新型コロナウイルスが猛威を振るっており、現在、移動や旅行が楽しめる状況ではない。こんな時期には他の人の書いた旅行記をじっくり読んで、また自由に旅ができるようになったときのためにアイディアを膨らませておくのもいいかもしれない。近頃はブログやSNSで手軽に情報収集できるようになって便利だが、書籍としてまとまったかたちで旅行記や滞在記を読むのもやっぱり良いものだ。

ドイツに住むようになってから、ドイツ人の書いた旅本も読むようになった。そして、ドイツで出版され、読まれている旅本は日本で目にするものとはちょっと趣向が違うということに気づいた。私が日本でよく読んでいたのは、旅先で異文化やその土地ならではのライフスタイルに触れるという内容のものが多かったが、ドイツの書店で目につく旅本は体を張った冒険記が多い。

そして、それらの冒険記のスケールの大きいこと!!

ドイツで生活していてしばしば感じることでもあるが、ドイツ人には(ドイツ人に限らないかもしれないが)体力のある人が多い。散歩が国民的余暇で、日頃からよく歩く。アスリートでもない人が「ちょっとサイクリング」と30〜40kmの距離を自転車で移動するのもザラである。日本のメディアではよく「欧州の人はバカンスではなにもせず、ただ海辺でのんびりするだけ」と紹介されたりするが、必ずしもそうではない。山登りだサイクリングだスキーだラフティングだヨットだ、、、etc.とアクティブ休暇を楽しむ人もとても多く、そのためのインフラも整っている。

だからドイツではちょっとやそっとの旅コンテンツでは書籍化されないのだろう。とうてい真似できないスケールの個性的な冒険記が多い。著者らの体力が自分とは違いすぎて、ただただ圧倒される。でも、そんな凄すぎる旅本を読むのが私は好き。人間っていろんなことができるんだなあ、自分ももっと、体力と能力の範囲でやりたいことに挑戦してもいいんだよね?という気持ちになれるから。

そんなわけで、私がこれまでに読んだドイツ語の冒険記の中から面白かったものをいくつか紹介しよう。

 

魅惑的な野生の世界へ引き込まれる冒険本

Gesa Neitzel著 “Frühstück mit Elefanten   als Rangerin in Afrika”

タイトルは日本語にすると「ゾウと朝食を。アフリカでサファリガイドになる」って感じかな。ベルリンでテレビ制作の仕事に就いて忙しい毎日を送っていた著者はある日、「生活を変えたい」と仕事を辞め、サファリガイドになるための訓練を受けるために南アフリカへ旅立った。快適なアパートを手放し、インターネットはおろか常に危険と隣り合わせのアフリカのサバンナで野宿しながらサバイバルスキルを獲得し、自然そして野生動物に関する知識を蓄積していく。サファリガイドになるまでの訓練はとてもハードだったが、著者にとって心から満ち足りていると感じられる時間だった。

私は野生動物を見るのが好きで、これまでにコスタリカやパナマ、スリランカなどで野生動物観察ツアーに参加した。それが本当に楽しかったので、とても面白く読んだ。自分が今からサファリガイドになるのは無理だけど、いつかアフリカでも野生動物を観察してみたい。

Gesa Neitzel氏のウェブサイトはこちら

いくつになっても冒険は可能。困難なんて気にしない

Heidi Hetzer著 “Ungebremst leben: Wie ich mit 77 Jahren die Freiheit suchte und einfach losfuhr”

「ブレーキを踏まず生きる 〜 77歳で自由を求め、走り出した私」というこの本、凄まじい。車屋の娘として育った著者は子どもの頃から車が大好きだった。「女の子が車の運転なんて」と言われた時代に車を乗り回し、車修理工の資格を取って家業を継ぎ、ベルリン最大のカーディーラー経営者となる。カーレースの常連でもあった著者は歳を重ねても衰え知らず。77歳のとき、家族が止めるのも聞かずに1930年代物のハドソンに乗って一人で世界一周ドライブの旅に出る。

 

80歳近い女性が一人で世界一周ドライブというだけで凄いけれど、読んでビックリなのは、道中、車が壊れっぱなしで、旅自体を楽しむ余裕がほとんどなく、まるで「世界一周、車修理の旅」になってしまったこと。それでもめげずに旅を続けるのだから精神力が半端ではない。しかも、著者は旅の途中で癌にかかってしまうのだ。急遽ドイツに一時帰国し、手術を受けるが、すぐにまた旅を続行。えええ!? 著者は旅を無事に終えた後、残念なことに昨年、他界されたが、「ブレーキを踏まず生きる」というタイトル通りの人生を送られたのだろうなあ。

 

なぜわざわざ?ということを敢えてやることに意義がある

Markus Maria Weber著 ”Coffee to go in Togo: Ein Fahrrad, 26 Länder und jede Menge Kaffee”

「トーゴでコーヒーをテイクアウト たっぷりコーヒーを飲みながら26カ国を自転車で走る」っていうこの本もクレイジー。コンサルタントとしてバリバリ働いていた著者はある朝、いつものようにテイクアウトのコーヒーを手に電車に乗る。今やドイツの都市ではコーヒーのテイクアウトは当たり前の風景になった。忙しい朝、ゆっくり座ってコーヒーを飲んではいられない。でも、テイクアウトが一般的になって、世の中ますます忙しくなったのでは?著者ふと考えた。このコーヒーってどこから来たんだっけ?もしかしてアフリカのトーゴかな?トーゴで飲むコーヒーはどんな味なんだろう?そして、何を血迷ったか、「トーゴにコーヒーを飲みに行く!」といきなり自転車に乗ってトーゴへと出発した。自転車になんて、ほとんど乗ったこともないのに。


ドイツから目的地トーゴまでの道のりは14037km、通過した国は27カ国。著者が道中で出会った人たちの中には、単身で自転車世界一周中の女性も登場する。世界は広く、世の中にはいろんな人がいるね。私に同じことができるとは到底思わないし、したいわけでもないのだけれど、自分の知っている世界はごくごく小さいのだなあと感じた。

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「フリーランスでノマド」の走り?発信しながら世界一周

Meike Winnemuth著 “Das große Los: Wie ich bei Günter Jauch eine halbe Million gewann und einfach losfuhr”

「クイズミリオネアで50万ユーロ当てて、旅に出た」。タイトルの通り、クイズ番組「クイズ・ミリオネア」のドイツ版”Wer wird Millionär”で50万ユーロの賞金を獲得した著者がそのお金で1年間、世界旅行をする話。でも、そのコンセプトが面白い。1年間、1ヶ月づつ違う国で生活するというもの。

 

旅というよりも、異文化体験年という感じ。特別ハードなことをしたわけではないのだけれど、もともと職業ジャーナリストの著者はそれぞれの国から発信しながら旅をしたのである。仕事をしながら旅をしたので、結局、50万ユーロには手をつけずに済んだというオチ付き。まあ、今で言うところのノマドなんだけれど、2011年の話なので、当時はかなり斬新なアイディアに感じられ、とても面白く読んだ。著者はこの旅以外にも常に何かしら面白い独自プロジェクトをやっている人で、1年間毎日同じ服を着るチャレンジ(注 同じワンピースを2枚持っているので洗濯は普通にする)とか、庭付きの家を借りて1年間園芸に勤しむチャレンジとか、次から次へと新しいことをする。今度は何をするのかな?と注目してしまう。

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現在進行形の放浪の旅をフォローする

Christine Thürmer 著 ”Wandern, Radeln, Paddeln”

「ハイキング、サイクリング、カヤック」と、タイトルはあまり面白くないけど、最近、ネット上で偶然、著者のことを知り、気になって読んでみた。著者は現在、「世界で最も長距離歩いた人」なんだそう。今も旅の途中なので記録は日々更新されるが、今日(2020年10月23日)時点で著者Thürmer氏が歩いた総距離は47000km。かつてはバリキャリだった著者は解雇をきっかけに「別の人生も歩んでみたい」とハイキングしながら生活することを決断した。一年の大半はテントを担いで移動している。でも、決して世捨て人になったわけではないと、彼女は言う。キャリア派だったときの生活も気に入っていたが、今の生活も気に入っている。全然違う2通りの生き方をしてもいいよね?というスタンスだそうだ。Thürmer氏の冒険記はすでに3冊出版されており、これはそのうちの2冊目。ヨーロッパを徒歩と自転車とカヌーで合計12000km移動した記録だ。徒歩だけでなく自転車やカヤックも使うのは、同じ体の動きばかりすることで体の特定の部位が摩耗するのを防ぐためだという。

 

私は歩くのも自転車を漕ぐのもカヤックも好きだけれど、遊びでちょろっとやるだけで本格的な移動手段としたことはない。でも、コロナで向こう数年は宿泊を伴う旅行計画を立てるのは難しそうだから、この際、アウトドア旅行にチャレンジしようかなと考え中で、参考のために読んでみた。野宿も慣れればそれなりに快適かな?と思うものの、トイレのことを考えるとさすがに厳しいかなと躊躇するものがある。でも、SNSで著者が投稿する風景写真を見て、自由っていいなと羨ましくも思う気持ちもある。

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今回紹介した冒険記5冊のうち、4冊の著者は女性である。私も女性なので女性による冒険記を読むことが多いが、男性著者の冒険記はさらに数が多いので、いろいろ読んでまた紹介することにしよう。