Dörverdenでオオカミセンターの見学を無事終え、友人Sちゃんをハノーファー空港へ車で送って行くことにした。飛行機の出発時刻まで時間に余裕があったのでどこか途中の町に寄って行こうということになり、立ち寄ったのはニーンブルク(Nienburg)。

ニーンブルク

「なかなか可愛い町じゃない?」などと言いながら、気の利いたカフェでも探そうと目抜き通りを歩いていると、ある建物のウィンドーの前でSちゃんが「あら、これ何?」と足を止めた。目をやると、そこには、、、、

イノシシの剥製があった。傍には警察の制服を着た人形が立っている。ん?これ、普通のイノシシじゃない?見るとこのイノシシは警察犬ならぬ警察イノシシらしい。名前はルイーゼ。ニーダーザクセン州警察により麻薬探知イノシシとして正式に訓練を受け、1987年まで活躍したそうだ。メディアで引っ張りだこのスターイノシシだったと書いてある。なぜそのルイーゼさんがここに展示されているのかというと、たまたま通りかかったこの建物はニーダーザクセン州警察博物館なのであった。何それ、面白そう。無料だったので中に入ってみた。

入り口にズラーっと警察ミニカー。かつてドイツの警察カラーはこのように緑とベージュだった。2004年に緑から青への変更が決まり、徐々に新カラーへ移行した。でも、バイエルン州だけはまだ移行が完了しておらず、まだ緑色のパトカーも見られるらしいね。

警察おもちゃがいろいろ展示交通してある。写真は交通ルールを学ぶためのボードゲーム(さすがボードゲーム大国、ドイツ!)とおまわりさん指人形。指人形は可愛いのか怖いのかよくわからない。この人形を指にはめて子どもたちはどんな風に遊ぶのだろう。

1階フロアのうちかなりのスペースを占めていたのはニーダーザクセン州ハノーファーで1919年から1924年にかけて24人を殺害した「フリッツ・ハールマン連続殺人事件」に関する展示だった。事件の被害者は若い浮浪者や男娼で、ハールマンに自宅のアパートに連れ込まれ、性行為の相手をさせられた後、喉を嚙み切られて死亡した。ハールマンハールマンは被害者の頭部を石で叩き割り、遺体を包丁でバラバラに解体してバケツに入れ、外に運び出していたそうだ。骨はライネ川に捨て、その他の部分を町の共同トイレに投げ入れ、液体状の部分は下水溝に流し、被害者が身につけていた衣類は古着屋に売り飛ばしたという。

地元の子どもたちがライネ川で5体の頭蓋骨を発見したことからハールマンの犯行が明るみになり、ハールマンは斬首刑に処された。

ハールマンの処刑後、20年も経ってから発見された、犯行に使われたとみなされる包丁。ハールマンは肉の加工業も営んでおり、ソーセージなどを作って売っていた。被害者の遺体を食品に加工していたという憶測もあるらしいが証拠は見つかっていない。このおぞましい事件を私は知らなかった。数々の文芸作品の題材として取り上げられ、映画にもなっていることがわかった。家に帰ってから夫に「ハールマン連続殺人事件って知っている?」と聞いたら、「あー、『Die Zärtlichkeit der Wölfe』だね?」という返事が返って来た。

このハールマン事件は衝撃的な事件として市民をパニックに陥れただけでなく、警察の取り調べのあり方についても大きな議論を引き起こした。取調官はなかなか口を割らなかったハールマンを拷問し、恐怖を与えるため、独房の四隅に頭蓋骨を起き、ベッドの下には被害者の骨の詰まった袋を置いたという。また、ハールマンは警察の情報提供者でもあったため、容疑者リストにありいながら逮捕が遅れたということもあり、警察に対する市民の信頼はガタ落ちした。ハールマンは同性愛者だったために、事件後、同性愛者に対する風当たりはますます強くなっていたらしい。

身の毛がよだつような恐ろしい事件だが、こうした事件が起きた当時のドイツの社会状況は興味深い。第一次世界大戦後の食糧難で犬や猫の肉が闇市で売買されていたり、ハノーファーの中央駅周辺は性を売って飢えをしのぐ孤児の溜まり場になっていたなどの背景があったようだ。

さて、ニーダーザクセン警察博物館ではハールマン事件についてだけでなく警察史も知ることができる。

18世紀の鐘つき手錠

プロイセン時代のおまわりさん

1911年の警察の風刺画

1900年の警察官用の柔術の教科書

ナチス時代の警察の制服

戦後の連合軍軍政期に英国の警察をモデルに導入されたニーダーザクセン州警察の制服

70年代の検査官の制服

それぞれの時代の警察についての説明も面白いのだけれど、記事が長くなり過ぎるので、また改めて取り上げたいと思う。

フォルクスヴァーゲン・ケーファーのパトカー。可愛い!

ふらっと寄ったニーダーザクセン州警察博物館、なかなかの見応えだった。警察博物館はドイツ各地にあるので、他のも是非訪れたい。