前回の続き。今年2度目の営巣では、産み落とされた7つの卵のうち1つは孵らないままだったものの、孵った6羽のヒナたちは成長が早く、6月19日までは全てが順調に進んでいた。気温が高いからだろうか、ヒナたちはお母さんのお腹の下でじっとせずに常に巣から頭を出していた。
ぐんぐん成長する様子を見て、きっと6羽みな無事に巣立てることだろうと思っていた。
異変に気付いたのは6月20日の朝。巣箱を除くと、ヒナの数が足りない。6羽いるはずなのに、5羽しかいない。巣の端に隠れているのかもしれないと思ったが、目を凝らしてもそれらしき姿は見られない。どういうことなんだろう?
この週末は予定があったので、巣箱が気になりながらも家を出た。予定がびっしりでスマホの巣箱アプリを開けてみる暇がほとんどなかったが、数時間ごとにちらっと確認すると、そのたびにヒナの数が減っているように見える。おかしい、、、、。何かまずいことが起きているようだ。心配な気持ちで昼間を過ごし、夜、用が済んでやっとまともに巣箱を見れるようになったときにはシーちゃんはすでに寝ていたので、その下でヒナたちがどうなっているのかを確認できなかった。
6月21日。朝起きてすぐに巣箱を見る。シーちゃんは巣箱に座っているが、ヒナは見えない。この日も終日用があって、早々に家を出なければならなかった。
午後、携帯にメッセージが入った。娘からだ。
「ヒナたち、どうしちゃったの?まさか、もう飛んでいったなんて、ありえないよね?」
まさか、と思いながらアプリを開ける。
孵らなかった1つの卵を残し、ヒナたちがすっかり消えている、、、、。
ぐんぐん成長していたとはいえ、まだ生後1週間にもならない。もちろん、羽も出来上がっていない。何者かが巣箱に侵入してヒナたちを盗んでいったのだろうか?しかし、巣穴の直径は32mmしかなく、それよりも体の大きな鳥は入れないはず。ネズミか何かが入った?仮にそうだとしても、6羽もいたヒナをシーちゃんに気付かれずに次々に運び出すのは無理だろう。
だとすると、ヒナたちは何らかの理由で巣箱の中で死に、死骸は運び出されたということになる。今年、ドイツではウイルス感染で青がらが大量に死んでいるとニュースになっていた。それと同じウイルス、または別のウイルスかバクテリアにやられたのだろうか?
いずれにしても、巣が空になっている以上、ヒナたちは全滅したと考えるほかはない、、、、、。
あまりのことに呆然となった。
その日の夜、すべての用事を済ませて帰宅してから、巣箱カメラのSDカードに保存されている自動録画を巻き戻して原因を解明することにした。ヒナたちが元気だった19日から時系列で動画を一つ一つ再生していく。その結果わかったのは、とてもショックな事実だった。
ヒナたちは、シーちゃんが餌を探しに巣箱を離れている間、巣から伸び上がるようにしながら口を大きく開けていた。巣の縁には白いフワフワとした綿のような巣材があり、ヒナたちの口は頻繁にフワフワに引っかかっていた。ときどきフワフワした巣材が口の中に入り、ヒナたちが苦しそうにもがいている様子が映っている。餌を持って戻って来たシーちゃんが口から異物を取り除いてやっている姿も見られたが、またすぐに引っかかってしまう。そして、ヒナたちは短時間の間に巣材によって次々と窒息して死んでいたことがわかった。死んでしまったヒナをシーちゃんは一羽一羽、巣の外へ運び出していた。
悲し過ぎる結末だった。ヒナたちはあんなに元気だったのに。1度目の営巣でも巣立てなかった子たちがいたが、それでも6羽が無事に巣立ったので、きっと今回もうまくいくだろうと思っていたのだけれど。
それにしても、ヒナたちが喉を詰まらせた巣材は何なのだろう?さらに悲しいことには、すべてのヒナが死んでしまった後、シーちゃんは孵らないままの最後の卵に望みをかけて一生懸命温めている。ほとんど巣箱の外に出ることなく、3日間もの間、おそらくもう孵らないであろう卵の上に座り続けていた。
ついに諦めたのか、巣から出たまま戻って来ないので、その隙に巣箱を開けて巣材を調べてみた。
フワフワした巣材は羊毛のようだ。引っ張ってみると、かなりコシがあり、簡単には引きちぎれない。なるほどこれに小さな口が引っかかったら外れないはずだ。前回の営巣ではクッションになる動物性の素材はそれほど多く使われていなかったし、猫の毛などのほぐれやすいものが主だった。
近所には羊は飼われていないので、どこから羊毛を集めて来たのかはわからない。良い素材だと思って使ったのだろうに、こんな結果になって本当にかわいそう、、、。また巣作りにチャレンジするだろうか。もうその素材はやめておいたほうがいいよ、と伝えられないのが残念だ。
こんなわけで、楽しみにしていた2度目の巣立ちシーンは見ることができなくなったが、自然界は厳しく、生きられるということは当たり前ではなく奇跡的なことなのだと思い知らされた。
庭のナラの木の梢からは、シーちゃんが春に育て上げた若鳥たちの声が聞こえてくる。彼らがとても貴重な存在に思える。
今の気持ちを忘れずにいよう。