最近、なにかと話題のニセコ町。過疎化した小さな町だったのが、上質のパウダースノーを求めてやって来る海外からのスキー客向けに外国資本のリゾートホテルが次々に建てられ、移住者も増えているという。さらには、国からSDGs未来都市にも選定され、国の内外から注目されている。そんな話をネット上でもよく目にするようになった。

今回、私たちもそのニセコ町に滞在することにした。とはいっても、スキーシーズンでもないし、高級リゾートホテルに泊まるお金もない。私たちの今回の旅の目的はジオサイトを見て回ること。贅沢は必要ないので、ニセコ町に小さなコテージを借りて自炊することにした。ところが、行ってみると、コテージは思った以上に簡素だった。予約する際によく確認しなかったのが悪いのだが、エアコンがないのはまあいいとして、お風呂もシャワーもついていないということが現地に着いてから判明。ええっ、と驚く私たちにオーナー夫婦は「ニセコには温泉がたくさんありますから、お風呂に入りたかったら温泉へ行ってください」と言う。猛暑だというのにシャワーもないなんてとうんざりしたが、ニセコは実際、温泉天国なのだった。

というのも、ニセコ町の北西には東西25kmに渡ってニセコ連峯が連なっている。ニセコ連邦は200万年以上も活動を続ける火山群である。中でもニセコ町に近いニセコアンヌプリからイワオヌプリにかけては、約10万年前から活動を開始した新しい火山だ。温泉湯本を始めとするジオサイトがたくさんある。

まずはイワオヌプリの中腹にある、五色温泉の源泉を見てみよう。

五色温泉の源泉は、すり鉢状をした直径250mの爆裂火口である。地面は白っぽく変質し、水蒸気爆発で吹き飛ばされた岩塊があたりに散らばっている。

湯の谷に敷かれた給油管

熱水が流れた岩の割れ目に硫黄の結晶ができている。

大きな結晶!

イワオヌプリの登山口付近から見たニセコアンヌプリ

 

次はチセヌプリの麓の地熱地帯、大湯沼へ。

駐車場に着いて車を降りたら、強烈な硫化水素のにおいがする。沼の周りには散策路が設けられているが、火山ガスが強く、健康に害があるので、長時間の見学はしないようにと書かれた看板が立っていたので、鼻を押さえながら早足で沼の周りを回った。

沼の底からブクブクとガスが湧き上がっている。

沼の周りの地面を無数の黄色い小さなツブツブが覆っている。これらは温泉から分離した硫黄が溜まった球状硫黄と呼ばれるもので、中は空洞である。

大湯沼を見た後は、道道66号を北上してチセヌプリの北の神仙沼自然休養林へ。神仙沼レストハウスの北側にある展望台へ登りたかったが、霧がかかっていて何も見えそうにないので諦めた。レストハウスでお昼ご飯を食べていたら少し霧が晴れて来たので休養林を歩くことにした。

木道入り口。左右にツタウルシが多いので注意。

木道をしばらく歩くと視界が開け、そこには湿原が広がっていた。

神仙沼湿原はチセヌプリが山体崩壊を起こし、崩れた山体の一部が岩屑なだれとなって山の北側に堆積したことによって形成された高層湿原だ。蓄積した泥炭層の隙間が雨水や雪解け水で満たされた池塘が点在する。

池塘のあちこちでトンボが産卵している。

神千沼

これまでに低層湿原は何度も歩いたことがあったが、高層湿原は初めて。静かでとても神秘的な風景だった。

 

この記事の参考文献:

北海道大学出版会 『札幌の自然を歩く 第3版 道央地域の地質あんない

北海道大学地質学会北海道支部 『北海道自然探検 ジオサイト107の旅

前田寿嗣著『行ってみよう!道央の地質と地形

今回まとめるのは余市市から積丹岬へのドライブについて。積丹半島の地形も小樽周辺同様に海底火山活動によって形成されている。つまり、今回の記事は前回の記事「小樽の地形と石と石像建築」の続き。

忍路湾から再び国道5号線に戻り西へ向かうと、余市川を渡ってすぐの入船町に余市漁港がある。その漁港には「太古の岩」と呼ばれる岩礁があるという。

 

目的の岩礁は思ったより目立たず、どこにあるのかとしばらくウロウロし、ようやく駐車場の横に柵で囲まれた「太古の岩」の看板を見つけた。

余市漁港は溶岩とその砕屑物によって形成された岩盤の上に造られている。漁港を造る際、この岩礁を「太古の岩」として残し、保存することになった。マグマが流れた跡が縞模様として残る流紋岩の岩礁だ。漁港のすぐ背後に迫るモイレ山もまた流紋岩でできている。

近づいてみると、マグマの流れを表す縞模様(流理構造)がはっきり見られる。

捕獲岩もみっけ!

こういうのを見ると、石って本当にタイムカプセルだなあと思う。

さて、次の目的地は白岩町の白岩海岸だ。


現在は閉鎖されている旧ワッカケトンネルの上の崖に、白岩海岸の名前の由来である真っ白な岩が見える。その上には重々しい灰色の岩が乗っかっている。そのコントラストがすごい。

白い地層は軽石や火山灰が堆積して固まった凝灰岩で、

その上の岩体はハイアロクラスタイト。このような異なる2つの岩体が重なった構造になったわけは、それぞれのもととなったマグマの種類が違うからである。(下部の白い岩体は流紋岩マグマ由来で、上部の灰色の岩体は安山岩マグマ由来。)同じマグマでも種類によってこんなに見た目が全然違う岩になるんだなあ。

 

白岩海岸は海側にもまた、目を見張る景色が広がっている。

恵比寿岩(左)と大黒岩(右)。合わせて夫婦岩。大黒岩の上には鳥居がある。

浅瀬にそそり立つ2つの奇岩。これらは火山円礫岩という礫岩でできている。海底火山活動によってできたハイアロクラスタイト(水中砕石岩)が崩れて流れ、水の作用を受けて丸くなり、それらが再堆積したものという理解でいいのかな。

小樽から余市までの海岸は景勝地のオンパレードで、1箇所1箇所見ていたら時間がいくらあっても足りない。でも、せっかくここまで来たからには、積丹ブルーが見たい。さらに積丹岬まで足を延ばそう。

積丹岬の駐車場に車を停め、積丹岬自然遊歩道を歩くつもりだった。ところが、、、、。

クマ出没で遊歩道は閉鎖されていた!ショック。今年は北海道全域でヒグマの出没が多発しているようで、この後に訪れたあっちでもこっちでも遊歩道が閉鎖され、行動が制限されることになった。私は野生動物が好きでアニマルトラッキングもやっているけれど、さすがにヒグマ出没エリアに足を踏み入れるのは危なすぎる。残念だけれど、遊歩道ハイキングは諦めよう。駐車場のすぐ近くの島武意海岸展望台へは「クマに注意しながら」なら、行っても良いらしい。クマ鈴をつけて展望台へのトンネルを潜った。

展望台に出たが、なんとここにもロープが張られ、海岸へは降りられないようになっている。ああ、残念。

クマのせいで、上から眺めるだけになってしまったが、積丹岬はさすが日本の渚百景の一つ、碧い海と岩々の織りなす絶景は息を呑む美しさ。この日は曇っていたけれど、晴天だったらどれほど鮮やかだろうか。

海から突き出す屏風岩。屏風を立てたように見えるからそう呼ばれるそうだが、この不思議な形は一体どうやってできたのだろう。これは海底火山が形成されたときにマグマの通り道だったところ、つまり岩脈で、その後火山体は海底で侵食されてなくなり、岩脈だけが隆起した。マグマの上昇は繰り返し何度も起こったので、複数の岩脈が重なっている。

積丹の海岸は本当にダイナミックだ。でも、積丹半島にあるのは海岸だけではない。実は、積丹半島では「積丹ルビー」と呼ばれる石が採れるという、気になる情報を入手していた。積丹ルビーは「ルビー」とつくけれど実際にはルビーではなく、菱マンガン鉱(ロードクロサイト)というもので、ピンク色をしており、質の良いものは半貴石として取引されているそうだ。

菱マンガン鉱は積丹半島のどこで見つかるのだろう?調べてみると、菱マンガン鉱は別の名を稲倉石といい、今は閉山した稲倉石鉱山で採取されていたとわかった。そこで、稲倉石鉱山跡へ行ってみることにした。

これが結構な奥地で、草木が生い茂る真夏に鉱山跡付近に辿り着くだけでも冒険だった。

やっと辿り着いた稲倉石鉱山跡の入り口。

はるばる来たけれど、日が暮れて来たし、誰もいない山の奥でクマが出て来そうで怖い。これ以上進むのは危ないからやめておいたほうがいいだろう。せめて地面に落ちている石の中に菱マンガン鉱が混じっていないかなあ。

薄いピンク色の結晶のある石がいくつか見つかった。これ、菱マンガン鉱かなあ?それとも別の石?

 

積丹半島、まだまだ見どころがたくさんありそうだけれど、行きたい場所、見たいもののリストは長い。次に進もう。

 

この記事の参考文献:

北海道大学出版会 『札幌の自然を歩く 第3版 道央地域の地質あんない

北海道大学地質学会北海道支部 『北海道自然探検 ジオサイト107の旅

前田寿嗣著『行ってみよう!道央の地質と地形