今回探検した運河はオーダー・ハーフェル運河(Oder-Havel-Kanal)。その名の通り、オーデル川とハーフェル川を繋いでいる。前回の記事に書いたフィノウ運河も、オーデル川とハーフェル川を繋ぐ運河だった。そう、オーデル・ハーフェル運河はフィノウ運河の数km北をフィノウ運河とほぼ並行に東西に伸びている。18世紀に建設されたフィノウ運河は(18世紀建設)は曲がりくねって浅かったため、大型船が通れるようにする目的で1905年に建設が始まり、1914年に完成した。ベルリンと当時ドイツ帝国領だったシュチェチン(現在はポーランド)間の水上交通の主幹ルートして機能した。バルト海への出口港であるシュチェチンはであり、ドイツ帝国にとって戦略的に重要な都市だった。オーダー・ハーフェル運河現在もなお、ドイツ〜ポーランド間の物流の大動脈である。

この運河の見どころは、なんといってもニーダーフィノウの船の昇降機(Schiffshebewerk Niederfinow)だ。2017年に一度訪れており、過去記事で紹介している。

同じことを二度書いてもしかたがないので、昇降機の詳細は今回は省くが、前回とは違っていることがあった。それは、2017年当時は建設中だった新しい昇降機が2022年に完成し、稼働していること。

1927年に建設された旧昇降機(左)と2022年完成の新昇降機(右)が並んでいる。

新昇降機が建設された理由は、旧昇降機の最大船舶サイズでは、現代の内陸輸送需要に合わなくなったため。新昇降機は長さ115m、幅12.5m、深さ4mまで対応しており、より大型の船舶が通行可能になった。内部を見学できるガイドツアーもある。

旧昇降機も現役だが、現在は主に観光に利用されている。

丘側から見た旧昇降機。新昇降機と比べると小さいが、それでも堂々としたもの。機能美と風格に惚れ惚れする。

ニーダーフィノウ一帯は低地で、船は昇降機によって丘を越え、より標高の高いベルリンへと運ばれる。

さて、オーデル・ハーフェル運河には、昇降機以外にも面白いものがある。その一つは、運河と線路が交差する鉄道トンネルだ。

電車は運河の下を通る。

船がやって来た。

のどかなフィノウ運河と近代技術を駆使したオーダー・ハーフェル運河は、流路はほぼ同じなのにまったく表情が異なる。なんだか、まるで二卵性の双子のようなのである。

 

運河探検は続く。

最近、運河巡りに凝っている。日本では運河というと小樽運河のように海沿いにあることが多いけれど、ドイツ、特に北ドイツには内陸運河もたくさんある。ライン川やエルベ川などのドイツの主要な河川は流れがゆったりとしていて古くから輸送に使われて来た。17世紀頃からそれらの自然河川同士を結ぶ運河が建設され始め、19世紀以降に本格化した。地形が平坦で運河が建設しやすい北ドイツでは、河川と一体化した高密度な水路ネットワークが発達しているのだ。現在では主に観光目的で使われている古い歴史的な運河から近代的なハイテク運河までいろいろあるのでとても面白い。

ドイツ最古の現存運河、フィノウ運河(Finowkanal)はベルリンの北東50kmくらいのところにある。ポーランドとの国境オーデル川とハーフェル川を結ぶ、東西に伸びる全長約43kmの運河だ。ブランデンブルク選帝侯ヨアヒム・フリードリヒの命令によって1605年に建設が開始され、1620年ごろに完成した。1618年から30年間続いた宗教戦争でボロボロになってしまったが、1743年にプロイセン国王フリードリヒ2世(フリードリヒ大王)により再建された。

運河の建設当時、周辺地域では製鉄業や木材・木タール生産などの産業が伸びており、運河ができたことによってさらに一大産業拠点へと発展した。インフラ投資によって経済基盤を強化するプロイセン王国の国家プロジェクトとして作られたフィノウ運河だったが、1914年にフィノウ運河とパラレルに近代的なオーダー・ハーフェル運河が建設されたことで輸送インフラとしての重要性を失った。現在は歴史遺産+観光資源として保存されていて、楽しめる。

現在はとてものどかなフィノウ運河

運河には船が通るためのいろんな可動橋がかかっていて、面白い。

木製の跳ね橋(Zugbrücke Niederfinow)

こんな船が通過するよ。

これはエヴァースヴァルデのテーブル橋(Hubbrücke)

船が通るときにはこの橋部分が垂直に上がるのだ。

さて、フィノウ運河のあるブランデンブルク州は基本的には平らなのだが、そうはいっても場所によってある程度の標高差はある。ハーフェル川側よりもオーデル川側の方が低いので、高低差を克服するために閘門(Schleuse)というものが随所に作られた。どういう仕組みかというと、運河の途中に前後に扉のある区間を作り、その区間の中の水位を上下させることで船を持ち上げたり下げたりする。フィノウ運河には手動で開け閉めされる歴史的黄門が12箇所ある。現在、そのうちの上流側の6つは補修工事中だが。ドラートハマー閘門(Schleuse Drahthammer)〜リーぺ閘門(Schleuse Liepe)間はボートなどで通過できる。

文化財に指定されているドラートハマー閘門(Schleuse Drahthammer)。

下流側から見た閘門

1877年に完成した閘門扉(Tore)。船はここに入って水位調整され、上流に抜けていく。

閘室の両側には、操作員が上から水門を開閉したり、点検したりするためのメンテナンスデッキがある。

水位を制御するための堰

閘門のそばに古い小型船が展示されている。これは、ただの古い船ではない。フィノウ規格艀(Finowmaß-Kahn)と呼ばれる船である。運河には、「この運河にはどんな大きさの船まで通れるか?」を決める運河規格というものがある。たとえば、パナマ運河を通るコンテナ船はパナマックス(Panamax)と呼ばれる規格で製造される。フィノウ規格はドイツの内陸水運における最古の規格なのだ。

せっかくなので、カヌーを借りてフィノウ運河を移動してみた。

ヨシキリの鳴き声が響き渡る中、ゆっくりとカヌーを漕ぐのがとても気持ちよかった。

カヌーの後は古い電車を改造した素敵なカフェでお茶。

フィノウ運河は美しい自然と歴史、そして技術を同時に楽しめて最高だ。でも、運河はまだまだたくさんある。これからの季節は運河巡りに最適だから、次々探検していこう。