前回の続き。「幌満峡エリア」でかんらん岩を見た後は、海岸沿いの「様似海岸エリア」と「日高耶馬峡エリア」のいくつかの見どころを回った。

様似漁港

これまたすごい景色。漁港の内側に突き出した板のような巨岩はソビラ岩。その向こうにうっすらと陸繋島であるエンルム岬が見えている。岬まで行ってみた。

エンルム岬のふもとに置かれたかんらん岩の巨石

展望台に上る階段

展望台から見た様似漁港。ソビラ岩、そしてその向こうには親子岩と呼ばれる岩が見える。

海から奇岩が突き出すこの特徴的な海岸地形はどうやってできたのだろう。エンルム岬やソビラ岩、親子岩などは「ひん岩(porphyrite)」でできている。ひん岩とは、安山岩質のマグマが冷えて固まった火成岩で、斑状組織を持つ。およそ1770万年前、太平洋プレートのしずみ込みによって地殻が圧縮し、できた地層の割れ目にマグマが入り込んで固まった。その後、大地が隆起し、やわらかい周囲の地層は波の侵食を受けて削られてなくなった。後に残った硬いひん岩も、長い年月のうちに少しづつ削られていく。そうして不思議なかたちの岩が作られていったのだ。

エンルム岬の崖に見られる節理。マグマが冷えて固まるときにできる。

エンルム岬の崖の下の岩礁

様似海岸エリアから海岸沿いを東に進み、日高耶馬渓エリアに入ると、まもなく冬島漁港が見えて来る。冬島漁港には冬島の穴場と呼ばれる、穴の開いた大きな岩がある。

冬島の穴場

この岩は片状ホルンフェルスと呼ばれる岩でできている。 「ホルンフェルス」はドイツ語の Horn(角) + Fels(崖)。泥岩や砂岩がマグマの貫入によって加熱されてできる変成岩だ。この岩はかつて波打ち際にあり、波で割れ目が侵食されて穴が開いた(海食洞と呼ばれる)。

筋状の割れ目がたくさん見られる。

日高耶馬渓はおよそ7kmにわたる断崖絶壁の海岸である。昔からここは交通の難所だった。

そんな日高耶馬渓には明治時代から平成時代までに4つのトンネルが掘られた場所がある。国道336号線上には平成時代に開通した山中トンネルがあるが、その脇の旧道に昭和トンネル、大正トンネル、明治トンネルが一列に並んでいて面白い眺めだ。

3つの旧トンネルの中で地質学的に面白いのは大正トンネル。

大正トンネル

トンネルの穴の周りは、黒雲母片岩の岩にマグマが貫入してできた花崗岩。

大正トンネル付近の岩には花崗岩の貫入がはっきり見える。

大正トンネルからさらに東に向かうとルランベツ覆道というトンネルがあり、その海側の横の岩には押し曲げられた地層(褶曲)が見られる。

緑灰色の角閃岩が黒雲母片岩に包まれている。

内側の角閃岩は海洋プレート上の玄武岩質の岩石、それを包み込む周りの岩石は大陸プレート上の砂岩や泥岩だったもので 、それらが海溝で混じり合い、熱と圧力による変成を受け、押し曲げられてこのようになった。

把握するのがなかなか難しい話が続いたけれど、最後は日高地方の食べ物で締めたい。

日高耶馬渓は言わずと知れた昆布の一大産地である。海岸は昆布でびっしり。そして、私たちが行ったときは牡蠣の季節だった。

様似町のお食事処、「女郎花」で食べたカキフライ定食

何十年ぶりかに食べたカキフライのあまりの美味しさに感動。

見どころの多いアポイ岳ジオパークなので、見ることができたのはそのうちの一部だけだったけれど、それでも大満足。遠いけれどはるばる来てよかった〜。

 

この記事の参考文献:

北海道新聞社 『ユネスコ認定 アポイ岳ジオパークガイドブック

北海道ジオ旅も終盤。いよいよ待ちに待ったアポイ岳UNESCOグローバルジオパークへ行くときが来た。アポイ岳ジオパークは、日高地方南部、様似町を中心に広がるジオパークで、「幌満かんらん岩」と呼ばれる、学術的にとても貴重なかんらん岩が観察できる。

かんらん岩というのは地球の上部マントルをつくり、玄武岩マグマのもととなる岩石である。地球はよく卵に例えて説明されるが、地殻を卵の殻だとすると、マントルは白身の部分にあたる。かんらん岩を構成する造岩鉱物のうち主となるのはオリーブ色の「かんらん石」で、大きくて綺麗な結晶はペリドットと呼ばれている宝石だ。かんらん岩は地球の体積の8割以上を占める圧倒的に多い岩石だけれど、厚い地殻の下にあって、そう簡単にはお目にかかれない。アポイ岳を含む日高山脈はおよそ1300万年前にユーラシアプレートと北米プレートが衝突することでできた山脈だが、その際、北米プレートの端っこがめくれあがって大陸プレートの上に乗り上げ、マントルの一部が地表に露出した(例えれば、ゆで卵の白身が殻の外にはみ出してしまった状態)。かんらん岩は変質しやすい岩石で、地表に露出すると普通は蛇紋岩という別の岩石になってしまうが、アポイ岳とその周辺ではほとんど変質していないかんらん岩を見ることができる。それが「幌満かんらん岩」なのだ。


アポイ岳ジオパークは、「幌満峡エリア」「アポイ岳エリア」「様似海岸エリア」「日高耶馬峡エリア」「新富エリア」の5つのエリアに分かれている。できれば丸2日は時間を取ってじっくりと全部のエリアを回りたいところだけれど、お天気と宿泊の事情で日帰りコースになってしまったので、今回はアポイ岳に登るのは諦めて、「幌満峡エリア」と「様似海岸エリア」、「日高耶馬峡エリア」を見ることにした。その前に、まずは「アポイ岳エリア」にある「アポイ岳ジオパークビジターセンター」でジオパークの概要を掴もう。

アポイ岳ジオパークビジターセンター

幌満かんらん岩体はプレート境界の東に、東西8km、南北10kmにわたって広がって露出する。

ビジターセンターに展示されているプレートの衝突現場

ビジターセンターに展示されている世界のかんらん岩標本の中に、ドイツのアイフェル地方産のものがあった。

アイフェル地方のかんらん岩は現地で実際に見たことがある。

アイフェル地方のかんらん岩

ただし、同じかんらん岩でも、アイフェルで見つけたのは火山噴火で飛び出して来た溶岩の中にかんらん岩が捕獲されているゼノリスというもので(詳しくは過去記事を参照)、アイフェル地方ではアポイ岳のように大規模なかんらん岩体が地表に露出しているわけではない。ちなみに、溶岩に捕獲された状態で地表に転がっているかんらん岩はカナリア諸島のランサローテ島でも見た。

ランサローテ島のかんらん岩捕獲岩

大きな結晶!

ひとくちにかんらん岩といっても、様々な種類があることがわかった。かんらん岩はかんらん石だけでなく、斜方輝石(飴色)、単斜輝石(エネラルドグリーン)、スピネル(黒色)、斜長石(白色)などでできている。その割合によって、呼び名が異なる。かんらん石の割合が最も多い(9割以上)のがダナイト、かんらん石を6割以上含み、斜方輝石と単斜輝石の両方を含むのがレルゾライト、かんらん石を6割以上含み、斜方輝石が多いのがハルツバージャイト、レルゾライトのうち、斜長石を多く含むものは斜長石レゾルライトと呼ばれる。

なぜそのような違いが生まれるのだろうか。かんらん岩を構成する鉱物はそれぞれ融点が違い、溶けてマグマになる際には溶けやすいものから順番に溶け出す。すると、残った方のかんらん岩の鉱物の種類や割合が変わる。展示ではかんらん岩をオレンジに例えて、斜長石レルゾライトはオレンジジュースを絞る前の状態のかんらん岩、オレンジをちょっと絞るとレルゾライトになり、もっと絞るとハルツバージャイトになると説明していてわかりやすかった。ところで、「ハルツバージャイト」という岩石の名前はなんだか覚えにくいなあと最初思ったのだけれど、英語表記のHarzburgiteという文字を読んで、ハッとした。Harzburgというのはドイツのハルツ山地にある地名、ハルツブルクではないのか?ということは、ハルツバージャイトというのは「ハルツブルクの岩」という意味になる。ハルツバージャイトはドイツ語の岩石名ハルツブルギットの英語読みなのだった。

さて、ビジターセンターでざっくりとかんらん岩について知った後は、実際にフィールドでかんらん岩を見てみよう。向かうは「幌満峡エリア」の幌満川峡谷にある旧オリビン採石場下の河原だ。

旧オリビン採石場

オリビン(olivine)というのは英語でかんらん石のこと。地表はほんのり薄い緑色をしている。

旧オリビン採石場の下の河原

石を観察しに河原へ降りた。ごろごろした石の多くは黄褐色をしている。

が、割れているものを見ると、中は緑。

いろんなのを1箇所に集めてみた。いろいろあって面白い。

熱心に石を観察する私たちを、崖の上からシカたちがジーッと見ていた。

 

後編に続く。

 

この記事の参考文献:

北海道新聞社 『ユネスコ認定 アポイ岳ジオパークガイドブック

藤岡換太郎 『三つの石で地球がわかる 岩石がひもとくこの星のなりたち

アポイ岳ジオパークビジターセンターの展示