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地質学アドベントカレンダー 2024年度は化石バージョン
クリスマスも終わり、2024年も残りわずかとなった。
日本ではクリスマスというと12月24日のクリスマスイブのみを指すが、私が住んでいるドイツではクリスマスは年間最大の行事で、「アドベント」と呼ばれるクリスマス前の時期を含めると、延々4週間以上にも及ぶのである。
もういくつ寝ると〜クリスマス〜と、キリストの降誕を待ち望むアドベントにつきものなのがアドベンツカレンダー。12月1日から毎日一つづつ小窓を開けていく。24の窓を全部開け終わったら、いよいよクリスマスイブだ。アドベントカレンダーの風習が生まれた頃は、窓を開けてその中に描かれた宗教画を眺めて楽しんでいたらしいが、いつからか、ちょっとしたプレゼントが出て来ることが一般的になった。
アドベントカレンダーがすっかり商業化した現代では、中にチョコレートが入ったカレンダーが最もポピュラーだけれど、それ以外にも、いろんなフレーバーのお茶を楽しめるカレンダー、使い切りサイズのコスメが入ったコスメカレンダー、毎日違う種類のビールが飲めるビールカレンダーなど、いろんなものがある。
我が家で数年前から買っているのは、鉱物採集の道具や鉱物・化石標本などを販売しているKrantz社が出しているGeologischer Adventskalender(地質学アドベントカレンダー)。窓の中に小さな標本が入っている。
2022年と2023年のカレンダー。右の大きいのがビギナー向け、左の2つは上級者向けのもの。
それぞれの標本について簡単に説明したブックレットがついているので、毎朝、その日の窓を開けて標本を取り出し、朝ごはんを食べながら、「これは何の石だろう?」と夫と二人で当てっこし、ブックレットの説明を読んで「ほー、なるほどー」と感心する、というのが我が家でのアドベントの楽しみになった。
この地質学アドベントカレンダー、なかなか人気があるようで、毎年、種類が増えている。2024年は化石バージョンも登場したので、そちらにしてみた。
化石バージョンもとてもよかった。標本はメジャーなものばかりなので、私たちがこれまでに化石ハンティングに行ってすでに収集したものも多く含まれていたけど、カレンダーの標本と手持ちのものを見比べるのも楽しいし、ブックレットには今まで知らなかったことが書かれていたりして、勉強になる。ただ、化石は多くの場合、生き物の一部なので、ブックレットの言葉による説明だけでは、その生き物がどんなかたちをしていたのか、想像しにくい。ネットで一つ一つ画像検索しながら説明を読んだ。ブックレットに簡単なイラストでも載っていたらより良かったのにと感じる。でも、同じ種でも形のバリエーションが多いものだと難しいのかもしれない。
24の標本のうち、特に面白かったいくつかを挙げておこう。
カルケオラ・サンダリナ (Calceola sandalina)
地質時代: 古生代デボン紀中期アイフェリアン
年代: およそ3億8500万年前〜4億700万年前
産出場所: ドイツ、ラインラント州ゴンデルスハイム(Gondelsheim)
スリッパのような形をしているので、俗にスリッパサンゴ(Pantoffelkoralle)と呼ばれる。群体を成さずに単体で生活していた。縦に成長するのではなく、平らな面を下にしてサンゴ礁などに固着し、横方向に成長した。殻の開口部には泥の侵入を防いだり、捕食者から身を守るための蓋を持っていたが、殻が化石として残っているケースは非常に稀らしい。
Planorbis multiformis (Gyraulus trochiformis)
地質時代: 新生代新第三紀中新世
年代: およそ1500万年前
産出場所: ドイツ、バーデン=ヴュルテンブルク州シュタインハイム
一見、どうってことのない小さな巻貝に見えたが、説明を読んだら面白かった。この標本はシュタインハイム貝砂層と呼ばれる地層から多く産出されるヒラマキガイの化石。ヒラマキガイなのに、殻は平らではなく、とんがっている。これはなぜなのか?
シュタインハイムは、シュタインハイム盆地と呼ばれる盆地の内側に位置する。およそ1500万年前にそこに隕石が落下し、直径3.5kmのクレーターを形成した。今では牧草地になっているが、かつてクレーターは水で満たされ湖となり、そこには様々な生物が生息していた。長い時間をかけて湖が少しづつ干上がっていく過程で湖水の酸素が減り、塩分濃度が増していったので多くの種は環境変化に適応できず消えていったが、マキガイは環境変化に適応してよく繁殖した。リーフレットの説明によると、尖った形状の殻を持つ個体は捕食者が食べにくいので生存に有利だった。しかし、捕食者の魚がいなくなると、尖った殻を持つ個体はまた減っていったそう。
興味が湧いたのでさらに調べてみると、シュタインハイム貝砂層に見られるヒラマキガイ化石の殻の形状が古い地層から新しい地層へ変化していることに初めて気づいたのは19世紀に活躍した古生物学者フランツ・ヒルゲンドルフ(Franz Hilgendorf)で、この発見はダーウィンの進化論を初めて追認するものとして大いに注目されたとのこと。
実はこちらの過去記事に書いたように、シュタインハイムには行ったことがあり、クレーターの縁を歩いたり、メテオクレーター博物館を見たりしたのだけれど、この貝のことは今まで知らなかった。もしかしたら博物館の展示で言及されているけど、隕石のことで頭がいっぱいで気づかなかったのかもしれない。
Heliophora (West African Sand Dollar)
地質時代: 新生代新第三紀鮮新世
年代: 400万年前〜現在
産出場所: サハラ砂漠
ギザギザが星に見えないこともない12月24日の標本はウニ綱タコノマクラ目のHeliophora 。ウニの仲間だけれど、お煎餅のように平べったいのが特徴。浅い海に群生を成し、しばしば、まるで瓦屋根のように重なり合って生息していたようだ。Krantz社のオンラインショップの説明によると、Heliophoraは絶滅しておらず、現在も西アフリカの海岸に生息する。
ということで、今年のアドベントも、毎日、小さな楽しみがあった。