアイフェル地方の村だけれど、フンスリュックの建物もだいたいこんな感じである。

スレートを建材として使う場合、できるだけ表面が平らできれいなものが望ましいで、凸凹のあるものは破棄された。しかし、化石ハンターにとっては凸凹なスレート板こそ目当ての石なのだ。なぜかというと、その凸凹はそこに化石が入っていることを意味しているかもしれないのだから。

山の斜面にこのようにスレートの瓦礫がぎっしり捨てられている。これらの板を一枚一枚見て、化石が含まれていないかチェックする。でも、この作業、かなり大変。斜面なので不自然な格好でしゃがんで作業しなければならない上に足場がすぐに崩れてしまう。上の方からもスレートが崩れ落ちて来る。

初めて知ったのだが、フンスリュック粘板岩は化石を豊富に含むことで世界的にもよく知られているそうだ。デヴォン紀の海の生き物が微細なものも含め、かなり良い状態で保存されている。

化石であることは明らかだけれど、これらがなんなのか、実はまだわからない。

三枚目の画像の板は左上のもの以外、まだプレパレーションしていなくてわかりづらいと思うけれど、小さい丸い出っ張り部分に化石が入っている。ヴァルターさんに聞いたら、丸いものはおそらく小さな三葉虫や腕足動物だろうとのことだった。プレパレーションというのは、採った化石をよく観察できるようにきれいにする作業のこと。

粘板岩の場合はナイフなどで化石の周辺を削る。こうすることで、化石が浮き彫りになり、はっきり見えるようになる。でもこれ、なかなか根気の要る作業。

実はヴァルターさんは化石の中でも特にこのフンスリュック粘板岩の専門家で、化石特定のためのこういう本を出版されている。

鉱石が目当てで出かけたイーダー・オーバーシュタインだったが、フンスリュック山地は同時に重要な化石の産地でもあることがわかった。一日に3種類もの異なる年代の化石を見つけることができた上にプレパレーションの仕方も教えてもらえて、エクスカーションの一日目はとても充実していた。

(翌日の鉱石エクスカーションについては次の記事に書きます)