今回は1940年にライヒ食糧団(Reichsnährstand)から発行された農家の女性向けの家事読本、Die 4 W`s. Eine lustige Hausarbeits-Fibel (「4つのW。愉快な家事読本」)を見てみよう。
B5版、全32ページの小冊子でタイトル文字はジュッターリーン体。「4つのW」とは、家事におけるWの頭文字で始まる4つの要素、Wege(動線)、Wasser(水)、Wärme(暖房)そしてWaschen (洗濯)のことらしい。1940年といえば、国家社会主義ドイツ労働者党が支配していた時代だ。第二次世界大戦の最中にナチスの農業統制機関が発行した読本で、紙質は良くないものの、なかなか可愛い表紙デザインである。ナチスと聞いて思い浮かべるイメージからは程遠い。
内容は農家の女性のための家事合理化の手引きで、家事を動線、水、暖房、洗濯という4つの分野に分け、効率良く楽に家事をする方法を指南している。
まずは動線。農場は無駄な動きをして時間やエネルギーを浪費しないように設計せよ。台所も然り。よく考えず用具を配置すると、あっちへ行ったりこっちへ行ったりすることになる。作業が最小の動きで済むように配置せよ。農具の置き場所や並べる順番などもよく考えて決めることで作業が楽になるというアドバイスが満載である。
水について。この時代の農村では、生活用水は井戸から汲んで運ぶのが一般的だった。家事にかかる時間のうちのおよそ1割が水の運搬に費やされていたようだ。重いバケツを運ぶのは骨が折れる作業だ。水道管を引き、それぞれの作業場に蛇口を設置することで作業が大幅に効率化できる。ホースなどを利用すればさらに快適に。
暖房について。冬が長く寒いドイツでは暖房の効率化は重要だ。戦時中は特に燃料が貴重だった。この読本では左ページの図のような調理用タイルストーブは同時に暖房にもなり、燃料を節約できるとして推奨している。しかし、夏場は台所が無駄に暑くなるというデメリットがある。それに対して右ページのような電気コンロは台所全体を温めるのには適していないが、夏場は短時間で調理ができて便利だと書かれている。
最後の章は家事の中で特に労力を要する洗濯について。「健康はお金よりも大切」、だからこそ少しでも洗濯を楽にしよう。腰をかがめなくても良いように洗濯だらいは台の上に置き、洗濯室の床には排水溝を設けよう。洗濯物はあらかじめ水に浸けておくと汚れが落ちやすい。この際、溜めておいた雨水を有効利用しよう、等々、いろいろなヒントが提示されている。これを読んで思い出したが、うちの村の郷土博物館には戦前まで使われていた洗濯室があり、いろいろな洗濯道具を見ることができる。
この読本、挿絵の可愛さと合理的な内容のミスマッチが興味深い。一つ目のW、動線に関する部分はいかにもドイツ的な印象だ。日本の戦時中の家事読本を見たことがないので、比較してどうかということはわからないが、、、。