前回の記事に書いたアレナル火山国立公園へ行くには、近郊の町、ラ・フォルトゥナを拠点とするのが一般的である。ラ・フォルトゥナは観光地化が進んでいて、欧米からの移住者も多く、洒落たレストランやカフェが立ち並び、英語もよく通じる。ただ、ローカル感が薄くて、個人的にはなんとなくつまらなく感じる。そこで今回はアレナル湖北岸に位置する小さな町(村?)、ヌエヴォ・アレナル(Nuevo Arenal)を拠点にしていた。

ヌエヴォ・アレナル。向こうに見えるのはコスタリカ最大の人工湖であるアレナル湖

スペイン語で「新アレナル」という意味のヌエヴォ・アレナルは比較的新しい集落だ。1978年にアレナル湖を造る際に立ち退きを余儀なくされた住民らの移住先として政府主導で整備された。これといって何があるわけでもない。観光客向けインフラとしては宿がいくつかとレストランがいくつか、それになぜかジャーマンベーカリーが一軒あるが、それだけ。でも、のんびりしていて気に入った。外国人の経営する各国料理レストランが多いラ・フォルトゥナとは違い、ヌエヴォ・アレナルはもっとローカルで、英語もそれほど通じない。

メインストリートにあるローカルレストラン。

たいした料理が出てくるわけではないけれど、味は悪くなく、サービスも田舎の食堂らしい感じで、暢気な心地よさがあった。

チキンタコスを注文したら出てきた料理。あまりにシンプルでちょっと驚いたけれど、味はよかった。

店内にあるテレビではローカルニュースをやっていた。スペイン語なので半分くらいしかわからなかったが、タコスを頬張りながら「インフレで個人経営の会社が次々倒産しています」とか、「グアナカステ県の橋の工事がイースター休暇後に始まります」「ポアス火山の噴火活動が活発化しているため、状況によってはハイキングルートが閉鎖になる可能性があります」なんていうニュースを見て、少しはコスタリカ国民の生活に近づいた気分で楽しかった。私は、現地の人の生活する場所と観光客が滞在するエリアが分かれているのが好きではなくて、大型リゾートなどに滞在する気にはなかなかなれない。コスタリカは大型リゾートが少ないという点でも気に入っている国だ。

前置きが長くなった。この記事の本題は、アレナル火山国立公園 からさらに北西に位置し、ヌエヴォ・アレナルからアクセスしやすいテノリオ火山国立公園について。テノリオ火山国立公園にはセレステ川(Rio Celeste)という、水の色が空のように青いことで知られる川が流れている。セレステ川沿いを歩くトレイルがあると知り、行ってみることにした。

 

ナビによると、ヌエヴォ・アレナルからセレステ川トレイルの入り口までは片道およそ1時間20分と表示されたが、道路の状態が悪く、思いのほか時間がかかった。詳しく後述するが、今回のコスタリカ旅行では、車での移動に本当に苦労させられることになる。

コスタリカの自然保護区はオーバーツーリズムによる自然破壊を避けるため入場制限をしており、事前に政府の自然保護区管理組織、Systema Nacional de Áreas de Conservación(SINAC)のサイトで予約し、チケットを購入しなければならない。人気の高い自然保護区はすぐに定員に達してしまうので、ある程度早めに予約をしておくことが重要だ。

トレイルの入り口から1.5kmほど離れたセレステ川の滝(Catarata Rio Celeste)に向かって、雨が上がったばかりのしっとりと濡れた熱帯雨林を歩いていく。トレイルの途中で、いろいろな野生動物の姿を見ることができる。

 

トレイル脇の地面に小さいマツゲハブ(Bothriechis schlegelii)がいた。目の上にまつげのような突起があることからマツゲハブと呼ばれる。樹上性のヘビだが、若い個体は地面近くにいることも多いらしい。

 

高い木のてっぺんにナマケモノの姿も見かけた。また、シロバナハナグマ(Nasua narica)が餌となる虫を探して地面を掘っている場面に遭遇した。

野生のシロハナグマはコスタリカで最もよく見かける哺乳類だと思う。よく群れで国道脇などに現れ、観光客から餌をもらっていたりする。もちろん、餌付けは禁止されている。

 

生き物を眺めながらゆっくりと歩いているうちに滝に到着した。

「空色の川」を意味するセレステ川の滝壺の水の色は確かに青かった。ただし、その青色は天候や季節によって変化するようだ。この日は雨が降ったり止んだりしていたので、やや白濁して見えた。

 

トレイルはさらに続く。

青い池、Laguna Azul

 

セレステ川は本当に美しいが、残念ながら泳ぐことはできない。

 

火山活動による熱水が噴き出す場所(Borbollones)も。

 

さらに歩き、真っ青な川にかかった小さな橋を渡ると、ブエナヴィスタ川(Rio Buenavista)とケブラダ・アグリア川(Rio Quebrada Agria)という二つの川が合流し、セレステ川となる場所、Los Teñiderosに行き着く。ブエナヴィスタ川もケブラダ・アグリア川もまったく青くはない。両者が合流することによって初めて、セレステ川の神秘的な色が生み出されるのだ。

 

ブエナヴィスタ川の水はアルミノケイ酸塩を含んでいる。ケブラダ・アグリア川の水と混じり合い、水の酸性度が変化することで、それらの粒子が184nmから570nmへと大きくなるのだという。粒子の一部は川底に沈み、白い沈殿物となるが、大部分は水の中に分散し、漂う。水面に日光が当たると、大きくなったこれらの粒子が光を強く散乱させる。波長の比較的短い青い光は散乱しやすい。水が青く見えるのはこのためだ。ふと、北海道、美瑛の「青い池」を思い出した。あれも同じような現象だったはず。

 

美瑛の青い池

 

セレステ川沿いのトレイルは往復約6km。高低差もそれほど大きくなく、歩きやすかった。