南西ドイツ弾丸旅行の二日目はシュトゥットガルトへ行った。シュトゥットガルトは大都市で見どころがたくさんありそうだけれど、時間がないので今回は目当てのシュトゥットガルトの州立自然史博物館(Staatliches Museum für Naturkunde Stuttgart)に的を絞ることに。この博物館はMuseum am LöwentorMuseum im Schloss Rosensteinという二つの建物に分かれている。そのうちのMuseum am Löwentorは古生物と地質学の展示がメインなのでそちらへ。

1階展示フロア。地質時代順に化石が展示されている。でも、順路が一直線でないので、ちょっとわかりづらかった。ここでは三畳紀の化石を展示している。三畳紀(約2億5100万年前〜1億9960万年前)はペルム紀の次でジュラ紀の前、中生代の最初の紀である。私のこれまでのドイツ国内化石ハンティングではペルム紀、ジュラ紀、白亜紀などの化石に触れて来たが、三畳紀は未知の世界だ。どんな時代だったのだろうか。

三畳紀はドイツ語ではTrias(トリアス)という。というよりも、Triasを日本語に訳したのが「三畳紀」だと言う方が正確かな。前々回の記事に、ジュラ紀は前期、中期、後期の3つの区分があり、ドイツではそれぞれの区分の地層の色にちなんで黒ジュラ紀、茶ジュラ紀、白ジュラ紀とも呼ばれていると書いたけれど、三畳紀も同じように前期、中期、後期の3つに区分される。区分ごとに地層の色が異なり、それが重なっていることから三畳紀とされた。命名者は南ドイツ、ハイルブロン出身の地質学者フリードリッヒ・フォン・アルベルティ。そしてこの3つの層は上から順にコイパー砂岩(Keuper)、ムシェルカルク(Muschelkalk)、ブンテル砂岩(Bundsandstein)と呼ばれる。地層はもちろん下から上に堆積するから、一番上のコイパー砂岩が最も新しい。一番古いBundsandsteinは、日本語に直訳すると「カラフルな砂岩」という意味だ。カラフルというけど、実際に見ると赤っぽい。

ブンテル砂岩に残ったラウスキア類の足跡。三畳紀前期、この化石が発掘されたあたりではしばしば川が氾濫し、湿った周辺の土の上にいろいろな生き物が足跡を残した。水が引き、土壌が乾燥すると足跡も乾いて固まった。再び洪水が起きると足跡の凹みに堆積物が溜まっていったらしい。

こちらはブンテル砂岩の上のムシェルカルク層。ドイツ語でムシェルとは貝、カルクは石灰岩なので、要するに貝などがどっさり埋まっている石灰岩ということね。

アンモナイトなどがギッシリ

ムシェルカルクからよく見つかる海棲爬虫類、ノトサウルス

コイパー砂岩層の展示はなぜか写真を撮り忘れてしまった。この博物館にはジュラ紀の化石も多数展示されている。そのうちの黒ジュラ紀化石の多くは前日に訪れたホルツマーデンで発掘されたものだ。素晴らしい標本ばかりでどれも一見の価値があるが、今回の記事ではこの博物館で個人的に面白く感じた「鳥から恐竜への進化」展示をクローズアップする。(黒ジュラ紀の化石が気になる方は、是非こちらを見てね)

最近、恐竜関連の本で”恐竜は厳密には絶滅しておらず、恐竜の一部である獣脚類が鳥類に進化して今現在も生きている“と読んだ。知識としてはそうインプットしたのだけれど、恐竜が、それも「鳥」の字がつく鳥盤類ではなく獣脚類が鳥へ進化したというのがなんともややこしく、イメージ的に今ひとつピンと来ていなかった。一体どうやったらあんな怪獣っぽいやつらがインコやジュウシマツへ進化できたのだろうか?

それを知るには、獣脚類の指と首と尾に注目すると良いらしい。写真はドイツの三畳紀の地層から発掘された最大の獣脚類恐竜、リリエンステルヌス(Liliensternus)の復元骨格。この肉食恐竜の首は前にまっすぐに伸び、尾は長く、指は4本ある。最も古い時代の恐竜は指が5本だったそうだが、1 本少ない4本になっている。

4本

上のリリエンステルヌとジュラ紀後期の獣脚類、アロサウルス(Allosaurus)を比較してみよう。アロサウルスは首がS字型に曲がり、指は前足が3本、後ろ足が4本である。

3本

次にコンプソグナトゥス(Compsognathus)の図を見ると、骨がかなり軽量化しているのがわかる。首の下にV字型をした骨がある。これはGabelbein (Furcula)といって鎖骨が中央で癒合したもので、鳥類に見られる特徴だそうだ。鳥が翼を上げ下ろしして飛ぶ際に重要な役割を果たす。足の指もぐっと華奢になっているね。

コンプソグナトゥスのモデル。羽毛に覆われ、小さいせいもあり、確かに鳥っぽい。

これは白亜紀前期のカウディプテリクス(Caudipteryx)。カウディプテリクスとは「尾に羽毛を持つもの」という意味だそうで、前足と尾の羽毛が長い。歯が描かれていないことにも注目。

カウディプテリクスの化石

カウディプテリクスと近縁のオヴィラプトルのメス

次は白亜紀の前期から後期にかけて繁栄したドロマエオサウルス。尾が固り、腕が長くなっている。後ろ足の指は鳥と同じように鉤爪になっている、木に登る際に枝を掴むのに適していたと考えられるそうだ。

ドロマエサウルス科ミクロラプトルのモデル

このように獣脚類の恐竜は長い年月をかけて次第に鳥的な特徴を獲得していった。

そして1860年、南ドイツのゾルンホーフェンで初めて始祖鳥(アーケオプテリクス、Archaeopteryx)の化石が発見される。

始祖鳥のモデル

始祖鳥という名前からには史上最古の鳥なのかと思えば、羽毛や翼を持ち相当に鳥っぽいものの、現在の鳥の直接の祖先ではないらしい(紛らわしい〜)。この辺りのことは展示には詳しく説明されていなかった、身近にある恐竜関連資料を読んでも説明が微妙にまちまちで今ひとつクリアにならないので、とりあえずここでは保留にしておこう。近々、恐竜の専門家に質問することにする。

現在の鳥

鳥は鳥でさらに進化して、現在は姿かたちの様々な鳥が約1万種もいるとされているのだから進化というのは不思議で面白いね。

 

以上、自分の関心によりかなり偏った紹介になってしまったので、シュトゥットガルト自然史博物館(Museum am Löwentor)の全体的な様子が知りたい方は、以下の動画をどうぞ。