2019年の秋に庭でバードウォッチングを始めて、約2年半が経過した。最初は庭のテラスに餌台を設置してひまわりの種やピーナツなどを置き、家の中から窓越しに餌台を訪れる野鳥を眺めて楽しむことから始めたが、ただそれだけのことでも生活の楽しみが激増した。

過去記事: ドイツのネイチャーツーリズム 2 自宅の周りでバードウォッチング

さらに餌台に野生カメラを取り付けたら、それまで窓越しに観察していた以上にたくさんの種がやって来ることがわかり、ますます楽しくなった。

過去記事: 野鳥カメラで餌台に訪れる野鳥を観察する

これまでの2年半に自宅の庭で確認できた野鳥は37種。まさかこんなにいろいろな野鳥が来るとは想像もしていなかった。ちょっとした思いつきで始めたバードウォッチングだったのに!

野鳥たちは餌を食べに来るだけでなく、庭で子育てもする。一昨年はシジュウカラ、昨年はシジュウカラに加えクロウタドリの営巣と子育ての様子をカメラを通して観察することができた。今年は同じ巣箱でシジュウカラが営巣を始めたものの、こちらの記事に書いたような事情で中断してしまったのが残念である。

しかし、今年は今年でとても面白い展開になった。というのは、去年までは餌台は冬の間だけ設置し春には片付けていたのを、今年は出したままにしておいたのだ。そうしたら素晴らしいことが起こった。冬の間は個別に餌を食べに来ていた野鳥たちが、それぞれパートナーを連れてやって来た。餌台に入れる小鳥たちだけでなく、モリバト、カササギ、カケスなどの大きな鳥もみんなカップルで現れ、小鳥たちが芝生に落とした餌をついばんでいた。そして、しばらくすると庭やその周囲でそれぞれのカップルが巣作りを始め、やがて生まれたヒナ達に食べさせる餌をせっせと取りに来る姿が見られるようになった。クチバシに詰め込めるだけの餌を詰め込んで巣へ戻っていく親鳥たち。がんばってるなあ。

幼虫をくわえたウソのオス

それから数週間が経過し、ヒナ達が続々と巣立ち始めた。

巣立ったばかりのアオガラの兄弟

カササギに巣を狙われ、父鳥の必死の防衛の末、無事に巣立ったクロジョウビタキのヒナ

オークの木の巣から生まれたゴジュウカラのヒナ

 

巣立ったばかりのヒナを連れて、いろんな種の親鳥達が餌場に集まり、口移しでせっせと子どもに食べさせる。なんとも微笑ましい光景にほのぼの。

親からエサをもらうアオガラの子ども

しばらくの間はそれぞれ親に食べさせてもらっていたが、だんだん大きくなって飛ぶのも上手になると、子ども達だけで餌場にやって来るように。

イエスズメの子どもたち

 

シメの子ども

 

シジュウカラの子ども

 

カケスの子どもはギリギリ餌台に入れる大きさ

 

兄弟でやって来たアカゲラの子ども

最も数が多いのがイエスズメの子どもたちで、10羽以上いる。アオガラとシジュウカラはそれぞれ5羽ほど、アカゲラも2羽生まれた。そんなわけで今年の春は大繁殖と言っていいレベルで野鳥の子どもたちが庭を飛び回っている。

今後はどうなっていくのかな。

 

 

 

今年(2022)の5月から10月までの半年間、アニマルトラッキングを学ぶことにした。

アニマルトラッキングは野生動物の痕跡を観察する活動で、ドイツ語ではSpurenlesenという。野生動物の痕跡には地面に残った足跡や巣、何かを食べた形跡、糞などいろいろなものがある。野生動物の痕跡を観察することで、その環境にはどんな野生動物が生息し、どのように行動しているのかを知ることができる。

身近な環境を散歩していると野生動物の痕跡らしきものを見かけることがよくあって、「何の動物の痕跡だろう?」といつも気になるのだ。特に2020年からヨーロッパヤマネコのモニタリングに参加し、そして今年からはビーバーのモニタリングも始めたことで、ますますいろいろな痕跡を目にするようになった。

凍った湖面に降り積もった雪の上についた動物の足跡

アナグマの巣穴?

面白いものを見つけるととりあえず写真に撮ってネットや手持ちの図鑑などで調べるのだが、よくわからないことが多い。知りたいなあ、見分けられるようになったら楽しいだろうなあと思っていたら、たまたま近場にアニマルトラッキングを教える学校があることに気づいた。これは良いチャンス!とすぐに申し込んだ。

私が参加することになった講座はWildnisschule Hoher Flamingという野外スキルを学べる学校の成人向け講座で、月1度、週末に4日間のキャンプをしながらアニマルトラッキングを学ぶ。申し込むまでまったく知らなかったのだが、米国ではブッシュクラフトと呼ばれるサバイバルスキルの一環としてアニマルトラッキングが捉えらることがあり、トラッキングスクールがたくさん存在するらしい。私が申し込んだ学校は米国の先住民からスキルを学んだ伝説的なアニマルトラッカー、Tom Brown Jr.や、その弟子のJon Youngのメソッドに基づいているという。

これまでに全部で5まであるモジュールの1と2を終了した。参加してみて、その濃さにびっくり。学校の敷地に各自テントを張り、朝7時頃から夜10時過ぎまで野外活動。野鳥の囀りに耳を傾けたり、動物の足跡や巣穴を観察したり、野生動物の骨格や歩き方を学ぶ。ハードな運動をするわけではないけれど、一日中外を歩き回って、同時に頭もフル回転させなければならないのでかなり疲れる。でも、講座の他の参加者たちとは妙に波長が合って、すぐに仲良くなることができた。少人数の講座で、年齢は20代の若者から60歳くらいまで様々だけど、好奇心が強いという点ではみんな一緒なのだ。

アニマルトラッキングで大切なことは野生動物の痕跡を見たらすぐに種を特定することではなく、まずは五感を使ってじっくりと観察し、なぜそこにその痕跡があるのか、その痕跡を残した生き物はどう行動したのかを考えることだそうだ。種名の特定は深い観察の後から自然について来るもので、すぐに種を特定してそれで満足してしまうよりも、問いを丁寧に解いていく方が野生動物をよく知ることに繋がるという。なるほどなあ。そして、観察の際にはスケッチをすることがとても重要だと教わった。講座の提供者は先生ではなくメンターと呼ぶ。答えを識者に教えてもらうのではなく、各自が自らの観察眼を養うことが講座の目的だからだそうだ。

モジュールの間はとにかく忙しくて写真を撮っている暇はほとんどない。最初のエクスカーションでクロヅルの足跡をかろうじて撮った。

 

想像していたよりもハードコアな内容に圧倒され続けているけれど、ほんの少し学んだだけでも景色が変わって見える。身の回りの景色の解像度が上がって、ずっとそこに合ったけれど今まで認識していなかったもう一つの世界を肌で感じられるようになるというか、不思議な感覚である。この地球環境を私たち人間は他の生き物たちと共有しているのだということを急に強く意識するようになった。夜、テントの中に横たわって、響き渡るナイチンゲールの歌を聴きながら眠りに落ちていくのは特別な感覚だ。

アニマルトラッキングを学ぶことにしたのには、身近な自然、とくに野生動物について知りたいということの他に、これといったスキルを持たないので何か一つくらいスキルを獲得したい、というのもあった。どうせなら、あまり多くの人がやらないことをやってみたい。歳と共に体力が衰えるのが心配で、なるべく野外で体を動かしたいというのもある。自然観察にはほとんどお金がかからないし、体を動かすのと同時に知的好奇心も満たされるのが良い。そして、トラッキングスキルを身につけることで今後の旅行もより充実したものになりそうな予感がする。

 

 

2020年春に庭にライブカメラ付きの巣箱を設置し、シジュウカラの営巣の様子を観察している。2020年と2021年の観察記録は過去記事(20202021)の通りだが、3年目の今年も4月に営巣が始まった。

 

巣箱で営巣するメスには名前を付けている。このメスは「マイちゃん(Meiseのマイちゃん)」と命名。長い枝で巣のフレームを作ろうとしているが、なかなかうまく置けないのか、枝をぶんぶん振り回している。

 

営巣を始めて1週間後。卵を産む準備が整ったのか、巣箱の中で寝始めた。

 

動物の毛など、フワフワの素材を次から次へと運んで来てクッションを整える。ネコの毛のような白い毛だけでなく、茶色や緑色など、いろんな色の素材があり。ブロンドの人毛らしき束も混じっていてびっくり。そういえばうちの裏の人、ときどき庭で散髪しているなあ。

 

パートナーのオスも、甲斐甲斐しく餌を運んで来る。マイちゃんは多産ではないようで、21日までに卵を2つ産んだのみ。でも、毎日マメに巣を整えていて順調な様子。と思っていたのだが、今日の昼間、ふとカメラを覗いたら、巣箱の中で異変が起きていた。なぜか巣の真ん中にクロジョウビタキが座っており、その背ろでマイちゃんがオロオロとしているのである。何事かとびっくりして自動録画をプレイバックしてみたところ、なんとマイちゃんがちょっと巣を離れた隙にクロジョウビタキが巣箱に入り込み、戻って来たマイちゃんと大バトルになっていたのだった!

ショッキングな映像なので短くカットしたが、実はこの激しいバトルは数十秒続き、クロジョウビタキはマイちゃんにコテンパンにやられてしまった。クロジョウビタキにしてみれば、良さそうな巣箱があったからちょっと入ってみただけだったかもしれない。しかし、マイちゃんにしてみれば、大事な卵がある巣に近寄られてはたまらない。必死に卵を守ろうとしたのだった。

マイちゃんは戦いには勝ったものの、ぐったりしたクロジョウビタキは卵の上にうずくまったまま動かない。そこをどいてくれないと卵を温められない。どうしたものかと困り果てるマイちゃん。その状態ですでに2時間が経過していた。映像を見ながら、夫と私も「どうする?」と言い合った。野生の生き物同士のことに人間はできるだけ介入すべきではないけれど、このままだと卵もダメになってしまう。ここは巣箱の大家の権限ということで、夫が介入することになった。(私は背が低くて巣箱に手が届かないので)

まず外から巣箱をノックして、鳥たちが自分から外に出て来るかやってみたが、出て来る様子がないのでドアを開けたら、マイちゃんは穴から外に飛び出した。クロジョウビタキはボロボロの姿だったが出血はしていなかったので、空いている別の巣箱に入れて、中で休んでもらうことに。そちらの巣箱にもカメラがついているので、しばらくカメラ越しに様子を見た。パートナーが巣箱の穴から中を覗き込んで呼びかけているのを見てせつなくなる。彼らもきっとこれから子育てをする予定だったのだ。数時間後、クロジョウビタキは亡くなった。自然界は厳しい、、、。

マイちゃんの方はどうなったかというと、人間が介入したことで抱卵をやめてしまうのではないかと心配したが、じきに巣箱に戻って来た。

何事もなかったかのように(内心では「あー、やばかったー」と思っているかもしれないが)、巣を整えている。2つの卵も無事だったみたい。よかった、よかった。

……とホッとしたものの、この2日後からマイちゃんは巣箱に戻らなくなってしまった。

何が原因なんだろうか?この巣箱は子育てに適していないと判断して放棄した?それとも、夫が介入して人間の匂いがついたので放棄したのかもしれない。あるいは、マイちゃん自身の身に何かが起こって巣箱に戻れなくなった可能性もある。

そんなわけで、今年のシジュウカラの育児観察はヒナが生まれる前に終了してしまってとても残念。

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後日談。

数日前、家の中にいたら、窓の外から「ヂヂヂヂヂ、ヂヂヂヂヂ」というシジュウカラの幼鳥の声が賑やかに聞こえて来た。しばらく後に庭の餌台に取り付けたカメラを除いたら、なんと若いシジュウカラが5羽も餌を食べに来ている!

もうかなり大きくなっているので、巣立ってから数週間経過していそうだ。巣箱での抱卵を放棄したマイちゃんが別の場所で新たに営巣して産まれた子達なのか、それとも別のシジュウカラのメスの子達なのかはわからないけれど、こうして元気なシジュウカラの子どもたちの姿が見られて嬉しい。