イタリアのドロミテへ行って来た。東アルプスに属する山岳地帯ドロミテは2009年にUNESCO世界遺産に登録され、ハイシーズンにはかなり混雑するらしいが、6月上旬はシーズンには少し早く、滞在したのがPie Falcadeという小さな村だったこともあり、とても静かだった。この数年、すっかりジオ旅行にハマっているけれど、今回の旅は友人と会うのが主な目的で、滞在場所も友人が決めてくれたので、ほとんど下調べをせずに現地入り。それでも、軽くハイキングしてドロミテの自然の雄大さを感じることができた。

Passo di Valles峠からCol Margheritaハイキングルートを歩き、途中で振り返ったところ

 

途中の山小屋レストランRifugio Lareseiのテラスからモンテ・ムラツ方面を眺める

ドロミテの名は、18世紀末、この地方を訪れたフランス人地質学者デオダ・ドゥ・ドロミューDéodat Guy Sylvain Tancrède Gratet de Dolomieu)が、新しい岩石を発見したことに由来する。カルシウムとマグネシウムから成るその岩石はドロミューの名に因んで「ドロマイト(苦灰岩)」と名付けられた。うすい灰色をしたドロマイトは、ヨーロッパ大陸とアフリカ大陸が衝突してアルプス山脈を形成する以前に、両大陸の間にあった熱帯の浅い海海に堆積した石灰岩中のカルシウムがマグネシウムに置き変わることでできたものだ。

そうしてできたドロマイトは長い年月の間に氷河や風、水で浸食を受け、尖峰を代表とする特異な自然美を作り出している。

というところまではドロミテへ行く前にもなんとなくは知っていたけれど、実際に現地に行ってみると、「ドロミテはドロマイトでできた山」なんていう単純な説明で片付けられるような場所ではないことがわかった。その成り立ちはものすごく複雑そうだ。ほんの数日、ハイキングしたりドライブしながら景色を見ただけでも風景の多様さに驚かされる。ドロマイトは海洋性の堆積岩だが、そのほかに斑岩など明らかに火山性のものも多く目にした。一体ここはどうなっているのだろう?

ダイナミックに褶曲した地層

パネヴェッジョ湖 (Lago di Paneveggio)の北側の山の岩も気になる

景色に圧倒されて、帰る前にざっくりとでもドロミテの成り立ちを把握したくなったので、プレダッツォ(Predazzo)という町にあるドロミテ地質学博物館(Museo Geologico delle Dolomiti in Predazzo)へ行ってみた。

田舎の公民館のような建物が地質学博物館

ドロミテの地質学博物館がなぜこの小さな町にあるのかというと、ここがドロミテの地質学研究の発祥の地であるかららしい。現在、この博物館が建っている場所から数十メートル離れたところには、かつて、”Nave d’Oro” (Golden Shipの意)という名のホテルがあった(現在は取り壊れていて存在しない)。19世紀、各国から地質学者たちがやって来てNave d’Oroに集い、ドロミテ山塊の調査を行ったのである。

ドイツの地質学者・博物学者、アレクサンダー・フォン・フンボルトもここで調査をおこなった。

ベルリン出身の研究者、Fedor Jagorのノートブック

北のリエンツァ川、西のイザルコ川およびアディジェ川、南のブレンタ川と東のピアーヴェ川に囲まれたドロミテはいろいろな分け方があるようだが、この博物館の展示によると、ドロミテ山塊は9つのエリアに分けられる。

それぞれのエリアごとに地質学的特徴が異なり、やはり「ドロミテとは〇〇」とひとまとめに語ることは無理があるようだ。私たちが滞在したPia Falcade村は①と②と③の間、つまりドロミテのど真ん中に位置している。

1階フロアにはドロミテの各地に特徴的な岩石が展示されている。

ドロミテの岩石と地層は、海における堆積物の堆積と火山活動、そして造山活動という異なるプロセスを経て形成されて来た。

Dolomia principale

ドロミテ地方全体に見られる、ドロマイトが大部分を占める岩石層 、Dolomia principale(ドイツ語ではHauptdolomit)は、中世代後期三畳紀(約2億3700万年前から2億130万年前)の浅い海に堆積物が積み重なって形成されたもの。厚いところでは2200 mにも及ぶ。この時期にはさまざまな海洋生物や陸上生物が進化し、繁栄した。化石化したそれらの遺骸を含むドロミテの地層は、その後の新生代に起こったアルプス造山運動によって海面から高く押し上げられ、地表に露出した。山なのに海の生き物の化石が見つかるのはそのためである。

かつて、ドロミテの明峰ラテマール山は環礁だった

 

かつては環礁だったラテマール山の地層中に見つかった化石

魚の化石

 

ドロミテのあちこちで火山岩を目にする理由もわかった。上述のようにドロマイトが形成される以前のペルム紀は火山活動が非常に活発な時期だった。ドロミテでおよそ2億8000万年前に始まり2000万年間も続いたスーパーヴォルケーノの噴火活動は直径70kmにも及ぶボルツァーノカルデラを形成し、2000km2を超える広大な地域に大量の火山性堆積物を積らせたのだった。ドロミテの火山岩のうち特に多い石英質斑岩は、ドロミテの多くの町の石畳に使われている。

以上は博物館の展示(イタリア語、英語、ドイツ語の3ヶ国語対応)と、博物館ショップで買ったドロミテの地質史の本からわかったこと。でも、ドロミテの地質史はとても複雑で、ドロミテ地方のごく一部を見ただけで全体について把握するのはかなり難しい。ショップで買った本はよくまとめられているように思うのだけれど、残念ながらイタリア語版しかなく、GoogleLensをかざしてドイツ語に翻訳しながら読んだので、正確に理解できたかどうかは、ちょっと自信がない。でも、今後のさらなる理解のためにわかった分だけでもまとめておこうと思った次第。

 

ドロミテのジオパークGeopark Bletterbachの記事に続く。

 

この記事の参考文献:

Emanuelle Baldi (2020)   “Dolomiti    La Formazione di una Meraviglia della Natura

UNESCO  パンフレット ドロミテ