野鳥観察をするようになって約1年、どうやらすっかり趣味として定着したようである。夏の間は葉っぱに隠れて鳥達の姿がよく見えず寂しかったが、これからの季節は視界を遮るものが少なく、バードウォッチングが楽しい季節だ。ブランデンブルク州には渡り鳥の休憩地がたくさんあり、私の家の近くでも冬の間は多くの渡り鳥を見ることができるのが嬉しい。でも、だんだん欲が出て来て、少し遠出をして野鳥が見たくなった。そこで、自然の好きな友人数名を誘い、ブランデンブルク州最大の野鳥の生息地として知られる自然保護区、ギュルパー湖(Gülper See)へ鳥を見に行って来た。

 

西ハーフェルラント自然公園(Naturpark Westhavelland)内に位置するこの自然保護区はドイツで最も古い自然保護区の一つで、その大きさは776ヘクタールにも及ぶ。ベルリン中心部からは北西に100km弱。最寄りの町、ラテノウで友人達をピックアップし、車でギュルパー湖に向かった。ブランデンブルク州自然保護基金(Naturschutzfonds Brandenburg)のネイチャーガイドさんによる無料の野鳥観察ツアーに申し込んであったのだ。

 

どんな鳥が見られるかな?ツルが来ているといいねと話しながら集合場所に向かう途中、運転していた夫が道路脇の畑に視線をやり、「見て!」と言う。

「あっ!ツル!」「いる!!」ツアー開始前にすでにツルを目にして興奮する私たち。

全部で何羽くらいいたかなあ。ブランデンブルクでクロヅルを目にすることは珍しくはないのだが、ここはとても数が多い。

鶴の飛ぶ姿は本当に優雅だね。

ひとしきりツルを楽しんだら、ギュルパー湖でのバードウォッチングツアーの時間になった。湖南岸の東側にある風車の下で集合し、ネイチャーガイドさんの説明を聞きながら、3時間ほどかけて南岸の堤防を歩く。ガイドさんらはギュルパー湖自然保護区の生態系とその保護活動について、たっぷりと説明してくださった。ギュルパー湖には年間を通じて多くの野鳥が訪れるが、秋から冬にかけては様々な種類のガチョウやカモ、カモメ、そしてツルの群れを楽しむことができる。

 

ギュルパー湖は車がないとアクセスが困難だという難点があるけれど、いざ湖に到着すれば視界を遮るものがほとんどなく、最高のバードウォッチングのロケーションだ。この写真は300mmの望遠レンズで撮ったもので、バードウォッチング用の双眼鏡があるとさらによく見える。友人はこのために50倍の双眼鏡を持参していたので、覗かせてもらったら最高だった。

 

突然、一羽が鳴き声を上げたと思ったら、ハイイロガンたちが一斉に空に舞い上がった。壮観!

 

ツアー最終地点の展望台に着き、眺めた景色の美しさは言葉で言い表しがたいものだった。湖の上に広がる空はパステルカラーのグラデーションに染まり、その中を隊列を組んで移動していくガチョウ達の鳴き声が響き渡っている。

暮れていく空をただただ眺め、時間が過ぎて行った。ついに日が落ちて、暗くなったので、懐中電灯で足元を照らしつつ、車のあるところまで戻る。気がついたらすっかりお腹が空いていた。

湖の近くにはレストランもカフェもないので、風車の下に設置されたテーブルに座って保温鍋に作って持参したスープを皆で飲むことにした。あたりには街灯もないので、テーブルの上部の梁に懐中電灯を引っ掛けて、その灯りだけで食事をする。いかにもアウトドア!という感じだ。長時間外を歩いて少し体が冷えていたので、あったかいスープを飲んで温まり、友人の手作りケーキを頬張りながら、「お天気に恵まれて本当に良かったね。ツルもガチョウも夕焼けも見られて、最高だねー」と言い合った。

 

しかし、感動はここでは終わらなかった。

 

ギュルパー湖は自然保護区であると同時に星空パークにも指定されている。ドイツ中で最も夜空が暗いとされるこの一帯は、西ハーフェルラント星空パーク(Sternenpark Westhavelland)として天体観測ファンの聖地なのである。定期的に天体観測イベントなども開催され、アストロ休暇を楽しむ人たちもいるらしい。この日は雲もなく、頭の上には無数の星が瞬いている。

もっとよく星を見ようと、懐中電灯を消して空を見上げた。

「うわあ、こんな凄い星空、初めて!」「天の川が見えるよ!」

暗闇の中、草むらに寝っ転がって、しばし無言で星空を眺める。その間もあたりにはガチョウ達の鳴き声が響いている。

 

(ご一緒した小松崎拓郎さんが撮影した写真)

 

この夜、私たちが満ち足りた気持ちで帰途についたのは言うまでもない。「何もない」としばしば形容されるブランデンブルク州だけど、本当はいろんなものがある。お金もかけず、こんなに豊かな体験ができるブランデンブルクはやっぱり素晴らしい。

 

小松崎さんもnoteで体験記をアップされていますので、是非あわせてお読みください。

滞独日記「ブランデンブルクは自然の宝庫。ギュルパー湖で渡り鳥達が大合唱する風景を鑑賞」

 

追記: ご一緒した佐藤ゆきさん(@yuki_sat)の記事がアップされました。こちらも是非お読みください。

満点の星空を眺める