迷子石。ずっと昔、1万年前よりももっと昔、スカンジナビアから氷河の流れによって北ドイツに運ばれて来た石。ブランデンブルク州に住むようになって以来、今も北ドイツのあちこちで見られる、そんな不思議な石に魅力を感じている。
2020年に迷子石(より広範囲には 、氷河によって運搬された石(Geschiebe)」に関して導入編、基礎編を書いてから、ずいぶん時間が経った。相変わらず興味が尽きず、この4年の間に少しわかったこともあるので続きをまとめていこう。発展編として長く続くシリーズになるかもしれない。
今回は、ヴィントカンター(Windkanter)と呼ばれる石について。ヴィントカンターとはこんな石。
風(Wind)によって作られた角(Kante)を持つ石のことで、英語ではventifactという。日本語では「風触礫」と呼ばれるようだ。写真の石は近所を散歩中に見つけたもの。ヴィントカンターとは岩石の種類ではなく、特徴的な角ばった形状を指している。
氷河によって運搬された石の一部がこのような形状を持つようになる。それはなぜだろうか。
氷河の末端に位置していた場所では、氷に覆われた気温の低い場所から氷のない気温の比較的高い場所に向かって強い風が吹いていた。地表にある石に砂を多く含む強い風が長期間にわたって一定の方向から吹きつけることで石の表面が研磨され、平らな面ができた。風向きが変わったり、石が転がって向きが変わると、今度は別の面が削られ、その境目に尖った角(稜角)ができる。そのため、ヴィントカンターには複数の稜線を持つものがある。
3つの稜線を持つものは特にドライカンター(Dreikanter)と呼ばれる。ヴィントカンターは北ドイツではまったく珍しくないが、きれいなドライカンターを見つけると嬉しくなる。
ヴィントカンターについて調べていたら、日本にも「白羽の風触礫」と呼ばれる石が存在することがわかった。静岡県前崎市白羽がその産地で、国の天然記念物に指定されているらしい。中でもドライカンターは「三稜石」と呼ばれ、極めて珍しいとのこと。石の風触は乾燥地で見られる現象で、北ドイツではありふれた石だけれど、多湿な日本ではこのようなかたちの石ができる場所は限られているようだ。残念ながら、「白羽の風触礫」はすでに採集し尽くされていて、産地に行っても地形を観察することしかできないようだけれど、牧之原市史料館に石が展示されているとのことで、いつか機会があれば見てみたい。
普段、住んでいるヨーロッパでジオ活動をしているけれど、気になる石や地形について調べていると日本にある同じようなものについても知ることになって面白いな。
この記事の参考資料:
Beate Witzel, “Steine, Mammuts, Toteislöcher: Auf den Spuren der Eiszeit in Berlin”
Fachgruppe Mineralogie Geologie Paläontologie Potsdam (ポツダム地質学研究会が発行する冊子)” Geschiebe Garten Großer Ravensberg – Arbeitsmappe für Lehrer und Erzieher”
Mineralienatlas- Fossilienatlas のWindkanterのページ