北海道ジオパーク・ジオサイト巡りの最初の目的地には三笠ジオパークを選んだ。三笠市は2019年1月に娘と一緒に一度訪れている。その際、日本一のアンモナイト博物館として知られる、三笠市立博物館を訪れた。三笠市では明治時代から現在に至るまでに500種以上のアンモナイトが発見されている。「三笠」の名のつく新種アンモナイトも7種ある。一般的な知名度はよくわからないが、アンモニア研究者やマニアの間では世界に知られる超重要な場所なのだ。

三笠市立博物館

館内には「三笠市立博物館」というシンプルな名前からは想像できない、白亜紀の海の世界が広がっている。直径およそ130cmの日本最大のアンモナイトをはじめ、およそ600点のアンモナイト標本や天然記念物エゾミカサリュウ化石などが展示されていて、圧倒的である。凄い博物館なのだが、この博物館についてはこちらの過去記事にすでに書いているので、今回は博物館の裏手に整備されている野外博物館についてまとめておこう。前回来たときは真冬だったので、野外のジオサイトは雪に埋もれていて見ることができなかったのだ。

三笠市はその全体がジオパークに認定されている。6つのエリアに分かれ、ジオサイトの数は全体で45箇所。総面積は300㎢を超えるので、1日で全部のエリアを見て回るのはとても無理そうだ。博物館の職員の方に聞いたら、露頭が見たいなら「野外博物館エリア」が特におすすめとのことだった。

三笠市立博物館外観

真冬に来たときには雪に埋もれていて気づけなかったのだけれど、博物館の前には大きな石標本が並んでいる。

およそ1億年前に生息していた三角貝の化石を含む礫岩

1億年前に波が水底の砂につけたリップルマーク

博物館の裏手に周り、橋を渡ると、幾春別川沿いにかつての森林鉄道跡を整備した散策路が南東に延びている。全部で15の見どころがあり、歩いて往復すると約1時間とのことだった。

野外博物館についてはジオパークのウェブサイトに詳しい説明があるので、ご興味のある方にはリンク先を見ていただくことにして、私にとって印象的だったことを書いておこう。

ジオパークというと、なにかもの凄い絶景が見られると想像する人がいるかもしれない。実際、そのようなジオパークも存在するけれど、三笠ジオパーク「野外博物館エリア」は一見、地味だ。パッと見ただけでは何がすごいのかよくわからない。しかし、各所にある説明を読みながらよくよく考えるとその成り立ちは不思議で興味深く、じわじわと好奇心が刺激される。

三笠ジオパークではその東側におよそ1億年前に海に堆積した地層が分布し、西へ移動するにつれて地層が新しくなっていく。1億年前、まだ北海道は存在せず、現在の三笠市の大地は海の底だった。約6600万年前に陸化し、約5000万年前には湿地となり、約4000万年前には再び海となる。人類が住むようになったのは約3000年前。明治元年(1868年)に石炭が発見されてからは、炭鉱の町として栄えた。

旧幾春別炭鉱立坑櫓。大正時代に完成し、立抗は地下215mの深さまで延びている。

「野外博物館エリア」の遊歩道の面白さはなんといっても、5000万年前の世界から1億年前の世界へと5000年分の時間をひとまたぎでワープできることである。

遊歩道を歩いていくと、「ひとまたぎ覆道」と呼ばれる半トンネルを境に、2つの異なる地層間を移動することになる。覆道の手前、つまり西側は5000万年前に堆積した幾春別層という地層で、覆道の向こう側、つまり東側は1億年前に堆積した三笠層だ。その間の地層は存在しない。

東側から見た覆道

どういうことかというと、約1億年前から約5000万年前の間に大地がいったん陸化したことによって、5000万年分の地層が侵食されて消えてしまったのだ。互いに接する地層が時間的に連続していないことを不整合と呼ぶが、この付近の地層は日高山脈の上昇期に押し曲げられてほぼ垂直になっている。そのため、不整合面が縦になっていて、またぐことができる。つまり、トンネルを抜けると、そこは一気に5000万年後というわけ。なんとも不思議な感覚である。

幾春別層の露頭

若い方の幾春別層は川の底に砂や泥が積もってできた地層で、泥岩層、砂岩層、石炭層から構成される。写真の露頭は植物が生い茂っていてわかりにくいが、表面がでこぼこである。説明によると、差別侵食といって、砂岩よりも柔らかい泥岩層や石炭層が削られて先になくなるためだそう。

石炭が露出している場所もある

ほぼ垂直の地層

垂直な地層に穴が開いている

この穴は「狸堀り」の跡。狸堀りというのは、地表に露出している石炭層などを追って地層を掘り進む採掘方法のことで、その際にできるトンネルがまるで狸の巣穴のようだから、そう呼ばれるそうだ。確かに入口に石炭が見えている。

 

三笠層の方は砂岩層や礫岩層で構成されている。幾春別層とはまったく異なる地層であることは一目瞭然だ。この地層にはアンモナイトをはじめ、白亜紀を生きた様々な生き物の化石が埋まっているのだ。

さらに進むと、巨大な貝の化石が埋まっているところがあった。約2億年前から約6600万年前まで世界中で繁栄した二枚貝、イノセラムスだ。

上記は全部で15ある見どころのうちのいくつかで、他の見どころも面白い。折り返し地点まで来たところで、ちょっと河原に降りてみた。

幾春別川

化石の入ったのジュールが落ちていないかなあとあたりを見回してみたけど、そんなに簡単に見つかるわけもないのだった。