この数年、身近な環境で野生動物を観察するのに夢中になっている。あくまで趣味の範疇なのだけれど、多少なりとも自然保護に貢献できたらいいなと思い、2020年の冬から自然保護団体BUNDによるヨーロッパヤマネコのモニタリングプロジェクトに参加している(実践レポはこちら)。今年の冬で3年目になり、なかなか楽しいので、別の野生動物モニタリングもやってみたいなあと思っていたところ、ブランデンブルク州ヌーテ・ニープリッツ自然公園でのビーバーモニタリングに参加しないかと声をかけられた。二つ返事で参加を決めた。我が家の近くの湖畔や水路沿いにビーバーに齧られた木や巣らしきものをよく見かけるので、以前からビーバーが気になっていたのだ。

ビーバーに齧られた木

ビーバーはかつては北半球の水域のほとんどに生息していた。毛皮や肉、肛門の香嚢から分泌される海狸香を求めて乱獲され、およそ100年前にヨーロッパ全域でほぼ絶滅したが、保護・再導入活動の甲斐あってかなり増え、現在はドイツ全国に4万個体を超えるビーバーが生息している。

ビーバーにはアメリカビーバー(学名:Castor canadensis)とヨーロッパビーバー(学名: Castor fiber)の2種類がいる。ヨーロッパビーバーの大きさは体重およそ30kg、体長1.35mほど。ヨーロッパにおける最大の齧歯類である。

ビーバーモニタリングの目的はビーバーの縄張りを確認し、ビーバーが生息できる環境を保護することにある。なぜなら、ビーバーは個体数が少なくても存在することによって生態系に大きな影響を及ぼす「キーストーン種」だからだ。ビーバーは水域にダムを作ることで知られるが、ビーバーダムによってできる湿地は多くの生物種の生息地となり、生物多様性を高める。また、ビーバーダムは洪水や火災リスクを下げ、有害物質を含む堆積物を堰き止めることで水を浄化する役割も持つ。だから、ビーバーを保護することはビーバーそのものだけでなく、生態系全体を守ることに繋がる。

モニタリングプロジェクトには誰でも参加することができる具体的にどんなことをするかというと、担当地域の水域に沿って歩き、ビーバーの痕跡(齧られた木、ダム、巣など)を探す。

ビーバーに齧られた木

ビーバーに齧られた木は目立つので、見つけるのは難しくない。ただし、古い噛み跡はビーバーが現在そこに生息していることを示すものではないので、齧られてから時間が経っていない場所を見つけることが肝心である。ビーバーは草食で夏に食べる植物の種類は数百種に及ぶが、冬場には主にポプラやヤナギの木の皮を食べる。

噛み跡は簡単に見つかるが、ビーバーの巣(ドイツ語でBiberburgという)を見つけるのは、慣れないと少し難しい。

湖の縁の斜面を利用して巣ができていることが多い。枝が重なり合い、間に泥などが詰まって盛り上がっている。巣の出入り口は水中にあるので見えない。ビーバーは水中では耳や鼻の穴を塞ぐことができ、口の中も歯の後ろを塞げるので、水中でも木を齧ることができる。この巣は長年手入れがされていないようなので、今は使われていないと思われる。

こちらは新しい枝が載っているので、使用中かな。

水場から数メートル離れたところに巣があることもあって、よく見ないと見落としがちである。ビーバーの縄張りは水路1〜3kmほどで、縄張りの中に複数の巣があることもある。ビーバーは一夫一婦制でパートナーを変えない。巣で生活するのは夫婦とその年に生まれた子ども、そして前の年に生まれた子どもである。子どもは2年たつと独立して新しい縄張りを作る。

こちらはビーバーのダム。わかりやすい。

別のダム。

ダムで明らかに水位が変わっているのがわかる。

小さなダム。縄張りの中に複数の小さなダムを作ることもある。

ビーバーは主に夜行性で、人の気配を感じると隠れるので、ビーバーそのものは滅多に目にすることができない。でも、水場を歩けばビーバーがいる痕跡をたくさん見つけることができるので楽しい。モニタリングは繁殖期が始まる前の冬におこなうので、冬場の良い運動にもなって一石二鳥なのだ。

これは私ではなく、プロジェクトメンバーのある女性

でも、モニタリング作業は実はそんなに楽ではないのだ。ビーバーがいるのは人がほとんど来ないような場所なので、遊歩道になっていたりはしない。うっそうと生い茂る葦やいばらの茂みをかき分けて進まなければならないし、基本的に湿地なので靴がびしょびしょになることも。冬だから虫に刺されないで済むのはいいけれど。

ビーバーの痕跡を見つけたらスマホで写真を撮り、GPSで位置を確認してプロジェクトのデータベースにコメントとともにアップロードする。集まったデータはマッピングされ、縄張りが確認された場所は保全の対象になるというわけだ。