北海道には現在、7つのジオパークがあるが、それに加え、上川盆地から大雪山系にかけての地域をジオパークとして整備しようというプロジェクト、「大雪山カムイミンタラジオパーク構想」が進められていることを知った。カムイミンタラとはアイヌ語で「神々の遊ぶ庭」という意味で、雄大な大自然の広がる私の故郷である。そのジオパーク構想では旭川市の西の外れの渓谷、神居古潭(カムイコタン)がジオサイトの一つとして候補に上がっているらしい。カムイコタン(「神々の住むところ」)は子どもの頃から慣れ親しんできた場所で目新しさはないのだけれど、ジオという観点で景色を眺めたことはない。久しぶりに行ってみることにしよう。

石狩川が流れる渓谷、神居古潭は変成岩の織りなす独特な風景が印象的な景勝地だ。今回は車だが、旭川サイクリングロードが神居古潭まで伸びているので、市内から自転車でも気軽に行くことができる。

のはずが、ここもヒグマ出没で、安心して歩き回れない。本当にどこに行ってもヒグマヒグマヒグマ。

吊橋からの眺め

河岸を縁取っているゴツゴツした岩は緑色片岩や黒色片岩。この辺りの地質帯は「神居古潭変成帯」と呼ばれ、学術的にもとても重要らしい。神居古潭の岩と聞いて私が真っ先に頭に思い浮かべるくすんだ緑色の岩、つまり緑色片岩は、海底に噴出した溶岩やハイアロクラスタイトが熱と圧力の作用により地中で変成してできたもので、それが地殻変動によって1億年以上の時間をかけて地表へと上昇して来たのだ。

岩にはポットホール(甌穴)と呼ばれる丸い窪みができて、中に水が溜まっている。岩の表面の割れ目が水流で侵食されて窪みとなり、そこに小石が入ってグルグル回ることで丸い穴が形成されるのだ。神居古潭のポットホール群は北海道の天然記念物に指定されている。

ところで、神居古潭へやって来たのは、「神居古潭石」を見つけるためでもあった。神居古潭石というのは地質学用語ではなく、あくまで銘石としての総称だ。いろとりどりですべすべした美しい光沢があるので、観賞用の石として収集する愛好家がいる。そして、神居古潭の石は神々の住む場所の石だから、パワーストーンとしても人気があるらしい。私は石に超自然な力が宿っているとは考えないが、綺麗な石を見るのが好きだし、どんな石があるのか、実際に自分で探してみたかった。

吊橋のあるところからもう少し西に移動すると、河原に降りられる場所がある。河原の石は泥を被っていて、一見、どれも同じようなグレーに見えるが、土手の斜面の下ではいろいろな石が見つかった。

持って帰れるわけではないけれど、写真が撮りたくて1箇所に集めてみた。赤、オレンジ、緑、青、紫、茶、黒、、、、。

旭川駅の南口のあさひかわ北彩都ガーデンにも大きな神居古潭石が展示されている。

蛇紋岩

さて、石鑑賞を楽しんだ後、実家に帰って母に「今日は神居古潭へ行って神居古潭石を探して遊んだ」と話したら、「神居古潭石なら玄関にあるじゃない」という返事が返って来た。

え?

玄関に行ってみたら、そこに鎮座するのは立派な神居古潭石、、、。

「気づいてなかったの?昔からずっとここにあるのに」と母。灯台下暗しとはこのこと。そんなアホなオチのついた神居古潭石探しだったけれど、楽しかったからまあいっか。

 

この記事の参考文献:

前田寿嗣 『見に行こう!大雪・富良野・夕張の地形と地質

北海道大学出版会『北海道自然探検 ジオサイト107の旅