旅先の自然史博物館でその地方の自然について知るのは面白い。ダウンの火山博物館では「天然の焼き物」とも呼べそうな表面がガラス化した不思議な石が印象に残った。化石コーナーではデヴォン紀の化石をたくさん見た。(詳しくはこちら

でも、ただ見るだけではちょっと物足りない。最近、フィールドに出て自分で鉱物や化石を探す愉しさに目覚めてしまった私と夫である。これまでに南ドイツのゾルンホーフェンリューゲン島での体験が楽しかったので、アイフェルでも似たようなことができないだろうかと考えた。ダウン市のツーリストインフォメーションで「地質学的なガイドツアーやワークショップはありませんか」と聞いたところ、偶然にも翌日にプルファー・マールの側のキャンプ場で地質学者による「アイフェルの石の見分け方」というワークショップをやるというので申し込んだ。

ワークショップでは引退した地元の地質学者がアイフェルの地質や火山の仕組み、アイフェルで見られる岩石や鉱物について実物を見せながら説明してくれるというも。

参加者は私たちを入れて十名ちょっと。中学生くらいの子どもを連れた家族連れもいた。その日は平日の午前中だったけど、すごくマイナーな内容の有料ワークショップ(一人8ユーロ)でも成立してしまうんだよね〜。しかも、参加者は真剣に説明を聞く。地学博士はなんと90分もかけてたっぷりと説明してくれた。

見せてもらった石のうち、一番いいなと思ったのはドイツ語でOlivinbombeと呼ばれるこんな石。マグマが異質の岩石を取り込んだ捕獲岩(ゼノリス)の一種で、地下深くのカンラン石(ペリドット)を捕獲したため、こんな綺麗な緑色をしている。以下の2枚の写真はこの後改めてレポートするゲロルシュタインの博物館で見たものだが、アイフェル地方ではいろいろな捕獲岩が見つかるらしい。

 

ワークショップの最後にはみんなで溶岩の塊を割って中を見た。プルファー・マールの周辺には火山の噴火で噴出されたジャガイモのような形の溶岩の塊がたくさん落ちている。割ると内部に鉱物の結晶が見られるものがあるという。

「さっき、裏の畑でいくつか塊を拾って来ましたよ。さあ、割ってみましょう」

残念ながら、私が割った石の中には結晶は見られず、均一なグレーだった。わ〜ん、悔しい!

「残念でしたね。でも、裏の畑にたくさん落ちてるから、拾って割ってみるといいですよ」と先生。そう言われたら、拾うよねー。ということで、ワークショップの後は石を拾いにGo!

え、こんなところに溶岩の塊なんて見つかるの?

これか〜〜。ジャガイモのような丸っこいのを拾うといいらしい。

早速見つけて割っているところ。

ふと反対側を見ると、耕されてて石がゴロゴロ落ちていた!

収穫。中にキラキラした結晶があるのが見えるだろうか。

でも、私が本当に見つけたかったのはこれじゃなくて、ペリドットが入っているもの。博士によると、ペリドット入りはここにはなくドイデスフェルトという別の場所へ行かなければ見つけられないらしい。そこで私たちはペリドットを求めてドイデスフェルトへ移動した。

ここ!この地層の中にペリドットがあるはずなのだ。

あった!

こんな大きいのも!

アイフェルのOlivinbombeを収穫!

ああ、楽しかった。火山アイフェル・ジオパークのレポートはまだ続く。

 

火山アイフェル・ジオパークでの休暇レポートの続き。(これまでのレポートは、その1 「アイフェルの目」と呼ばれる美しいマール湖郡、その2 マール湖跡からも化石がザクザク。Manderscheidのマール博物館、そして番外編 35年かけて集めた素晴らしい石のコレクション。Manderscheidのプライベート鉱物博物館、Die Steinkiste をどうぞ)

今回紹介するのは宿泊していたシャルケンメーレン村から数kmのダウン(Daun)市にあるアイフェル火山博物館(Eifel Vulkanmuseum)。

アイフェル火山博物館では世界の火山及びアイフェルの火山活動に関する展示が見られる。

展示室

火山は主にプレートとプレートの境い目にできるが、アイフェル火山地方はプレートの境界線上には位置していない。アイフェルの火山はいわゆる「ホットスポット火山」だ。プレートの下の「ホットスポット」と呼ばれる場所ではマントルが周辺よりも高温になっていて、マントルプルームと呼ばれる大規模な上昇流が発生している。つまり、アイフェルの地面の下にはグツグツとマグマが煮えたぎっているのだ。そして、アイフェル地方の地殻には亀裂が多い。約3億2000年前に起こった造山運動によってあちこちにヒビが入っている。そのをヒビを通ってマグマが上昇してくるのだそう。

マールの成り立ちを示すモデル

こちらの記事に書いたように、アイフェル地方には多数のマール湖がある。陸地化したものも入れると75にも及ぶという。これほどマール湖が集中して形成されている地域は世界でも類を見ないらしい。でも、アイフェルの火山=マールなのかというと実はそうではなく、アイフェルの火山地形のうちマールは3割ほどで、残る7割はスコリア丘と呼ばれる円錐状の丘だ。火山アイフェルでは山の上のところどころにポコンポコンと帽子をふせたように火山が盛り上がっている。アイフェルの火山活動が始まったのは第三紀で、その後休止期間を経、約80万年前から再び活発化した。火山アイフェル・ジオパークはアイフェル地方西部に位置するが、アイフェル西部では100万年間に少なくとも275回、火山が噴火したとされる。直近の噴火は最も新しいマールであるウルメナー・マールが形成された約1万1000年ほど前。ということは、仮に噴火が定期的に起こるとすれば、もうとっくに噴火していてもおかしくない?そう考えるとちょっと不安になって来る。もちろん、火山学者らが常に活動をモニタリングしていて、現在のところ活動が活発化する兆候は見られないとのことで安心した。

さて、この博物館にはアイフェル地方の様々な岩石が展示されている。

陳列棚の石を眺めていたら、面白いものを見つけた。

表面がツルツルで濡れたような光沢を放っている。これは一体?

こちらはややマットな質感ながらも表面は滑らか。

まるで釉薬をかけて焼いた陶器のようで、びっくりしてまじまじと眺めてしまった(というのも、最近、趣味で陶芸を始めたので、、、、)。これらはガラス化した砂岩で、マグマの熱で表面が溶けてこのようにツルツルになるらしい。後日、日本に住む二人の地学研究者に画像を見せたら、こういうのは初めて見たと言っていた。他の地方では滅多にお目にかかれないもののようだ。面白いなあ。

化石コーナー。こちらに書いたように、デヴォン紀に浅い海だったアイフェル地方は化石の多産地域でもある。この地方では主にどんな化石が出て来るのだろうか。展示されている標本はサンゴが多かった。

サンゴの化石も種類がものすごく多くて、まだ何が何だかさっぱり把握できないのだけれど、ここでサンゴ化石のサンプルをいくつか見たことがこの後大いに役に立つことになる。その話は次回に。