これから3回に分けてニーダーザクセン州オスナブリュック近郊の自然公園、TERRA.vitaの見どころを紹介しようと思う。正確にはTERRA.vita Natur- und Geopark(テラヴィタ自然・地質学公園)という名称で、オスナブリュック市を中心に北西から南東に斜めに広がる約1550㎢の大きな自然公園だ。6つのエリアを包括し、見どころがたくさんあるが、特に地質学的に面白い場所が多いようでUNESCOグローバルジオパークに登録されている。

公園内の3つのスポットを訪れた。今回紹介するのはオスナブリュック市郊外にあるピースベルク(Piesberg)という山とオスナブリュック産業博物館だ。なぜピースベルクへ行こうと思ったのかというと、石炭紀の化石が拾いたかったから。当ブログで何度も書いているように、私と夫は最近、化石収集にハマっていて、ドイツ国内のあちこちの地層から出る化石を集めている。これまでにデボン紀から古第三紀までの地質時代の化石を拾ったが、石炭紀のものはまだ持っていなかった。オスナブリュックのあたりは約3億年前、つまり石炭紀には海岸沿いの湿地帯だった。やがてその一帯の植物は枯れて地中に堆積し、石炭となった。だから、ピースベルクからは石炭紀の植物化石が出る。以前、訪れたエッセン市のルール博物館であまりに見事な石炭紀の植物化石の標本を目にして以来、石炭紀の化石は私にとって憧れである。

ピースベルクへの山道を車で登るとオスナブリュック産業文化博物館というのがあったので、入ってみた。

 

 

博物館の建物はかつての炭鉱の建物で、パッと見たところ建材は私の住むブランデンブルク州では見かけないものだ。色や質感から推測するに、砂岩のようだ。後で知ったところによると、ピースベルクでは石炭だけでなくピースベルク砂岩という砂岩も採掘されて来たらしい。

博物館の中には過去150年ほどのオスナブリュックとその周辺地域の産業に関連する展示品が並べられている。蒸気機関のような大型機械から家電、工具、工場の設計図などいろいろなものがあって楽しめる。

建物の内壁には漆喰が塗ってあるのだけど、展示の一要素としてなのか、中の建材がむき出しになっている壁があった。立派な外観の建物なので、中のブロックは整然と積まれているのだろうとなんとなく想像していたけど、いろんな種類と大きさの石材が結構無造作に積んであって意外だ。こういうものなんだろうか?

炭鉱に関する展示にはかなりのスペースが割かれていて、炭鉱で見つかった植物化石の標本もあった。そうそう、こういうのが好きなんだよね。

博物館の展示スペースはかなりの広さだが、この博物館の目玉はかつての坑道内を歩けること。

こういう地下道、大好き!

この坑道はよく整備されてそれほど暗くもなく、今までに入ったことのある坑道と比べて特にスリリングというわけではないかなあ。でも、長さは30メートルもあって、その点では歩きがいがある。

興味深く思ったのは坑道内にあったこの図で、石炭の層は山の斜面に沿って何層もあり、ところどころ断層ができていることがわかった。私が歩いている坑道は一番上の石炭の層から採掘した石炭を地上に運び出すための水平のトンネルというわけね。

 

博物館の敷地はかなり広く、他にもいろいろ見どころがある。でも、ここでは省略して、いよいよ炭鉱跡へ行ってみよう。

 

道路を渡って山を登り出すと、石炭を運ぶトロッコ列車のレールが延びている。レール沿いに山を登って行く。

うわ、面白い風景!

石炭の層が見えるー!さっきの図で見た通り、層が斜めになってるね。

しばらく登っていくと傾斜が急になり、長い階段があった。「地質時代の階段にようこそ」と書かれていて、それぞれの地質時代に典型的な生き物が描かれている。階段はそれぞれの地質時代の長さに応じた段数で色分けされていて、階段を上がりながら地球の歴史を体感できるというコンセプトのようだ。でも、急な階段なので普通に登るだけで結構疲れて、「おっ、今は石炭紀を進んでいるな」とか感慨に浸ってもいられなかったけど、、、、。

階段を登り切ると、そこには大きな風車が立っていて、そのふもとには「化石集め場」が設けられていた。児童公園の砂場のような感じで、一瞬がっかり。ここじゃたいした化石は見つけられないなあ〜。

山の裏側を見下ろすと、大きな石切場が見えた。現在も砂岩の採掘が行われている石切場で、一般人は許可なく入ることはできない。夫は「ああ〜、あそこに絶対いい化石があるはずなのに!」と悔しがっている。実を言うと、この石切場での化石エクスカーションに参加する予定があったのだ。コロナを理由にエクスカーションがキャンセルになってしまったので、せめてその周辺で化石が拾えないかと考えてここまで来たのであった。

まあ、悔しがったところでしかたがないと気を取り直して、地面に撒かれた石の中を見てみる。すると、子どもだましの体験コーナーだとバカにした石捨て場は植物化石だらけ。侮れないのである。石切場から定期的に新しい石を運んで来るんだろうね。そこそこ大きいものもあるし、悪くない。でも、小さい子どもが熱心に化石集めをしている中で大の大人が大量に持って帰るわけにはいかないから、小さいものを少しだけにしておこう。

石炭の地層を見て触れて、化石も拾えるジオパーク。この日は動いていなかったが、通常はレールを走るトロッコ列車に乗ることもできるそうだ。オスナブリュックの市内からも遠くなく、家族連れにもぴったりの観光スポットだ。

 

 

夏もそろそろ終わり。寒くなる前にと、遅めの夏休暇に出かけて来た。行き先はかねてから行きたかったワッデン海(Wattenmeer) 。

ワッデン海はデンマークのスカリンゲン(Skallingen) からオランダのデン・ヘルダー(Den Herder)まで続く北海沿岸地域で、世界最大の干潟が広がっている。そのほぼ全域が自然保護区で、UNESCO世界自然遺産に登録されている。大部分の地域がドイツに属しており、3つの国立公園(ニーダーザクセン・ワッデン海国立公園、シュレスヴィヒ=ホルシュタイン・ワッデン海国立公園、ハンブルク・ワッデン海国立公園)から成る。今回はそのうちのニーダーザクセン・ワッデン海国立公園)を訪れることにした。

だいたい赤で囲んだあたり。超正確ではありません。

といっても、ニーダーザクセン・ワッデン海国立公園も広い。どこへ行けば干潟をもっともよく味わえるのだろうか。国立公園のウェブサイトやガイドブックを見てもいまひとつ摑みどころがなく、わからない。それに、北ドイツは天気が変わりやすく、せっかく海辺に宿を予約して行っても、天候次第ではあまり楽しめないかもしれない。そんな懸念から、とりあえずオランダとの国境に近いレーア(Leer)という町へ行き、そこからルートを考えることにした。

レーアはオストフリースラント(Ostfiresland)と呼ばれる地方の玄関口となる町で、人口は約3万4000人とこじんまりしているが、旧市街の美しい魅力的な町ですぐに気に入った。オストフリースラント地方は固有の言語と独自の文化を持ち、日常的に紅茶を飲む習慣があることで知られている。オストフリースラント紅茶の3大ブランドの一つ、Bünting社の本社はこのレーアにある。

オストフリースラント地方の人々はドイツの他の地域の人たちの10倍以上の量の紅茶を飲むそうだ。「オストフリーゼンテー」と呼ばれるこの地方オリジナルの紅茶はアッサム茶のブレンドで香り高く、普段は紅茶をあまり飲まない私もとりこになってガブ飲みしてしまった。紅茶文化が伝統として根付いているこの地方には特有の紅茶の作法がある。クルンチェ(Kluntje)と呼ばれる大きめの氷砂糖をカップに入れて熱い濃いめの紅茶を注ぎ、少量の生クリームをスプーンでそっとカップの縁に沿って入れ、かき混ぜずに頂くのがオストフリースラント式だそうだ。レーアには紅茶博物館、Bünting Teemuseumもある。オストフリースラントの紅茶文化やその他の生活文化についてじっくりと知りたいものだが、今回は文化にほとんど興味のない夫と一緒。滞在日数が限られているので、文化探索は別の機会に譲ることにしよう。

さて、このレーアを起点にDollart湾に出て、海沿いを北に向かってゆるゆるとドライブしながら観光した。赤レンガの建物の並ぶ小さな町や村、歴史的な粉挽き風車と発電のための近代的な風力パーク、大小の灯台、どこまでも広がる湿地帯と草を食む羊達。広々とした風景を見ながら移動するのは楽しい。そのままNordenという町まで行ってオストフリースラント諸島の島のどれかへ渡ろうと考えたのだけれど、天気が怪しくなって来た。また、コロナ禍がまだ収束していないため、島内のガイドツアーなどにも制限があるようだ。せっかく行くならツアーにも参加できて目一杯楽しめるときの方がいいかなと思い、今回は島は断念することにした。西へ移動し、ヴィルヘルムスハーフェン郊外のダンガスト(Dangast)という保養地に宿を取った。

ダンガストの港

Jadebusen湾に面したこのダンガストは古くからある保養地で、なかなか素敵な場所だった。Jadebusen湾の真ん中にはアンガスト灯台が立っていて、天気が良ければ海岸からその姿を眺めることができる。

うーん、曇り空で300mmの望遠レンズだとこれが精一杯、、、。

すっかり前置きが長くなった。この記事で書きたいのは野鳥についてだった。最近、バードウォッチングが新たな趣味となった私なので、ワッデン海で野鳥を見るのを楽しみにしていたのだ。ワッデン海の生物多様性は極めて高い。アザラシがたくさん棲息することでもよく知られているが、世界的な渡り鳥の拠点としても有名である。9月の初めなのでまだ渡り鳥のハイシーズンではない。だからあまり見られないかなと思ったけれど、鳥はいたるところにいた。

どこもかしこも群鳥だらけ。普段からこれだったら、ハイシーズンは一体どんだけすごいんだろ。

干潟はどこでも同じような感じかと思ったら、砂の干潟(Sandwatt)と泥の干潟(Schlickwatt)があることがわかった。Dollart湾やJadebusen湾には泥がたくさん堆積している。干潮時にダンガストの海岸を歩いてみた。

ズブズブと埋まってしまうので、転ばないように歩くのはちょっと大変だ。干潟を歩くのは当然ながら干潮時にしかできない。天気がころころと変わり、いざ歩こうと思ったタイミングで空が曇ってしまって残念だった。

こちらはその翌日に行った北東部のKooksielの海岸。砂の干潟で、足が泥に埋まることなく、わりと普通に遠くまで歩くことができる。このときは晴れていた!

天気が良いと美しい様々な砂紋が楽しめる。

ワッデン海の干潟はどのようにしてでき、どう変化していったのか。Marschlandと呼ばれる海沿いの湿地にはどんな特徴があるのか。ワッデン海にはどんな生き物が生息し、人々はどんんな暮らしをして来たのか。オストフリースラントとワッデン海の自然について、もっと知りたくなった。4泊5日の滞在では短かすぎる。オストフリースラント諸島も一つ一つ違う特徴があるようだ。

次回はたっぷりと時間を取って島にも滞在したい。北海は夏でも泳ぐには水が冷たいけれど、南欧の海辺の休暇とはまた違った感動があるね。近々また来られるといいなあ。