今回のセイシェル旅行で初めて陸地滞在ではなくヨットクルージングを選択して、良かったこともあればやや物足りないと思うこともあった。とても良かったのは、10日間という短い期間にたくさんの入江やビーチを訪れることができたこと。クルージングならではの大きな魅力だ。

シュノーケルに関してはすでにこちらの記事に書いたので、今回はビーチについて書き記しておきたい。

全部で10箇所くらいのビーチを回った中で、最も素晴らしかったのはグランド・スール島(Grand Soeur, 英語ではBig Sister Islandと呼バレる)の東側のビーチである。世界で一番美しいビーチとすら思った。もちろん、私の主観ね。

この日、キャプテンが発表したプログラムは、「グランド・スール島でバーベキューをする」というもの。ヨットはグランド・スール島へ向かい、西側の海岸付近でアンカリングをして、私たちは島に上陸した。

島に上陸

島の西海岸には屋根付きのバーベキュースペースがある。キャプテン・レジスとコック・カルロスは「バーベキューの用意をしてるから、その間、遊んでて」と言う。島の反対側にもビーチがあるというのだ。言われた通りに島の反対側に向かって歩き始める。ビーチからビーチへは歩いて数分の距離だ。

ヤシの木の下の芝生は綺麗に刈られて、公園のよう。

芝生のあちらこちらにリクガメがいる。

ヤシの林を抜けたら、目の前はもうビーチだった。

!! あまりの美しさに息を呑んだ。

セイシェルで最も人気のあるビーチといえば、ラ・ディーグ島のアンス・ソース・ダルジェントかもしれない。アンス・ソース・ダルジェントの景観は文句なく美しいのだけれど、人気なだけにやはり人が多い。それとは対照的に、このグラン・スール島のビーチにはほとんど人がいない。このとき、この真っ白な海岸にいたのは私たちクルーズメンバーの8人だけ。

海の中から撮った写真。砂浜に座っているのはクルーズの仲間たち。

「楽園」とか「天国」とか、キッチュな言葉は使いたくない。でも、他に形容詞が見つからないほどの圧倒的な美しさ。もう二度とこんな景色は見られないかもしれない。今この瞬間を思い切り味わわなくては!

このグラン・スール島はプライベートアイランドで、許可なしには上陸できないが、クルーズ会社の方であらかじめ許可を取ってくれてあった。

しばらく海で泳いだらご飯の時間。再び島を横切って西海岸へ戻る。

お肉もお魚もよく焼けてる!

美味しくて、楽しくて。

野鳥を眺めながら食べるお昼ご飯は最高だ。これはベニノジコ(Madagascar Red Fody, Foudia madagascariensis)

セーシェルタイヨウチョウ (Seychelles sunbird, Cinnyris dussumieri)

夕方まで遊んだら、ゴムボートに乗ってヨットに戻る。この日も自然の美しさを心から楽しめた素晴らしい1日だった。

 

セイシェルでは大部分の時間を海の上で過ごしていたが、クルーズの半ばにプララン島に上陸し、ヴァレ・ド・メ自然保護区(Vallée de Mai Nature Reserve)を訪れた。広さ20ヘクタール弱のヴァレ・ド・メ自然保護区は天然のヤシの森がほぼ手付かずの状態で残る、世界最大の種を持つヤシの木、オオミヤシが生息することで知られる。


オオミヤシは実の驚異的な大きさ(平均15-20kg)だけでなく、その魅惑的な形状のために多くの伝説を生んで来た摩訶不思議な植物だ。オオミヤシは、セイシェルの島々が発見されるよりも以前から、その存在が知られていた。ときおり、インドやアフリカ、モルディブの海岸に流れ着く魅惑的な木の実が一体どこからやって来るのか、そしてそれはどんな木の実なのか、長い間、誰も本当のことを知らないまま、観賞の対照として、また薬効や魔力があると信じられ、多くの国で珍重された。セイシェルでオオミヤシがフランス語で「海のヤシ」を意味するココデメール(Coco de Mer)の名で呼ばれるのは、かつてオオミヤシは海の底に生えているのだと信じられていたことに由来するのかもしれない。ヨーロッパへは交易の旅から戻ったポルトガル人によって初めてもたらされたそうだ。学名がLodoicea maldivicaなのは当時モルディブでよく見つかっていたからだそう。

しかし、オオミヤシの木が自然に生育するのは、世界中でプララン島とキューリーズ島だけだ。他の場所でもオオミヤシを見ることはできるけれど、それらはすべて人の手で植えられたもので、育てるのが非常に難しいので成功例は多くない。ちなみに、ベルリン植物園の温室にもオオミヤシがある。

真ん中に割れ目があるオオミヤシの実

これまでに見つかったうち最大のものは42kgだという。両手で抱えてもずっしりと重くて、長いこと持っていられない。真ん中に割れ目のあるハート形が女性のお尻を連想させることから、セイシェルでは豊穣のシンボルとされる。

オオミヤシは雄雌異株、つまり雄花と雌花をそれぞれ別々の個体につける。雄株の花は長い鞘状をしていて、これまたまるで男性の生殖器を思わせる形状なのだ。人々にあらぬ想像を掻き立てたのも無理もない。オオミヤシのオスとメスは嵐の夜に巨大な葉をワサワサと揺らしながら結合すると言い伝えられて来た。しかし、それを実際に目撃したものはいない。なぜなら、目撃した者は呪われ、死ぬ運命だからだ。

葉も異様に大きい。生育に必要な水分と養分をたっぷりと集めることができる。

森でよく見るヤモリはオオミヤシの受粉係

オオミヤシの雌株

オオミヤシの成長はゆっくりで、雌株が実をつけるようになるまでには25〜40年もかかる。

現在、4000本ほどのオオミヤシの木が存在するが、外来種の侵入や違法な採取、森林火災などで減少が危惧されており、厳重に保護されている。1983年にヴァレ・ド・メ自然保護区はUNESCO世界遺産に登録された。オオミヤシの実の中にはゼリー状の果肉があるが、食べるのは絶対禁止。1980年代まではアーユルヴェーダの薬の原料として年間100個のオオミヤシがインドに輸出されていたが、現在は停止しており、販売許可されるオオミヤシの数は限定されている。1つ数万円するそうだ。

オオミヤシはセイシェルの人々にとってナショナルアイデンティティだ。観光客向けのお土産もオオミヤシの実を象ったものがたくさん売られている。ペンダントなどもあって、ちょっと惹かれたけれど、オオミヤシのことを知らない人が見たら、その形から何か勘違いされるかもと思ったので、買うのはやめておいた。

森にはオオミヤシの他に5種のヤシが生育する。

ジャックフルーツもたわわになっている。

ヴァレ・ド・メはクロオウムの最後の生息地の一つでもある。鳴き声はしていたけど、残念ながら姿を見ることはできなかった。

 

この記事の参考文献及びウェブサイト:

ガイドブックシリーズ Richtig Reisen、”Seychellen” (2010) Dumont Verlag

Robert Hofrichter “Naturführer Seychellen: Juwelen im Indischen Ozean” (2011) Tecklenborg Verlag

Seychelles Island Foundationのウェブサイト