ベルリンから南西に40kmほどのところにあるヌテ・ニープリッツ自然公園が好きで、よく遊びに行く。美しい湖がいくつもあるのだ。その中の一つ、ブランケンゼー(Blankensee)の近くに、以前から気になる建物があった。

 

体育館を二つ並べたようなこの建物は何なのだろう?デザインから察するに、ヴァイマル共和政時代に建てられたものではないかと思われるが、古びたレンガ造りの建物が多い田舎の風景の中にドーンと立っていて、場違いな感じがする。何かの格納庫だろうか。でも、このエリアにかつて大きな産業があったとも思えない。謎である。画像検索で調べたら教会だということがわかって驚いた。

教会の名前はヨハニッシェ・キルヒェ(Johannische Kirche)。かつてはEvangelische-Johannische Kirche nach der Offenbarung St. Johannisという名称だったそうだ。「聖ヨハネの啓示を受けた福音主義のヨハネ派教会」とでも訳せば良いのだろうか?耳慣れない言葉だ。それとも、私がキリスト教の知識に乏しいから知らないだけだろうか?それにしても、この外観である。何か特殊な背景があると見て間違いなさそうだ。

最近、”Die Mark Brandenburg“というブランデンブルク州の歴史雑誌が気に入っているのだが、そのバックナンバー、”Lebensreform in der Mark(ブランデンブルクにおける生改革運動*注1)”を手に取ったら、偶然、この教会についての記事が載っていた。生改革運動(Lebensreform)とは、19世紀半ば以降、急激な近代化に反対してスイスやドイツを中心に広がった自然回帰をキーワードとする社会改革運動で、現在、特徴的なドイツの生活文化とみなされているものの多くがこの時期に芽吹いたようである。たとえば、ドイツ全国にある自然食品店、レフォルムハウス(Reformhaus)はこの運動に端を発している。30年前、ドイツに来て初めてレフォルムハウスの看板を目にしたとき、「はて?どういう意味だろう?」と不思議に思ったのをよく覚えている。その頃、reformという言葉から私が連想できたのは「住まいのリフォーム」だけで、住まいとは何の関係もなさそうなのにreformと書いてあるその店が気になって中に足を踏み入れてみた。店内に並べてあるのは健康食品やオーガニックの食品、自然化粧品などで意味がわからず、「健康なものを食べて体をリフォームしようという意味だろうか?」などと、おかしな解釈をしていた。ReformhausのReformが19世紀の生改革運動から来ていると気づいたのは、ずっと後になってからだ。

さて、上記の雑誌によると、ブランケンゼーの近くにある古くて新しい謎の建物は1926年に「聖ヨハネの啓示を受けた」ヨーゼフ・ヴァイセンベルク(Joseph Weißenberg)により建てられた。ヴァイセンベルクはシレジア地方の貧しい家に生まれたが、幼少の頃から予知能力がある不思議な子どもだとみなされていた。また、ヒーリングの能力があり、ヴァイセンベルクが病人に触れると病気が治ったというエピソードがたくさん伝えられている。ヴァイセンベルクは成人後、左官などいくつかの職を経験した後、ベルリンのプレンツラウアーベルクでヒーラーとして開業する。急激な社会変化の中での閉塞感や生活苦、環境汚染などから心身を患う人が多かったのだろうか、いろいろな代替医療やスピリチュアルな施術が世に溢れた時代だったようで、ヴァイセンベルクは「ベルリンの奇跡のヒーラー」として注目を浴びた。やがて、宗教的指導者としても活動するようになり、マイスターと呼ばれて崇められるようになる。第一次世界大戦直後、ヴァイセンベルクは「もうすぐ大インフレになる」と予言し、「金を持っていても価値がなくなるから、今のうちに私に預けなさい」と言って信者らから金を集めた。その資金でブランケンゼー近くのグラウという地域に土地を購入し、人々が安心して暮らせる町を建設すると言い切ったのである。

教会の建設はこうして始まった。約1000人を収容できるという大きな教会の二つのアーチ型天井は「Zwei Lebensstützen brechen nie. Gebet und Arbeit heissen sie.” (祈りと労働は決して折れることのない生の二つの柱である)」というヨハニッシェ・キルヒェの教理を象徴しているそうだ。そしてヴァイセンベルクは教会に隣接するエリアに自らの理想に基づく集落「フリーデンスシュタット(平和の町)」の建設に着手した。しかし、予言通りインフレがやって来ると、資金が足りなくなり、信者らは集落建設を続行するために金の結婚指輪をヴァイセンベルクに差し出した。だから、フリーデンスシュタットは結婚指輪で建設された町と形容されることもあった。集落には学校や病院、博物館やカフェも作られ、近代的なインフラを持つコミュニティが実現した。

 

ざっとここまで読んで、その集落を見に行きたくなった。ブランデンブルク探検仲間のCKさん(@CKCKinT)にこの話をしたら、CKさんは「その集落に行ったことがあるよ」と言う。「医者の診療所が入ったセラピーセンターがあって、宗教的な独特の静かな雰囲気がある。ボロボロの小さな集落なのに、田舎には珍しい自然食品の店があって不思議な感じ」だそうだ。ますます興味深い。そこで、CKさんに案内して貰いながらその集落を散歩することにした。

ということで、ブランデンブルク探検隊、フリーデンスシュタットにGo!

 

集落は少し奥まったところにある。集落内に入ると、真っ先に古びた建物が目に入った。かつて役場だった建物らしい。一部の窓にカーテンがかかっているが、現在、誰か住んでいるのだろうか。シーンとしていて、人の姿は確認できなかった。

 

「神とともに始まり、神とともに終わる。それが真の人生である」

 

その隣にはセラピーセンターがある。1996年に再開されたそうだが、小さな集落にある医療機関にしては随分立派だ。ドアを開けて中に入ってみたが、患者がいるのかいないのか、建物の中はひっそりとしていた。

セラピーセンターの内部に飾られたヴァイセンベルクの胸像。壁には”Krankheit ist Geist(病は精神だ)”と書かれている。宗教的な言葉なので、どういう意味なのかはよくわからない

 

集落には当時、約40棟の建物が建てられ、およそ500人が生活していたそうだ。しかし、ヨハニッシェ・キルヒェの信者の数はそれよりもずっと多く、復活祭の礼拝には2万人もの信者が訪れたという。1920年にはヨハニッシェ・キルヒェの支部は全部で20ほどあったようだ。

かつて”Goldene Sonne(金の太陽)”という名前のレストランだった建物。丘の上に立っているので、きっと日当たりの良いレストランだったのだろう。でも、今はすっかり古びて陰気な姿になっていて、太陽という名前は似つかわしくない。というのも、小さな聖地フリーデンスシュタットの平和な日々は長く続かなかった。1933年にナチ党が政権を掌握すると、ヨハニッシェ・キルヒェの活動は禁じられ、集落の建物は国家秘密警察の管理下に置かれたのである。

 

かつての学校。かなり大きな建物で、600 – 700人の児童が学んでいたらしい。階段の前に設置されている説明パネルには「バウハウススタイルで建てられた」と書いてある。当時は体育館や実験室もある近代的で清潔な学校だったらしい。うーん、すっかり荒れ果ててしまっていて、うまくイメージできないぞ。

 

集落で一番大きい建物は高齢者施設だった建物だ。これは再建したものなのでオリジナルと全く同じではないかもしれないが、1930年に大都市でもない集落にこんな立派な高齢者施設が作られたというのには驚かされる。1940年、ナチ党の武装親衛隊が占領し、第二次世界大戦後はソ連軍が兵舎として使った。現在はフリーダ・ミュラーハウスと呼ばれ、公共スペース付きの住宅になっている。

 

四角い広場を囲んで立つ、廃墟化したソ連軍の兵舎

 

これは1970年にソ連軍が建設した将校の娯楽施設。東ドイツ時代、フリーデンスシュタットはソ連の基地として使われたため、ソ連軍が建設した建物が集落のもともとの建物と混じっている。1994年にソ連軍が撤退した後、フリーデンスシュタットは宗教団体ヨハニッシェ・キルヒェに返還され、コミュニティとして再出発した。この建物は現在はコミュニティスペースとして使われている。ナチ時代とそれに続く東ドイツ時代にはどこかでひっそりと生活していた信者の一部がフリーデンスシュタットに戻って来ているそうだ。現在のフリーデンスシュタットの住民は約500人。全員がヨハニッシェ・キルヒェに属しているわけではないだろうが、現在、ドイツ全国にヨハニッシェ・キルヒェのメンバーは3000人ほどいるとされているので、フリーデンスシュタットは再びヨハニッシェ・キルヒェの本拠地となっているのかもしれない。

かつての牛舎。集落には農園もあった

 

集落の自然食品ショップ

集落は全体的にボロボロで、よそ者の私には現実感が薄く、映画のセットかなにかのように感じられるのに、中心部にある自然食品の店だけはまるで都市の一角のような存在感を醸し出している。店の外壁には十字架がかかり、レフォルムハウスならぬレフォルムカウフと書かれた看板がかかっている。

かつて、当時の基準では先進的な町だったフリーデンスシュタット。今、その姿を想像するのは難しい。でも、荒廃しているエリアにありがちな殺伐とした空気は感じられず、どこかおっとりとした雰囲気の漂う不思議な場所である。周辺も含め、人口密度の低い地域だけれど、集落はこれからも引き続き少しづつ補修されて活気を取り戻していくのだろうか。毎年12月には教会でクリスマス市が開かれているとのこと。今年はパンデミックのため開催されないだろうが、来年、または再来年、フリーデンスシュタットのクリスマス市を覗いてみたい。

 

ブランデンブルクにとても詳しいローゼンさん(@PotsdamGermany)に興味深い関連サイトを教えて頂いたので、参考資料として貼っておきます。

ヨハニッシェ・キルヒェに関する短い番組:

Johannische Kirche in Trebbin

現在の信者の方によるポッドキャスト:

Reportage “Weißenberg I”

Reportage “Weißenberg II”

 

*注 Lebensrefomには「生改革」「生活改善運動」など複数の訳語があるようです。定訳がはっきりわからなかったので、ネット上で見つけた複数の学術論文に倣って「生改革」という訳語をあてました。

今年の7月に友人のライター、久保田由希さん(@kubomaga)との共著で出版した「ベルリン・ブランデンブルク探検隊シリーズ 給水塔」(詳細はこちら)でブランデンブルク州内の給水塔44基を紹介した。その中の1基、アンガーミュンデ(Angermünde)の給水塔は現在、宿泊施設として再利用されている。ページ数の関係により、本の中では詳しく紹介できなかった(P.41に掲載)ので、ここで改めて紹介したい。

アンガーミュンデの給水塔

 

給水塔に泊まるって、どんな感じだろう?と気になり、先日、この塔に実際に宿泊してみた。アンガーミュンデ市はベルリンから北東およそ70km。給水塔は駅の真ん前にある。

 

1901年に建設されたこの給水塔は2007年に大掛かりな改修工事が行われ、現在は宿泊施設となっている。ホテルではなく、キッチン設備のあるアパートメントタイプの宿だ。(ウェブサイトはこちら

 

敷地内に入り、塔の裏手に回ると、外付けのエレベーターと階段があり、アパートメントに直接アクセスできるようになっている。タンク部分には塔の管理人さん一家が住んでいて、借りられるのはその下のレンガで覆われた部分で、2つの階それぞれ丸ごとがアパートメントになっている。私たちが予約したときには両階とも空いていたので、2つのうちの上の階を借りることにした。

着いたのが夜だったので、こんな感じ。真ん中が居間、居間の奥がキッチンとダイニングスペース、反対側がベッドのあるスペースになっている。落ち着いた温かみのある内装だ。

キッチン&ダイニングスペース

 

なんと、キッチンの窓からはもう一つの小さな給水塔が見える!

 

泊まってみて、快適さに驚いた。床暖房で足元ポカポカ、ソファーも深々として気持ちが良い。家具はどれも質の良いもので、こだわりが感じられる。

 

塔を輪切りにした円形アパートメントで円形で、真ん中部分がフロアとなっているのが面白い。向こう側に見えるドアの後ろはバスルーム。左側の緑のドアを開けると、

階段で下に降りることができる。これぞ「塔に住んでます」という感じでワクワクする。

 

給水塔の絵が彫られたフロアの家具

 

階段から地階に降りてみた。出入り口付近には観光パンフレットがたくさん置いてある。アンガーミュンデ市は小さい町で、市内にはそれほどたくさん見所があるわけではないが、周辺にはUNESCO自然遺産に登録されたブナの森(Buchenwald Grumsin)やSchorfheide-Chorin自然保護区Unteres Odertal国立公園など多くの自然保護区が広がり、拠点として便利だ。車があればあちこちへ足を延ばすことができる。でも、車がなくても大丈夫。アンガーミュンデからは各方面へ観光バスが出ている。(情報はこちら

給水塔情報&グッズコーナーがあった。アンガーミュンデ給水塔110周年には記念グッズがいろいろ作られたようである。

こんなカレンダーもあったとは。給水塔の本を書いた私が言うのも変だけど、マニアな人たちがいるもんだねえ〜。

地階はメゾネット構造になっているので上ってみよう。

ミーティングスペース?ここで給水塔ファンの人たちが作業をしたりするのであろうか。

椅子がすごい!!!

大変な凝りようだ。なんかもう、給水塔愛がビシバシと伝わって来る。現存する給水塔は貴重な技術遺産であり文化財である。それを大切に守り継承していこうという強い意思が感じられて、圧倒される。それにしても、改修にはかなりのお金がかかったに違いない。(工事の様子は塔のサイトのこちらのページから見ることができます)

 

裏庭には子どもの遊び場とバーベキューができるスペースがあるのだが、遊び場にまでミニ給水塔が設置されている。

 

こだわりが半端ないね。

 

フロアに置いてあったこの雑誌を手に取ってみた。これまた驚くほどマニアックである。「ドイツ国際給水塔協会(Deutsch International Wasserturm Gesellschaft)という団体が発行しており、ドイツ国内の給水塔に関する最新情報や会員による給水塔見学バスツアーの報告、世界各国の給水塔特集などが掲載されている。この号ではオーストリアと仏ブルターニュ地方の給水塔群の紹介、ドローンで撮った給水塔画像のほか、キリギスタンの高置給水タンクが3ページにわたって解説されている。キリギスタンまで行ったんかい!

 

こんなわけで、給水塔アパートメントってどんな感じかな?というくらいの気持ちで泊まってみたアンガーミュンデの給水塔はとても快適かつマニア心を大いに満たしてくれる素晴らしい宿であった。一つだけ難点を上げるとすれば、駅の側なので、ホームを流れるアナウンスがまる聞こえなことかな。音に敏感な人だと気になるかもしれない。それ以外は文句なしどころか、大満足だった。良心的な料金設定も嬉しい。これからも愛され続けて欲しい給水塔である。

 

 

 

北ドイツの地形は南ドイツと大きく異なり、基本的に低地である。どこへ行っても平らで、高い山がないのはつまらないと思う人が少なくないかもしれない。でも、私は14年前にブランデンブルク州に引っ越して来て、いや、正確には来る前から、ブランデンブルクの自然環境にとても惹かれた。

というのも、ブランデンブルク州はどこもかしこも湖だらけ。その数はなんと3000近いという。私にはかねてから「泳げる湖の近くで暮らしたい」という夢があったので、ブランデンブルク州に引っ越して来たときには「夢が叶った」と、とても嬉しかった。最初の数年間は当時小学生だった子どもたちを車に乗せて、今日はここの湖、明日はあっちの湖と夏の間は湖ホッピングを満喫したものだ。そのうち付き合ってくれなくなったけれど。

なぜブランデンブルク州にはこんなにも湖が多いんだろうと不思議に思っていたら、あるとき知人が教えてくれた。ブランデンブルク州を含むドイツ北部はかつて氷河に覆われていた、無数にある湖の多くは氷河時代の名残なのだと。ブランデンブルクの地形は氷河によって削り取られた岩石や土砂が堆積して形成された「モレーン」と呼ばれる地形だと聞いても、すぐにはピンと来なかったが、道の脇や畑の縁、または公園などで目につくたくさんの大きな石の塊が氷河によって運ばれて来た「迷子石」というものであることを知ってから、氷河地形に興味を持つようになった。

氷河の置き土産 〜 北ドイツの石を味わう(導入編)

氷河の置き土産 〜 北ドイツの石を味わう(基礎編)

氷河に運ばれた大量の迷子石が並ぶジオパーク、Findlingspark Nochten

(01.04.2024追記) ヒダ状の氷河地形を観察できるUNESCOグローバルジオパーク、ムスカウアー・ファルテンボーゲン

氷河湖や迷子石だけではない、ブランデンブルクの自然に目をやれば、特徴的な氷河地形をあちこちで観察することができる。住宅地になっていたり森林に覆われているとわかりづらいが、広々とした場所を遠目に眺めるとなるほどと思う。ベルリンの北部にはUckermark、BarnimそしてMärkisch-Oderrandの3地域にまたがる3.297 km2  及ぶ広大な氷河地形ジオパークGeopark Eiszeitland am Oderrandがある。何度か足を運んだので、これまでに見たものをまとめてみよう。

 

ジオパークは柵に囲まれているわけではなく、入場料を払う必要もないので、好きな場所からアクセスして好きなように見ることができるが、まずオリエンテーションをしてからということなら、Gross Ziethen村にあるビジターセンターを目指すと良いと思う。ジオパークの成り立ちやそこで見られる動植物、発掘された化石などがわかりやすく展示されている。

色口は建物の裏にある

 

ビジターセンターの展示や関連資料には氷河地形の成り立ちが図解されている。眺めているだけでなく自分でも描いてみるとよく把握できるかなと思って、描いてみた。(図を描くのが苦手で、これだけの図でも結構苦労、、、、)

氷河はドイツの北から南に向かって(図では右から左へ)移動した。氷河の底になっていた部分の地形をグランドモレーンと呼び、末端部分の地形をエンドモレーンと呼ぶ。最終氷期であるヴァイクセル氷期にはその前のザーレ氷期のように現在のブランデンブルク州がすっぽりと氷床に覆われることはなかったので、氷の下になっていた北部と氷の及ばなかった南部は地形が異なっている。その境目のエンドモレーンには岩の塊など大きくて重い堆積物が溜まって残った。エンドモレーン の南にはザンダーと呼ばれる緩やかに傾斜した砂地が広がっている。氷期が終わり、氷の溶け水は氷床の縁に沿って東西に流れ、ウアシュトロームタールと呼ばれる谷をつくった。ドイツの首都、ベルリンはウアシュトロームタールに位置している。その南にはそれ以前の氷期に形成された古いモレーン(アルトモレーン)が広がっている。

 

Gross-Ziethen村の外れにあるビジターセンターの先にある石のゲート

 

ビジターセンター脇のマンモスの像

 

この土手状の丘がエンドモレーンだ 。つまり、この土手のすぐ向こうまでかつて氷床が迫っていたのだね。ヴァイクセル氷期は10万年以上も続いたので、氷河の末端の位置ももちろん変化した。このエンドモレーンはヴァイクセル氷期のうちのポンメルン期(およそ1万8200年前から1万5000年前まで)に氷床の末端があった場所だ。

 

氷床が削り取り、運んで来た岩が土手に埋まっている。

これらの岩ははるかスカンジナビアからここまでやって来たのだ。ダイナミックでスケールの大きな話である。本当にすごいなあ。

 

土手の前に作られた日時計

 

グランドモレーンにはなだらかな丘が広がる。ところどころに部分的な起伏がある。最初の手書きの図に描いたように、起伏にはその出来方によっていろいろな形状がある。

ドラムリンと呼ばれる涙形の丘。氷河が削り取った砂礫が細長く堆積したもの。ドラムリンは以下の動画のようにできると考えられているようだ。

 

 

ドラムリンの他には、氷の塊と塊の間に土砂が溜まり、氷が溶けた後に丸く盛り上がって残ったケイムと呼ばれる丘や、氷の裂け目や底部にできたトンネルに溜まった土砂が堤防状に細長く延びたエスカー(Os)などの形状もあるが、うまく写真が撮れなかった。

 

氷床は縁から徐々に溶けていったが、氷の塊がしばらく溶けずに残ることもあった。そのような氷の塊はToteisと呼ばれ、その下には窪みができた。その窪みに水が溜まり、Toteisseeと呼ばれる湖となった。でも、小さな水溜りは干上がってしまうこともある。そんな「元湖」がブランデンブルクの大地にはたくさんある。中には木が生え、小さな林になっているものもある。

 

北海道で生まれ育ったせいなのか、広々とした場所がとても好きだ。地形の成り立ちを考えることは普段と違うスケールの想像力を働かせることでもあり、縮こまった意識をストレッチするような気持ちの良さがあるなあ。

 

ブランデンブルクには氷河期の名残の湿地もまだたくさん残っている。急激に失われつつあるらしいけれど。

氷河が形づくったブランデンブルクの自然をもっともっと歩きたい。まだまだ知らないことだらけだ。

 

ドイツの身近な野鳥が少しづつ見分けられるようになって来た。

目にしたり鳴き声を聞いた野鳥を図鑑やアプリで調べるが、そうした資料はドイツ語なので、ドイツ語の種名だけでなく日本語ではなんと呼ばれているのかが知りたくなる。幸い、野鳥図鑑や野鳥識別アプリにはラテン語の学名も併記されているので、そこから和名を調べることができる。

でも、調べてもメモしないと、すぐに忘れちゃうんだよね。

同じものを何度も何度も調べるのはバカらしいので、エクセルで表を作ることにした。ついでなので英語名も調べて書いておこう。もし、このマイブームがさらに高じてドイツ以外の国でも野鳥観察をするようなことにでもなれば、世界のバードウォッチャーと情報交換する際に英語名を知っていると何かと便利だろうから。画像欄には野鳥保護団体NABUのサイトの種別ページリンクを貼って、ワンクリックで飛べるようにした。

とりあえず、身の回りで確認した種を中心に100種。興味のある方がいるかもしれないので、ここに貼っておこう。今後、表をアップデートしたらその都度差し替えます。

お願い: もし、間違いがありましたら、お手数ですがご指摘頂けると大変助かります。

 

ドイツ語 英語 日本語 学名 画像 (NABUのサイトより)
Alpenstraundläufer Dunlin ハマシギ Calidris alpina https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/alpenstrandlaeufer/
Amsel Common blackbird クロウタドリ Turdus merula https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/amsel/
Bachstelze White wagtail ヨーロッパハクセキレイ Motacila alba https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/bachstelze/
Blässhuhn Eurasian coot オオバン Fulica atra https://nrw.nabu.de/natur-und-landschaft/landnutzung/jagd/jagdbare-arten/wasservoegel/04508.html
Blaukehlchen Bluethroat オガワコマドリ Luscinia svecica https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/blaukehlchen/
Blaumeise Eurasian blue tit アオガラ Cyanistes caeruleus https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/blaumeise/
Blessgans Greater white-fronted goose マガン Anser albifrons https://nrw.nabu.de/natur-und-landschaft/landnutzung/jagd/jagdbare-arten/wasservoegel/04839.html
Buchfink Common chaffinch ズアオアトリ Fringilla coelebs https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/buchfink/
Buntspecht Great spotted woodpecker アカゲラ Dendrocopos major https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/buntspecht/
Dohle Western jackdaw ニシコクマルガラス Corvus monedula https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/dohle/
Eichelhäher Eurasian jay カケス Garrulus glandarius https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/eichelhaeher/
Eisvogel Common kingfisher カワセミ Alcedo atthis https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/eisvogel/
Elster Eurasian magpie カササギ Pica pica https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/elster/
Fasan Common Pheasant コウライキジ Phasianus colchicus https://nrw.nabu.de/natur-und-landschaft/landnutzung/jagd/jagdbare-arten/weitere-vogelarten/05322.html
Feldlerche Eurasian skylark ヒバリ Alauda arvensis https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/feldlerche/
Feldsperling Euraisan tree sparrow スズメ Passer montanus https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/feldsperling/
Flussregempfeifer Little ringed plover コチドリ Charadrius dubius https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/aktionen-und-projekte/vogel-des-jahres/1993-flussregenpfeifer/index.html
Gänsesäger Goosander カワアイサ Mergus merganse https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/sandregenpfeifer/
Gartenbaumläufer Short-toed tree creeper タンシキバシリ Certhia brachydactyla https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/gartenbaumlaeufer/
Gartenrotschwanz Common redstart シロビタイジョウビタキ Phoenicurus phoenicurus https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/gartenrotschwanz/
Gelbspötter Icterine warbler キイロウタムシクイ Hippolais icterina https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/gelbspoetter/
Gimpel Eurasian bullfinch ウソ Pyrrhula pyrrhula https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/gimpel/
Girlitz European serin セリン Serinus serinus https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/girlitz/
Goldammer Yellowhammer キアオジ Emberiza citrinella https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/goldammer/
Graugans Greylag goose ハイイロガン Anser anser https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/graugans/
Graureiher Grey heron アオザギ Ardea cinerea https://nrw.nabu.de/natur-und-landschaft/landnutzung/jagd/jagdbare-arten/wasservoegel/06747.html
Großtrappe Bustard ノガン Otididae https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/grosstrappe/
Grünfink, Grünling European greenfinch アオカワラヒワ Carduelis chloris https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/gruenfink/
Grünspecht Eurasian green woodpecker ヨーロッパアオゲラ Picus viridis https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/gruenspecht/
Habicht Northern goshawk オオタカ Accipiter gentilis https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/habicht/
Halsbandschnäpper Collared fly catcher シロエリヒタキ Ficedula albicollis https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/halsbandschnaepper/
Halsbandsittich rose-ringed parakeet ワカケホンセイインコ Psittacula krameri https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/halsbandsittich/
Haubenmeise European crested tit カンムリガラ Lophophanes cristatus https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/haubenmeise/
Haubentaucher great crested grebe カンムリカイツブリ Podiceps cristatus https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/haubentaucher/
Hausrotschwanz Black redstart クロジョウビタキ Phoenicurus ochruros https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/hausrotschwanz/
Haussperling House sparrow イエスズメ Passer domesticus https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/haussperling/
Heringmöwe lesser black-backed gull ニシセグロカモメ Larus fuscus https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/heringsmoewe/
Höckerschwan Mute swan コブハクチョウ Cygnus olor https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/hoeckerschwan/
Kanadagans Canada goose カナダガン Branta canadensis https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/kanadagans/
Kernbeißer Hawfinch シメ Cocothraustes cocothrautes https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/kernbeisser/
Kiebitz Northern lapwing タゲリ Vanellus vanellus https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/kiebitz/
Kleiber Eurasian nuthatch ゴジュウカラ Sitta europaea https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/kleiber/
Kohlmeise Great tit シジュウカラ Parus major https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/kohlmeise/
Kormoran Great cormorant カワウ Phalacrocorax carbo https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/aktionen-und-projekte/vogel-des-jahres/11608.html
Kranich Common crane クロヅル Grus grus https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/kranich/
Kuckuck Common cuckoo カッコウ Curculus canorus https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/kuckuck/
Lachmöwe black-headed gull ユリカモメ Chroicocephalus ridibundus https://nrw.nabu.de/natur-und-landschaft/landnutzung/jagd/jagdbare-arten/wasservoegel/04834.html
Löffler Eurasian spoonbill ヘラサギ Platalea leucorodia https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/loeffler/
Mandarinente Mandarin duck オシドリ Aix galericulata https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/mandarinente/
Mauersegler Common swift ヨーロッパアマツバメ Apus apus https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/mauersegler/
Mäusebussard Common buzzard ヨーロッパノスリ Buteo buteo https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/maeusebussard/
Mehlschwalbe Common house martin イワツバメ Delichon urbica https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/mehlschwalbe/
Mittelsäger Red-breasted merganser ウミアイサ Mergus serrator https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/mittelsaeger/
Mönchsgrasmücke Eurasian blackcap スグロムシクイ Sylvia atricapilla https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/moenchsgrasmuecke/
Nachtigall Common nightingale サヨナキドリ Luscinia megarhynchos https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/nachtigall/
Nebelkrähe Carrion crow ズキンガラス Corvus cornix https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/nebelkraehe/
Neuntöter Red-backed shrike セアカモズ Lanius colluri https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/neuntoeter/
Ortlan Ortolan bunting ズアオホオジロ Emberiza hortulana https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/ortolan/
Pirol Eurasian golden oriole ニシコウライウグイ Oriolus oriolus https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/pirol/
Rabenkrähe Carrion crow ハシボソガラス Corvus corone https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/rabenkraehe/
Rauchschwalbe Barn swallow ツバメ Hirundo rustica https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/rauchschwalbe/
Rebhuhn grey partridge ヨーロッパヤマウズラ Perdix perdix https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/rebhuhn/
Ringelgans brant コクガン Branta bernicla https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/ringelgans/
Reiherente Tufted duck キンクロハジロ Aythya fuligula https://nrw.nabu.de/natur-und-landschaft/landnutzung/jagd/jagdbare-arten/wasservoegel/05891.html
Ringeltaube Common wood pigeon モリバト Columba palumbus https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/ringeltaube/
Rotkehlchen European robin ヨーロッパコマドリ Erithacus rubecula https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/rotkehlchen/
Rotmilan Red kite アカトビ Milvus milvus https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/rotmilan/
Saatgans Bean goose ヒシクイ Anser fabalis https://nrw.nabu.de/natur-und-landschaft/landnutzung/jagd/jagdbare-arten/wasservoegel/04696.html
Säbelschnäbler Pied avocet ソリハシセイタカシギ Recurvirostra avosetta https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/saebelschnaebler/
Sandregenpfeifer Common ringed plover ハジロコチドリ Charadrius hiaticula https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/sandregenpfeifer/
Schellente common goldeneye ホオジロガモ Bucephala clangula https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/schellente/
Schnatterente Gadwall オカヨシガモ Mareca strepera https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/schnatterente/
Schreiadler Lesser spotted eagl アシナガワシ Aquila pomarina https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/schreiadler/
Schwanzmeise Long-tailed tit エナガ Aegithalos caudatus https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/schwanzmeise/
Schwarzstorch Black stork ナベコウ Ciconia nigra https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/schwarzstorch/
Seeadler white-tailed eagle オジロワシ Haliaeetus albicilla https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/seeadler/
Silbermöwe European herring gull セグロカモメ Larus argentatus https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/silbermoewe/
Silberreiher Great egret ダイサギ Ardea alba https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/silberreiher/
Singdrossel Song thrush ウタツグミ Turdus philomelos https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/singdrossel/
Sommergoldhähnchen Common firecrest マミジロキクイタダキ Regulus ignicapilla https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/sommergoldhaehnchen/
Sperber Eurasian sparrowhaw ハイタカ Accipiter nisus https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/sperber/
Sumpfmeise Marsh tit ハシブトガラ Poecile palustris https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/sumpfmeise/
Star Common starling ホシムクドリ Sturnus vulgaris https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/star/
Stieglitz European goldfinch ゴシキヒワ Carduelis carduelis https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/stieglitz/
Stockente Mallard マガモ Anas platyrhynchos https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/stockente/
Straßentaube Feral pigeon ドバト Columba livia f. domestica https://berlin.nabu.de/stadt-und-natur/lebensraum-haus/arten/vogelarten/16064.html
Tannenmeise Coal tit ヒガラ Periparus ater https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/tannenmeise/
Teichralle, Teichhuhn Common moorhen バン Gallinula chloropus https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/teichhuhn/
Trauerschnäpper European pied flycatcher マダラヒタキ Ficedula hypoleuca https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/trauerschnaepper/
Turmfalke common kestrel チョウゲンボウ Falco tinnunculus https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/turmfalke/
Türkentaube Eurasian collared dove シラコバト Streptopelia decaocto https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/tuerkentaube/
Uferschwalbe Sand martin ショウドウツバメ Riparia riparia https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/uferschwalbe/
Uhu Eurasian eagle-owl ワシミミズク Bubo bubo https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/uhu/
Waldkauz Tawny owl モリフクロウ Strix aluco https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/waldkauz/
Weißstorch White stork シュバシコウ Cironia cironia https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/weissstorch/
Wiederhopf Eurasian hoopoe ヤツガシラ Upupa epops https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/wiedehopf/
Wintergoldhähnchen Goldcrest キクイタダキ Regulus regulus https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/wintergoldhaehnchen/
Zaunkönig Eurasian wren ミソサザイ Troglodytes troglodytes https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/zaunkoenig/
Zilpzalp Common chiffchaff チフチャフ Phylloscopus collybita https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/zilpzalp/
Zwergsäger Smew ミコアイサ Mergellus albellus https://www.nabu.de/tiere-und-pflanzen/voegel/portraets/zwergsaeger/

自宅の庭でバードウォッチングをしよう!と思い立ってから1年が経過した。それ以前にも庭で野鳥の姿を目にすることはよくあったのだけれど、真剣に見たことはほとんどなかった。真っ黒でクチバシが黄色く、ひときわ歌声の良いクロウタドリ(Amsel)だけはさすがに認識していたが、他の鳥はどれが何なのか、さっぱりわからない。だって、鳥ってやたらと種類がいるしねえ。

クロウタドリ(Amsel)

 

鳥に疎い私であったが、おととし休暇でパナマを訪れ、多くの美しい野鳥を見たのがきっかけで(わいるどパナマ観光)、突如、野鳥ファンになってしまった。そう、私はちょっときっかけを与えられると、どハマりするたちなのである。

ドイツにだって野鳥はたくさんいる。まずはドイツの野鳥が知りたい。そうだ、手始めに庭に来る野鳥を観察しようと決め、どのように始めたのかについては、以下の過去記事に記した通りである。

→  ドイツのネイチャーツーリズム2 自宅の周りでバードウォッチング

→  シジュウカラの育児観察記録その1 巣箱の設置 (シリーズでその10まであります)

始めてみると、これが思いのほか楽しくて、今ではすっかり趣味として定着した感がある。1年間観察し、自宅の敷地内だけでも以下の22種の野鳥を確認できた。

アオガラ(Blaumeise) シジュウカラ(Kohlmeise) エナガ (Schwanzmeise) ズキンガラス(Nebelkrähe) スズメ(Feldsperling) イエスズメ(Haussperling) ヨーロッパコマドリ(Rotkehlchen) ゴシキヒワ(Stieglitz) ゴジュウカラ(Kleiber) クロウタドリ(Amsel) カケス(Eichelhäher) モリバト(Ringeltaube) ホシムクドリ(Star) シロエリヒタキ(Halsbandschnäpper) クロジョウビタキ(Hausrotschwanz) アカゲラ(Buntspecht) クマゲラ(Schwarzspecht) キクイタダキ(Wintergoldhähnchen) カンムリガラ(Haubenmeise) ウタツグミ(Singdrossel) マガモ(Stockente) カササギ(Elster)

2023年3月7日最終追記: さらに、アオゲラ(Grünspecht) コアカゲラ(Kleinspecht) マヒワ(Erlenzeisig)ハシブトガラ(Sumpfmeise) ヒガラ(Tannenmeise) ムナフヒタキ(Grauschnäpper) マダラヒタキ(Trauerschnäpper) アオサギ(Graureiher) ズアオアトリ(Buchfink) アトリ(Bergfink) シロビタイジョウビタキ (Gartenrotschwanz) シメ(Kernbeißer) ウソ(Gimpel)がやって来た。

我が家の周囲は森と湖なので、自宅周辺も含めるともっともっと多くの野鳥がいる。森の縁を猛禽類が飛んでいたり、森からフクロウの鳴き声が聞こえて来る。渡りの季節にはガンやツルの群れが庭の上を飛んで行く。

種を特定するには、鳥を見つけたらまず写真を撮り、それを本やネットの鳥の画像と見比べて判断する。鳥は素早いのでうまく写真が撮れないことも多いし、どうにか撮れても似たような外見の鳥がたくさんいて識別はなかなか難しい。でも、だからこその面白さがある。わかる鳥が一つづつ増えていくのは楽しい。ドイツでは野鳥観察はメジャーなので、関連書籍がたくさん出ており、ネット上にも情報がたくさんある。ほとんどはドイツ語の情報だけれど、ラテン語の学名が併記されているので、そこから和名を検索することができる。

以下は、私が野鳥観察に活用している情報リスト。

野鳥関連のドイツ語情報ソースまとめ

 

書籍

ドイツには自然観察のためのガイドブックが非常に豊富にある。中でも自然科学の啓蒙本に特化したKosmos出版のフィールドガイドは定番中の定番だ。どこの書店にも置いてあるし、野鳥関連フィールドガイドも目的別、フィールド別にたくさん出ていて、重宝である。どれも見やすく、サイズ感良く、装丁も綺麗なので眺めてるだけでもワクワクする。

  • Kosmos出版の野鳥ガイド

Welcher Gartenvogel ist das? Kosmos Basic : 126 Gartenvogel einfach bestimmen (2019)

庭によく来る野鳥126種の情報を収めたフィールドガイド。ポケットサイズで片手で持ちながらパラパラ見ることができて便利。

Welcher Gartenvogel ist das? 100 Arten beobachten und erkennen

こちらも同様に庭に来る野鳥のガイドブックで、私はこれを愛用している。掲載されているのは100種と、上のポケットガイドよりも少し少ないが、画像が大きく見やすい。ドイツの庭で見られる野鳥に関する背景情報が多く載っていて、専用のアプリ、KOSMOS Plusを使えば掲載されている鳥の鳴き声を聞くことができる。

Was fliegt denn da?

ヨーロッパの野鳥540種を収めた充実のフィールドガイド。こちらも、アプリKOSMOS Plusが使える。

Der Kosmos Vogelführer Alle Arten Europas, Nordafrikas und Vorderasiens

ヨーロッパだけでは飽き足らない!という人にはこちら。アフリカ北部と西アジアの野鳥も掲載。

Vögelbeobachten in Norddeutschland

ドイツ北部のバードウォッチングスポットを集めた詳しい〜フィールドガイド。GPS位置情報付き。

Vögelbeobachten in Ostdeutschland

上のフィールドガイドのドイツ東部エリア版。

Vögel futtern, aber richtig: Das ganze Jahr füttern, schützen und sicher bestimmen

野鳥に餌をやる際に留意すべき点について解説した本。ヨーロッパでも野鳥の個体数は激減しており、保護のため、特に冬場に庭に野鳥の餌を用意することが奨励されている。でも、その種ごとに適切な餌の与え方があって、間違ったやり方をすると逆に野鳥の健康を損ねてしまうこともある。我が家でも庭に餌台を設置しているので、この本を購入した。

  • それ以外の出版社の本

Die Vogelwelt der  Nuthe-Nieplitz-Niederung

我が家からもっとも近い野鳥保護区、Nuthe-Nieplitz自然公園で見られる野鳥の本。ベルリンの南西40kmに位置するNuthe-Nieplitzでは、特に冬場は渡り鳥がたくさん見られるので、カメラを持って散歩に行くのがとても気に入っているのだ。

Vögelstimmen: Unsere Vögel und ihre Stimmen

ボタンを押すと鳥の鳴き声が聴こえる。とっても素敵な図鑑。この本のおかげで、夏場の夜に森からよく聞こえてくる鳴き声はモリフクロウ(Waldkauz)の鳴き声だということがわかった。

Zugvögel im Wattenmeer: Faszination und Verantwortung

北ドイツ、ワッデン海に見られる渡り鳥とその保護についての書籍。9月にワッデン海へ休暇に行き、野鳥の世界に魅せられて思わず購入してしまった。専門的な内容なのでさらっと読める本ではないが、時間のあるときにじっくり読みたい。

雑誌

野鳥ファン向けの雑誌もいくつか刊行されている。プロの野鳥写真家による美しい写真と共に最新の野鳥関連情報や特集記事を読めるのが良い。

Der Falke

Vögel

ウェブサイト

  • NABU

野鳥に関する情報なら、ドイツ最古の野鳥保護団体、NABUのサイトの情報が充実している。NABUは現在は自然保護活動全般に取り組んでいて、サイトには野鳥以外の情報も多い。野鳥の情報なら、例えば以下のページが参考になる。

Vögel

NABU-Vogelporträts

Beobachtungstürme in Brandenburg(ブランデンブルク州の野鳥観察塔マップ。各州の自然保護区についても同様の情報がある)

  • ドイツ・アヴィファウニスト協会 Dachverband Deutscher Avifaunisten (DDA)

ドイツ・アヴィファウニスト連盟はドイツ全国の野鳥モニタリングプロジェクトのコーディネイトを行う包括的組織。

DDAのWebサイト

DDAの野鳥データバンク、Ornitho.deでは、ドイツ国内で観察できる野鳥の情報をほぼリアルタイムで得ることができる。(ドイツ語の他、英語、フランス語のページもあり)

Ornitho.de

  • Wikipediaにある関連ページ

ドイツの野鳥リストを科ごとに分類したリスト

List der Vögel in Deutschland

ドイツ国内の野鳥保護区リスト

Vogelschutzgebiete in Deutschland

  • 羽関連のサイト

鳥の羽から種を特定するためのサイト

Vogelfedern – eine Bestimmungshilfe

鳥の羽標本が数多く登録されているデータバンク

Featherbase

博物館

ドイツ全国の自然史博物館では、その地域に生息する野鳥の展示が見られる。私がこれまでに行った中では、以下の博物館の野鳥関連展示が特に充実していた。

Altenburg: Mauritanium

Bamberg: Naturkundemuseum Bamberg(「鳥の間」が美しい!関連過去記事はこちら

Berlin: Museum für Naturkunde

Frankfurt am Main: Senckenbergmuseum

Halberstadt: Heineanum

Hannover: Landesmuseum Hannover

You Tube

You Tube上にも野鳥関連のドキュメンタリー動画などが数多くアップされている。以下は私のお気に入り動画。

Vogelkunde mit Dr. Uwe Westpha

130種の鳥の鳴き声を真似できる鳥博士、Dr. Uwe Westphal先生がすごすぎ!!

ARTE:  Zugvogel Storch

北東ドイツでよく見られる渡り鳥、シュバシコウに関するドキュメンタリー

Arte: Die fantastische Reise der Vögel

渡り鳥に関するドキュメンタリー

アプリ

NABU Vogelwelt

NABUのドイツ野鳥識別アプリ。機能はシンプルだけどその分使いやすいので、散歩中に鳥を見かけたときなど、忘れないうちにさっと調べられて便利。無料。

Merlin Bird ID

コーネル大学が開発した世界対応のすごい無料野鳥アプリ。スマホで野鳥を撮影し、どこで見かけたのかなどいくつかの質問に答えると、種を推定して教えてくれる。種ごとの分布マップを見たり、鳴き声を聴くこともできる。このアプリで調べた野鳥のデータはデータバンクに登録されるので、コーネル大学の野鳥研究に貢献できる。

BirdNET

鳴き声を録音すると、何の鳥か識別してくれるアプリ。鳥の姿が見えないけれど声がよく聞こえるときに便利。

BirdID

鳥ゲームアプリ。野鳥の画像が表示され、種を当てる。いろいろな角度から撮った画像が使われているので、実際のバードウォッチングの練習になってよい。

野鳥インフォメーションセンター

NABU Naturschutzzentren

ドイツ全国にあるNABUの自然保護センターではそれぞれの地域の野鳥の情報が得られる。リンク先のマップが便利。

SNSアカウント

SNSで野鳥関係アカウントをフォローすると、何もしなくても可愛い野鳥の写真や動画、ニュースが流れて来るので、いつの間にか野鳥の知識が増えていく。

NABUのTwitter アカウント

NABUのInstagramアカウント

Nordrhein-Westfälische OrnithologengesellschaftのTwitterアカウント

DDA(Dachverband der landesweiten regionalen ornithologischen Verbände in Deutschland)のTwitter アカウント

Landesbund für Vogelschutz e.V. のTwitterアカウント

 

e-ラーニング

Naturguckerakademie

ドイツの野生動物について本格的に学べるNABUの無料eラーニングサイト。現在(2022年3月29日)、野鳥講座、脊椎動物講座、哺乳類講座の3つがアップされている。それぞれの講座の内容を終了すると終了証明書がメールで送られて来て、ウェビナーへの参加資格が得られる。(野鳥講座を受講しましたが、とても充実していました)

 

とりあえずはこんなところ。もっと見つけたら随時追加します。

 

 

 

新型コロナウイルスが猛威を振るっており、現在、移動や旅行が楽しめる状況ではない。こんな時期には他の人の書いた旅行記をじっくり読んで、また自由に旅ができるようになったときのためにアイディアを膨らませておくのもいいかもしれない。近頃はブログやSNSで手軽に情報収集できるようになって便利だが、書籍としてまとまったかたちで旅行記や滞在記を読むのもやっぱり良いものだ。

ドイツに住むようになってから、ドイツ人の書いた旅本も読むようになった。そして、ドイツで出版され、読まれている旅本は日本で目にするものとはちょっと趣向が違うということに気づいた。私が日本でよく読んでいたのは、旅先で異文化やその土地ならではのライフスタイルに触れるという内容のものが多かったが、ドイツの書店で目につく旅本は体を張った冒険記が多い。

そして、それらの冒険記のスケールの大きいこと!!

ドイツで生活していてしばしば感じることでもあるが、ドイツ人には(ドイツ人に限らないかもしれないが)体力のある人が多い。散歩が国民的余暇で、日頃からよく歩く。アスリートでもない人が「ちょっとサイクリング」と30〜40kmの距離を自転車で移動するのもザラである。日本のメディアではよく「欧州の人はバカンスではなにもせず、ただ海辺でのんびりするだけ」と紹介されたりするが、必ずしもそうではない。山登りだサイクリングだスキーだラフティングだヨットだ、、、etc.とアクティブ休暇を楽しむ人もとても多く、そのためのインフラも整っている。

だからドイツではちょっとやそっとの旅コンテンツでは書籍化されないのだろう。とうてい真似できないスケールの個性的な冒険記が多い。著者らの体力が自分とは違いすぎて、ただただ圧倒される。でも、そんな凄すぎる旅本を読むのが私は好き。人間っていろんなことができるんだなあ、自分ももっと、体力と能力の範囲でやりたいことに挑戦してもいいんだよね?という気持ちになれるから。

そんなわけで、私がこれまでに読んだドイツ語の冒険記の中から面白かったものをいくつか紹介しよう。

 

魅惑的な野生の世界へ引き込まれる冒険本

Gesa Neitzel著 “Frühstück mit Elefanten   als Rangerin in Afrika”

タイトルは日本語にすると「ゾウと朝食を。アフリカでサファリガイドになる」って感じかな。ベルリンでテレビ制作の仕事に就いて忙しい毎日を送っていた著者はある日、「生活を変えたい」と仕事を辞め、サファリガイドになるための訓練を受けるために南アフリカへ旅立った。快適なアパートを手放し、インターネットはおろか常に危険と隣り合わせのアフリカのサバンナで野宿しながらサバイバルスキルを獲得し、自然そして野生動物に関する知識を蓄積していく。サファリガイドになるまでの訓練はとてもハードだったが、著者にとって心から満ち足りていると感じられる時間だった。

私は野生動物を見るのが好きで、これまでにコスタリカやパナマ、スリランカなどで野生動物観察ツアーに参加した。それが本当に楽しかったので、とても面白く読んだ。自分が今からサファリガイドになるのは無理だけど、いつかアフリカでも野生動物を観察してみたい。

Gesa Neitzel氏のウェブサイトはこちら

いくつになっても冒険は可能。困難なんて気にしない

Heidi Hetzer著 “Ungebremst leben: Wie ich mit 77 Jahren die Freiheit suchte und einfach losfuhr”

「ブレーキを踏まず生きる 〜 77歳で自由を求め、走り出した私」というこの本、凄まじい。車屋の娘として育った著者は子どもの頃から車が大好きだった。「女の子が車の運転なんて」と言われた時代に車を乗り回し、車修理工の資格を取って家業を継ぎ、ベルリン最大のカーディーラー経営者となる。カーレースの常連でもあった著者は歳を重ねても衰え知らず。77歳のとき、家族が止めるのも聞かずに1930年代物のハドソンに乗って一人で世界一周ドライブの旅に出る。

 

80歳近い女性が一人で世界一周ドライブというだけで凄いけれど、読んでビックリなのは、道中、車が壊れっぱなしで、旅自体を楽しむ余裕がほとんどなく、まるで「世界一周、車修理の旅」になってしまったこと。それでもめげずに旅を続けるのだから精神力が半端ではない。しかも、著者は旅の途中で癌にかかってしまうのだ。急遽ドイツに一時帰国し、手術を受けるが、すぐにまた旅を続行。えええ!? 著者は旅を無事に終えた後、残念なことに昨年、他界されたが、「ブレーキを踏まず生きる」というタイトル通りの人生を送られたのだろうなあ。

 

なぜわざわざ?ということを敢えてやることに意義がある

Markus Maria Weber著 ”Coffee to go in Togo: Ein Fahrrad, 26 Länder und jede Menge Kaffee”

「トーゴでコーヒーをテイクアウト たっぷりコーヒーを飲みながら26カ国を自転車で走る」っていうこの本もクレイジー。コンサルタントとしてバリバリ働いていた著者はある朝、いつものようにテイクアウトのコーヒーを手に電車に乗る。今やドイツの都市ではコーヒーのテイクアウトは当たり前の風景になった。忙しい朝、ゆっくり座ってコーヒーを飲んではいられない。でも、テイクアウトが一般的になって、世の中ますます忙しくなったのでは?著者ふと考えた。このコーヒーってどこから来たんだっけ?もしかしてアフリカのトーゴかな?トーゴで飲むコーヒーはどんな味なんだろう?そして、何を血迷ったか、「トーゴにコーヒーを飲みに行く!」といきなり自転車に乗ってトーゴへと出発した。自転車になんて、ほとんど乗ったこともないのに。


ドイツから目的地トーゴまでの道のりは14037km、通過した国は27カ国。著者が道中で出会った人たちの中には、単身で自転車世界一周中の女性も登場する。世界は広く、世の中にはいろんな人がいるね。私に同じことができるとは到底思わないし、したいわけでもないのだけれど、自分の知っている世界はごくごく小さいのだなあと感じた。

著者のウェブサイトはこちら

 

「フリーランスでノマド」の走り?発信しながら世界一周

Meike Winnemuth著 “Das große Los: Wie ich bei Günter Jauch eine halbe Million gewann und einfach losfuhr”

「クイズミリオネアで50万ユーロ当てて、旅に出た」。タイトルの通り、クイズ番組「クイズ・ミリオネア」のドイツ版”Wer wird Millionär”で50万ユーロの賞金を獲得した著者がそのお金で1年間、世界旅行をする話。でも、そのコンセプトが面白い。1年間、1ヶ月づつ違う国で生活するというもの。

 

旅というよりも、異文化体験年という感じ。特別ハードなことをしたわけではないのだけれど、もともと職業ジャーナリストの著者はそれぞれの国から発信しながら旅をしたのである。仕事をしながら旅をしたので、結局、50万ユーロには手をつけずに済んだというオチ付き。まあ、今で言うところのノマドなんだけれど、2011年の話なので、当時はかなり斬新なアイディアに感じられ、とても面白く読んだ。著者はこの旅以外にも常に何かしら面白い独自プロジェクトをやっている人で、1年間毎日同じ服を着るチャレンジ(注 同じワンピースを2枚持っているので洗濯は普通にする)とか、庭付きの家を借りて1年間園芸に勤しむチャレンジとか、次から次へと新しいことをする。今度は何をするのかな?と注目してしまう。

著者のウェブサイトはこちら

 

現在進行形の放浪の旅をフォローする

Christine Thürmer 著 ”Wandern, Radeln, Paddeln”

「ハイキング、サイクリング、カヤック」と、タイトルはあまり面白くないけど、最近、ネット上で偶然、著者のことを知り、気になって読んでみた。著者は現在、「世界で最も長距離歩いた人」なんだそう。今も旅の途中なので記録は日々更新されるが、今日(2020年10月23日)時点で著者Thürmer氏が歩いた総距離は47000km。かつてはバリキャリだった著者は解雇をきっかけに「別の人生も歩んでみたい」とハイキングしながら生活することを決断した。一年の大半はテントを担いで移動している。でも、決して世捨て人になったわけではないと、彼女は言う。キャリア派だったときの生活も気に入っていたが、今の生活も気に入っている。全然違う2通りの生き方をしてもいいよね?というスタンスだそうだ。Thürmer氏の冒険記はすでに3冊出版されており、これはそのうちの2冊目。ヨーロッパを徒歩と自転車とカヌーで合計12000km移動した記録だ。徒歩だけでなく自転車やカヤックも使うのは、同じ体の動きばかりすることで体の特定の部位が摩耗するのを防ぐためだという。

 

私は歩くのも自転車を漕ぐのもカヤックも好きだけれど、遊びでちょろっとやるだけで本格的な移動手段としたことはない。でも、コロナで向こう数年は宿泊を伴う旅行計画を立てるのは難しそうだから、この際、アウトドア旅行にチャレンジしようかなと考え中で、参考のために読んでみた。野宿も慣れればそれなりに快適かな?と思うものの、トイレのことを考えるとさすがに厳しいかなと躊躇するものがある。でも、SNSで著者が投稿する風景写真を見て、自由っていいなと羨ましくも思う気持ちもある。

著者のウェブサイトはこちら

 

今回紹介した冒険記5冊のうち、4冊の著者は女性である。私も女性なので女性による冒険記を読むことが多いが、男性著者の冒険記はさらに数が多いので、いろいろ読んでまた紹介することにしよう。

 

野鳥観察をするようになって約1年、どうやらすっかり趣味として定着したようである。夏の間は葉っぱに隠れて鳥達の姿がよく見えず寂しかったが、これからの季節は視界を遮るものが少なく、バードウォッチングが楽しい季節だ。ブランデンブルク州には渡り鳥の休憩地がたくさんあり、私の家の近くでも冬の間は多くの渡り鳥を見ることができるのが嬉しい。でも、だんだん欲が出て来て、少し遠出をして野鳥が見たくなった。そこで、自然の好きな友人数名を誘い、ブランデンブルク州最大の野鳥の生息地として知られる自然保護区、ギュルパー湖(Gülper See)へ鳥を見に行って来た。

 

西ハーフェルラント自然公園(Naturpark Westhavelland)内に位置するこの自然保護区はドイツで最も古い自然保護区の一つで、その大きさは776ヘクタールにも及ぶ。ベルリン中心部からは北西に100km弱。最寄りの町、ラテノウで友人達をピックアップし、車でギュルパー湖に向かった。ブランデンブルク州自然保護基金(Naturschutzfonds Brandenburg)のネイチャーガイドさんによる無料の野鳥観察ツアーに申し込んであったのだ。

 

どんな鳥が見られるかな?ツルが来ているといいねと話しながら集合場所に向かう途中、運転していた夫が道路脇の畑に視線をやり、「見て!」と言う。

「あっ!ツル!」「いる!!」ツアー開始前にすでにツルを目にして興奮する私たち。

全部で何羽くらいいたかなあ。ブランデンブルクでクロヅルを目にすることは珍しくはないのだが、ここはとても数が多い。

鶴の飛ぶ姿は本当に優雅だね。

ひとしきりツルを楽しんだら、ギュルパー湖でのバードウォッチングツアーの時間になった。湖南岸の東側にある風車の下で集合し、ネイチャーガイドさんの説明を聞きながら、3時間ほどかけて南岸の堤防を歩く。ガイドさんらはギュルパー湖自然保護区の生態系とその保護活動について、たっぷりと説明してくださった。ギュルパー湖には年間を通じて多くの野鳥が訪れるが、秋から冬にかけては様々な種類のガチョウやカモ、カモメ、そしてツルの群れを楽しむことができる。

 

ギュルパー湖は車がないとアクセスが困難だという難点があるけれど、いざ湖に到着すれば視界を遮るものがほとんどなく、最高のバードウォッチングのロケーションだ。この写真は300mmの望遠レンズで撮ったもので、バードウォッチング用の双眼鏡があるとさらによく見える。友人はこのために50倍の双眼鏡を持参していたので、覗かせてもらったら最高だった。

 

突然、一羽が鳴き声を上げたと思ったら、ハイイロガンたちが一斉に空に舞い上がった。壮観!

 

ツアー最終地点の展望台に着き、眺めた景色の美しさは言葉で言い表しがたいものだった。湖の上に広がる空はパステルカラーのグラデーションに染まり、その中を隊列を組んで移動していくガチョウ達の鳴き声が響き渡っている。

暮れていく空をただただ眺め、時間が過ぎて行った。ついに日が落ちて、暗くなったので、懐中電灯で足元を照らしつつ、車のあるところまで戻る。気がついたらすっかりお腹が空いていた。

湖の近くにはレストランもカフェもないので、風車の下に設置されたテーブルに座って保温鍋に作って持参したスープを皆で飲むことにした。あたりには街灯もないので、テーブルの上部の梁に懐中電灯を引っ掛けて、その灯りだけで食事をする。いかにもアウトドア!という感じだ。長時間外を歩いて少し体が冷えていたので、あったかいスープを飲んで温まり、友人の手作りケーキを頬張りながら、「お天気に恵まれて本当に良かったね。ツルもガチョウも夕焼けも見られて、最高だねー」と言い合った。

 

しかし、感動はここでは終わらなかった。

 

ギュルパー湖は自然保護区であると同時に星空パークにも指定されている。ドイツ中で最も夜空が暗いとされるこの一帯は、西ハーフェルラント星空パーク(Sternenpark Westhavelland)として天体観測ファンの聖地なのである。定期的に天体観測イベントなども開催され、アストロ休暇を楽しむ人たちもいるらしい。この日は雲もなく、頭の上には無数の星が瞬いている。

もっとよく星を見ようと、懐中電灯を消して空を見上げた。

「うわあ、こんな凄い星空、初めて!」「天の川が見えるよ!」

暗闇の中、草むらに寝っ転がって、しばし無言で星空を眺める。その間もあたりにはガチョウ達の鳴き声が響いている。

 

(ご一緒した小松崎拓郎さんが撮影した写真)

 

この夜、私たちが満ち足りた気持ちで帰途についたのは言うまでもない。「何もない」としばしば形容されるブランデンブルク州だけど、本当はいろんなものがある。お金もかけず、こんなに豊かな体験ができるブランデンブルクはやっぱり素晴らしい。

 

小松崎さんもnoteで体験記をアップされていますので、是非あわせてお読みください。

滞独日記「ブランデンブルクは自然の宝庫。ギュルパー湖で渡り鳥達が大合唱する風景を鑑賞」

 

追記: ご一緒した佐藤ゆきさん(@yuki_sat)の記事がアップされました。こちらも是非お読みください。

満点の星空を眺める

 

 

その地方に特徴的な建材に興味がある。古い建物の多くにはその土地で採れる木や石が使われている。建材が町並みや村の風景を作り、地方ごとに異なる味わいを生み出しているのが魅力的だ。

ベルリンやその周辺のブランデンブルク州は大部分が平地で石切場がほとんどない。こちらの記事に書いたように、古い建物は氷河によって北欧から運搬されて来た野石を積んでものか、レンガ造りが多い。レンガの建物は古くは中世から建てられていたが、教会や修道院などに限られていた。一般的な建物にもレンガが普及したのは、技士フリードリヒ・エドゥアルト・ホフマン(Friedrich Eduard Hoffmann)が考案し、1859年に特許を取得したホフマン窯(Hoffmannscher Ringofen)によってレンガの大量生産が可能になってからである。(ホフマン窯については、過去にウェルダー市グリンドウで窯を見学した際にまとめたので、興味のある方は以下の記事をお読みください。)

レンガは粘土から作られる。ベルリン周辺(つまり現在のブランデンブルク州)には粘土の産地がたくさんある。その中で最も規模が大きかったのはベルリンの北にあるツェーデニク(Zehdenick)を中心とする地域だ。19世紀後半にベルリンに多くの労働者が流れ込み市内の人口が急増したとき、大急ぎで住宅を建設する必要があった。その際に建材として使われたレンガの多くがツェーデニク産だった。ドイツ再統一後、ツェーデニクではもうレンガの生産は行われていないが、かつての工場跡地がレンガのテーマパークになっている。そのパーク、Ziegeleipark Mildenbergにブランデンブルク探検仲間のローゼンさん(@PotsdamGermany)と一緒に見学に行って来た。

うちから車で行ったのだけど、道を間違ったり、ナビに変な道に誘導されたりして、えらい時間がかかってしまった。辛抱強いローゼンさんは道中、文句の一つも言わない。延々3時間の移動後、ようやく現地に到着。で、結果から言うと、レンガパークははるばる行った甲斐のある、大変見応えあるミュージアムだった。

入り口のすぐ横にいきなり立派なホフマン窯が立っている。このテーマパークはヨーロッパ産業遺産の道(European Route of Industrial Heritage, ERIH)のアンカーポイントの一つ。その広大な敷地には4基のホフマン窯の他、粘土の処理施設や粘土の運搬に使われたレール、東ドイツ時代の設備などが残っていて、近郊で採掘された粘土が搬入され、レンガとなって隣接する港から搬出されるまでの行程や近代化の歴史を知ることができるのだ。(敷地の地図はこちら

パーク内に見どころが点在していて、どこから見始めたらいいのかわからない。入場チケット料金に列車でパークを一周するガイドツアーが含まれているので、先に全体像を捉えてから個々の展示を見るとわかりやすいと思う。

可愛い列車でパーク内を周遊。ワクワクする
ホフマン窯の内部

グリンドウのレンガ工場で見たホフマン窯は円形だったが、このパーク内のホフマン窯は全て楕円形である。窯の仕組みについては上記の過去記事に書いたのでここでは割愛しよう。

ツェーデニクを中心とするハーフェル川沿いの土壌に粘土が豊富に含まれるのは、ブランデンブルクの地形が氷河地形であることと関係がある。最終氷期(ヴァイクセル氷期)が終わったとき、溶けた氷は川となって一帯を流れた。その際に堆積した細かい粒子が深さ12mにも及ぶ粘土の層を作った。1885年から1887年にかけてこの地方に鉄道が敷かれた際、豊富に埋蔵する粘土が偶然見つかった。折しもベルリンは建設ブームの最中で、大量の建材を必要としていた。1890年にツェーデニクのミルデンベルク地区に最初のレンガ工場が建てられ、それから周辺に雨後の筍のように次々とレンガ工場ができていった。最盛期にはこの地域は63基ものホフマン窯が稼働する欧州最大のレンガ生産拠点の一つに発展した。それから東ドイツ時代を経て1990年にドイツが再統一されるまでの間、ここではノンストップでレンガが焼かれ続けたのだ。

ハーフェル川沿いのかつての港

焼きあがったレンガは隣接する港から水運でベルリンへと運ばれた。最盛期には1日に30槽もの船がレンガを載せてベルリンに向け出港した。帰りは工場稼働のための燃料となる石炭がツェーデニクへ運ばれて来た。

レンガというと、赤レンガを真っ先に思い浮かべるよね?でも、ツェーデニクのレンガはあまり赤くない。黄色から肌色、もしくはピンクがかった淡い色合いのものが多いのだ。そして、土壌の性質上、ツェーデニク産の粘土はあまり上質とはいえず、建物の外壁に使うのには適していなかった。そのため、首都ベルリンでは市庁舎など見栄えが大切な建物にはより上質な他の産地のレンガがよく使われ、ツェーデニク産のものは主に労働者用のアパートなどに利用された。上から漆喰を塗って隠してしまえば質はさほど問題にならなかったから。

バケットチェーンエキスカベーター

水分をたっぷり含んだ粘土は重く、掘り出すのも運ぶのも形成するのも大変だ。初期のレンガ生産は大部分が手作業で、ものすごい重労働だったが、次第に上記の画像のエキスカベーターなどを含むいろいろな機械が発明され、近代化されていく。

現在は草ボウボウでやや廃墟化しているけど、1839年に建設されたStackbrandtレンガ工場は当時、欧州で最も近代的な設備を備えていた。それまでは春から秋までの季節労働だったレンガ生産を通年で行うことが可能となり、生産性が飛躍的に向上した。

蒸気機関
東ドイツ時代の工場設備

第二次世界大戦後はツェーデニク周辺のレンガ工場が一つにまとめられ、人民公社となってレンガ生産が継続された。このエポックに関する展示も面白かった。

穴の空いたレンガ。穴を開けることで少ない量の粘土で焼き上がりが早く丈夫なレンガを作ることができる

パーク内の建物それぞれに展示があって、情報量が多い!5時間ほど滞在したけれど、半分くらいしか見ることができなかった。ツェーデニクのレンガ生産が多くの季節労働者によって支えられ、彼らがこの地域の社会文化の形成に重要な役割を担っていたことや、強制労働が行われていた時代もあったことなど、社会史もとても興味深い。ツェーデニクという地名は普段ほとんど耳にしないが、首都ベルリンはツェーデニクのレンガによって作られたと言っても言い過ぎではないだろう。今は過疎地が多いブランデンブルク州は「田舎」「何もない」などと小馬鹿にされることが多いんだけど、ブランデンブルクのかつての産業地を巡っていると、ベルリンの発展がいかにブランデンブルクに支えられていたかを感じるのだ。そのような視点で見るとブランデンブルクは実に面白い。

レンガパークでは展示を見るだけでなく、レンガ作り体験もでき、広ーい敷地には子どもの遊び場や小さな動物園もある。パークのすぐ外側にキャンプ場も整備されているので家族連れで訪れるのにも良さそう。でも、この日は平日だったからか、訪問者はほとんどいなくて、ほぼローゼンさんと私の貸切状態だった。入園料わずか8ユーロでなんと贅沢なんでしょう。

TERRA.vitaには自然や地質学的な見どころが多いが、それだけではなく、歴史や考古学の重要スポットもある。TERRA.vita特集の最終回の今回は考古学スポット、カルクリーゼ(Kalkrise)のVarusschlachtミュージアムを紹介したい。

前回の記事で紹介したバークハウゼンの恐竜の足跡を見に行くために車を走らせていたとき、”Varusschlacht”と書かれた看板を見かけた。私はそれが何を意味するか知らず、そのままスルーしかけたが、夫が「へー、Varusschlachtの現場ってこの辺か〜」と呟いた。「何それ?」「ほら、ゲルマン部族が一致団結してローマ軍を倒した戦いの場だよ」「ん?それって、もしかしてトイトブルク森の戦いってやつ?」「そうそう、それ!」「あれっ?でも、トイトブルクの森って、ここよりももうちょっと南じゃなかったっけ?」「それがね、戦いの現場がどこだったのか長いことわかってなくて、トイトブルクの森のデトモルトのあたりとされていたけど、わりと最近、その現場らしい場所が見つかって、トイトブルクの森とはちょっと離れていたらしいよ」

へー、そうなんだ。なんかよくわかんないけど、せっかく通りかかったから行ってみる?

Varusschlacht(日本語では「ウァールスの戦い」や「ウァルスの戦い」と表記されるようだ)の現場とされる場所は、オスナブリュックの北17kmほどに位置するブラームシェ(Bramsche)という町の一部、カルクリーゼ(Kalkrise)にある。看板を見ながら行くと、ミュージアムがあった。

 

 

 

「ウァルスの戦い」の背景を先にざっくりまとめておこう。

「ゲルマン人」という概念は2世紀にケルト人による記述によって初めて歴史に登場し、その後、古代ローマ人が使うようになり定着した。しかし実際には、ゲルマン諸部族は部族ごとに分かれて生活し、それぞれの部族名のみで自らを認識していた。当の本人達は「オレたちゲルマン人!」というような統一的なアイデンティティは持っていなかったのだ。それどころか、部族同士でたびたび衝突していたほどで、一致団結して非ゲルマン系の民族と戦うという発想は希薄であった。古代ローマ帝国はそんなゲルマン諸部族の住む地域、つまり彼らが勝手に「ゲルマニア」と呼ぶ地域を支配下に置こうと、紀元7年、プブリウス・クィンクティリウス・ウァルスをゲルマニア総督として派遣する。ゲルマニアにやって来たこのウァルス総督はわりあいと穏健派で、力づくでゲルマン諸部族を征服しようとはせず、かれらをうまく手懐けているかのようだった。特にケルスキ族の長とは親交が深く、共に食事をし酒を酌み交わすことすらあった。というのも、ケルスキ族の長の息子アルミニウスは、幼少期にローマに人質に取られ、ローマ式の教育を受けて帰って来た青年だった。帰国子女(?)なのでラテン語もペラペラで役に立つ。しかし、そんな一見、平和的な空気の裏で自由を愛するゲルマン諸部族は「ローマ人にコントロールされたくない!」「貢ぎ物ばかりさせられて、たまったもんじゃない」と不満を募らせていた。

ウァルス総督に信頼を寄せられていたアルミニウスだったが、頭はローマ人でも心はやっぱりゲルマン人であった。密かにゲルマン諸部族をまとめ、ローマ軍打倒計画を企ていたのだ。そして、紀元9年、アルミニウス率いるゲルマン軍は森の中でローマ軍を待ち伏せ攻撃し、ほぼ全滅させるという大勝利を収める。裏切られて敗北し、ショックを受けたウァルス総督は自害した。これが「ウァルスの戦い(Varusschlacht)」だ。ローマの歴史家タキトゥスはかの有名な著作「ゲルマニア」の中でこの戦いについて記述した。でも、その具体的な場所は書かなかったので、戦いの場所がどこだったのか、はっきりしたことは長いことわからなかった。きっとここだろうという候補地がなんと700箇所くらい上がっていたらしい。1987年、英国人のアマチュア考古学者がカルクリーゼで古代ローマの銀貨と武器を発見。それをきっかけにカルクリーゼにおける考古学発掘プロジェクトが開始した。

それでは博物館を見ていこう。

博物館の展示はローマ人とゲルマン人の社会や文化の違いの説明から始まっている。ローマ社会は周知の通り、ヒエラルキーが明確である。それに対し、

ゲルマン人は部族ごとに暮らし、統一的な王や皇帝はいない。部族によっては貴族階級的な集団がいたり、明確なリーダーがいる場合もあったが、多くの部族については詳しいことはわかっていないらしい。タキトゥスによると、ゲルマン部族にはお役人は存在せず、何かあれば新月の夜にディング(Thing)と呼ばれる会議を開いてみんなでどうするかを決めていたそうだ。でも、ゲルマン人に関して残っている当時の記述はほぼすべてローマ人目線のものなので、本当に書かれている通りだったのかはわからない。

ゲルマン人はローマ人のように整備された都市を作らず、小さな集落を作って暮らしていた。画像のような長屋を人間と家畜のスペースに区切って、一つ屋根の下で生活するのが一般的だった。

このように立派なローマ兵士の武装具と比べ、

ゲルマン戦士の装具はミニマル。ゲルマン人は組織化された軍隊を持たず、戦いへの参加は各自の自由意志に委ねていた。

 

カルクリーゼでは17世紀から、しばしばローマの金貨が見つかっていた。1885年に歴史家 Theodor Mommsenの依頼を受けた鑑定家 Julius Menadierが、それらの金貨はウァルスの戦いの際に兵士らが失ったものであると結論づけたが、そのときには兵器は発見されず、決定的な証拠にはならなかった。1987年にTony Clunnが大量の銀貨を発見したことで、ここがウァルスの戦いの現場であった可能性が急激に高まったのである。

また、その翌年にはローマの鉛弾とみられる小さな楕円形の物体が発見される。

そして、1990年、カルクリーゼの森に幅およそ15m、高さおよそ40cmの土塁の跡が見つかった。

その後の発掘調査で出てきたものの中で特に注目を浴びたのが、このローマ騎兵の鉄のマスクである。また、動物の骨も多く見つかり、その中にラバの骨も混じっていた。ラバは雄のロバと雌の馬を交雑種である。ゲルマン人はロバを飼っていなかったので、ラバが生まれたはずはなく、ローマ人が連れて来たと考えられる。

このように、カルクリーゼでローマ軍とゲルマン軍が衝突した証拠がいろいろ出て来たことはわかったけど、組織化された軍隊の優れた装具と武器を身につけたローマ兵士達がそれとは比べ物にならないほど原始的なゲルマン軍にあっさりと破れたのはどうしてだろう?

それは、カルクリーゼの地形にあった。カルクリーゼの周辺一帯は沼地で、地盤が柔らかく歩くのがめっちゃ大変。しかも、アルミニウスがローマ軍をおびき寄せた日は嵐で視界も悪かった。ゲルマン軍は小高い砂地の丘の縁に土塁を築き、その後ろに隠れて上から一斉に槍を投げてローマの兵士らを次々と倒したのだった。戦いは3日間続き、2万人もの犠牲者を出した。

一通り展示を見た後、ガイドさんについてフィールドを歩く。背後に見える森はゲルマン軍が隠れていたとされる場所。手前の四角い石はローマ軍が行進した道を示している。

この土塁の後ろにゲルマン軍が

 

ところで、アルミニウスという名前はゲルマン系の名前ではない。彼はローマに人質に取られていたためアルミニウスというローマ名を与えられたが、もともとはなんという名前だったのか、誰も知らない。ドイツの歴史において、アルミニウスに対する評価は時代とともに変化した。ドイツ民族の誇りとして英雄視された時期もある。その際に、ドイツ人の英雄の名前がローマ名ってどうなのよ、ということで、ヘルマン(Hermann「戦士」の意味)と呼ばれるようになった(現在はまたアルミニウスという呼び方が一般的)。普仏戦争後のドイツのナショナリズムの高まりの中では不屈のシンボルとして特に崇められ、1875年には当時、ウァルスの戦いの現場と推測されていたデトモルト(Detmold)に高さ54mに及ぶヘルマン像が建てられている。

 

カルクリーゼの発掘調査は今も続行中だ。この日は休日だったので、考古学者らもお休みで、現場は防水シートで覆われていた。ガイドさんが「最近、またすごいものが見つかったんですよ。9月25日にプレスリリースがあるので期待してくださいね」と言っていたので楽しみにしていた。

昨日発表されたプレスリリースによると、2018年に出土された大きな金属の物体を分析したところ、ローマ兵の鎧であることが判明したそうだ。ほぼ完全に保存されており、しかも、それを身につけていた兵士は手錠で両手を首のあたりに固定されていたこともわかった。これについてもまとめると長くなり過ぎるので、またの機会にしよう。興味のある方はこちら(英語ページもあり)を参照してください。前述のようにこのあたりの土壌は水分が多いので発掘調査はかなり大変らしい。まだまだ多くのものが埋まっていると推測されるそうで、今後の進展が楽しみだ。

これにてUNESCOグローバルジオパークTERRA.vitaの3つのスポット紹介を終わります。ジオパークには他にもたくさんの見どころがあるので、また行きたいな。

前回に引き続き、オスナブリュックを中心に広がるUNESCOグローバルジオパーク、TERRA.vita内の見どころを紹介しよう。今回のスポットはバークハウゼン(Barkhausen)というところにある恐竜の足跡が残る岩壁だ。

恐竜の足跡を見るのは実は初めてではない。これまでにフランクフルトのゼンケンベルク自然博物館ゲッティンゲン大学地学研究所博物館で恐竜の足跡のついた石板を目にして感動した。でも、今回訪れるバークハウゼンでは博物館の中ではなく、それが発見された場所で直に見ることができるというのだから、さらにエキサイティング。

 

バークハウゼンという地名の場所は複数あるので、間違わないよう注意が必要だ。目当ての場所はバート・エッセン(Bad Essen)という保養地の近郊にある。手入れの行き届いた木組みの家がたくさん残る、とても可愛い町だった。

泊まったのは古い薬局を改装したホテル。このホテルがとてもよかったな。中はセンス良く改装され快適で、客室の洗面台に置かれた歯磨き用コップがビーカーだったりとディテールも楽しめた。かなりおすすめ。

ホテルのレセプション

ここに1泊して、翌朝、バークハウゼンに向かった。

 

森沿いの道路脇に小さな看板が出ていて、森の小道を入って数分歩くだけ。

恐竜のモデルがお出迎えしてくれる。

看板の説明によると、これはカマラサウルスという草食の竜脚類である。長い首で木の高いところにある葉を食べ、その際に長い尾で体を支えていた。竜脚類の中では小柄な種だそうだ。体はずいぶんカラフルな色と模様に塗られているけれど、実際にどんな色をしていたのかはわかっていないはずだから、想像によるものだろう。

その先に進むとまもなく恐竜の足跡の残る岩肌が見えて来る。

屋根がついている

うわあ〜、迫力!巨大な足跡がはっきりくっきりとついている。そして、よく見ると2種類の違う生き物の足跡であることがわかる。

1種類は丸くて、ゾウの足跡に似ている。

もう1種類は三つ指。かなり地面にめり込んでいる。

天井が設置されている部分だけでなく、その横の岩にもたくさん足跡があった。研究者らの分析の結果、この岩の上を少なくとも11匹の恐竜が歩いたことが判明しているそうだ。そのうちの9匹は「バークハウゼンで発見されたゾウのような足をもつ恐竜」ということで、Elephantopoides barkhausenensisと名付けられた。竜脚類に属する草食の恐竜で、この岩面の上から下に向かって群れで移動したとみられる。足跡のいくつかは小さいく、子どもの恐竜も混じっていたことを示唆している。残る2匹は二本足歩行の肉食恐竜、Megalosauropus teutonicus(「ドイツのメガロサウルス」の意味)で、そのうち1匹は下から上へ、もう1匹は左から右に向かって移動した。

振り返ると背後にいたメガロサウルスのモデル

といっても、恐竜たちが斜面をダダダと走り降りたり、駆け登ったり、カニのように横歩きをしたわけではない。現在、ここはWihengebirgeという名の山だけれど、約1億5300万年前は平らな砂浜だったのだ。恐竜たちが砂浜につけた足跡は高温な気候のもとで乾き切り、その上に堆積物が積もって幾層もの地層となった。そして彼らの足跡は地中深くに埋もれ見えなくなった。

それがなぜ今、こうして岩の壁となって私の目の前にはだかっているのか?それは、かつて海岸だったこの地が後の白亜紀に隆起して山になったからである。そのとき、恐竜たちの足跡が保存された地層も一緒に押し上げられた。20世紀になって、このあたりでは石が切り出されるようになった。そして、1921年、ある一人の地質学者がむき出しになった地層に恐竜の足跡を発見したのだった。学術的に記述されたのは1974年になってからで、1982年からは天然記念物として保護されている。

これはかなり見応えがある。わざわざ見に来てよかった!でも、実はドイツの結構あちこちで大型古生物の足跡が発見されているんだよね。たとえば、過去記事に書いたように、フランケン地方でもいろいろな足跡化石が見られる。

 

https://chikatravel.com/2019/06/11/dinosaur-tracks/

 

上記以外の足跡化石の見られる場所は自作の「ドイツ恐竜関連スポットマップ」に登録してあるので、近くへ行く用があったらついでに見に行きたい。

 

 

 

これから3回に分けてニーダーザクセン州オスナブリュック近郊の自然公園、TERRA.vitaの見どころを紹介しようと思う。正確にはTERRA.vita Natur- und Geopark(テラヴィタ自然・地質学公園)という名称で、オスナブリュック市を中心に北西から南東に斜めに広がる約1550㎢の大きな自然公園だ。6つのエリアを包括し、見どころがたくさんあるが、特に地質学的に面白い場所が多いようでUNESCOグローバルジオパークに登録されている。

公園内の3つのスポットを訪れた。今回紹介するのはオスナブリュック市郊外にあるピースベルク(Piesberg)という山とオスナブリュック産業博物館だ。なぜピースベルクへ行こうと思ったのかというと、石炭紀の化石が拾いたかったから。当ブログで何度も書いているように、私と夫は最近、化石収集にハマっていて、ドイツ国内のあちこちの地層から出る化石を集めている。これまでにデボン紀から古第三紀までの地質時代の化石を拾ったが、石炭紀のものはまだ持っていなかった。オスナブリュックのあたりは約3億年前、つまり石炭紀には海岸沿いの湿地帯だった。やがてその一帯の植物は枯れて地中に堆積し、石炭となった。だから、ピースベルクからは石炭紀の植物化石が出る。以前、訪れたエッセン市のルール博物館であまりに見事な石炭紀の植物化石の標本を目にして以来、石炭紀の化石は私にとって憧れである。

ピースベルクへの山道を車で登るとオスナブリュック産業文化博物館というのがあったので、入ってみた。

 

 

博物館の建物はかつての炭鉱の建物で、パッと見たところ建材は私の住むブランデンブルク州では見かけないものだ。色や質感から推測するに、砂岩のようだ。後で知ったところによると、ピースベルクでは石炭だけでなくピースベルク砂岩という砂岩も採掘されて来たらしい。

博物館の中には過去150年ほどのオスナブリュックとその周辺地域の産業に関連する展示品が並べられている。蒸気機関のような大型機械から家電、工具、工場の設計図などいろいろなものがあって楽しめる。

建物の内壁には漆喰が塗ってあるのだけど、展示の一要素としてなのか、中の建材がむき出しになっている壁があった。立派な外観の建物なので、中のブロックは整然と積まれているのだろうとなんとなく想像していたけど、いろんな種類と大きさの石材が結構無造作に積んであって意外だ。こういうものなんだろうか?

炭鉱に関する展示にはかなりのスペースが割かれていて、炭鉱で見つかった植物化石の標本もあった。そうそう、こういうのが好きなんだよね。

博物館の展示スペースはかなりの広さだが、この博物館の目玉はかつての坑道内を歩けること。

こういう地下道、大好き!

この坑道はよく整備されてそれほど暗くもなく、今までに入ったことのある坑道と比べて特にスリリングというわけではないかなあ。でも、長さは30メートルもあって、その点では歩きがいがある。

興味深く思ったのは坑道内にあったこの図で、石炭の層は山の斜面に沿って何層もあり、ところどころ断層ができていることがわかった。私が歩いている坑道は一番上の石炭の層から採掘した石炭を地上に運び出すための水平のトンネルというわけね。

 

博物館の敷地はかなり広く、他にもいろいろ見どころがある。でも、ここでは省略して、いよいよ炭鉱跡へ行ってみよう。

 

道路を渡って山を登り出すと、石炭を運ぶトロッコ列車のレールが延びている。レール沿いに山を登って行く。

うわ、面白い風景!

石炭の層が見えるー!さっきの図で見た通り、層が斜めになってるね。

しばらく登っていくと傾斜が急になり、長い階段があった。「地質時代の階段にようこそ」と書かれていて、それぞれの地質時代に典型的な生き物が描かれている。階段はそれぞれの地質時代の長さに応じた段数で色分けされていて、階段を上がりながら地球の歴史を体感できるというコンセプトのようだ。でも、急な階段なので普通に登るだけで結構疲れて、「おっ、今は石炭紀を進んでいるな」とか感慨に浸ってもいられなかったけど、、、、。

階段を登り切ると、そこには大きな風車が立っていて、そのふもとには「化石集め場」が設けられていた。児童公園の砂場のような感じで、一瞬がっかり。ここじゃたいした化石は見つけられないなあ〜。

山の裏側を見下ろすと、大きな石切場が見えた。現在も砂岩の採掘が行われている石切場で、一般人は許可なく入ることはできない。夫は「ああ〜、あそこに絶対いい化石があるはずなのに!」と悔しがっている。実を言うと、この石切場での化石エクスカーションに参加する予定があったのだ。コロナを理由にエクスカーションがキャンセルになってしまったので、せめてその周辺で化石が拾えないかと考えてここまで来たのであった。

まあ、悔しがったところでしかたがないと気を取り直して、地面に撒かれた石の中を見てみる。すると、子どもだましの体験コーナーだとバカにした石捨て場は植物化石だらけ。侮れないのである。石切場から定期的に新しい石を運んで来るんだろうね。そこそこ大きいものもあるし、悪くない。でも、小さい子どもが熱心に化石集めをしている中で大の大人が大量に持って帰るわけにはいかないから、小さいものを少しだけにしておこう。

石炭の地層を見て触れて、化石も拾えるジオパーク。この日は動いていなかったが、通常はレールを走るトロッコ列車に乗ることもできるそうだ。オスナブリュックの市内からも遠くなく、家族連れにもぴったりの観光スポットだ。

 

 

夏もそろそろ終わり。寒くなる前にと、遅めの夏休暇に出かけて来た。行き先はかねてから行きたかったワッデン海(Wattenmeer) 。

ワッデン海はデンマークのスカリンゲン(Skallingen) からオランダのデン・ヘルダー(Den Herder)まで続く北海沿岸地域で、世界最大の干潟が広がっている。そのほぼ全域が自然保護区で、UNESCO世界自然遺産に登録されている。大部分の地域がドイツに属しており、3つの国立公園(ニーダーザクセン・ワッデン海国立公園、シュレスヴィヒ=ホルシュタイン・ワッデン海国立公園、ハンブルク・ワッデン海国立公園)から成る。今回はそのうちのニーダーザクセン・ワッデン海国立公園)を訪れることにした。

だいたい赤で囲んだあたり。超正確ではありません。

といっても、ニーダーザクセン・ワッデン海国立公園も広い。どこへ行けば干潟をもっともよく味わえるのだろうか。国立公園のウェブサイトやガイドブックを見てもいまひとつ摑みどころがなく、わからない。それに、北ドイツは天気が変わりやすく、せっかく海辺に宿を予約して行っても、天候次第ではあまり楽しめないかもしれない。そんな懸念から、とりあえずオランダとの国境に近いレーア(Leer)という町へ行き、そこからルートを考えることにした。

レーアはオストフリースラント(Ostfiresland)と呼ばれる地方の玄関口となる町で、人口は約3万4000人とこじんまりしているが、旧市街の美しい魅力的な町ですぐに気に入った。オストフリースラント地方は固有の言語と独自の文化を持ち、日常的に紅茶を飲む習慣があることで知られている。オストフリースラント紅茶の3大ブランドの一つ、Bünting社の本社はこのレーアにある。

オストフリースラント地方の人々はドイツの他の地域の人たちの10倍以上の量の紅茶を飲むそうだ。「オストフリーゼンテー」と呼ばれるこの地方オリジナルの紅茶はアッサム茶のブレンドで香り高く、普段は紅茶をあまり飲まない私もとりこになってガブ飲みしてしまった。紅茶文化が伝統として根付いているこの地方には特有の紅茶の作法がある。クルンチェ(Kluntje)と呼ばれる大きめの氷砂糖をカップに入れて熱い濃いめの紅茶を注ぎ、少量の生クリームをスプーンでそっとカップの縁に沿って入れ、かき混ぜずに頂くのがオストフリースラント式だそうだ。レーアには紅茶博物館、Bünting Teemuseumもある。オストフリースラントの紅茶文化やその他の生活文化についてじっくりと知りたいものだが、今回は文化にほとんど興味のない夫と一緒。滞在日数が限られているので、文化探索は別の機会に譲ることにしよう。

さて、このレーアを起点にDollart湾に出て、海沿いを北に向かってゆるゆるとドライブしながら観光した。赤レンガの建物の並ぶ小さな町や村、歴史的な粉挽き風車と発電のための近代的な風力パーク、大小の灯台、どこまでも広がる湿地帯と草を食む羊達。広々とした風景を見ながら移動するのは楽しい。そのままNordenという町まで行ってオストフリースラント諸島の島のどれかへ渡ろうと考えたのだけれど、天気が怪しくなって来た。また、コロナ禍がまだ収束していないため、島内のガイドツアーなどにも制限があるようだ。せっかく行くならツアーにも参加できて目一杯楽しめるときの方がいいかなと思い、今回は島は断念することにした。西へ移動し、ヴィルヘルムスハーフェン郊外のダンガスト(Dangast)という保養地に宿を取った。

ダンガストの港

Jadebusen湾に面したこのダンガストは古くからある保養地で、なかなか素敵な場所だった。Jadebusen湾の真ん中にはアンガスト灯台が立っていて、天気が良ければ海岸からその姿を眺めることができる。

うーん、曇り空で300mmの望遠レンズだとこれが精一杯、、、。

すっかり前置きが長くなった。この記事で書きたいのは野鳥についてだった。最近、バードウォッチングが新たな趣味となった私なので、ワッデン海で野鳥を見るのを楽しみにしていたのだ。ワッデン海の生物多様性は極めて高い。アザラシがたくさん棲息することでもよく知られているが、世界的な渡り鳥の拠点としても有名である。9月の初めなのでまだ渡り鳥のハイシーズンではない。だからあまり見られないかなと思ったけれど、鳥はいたるところにいた。

どこもかしこも群鳥だらけ。普段からこれだったら、ハイシーズンは一体どんだけすごいんだろ。

干潟はどこでも同じような感じかと思ったら、砂の干潟(Sandwatt)と泥の干潟(Schlickwatt)があることがわかった。Dollart湾やJadebusen湾には泥がたくさん堆積している。干潮時にダンガストの海岸を歩いてみた。

ズブズブと埋まってしまうので、転ばないように歩くのはちょっと大変だ。干潟を歩くのは当然ながら干潮時にしかできない。天気がころころと変わり、いざ歩こうと思ったタイミングで空が曇ってしまって残念だった。

こちらはその翌日に行った北東部のKooksielの海岸。砂の干潟で、足が泥に埋まることなく、わりと普通に遠くまで歩くことができる。このときは晴れていた!

天気が良いと美しい様々な砂紋が楽しめる。

ワッデン海の干潟はどのようにしてでき、どう変化していったのか。Marschlandと呼ばれる海沿いの湿地にはどんな特徴があるのか。ワッデン海にはどんな生き物が生息し、人々はどんんな暮らしをして来たのか。オストフリースラントとワッデン海の自然について、もっと知りたくなった。4泊5日の滞在では短かすぎる。オストフリースラント諸島も一つ一つ違う特徴があるようだ。

次回はたっぷりと時間を取って島にも滞在したい。北海は夏でも泳ぐには水が冷たいけれど、南欧の海辺の休暇とはまた違った感動があるね。近々また来られるといいなあ。

7月に友人のライター、久保田由希さんとの共著で「ベルリン・ブランデンブルク探検隊 給水塔」を出版しましたが、幸いにも多くの方が興味を持ってくださり、久保田さんが日本へ持ち帰った分は数日で売り切れ、ドイツ国内の在庫も残りごくわずかとなりました。ご購入くださった皆様、ありがとうございます。心よりお礼を申し上げます。

極めてマイナーな内容ということで限定部数しか印刷していませんでしたが、電子版が完成しましたのでお知らせいたします。紙の本同様に電子版もベルリン在住のデザイナー、守屋亜衣(@ai_moliya)さんが担当してくださいました。

紙の本に収録した内容(全48ページ)に、電子版ボーナスページ4ページを加筆しました。価格は980円。私のオンラインショップ「まにあっくドイツショップ」からご購入頂けます。1回のご購入でpdfとePubの両方をダウンロード頂けます。

そして、これまでに「給水塔」をご購入くださった方、これからご購入くださる方全員にプレゼントがあります!!

プレゼント1

紙版・電子版をご購入のみなさまに、私がGoogle My Mapsで作成した「ドイツ全国の主な給水塔マップ」をシェア致します。ベルリンやブランデンブルク州以外の州にも給水塔がたくさんありますので、ドイツの他の地域にご旅行される方、または滞在中の方にご利用頂けると嬉しいです。

プレゼント2

すでに紙版をご購入くださったみなさまに、電子版ボーナスページのpdfを差し上げます。ご注文頂いた際にお知らせくださったメールアドレスまたはSNSのメッセンジャー経由でこちらからご連絡致しますのでお待ちください。

そもそもこの本を作ることになったきっかけは、2018年に私のポッドキャスト「まにあっくドイツ観光裏話」の中の「まにあっくカフェ」に久保田由希さんをゲストとしてお招きし、久保田さんが好きな塔の魅力についてたっぷりと語ってもらったことでした。

まにあっくカフェ 3 塔について語ろう

まにあっくカフェは、いろんな人からその人の好きなことについてお聞きすることで視野を広げたいという趣旨でやって来たものですが、久保田さんからこのときお話をじっくり伺うまでは私は塔にそれほど大きな関心を持っていませんでした。その一年半後に久保田さんと一緒に給水塔の本を作ることになるとは、思いもしませんでした。なんだか不思議ですが、まにあっくカフェという企画をやってよかったなとしみじみ思います。

そこで、今回、電子版を発売するにあたり、久保田さんとのまにあっくカフェの第二弾を収録しました。

まにあっくカフェ 9 「ベルリン・ブランデンブルク探検隊 給水塔」電子版発売記念トーク

よろしければ3と9、合わせてお聞きください。

久保田さんのブログの関連記事はこちらです。

2018年から始めたドイツ国内での化石収集アクティビティも回数を重ね、少しづつ慣れて来た。今のところはまだ特定の地質時代や特定の種類の化石を集めているわけではなく、面白そうなエクスカーションに手当たり次第申し込んでいる段階だ。

初回のゾルンホーフェンエクスカーションから始まり、アイフェル地方フンスリュック山地ハノーファー近郊フランケン地方などを回っていろいろな化石収集を体験して来たが、今回の目的地はホルツマーデンである。これまでに何度も利用しているエクスカーション提供団体、GeoInfortainmentを通じて申し込んだ。2019年2月にホルツマーデンの化石博物館、Urwelt-Museum Hauffを訪れて、その素晴らしさに感動して以来、是非ともホルツマーデンのポシドニア頁岩と呼ばれる地層の化石を収集をしてみたいなあと思っていたのだ。

 

https://chikatravel.com/2019/02/25/urwelt-museum-hauff/

 

さて、一般の人が化石収集のできる石切場、Steinbruchは正確には博物館のあるホルツマーデンではなく、その隣のオームデン(Ohmden)という地域にある。

 

石切場風景

 

ポシドニア頁岩(Posidonienschiefer)は約1億8300万年前〜1億7500万年前、ジュラ紀前期のトアルシアン期に水中に泥が水平に板状に堆積してできた岩石で、化石が多く含まれることで知られる。ポジドニア頁岩の「ポシドニア 」はこの地層によく見られる貝の化石、Posidonia bronniが由来で、貝の他にイクチオサウルスや魚、ワニ、ウミユリなどの化石が多く見つかっている。上の記事に書いたように、ホルツマーデンの化石博物館には世界的に有名な大型標本が多数展示されている。でも、大部分の大型化石は粉々に割れていて、良い状態で取り出せすのは極めて難しいのだそうだ。アマチュアのエクスカーションではアンモナイトや貝などの小さいものを収集する。

 

 

瀝青を含むポシドニア頁岩は黒っぽい色をしていて、層に沿って剥離する性質を持っている。すでに剥がれてそこら中に散乱している破片に化石が含まれているので私はそれを拾って歩いたが、夫は「自分で剥がした岩の中にフレッシュな化石(?)を見つけたい」と意欲満々である。

 

板状の岩の塊を一枚一枚剥がしていく。

 

頁岩は有機物を多く含むので、蓋を開けるようにゆっくり開くと、中からかすかに硫黄臭がする。そして、中にはアンモナイトや貝の化石が入っている。この地層から出る化石の特徴は潰れてぺしゃんこになっていることで、まるで紙のように薄っぺらいので、壊さないように化石を取り出すのは難しい。

 

アンモナイト化石の表面には泥中で腐敗する際に発生した硫化水素が鉄と反応してできた黄鉄鉱の膜ができて金色に輝いている。とても綺麗。でも、触るとすぐに剥がれてしまう。

 

アンモナイトばっかりだけど、たっくさん採って来た。さて、これらをどうしよう?

 

小さいアンモナイトや貝の跡がびっしりついた岩片。

 

金色の光沢がいい感じ

 

石切場にはエクスカーションの参加者の他にも家族連れが結構来ていた。おじいちゃんと一緒に来ていた10歳くらいの男の子がとっても楽しそうだった。

 

なぜか石切場に何度もアイス屋の車が来て、みんな汚い手でアイスを食べていた。

 

ところでこのエクスカーションは予定では二日間のエクスカーションで、1日目がこのホルツマーデン、2日目はシュヴェービッシェ・アルプ地方のモラッセと呼ばれる古第三紀の地層の砂をふるいでふるってサメの歯化石を取り出すことになっていた。そちらも楽しみにしていて、わざわざそれ用のふるいを買って持って行ったんだけど、あいにく2日目は雨で、砂が濡れて全然ふるいが役に立たなかった。

サメの歯化石が出ることで有名なモラッセ地層

残念だけど、サメの歯はまた今度!

 

ライターの久保田由希さんと私とで結成した「ブランデンブルク探検隊」、これまで隊員は私たち二人だけだったけれど、ツイッターで隊員を募集したところ、嬉しいことに何人かの人達が名乗りを上げてくれた。先日、その中の一人、ローゼンさんから「これからポツダムのアルベルト・アインシュタイン学術研究パークに散歩に行くけど、一緒にどう?」と探検活動への誘いの電話がかかって来た。何を隠そう、ローゼン新隊員はポツダムの公式観光ガイドの資格を持ち、ポツダムに関する知識なら右に出る者はいないエキスパートである。探検隊にとって超強力な新メンバーだ。そのローゼン隊員にポツダム散策に誘われたら、そりゃ行かないわけがない。

というわけで、久しぶりにアルベルト・アインシュタイン学術研究パーク(Wissenschaftspark Albert Einstein)へ行って来た。研究パークはポツダム中央駅から緩やかな丘を登ったところにある。テレグラーフェンベルクと呼ばれるこの丘には19世紀後半、その小高い立地を利用して王立の天文学や気象学の研究施設が造られた。1879年には世界初の天体物理観測所、Astrophysikalisches Observatoriumが完成。また、1920年代には建築士エーリヒ・メンデルゾーンによって設計されたアインシュタイン塔(Einsteinturm)があることでも知られる。

 

 

 

パークの守衛さんにもらった写真入り地図。敷地内には歴史的な建造物の他にヘルムホルツ・ドイツ地球科学研究センター、アルフレート・ヴェーゲナー極地・海洋研究所、ドイツ地質学研究センター、ポツダム気候影響研究所など多くの研究所の建物がある

 

パークの中心地にある、3つのドームがシンボルの旧王立天文物理観測所の建物は残念ながら工事中だった。この建物は1881年にこの建物の地下室で初めての干渉測定実験をした物理学者アルバート・マイケルソンにちなんでマイケルソンハウスと呼ばれている。

マイケルソンハウスの北側には北塔(Nordturm)と呼ばれる塔が立っている。見て、ピンと来た。ハハーン、これは給水塔だね?たまたまドアが開いていたので中に足を踏み入れると研究所の人がいた。この塔は給水塔ですか?とローゼン隊員が聞くと、研究所の人は「いや、違います。ただの塔です」と言う。ただの塔って何?「塔を建てたからには目的があったはずですよね?」とツッコむローゼン隊員。私も「今は給水塔でなくてもかつては給水塔だったのでは?」と言ってみたが、「いやいや、給水塔なんてここにはないですよ」と言う返事。

うーん、、、。でもさ、こんな大きな研究施設に給水設備が備わっていなかったわけないよねえ?絶対どっかにあったはず。首を傾げながら守衛さんにもらった説明パンフレットに目をやると、「北塔はかつて給水塔だった」とちゃんと書かれているではないか。やっぱりね!

 

こちらの建物は屈折望遠鏡(Großer Refraktor)。マイケルソンハウスと同じ黄色い高温焼成レンガが美しい。1899年にここに設置された屈折望遠鏡の口径は80cmで、当時は世界最大を誇った。

 

たくさん建物があって全部は紹介しきれないので、私の好きなものを優先で紹介しよう。

 

見よ、この素晴らしい建物を。これはポツダム気候影響研究所の建物で、木の板を貼ったファサードが素敵。正面からではわからないけど、この建物は上から見るとクローバーの葉のような形をしているそうだ。エネルギー効率に優れたエコな建物で、すぐ横には電気自動車用の充電ステーションがある。

 

 

そして、この研究パークの目玉はなんといってもアインシュタイン塔!

この建物は、太陽の重力場では光の波長が長波長側にずれるという、アインシュタインの相対性理論において予測された赤方偏移という現象を実証実験するために建てられたものだ。ところが、ここでの実験はうまくいかなかったという。実験では赤方偏移と同時に青方偏移という短波長側へのズレも同規模で起こり、互いの効果が打ち消しあってしまうので、赤方偏移を実証することができなかった。

正面から見たアインシュタイン塔

案内パンフレットによると、曲線を多用した躍動感あるアインシュタイン塔の外観は、音楽に造詣が深かった設計者メンデルゾーンがバッハの音楽から着想を得て実現したという。

入り口のガラス越しに見えるアインシュタインの顔像
ドイツ地質学研究センター内に置かれたアインシュタイン塔のモデル

プロイセン科学アカデミーの会員となってベルリンで教鞭を取っていたアインシュタインは1930年にこの研究パークから5kmほど離れたカプート村に別荘を建て、そこで夏を過ごした。カプート村は私が住んでいる村なので、ローゼン隊員に「今日、チカさんはアインシュタインと同じルートでここに来たんじゃない?」と言われて、あっ、確かに!とちょっと感動。しかし、周知のようにアインシュタインは別荘建設からわずか2年後の1932年に米国を訪問したまま、ドイツには戻らなかった。そしてアインシュタイン塔を設計したメンデルゾーンもまた、1933年に英国を経てパレスチナへ移住し、最終的には米国に渡っている。

 

ところで、アインシュタイン塔の前の地面には、ヒトの脳をかたどったブロンズ製のオブジェが埋め込まれている。実際のヒトの脳よりもずっと小さいので、真剣に探さないと見過ごしてしまうのだが。このオブジェは3sec-Bronzehirn (3秒のブロンズの脳)と呼ばれていて、心理学者エルンスト・ペッペルの意識理論からインスピレーションを得たベルリンのアーチスト、フォルカー・メルツが作成したものだという。それはどんな理論なんだろうとちょっと検索してみたところ、私たち人間が感じている時間の連続性というのはたぶん錯覚に過ぎない、という理論らしい。人間の意識は実はわずか3秒しか持たず、その3秒づつの内容をつなぎ合わせることであたかもそれらが連続しているように感じるだけ、だとか。詳しく調べていないので誤解があるかもしれないが、どうもそんな理論らしい。

でも、その理論がアインシュタイン塔となんの関係があるんだろう?そういえば、さらにこの脳のオブジェから着想を得て書かれた推理小説というものも存在する。”Kellers Gehirne Ein Telegrafenbergkrimi“と題されるポツダムのご当地推理小説で、実は以前なんとなく気になって買ってうちの本棚にあるのだけど、まだ読んでいない。読まないと。

それにしても、建築家メンデルゾーンがバッハの音楽を聴いてインスピレーションを得、アインシュタインの相対性理論実証のための塔を建て、それとどういう繋がりなのか知らないが、心理学者の理論からインスピレーションを受けたアーチストが脳オブジェを作り、その脳オブジェから着想を得た作家が推理小説を作り、、、、。様々な異なる脳をした人たちの間でアイディアがリレーのバトンのように受け継がれ、世界が形作られていく。そして、私がその壮大なリレーに想いを馳せながらこうして駄文を書いてブログにアップし、それをまたどこかの奇特な方が読んで、もしかしたらちょっと刺激を受けて新しい何かを生み出す可能性だって全くないとはいえない。ああ、世界のなんと不思議で素晴らしいことよ。アイディアが泉のように湧き出し絡み合う研究パークの豊かさよ。

はっ!どうやら妄想ワールドに入りかけているようだ。暑さのせいかもしれない。

 

パーク内には素敵なカフェもある。カフェのテラスでコーヒーフロートでも飲んで涼を取ろう。

 

ポツダムのアインシュタイン学術研究パークは静かな森の中にあり、規模も散策にちょうど良い。建物を眺めるだけでも楽しいし、パンフレットや立て看板の説明を読めば知的刺激をたっぷりと得ることができる贅沢極まりない空間だ。

 

久しぶりに化石収集に行って来た。今回もこれまでにも何度か参加しているGeoInfortainmentを通じてこちらの日帰りエクスカーションに申し込んだ。今回の目的地は、ジュラ紀の化石が豊富に出ることで知られるドイツ中南部フランケン地方のグレーフェンベルク(Gräfenberg)だ。

バイロイトの南西50kmちょっと、ニュルンベルクの北東30kmちょっとの地点

グレーフェンベルク一帯は、中生代ジュラ紀(今から約1億9960万年前〜約1億4550万年前)には浅い海だった。その頃の気候は暖かく、空気中の酸素と二酸化炭素の濃度は現在の1.3倍から5倍もあったそうだ。そして位置的には現在よりもずっと南の、現在のサハラ砂漠あたりの緯度に位置していた。

今回、化石採集をしたグレーフェンベルクの石切場の地層はジュラ紀後期(マルム期)キンメリッジアン(Kimmeridgian)の地層である。ここでは特にアンモナイトの化石がザクザク出るという。

今回の化石採集の場。ここで採れる石灰岩はセメントの原料になる
手前の石の山の中から化石を探し出す

早速、化石探しを開始。本当にどこもかしこもアンモナイトだらけ。開始から数分以内にもう見つけた!

化石を含む石にノミを当て、ハンマーで軽く叩いて石を割り、化石を取り出す

アンモナイトの表面が青みがかっている。このようなアンモナイトはGrünlingと呼ばれ、グレーフェンベルクの地層に特徴的なものだそうだ。地層に含まれる海緑石(Glaucornite)によって表面が青緑になるという。

化石だらけとはいっても、多くは割れたり欠けたりしている。うんと小さいものは完全な形で地面に落ちていることが多いので、簡単に手で拾えるけれど、大きいものは石を割らないと取り出せない。石が硬いと割るのに力がいるし、うまくやらないとせっかくの化石まで一緒に割ってしまう。ここの地層からはリヤカーがないと運べないほど大きなアンモナイトが見つかることも少なくないそうだが、初心者の私たちには難しい。初心者とはいっても、一番最初に化石探しをしたときは化石の形跡がちょっとでもあったら嬉しくてなんでもかんでももって帰って来ていたが、今回はそれなりに綺麗な形のものを拾おうと試みた。

がんばった結果がこちら。

初回のゾルンホーフェンでのエクスカーション(以下の過去記事)の成果と比べると、少し進歩したかな。今見ると笑ってしまうが、ゾルンホーフェンで拾えたのはバリバリに割れたものばかり。

家に帰ってから、拾ったアンモナイト達の汚れを落としてきれいにした。

アンモナイトは種類がとてもたくさんあって、主催者からもらった画像リストと見比べたけれど、残念ながらどれがどの種類のものなのかはよくわからない。

一番気に入ったのはこれ!

それにしてもすごいよね。私たちよりも1億5000万年くらい前にこの地球に生きていた生き物たちとこうして対面するって。人間はたかが1年や2年の経験の差をもって先輩だ後輩だと言うけれど、このアンモナイトは1億5000万年もセンパイなのだよ。そう考えると、リスペクトの念が湧いて来て、なんだか拝みたくすらなって来る。

これは形は完全じゃないけど、結晶化しているのがよい

アンモナイト以外の化石もいくつか拾った。

大中小のアンモナイトや貝、べレムナイトが埋まった石塊
貝とか小さなハート型のウニ、腕足動物なども見つかった

エクスカーションは午前10時から午後4時まで。たっぷり6時間も化石探しができる。飽きたら途中で帰ってもOK。この日はカンカン照りだったので、さすがに6時間は長過ぎたので早めに切り上げたけれど、楽しかったなあ。化石採集は奥の深い趣味なので、やればやるほど楽しくなる。

今月末はシュヴェービッシェ・アルプ地方での週末エクスカーションに申し込んだ。その1日目の地層は待望のホルツマーデンのポシドニア頁岩なので、今からワクワク感が半端ない。去年、ホルツマーデンの化石博物館で素晴らしい標本を見てものすごく感動したから。自分ではたいしたものは見つけられないだろうとはわかっているけれど、ホルツマーデンで化石探しができるというだけで夢のようなのである。

お知らせです。

このたび、ベルリンを拠点に長年活躍されて来たライターの久保田由希さんと一緒に自費出版で「ベルリン・ブランデンブルク探検隊シリーズ 給水塔」を出版しました!

町歩きが趣味の久保田さん、ブランデンブルク州内をあてもなくうろつくのが大好きな私。似たようなことが好きだよねと、二人で探検隊を結成しました。ベルリンの周辺に広がるブランデンブルク州は観光地としてはほとんど知られていません。その未知のブランデンブルク州を歩き、面白いもの、素敵なものを見つけたら写真を撮ってお互いに見せ合う。ときどき一緒に知らない町へ行ってみる。楽しいので、「#ブランデンブルク探検隊 」とタグをつけてTwitterで発信し始めました。最初は面白半分だったのですが、いざ名前をつけたら結構真剣に。

「ベルリンとブランデンブルクの給水塔をテーマにした本を作ろう!」

気づいたらどちらからともなく言い出し、私達の本づくりプロジェクトは走り出していました。

でも、なぜそもそも「給水塔」なの、って?

ご興味のある方は、以下の記事をお読みください。

半年ほどかけて作業し、ついに出来上がりました。

A5版、オールカラー全48ページ。久保田さんがベルリンを、私がブランデンブルク州を担当し、両州合わせて85基の選りすぐりの給水塔を紹介しています。掲載写真はすべて、自分達で撮影しました。文章も分担して書いています。それを、デザイナーの守屋亜衣(@ai_moliya)さんが素敵な本に仕上げてくださいました。表紙の写真は久保田さんのお気に入りの給水塔の一つ、ベルリン・マリーエンドルフ地区の給水塔。

裏表紙にはブランデンブルク州の3つの給水塔(ベーリッツ、ニーダーレーメ、プレムニッツ)。

本を作ると決めた当初は、給水塔の写真をひたすらたくさん撮影してカタログのように並べるつもりでした。給水塔って見た目が素敵だよね、というのがそもそも始まりだったから。でも、給水塔巡りをしているうちに、私たちの中で何かが変化していきました。給水塔は見た目の魅力だけでなく、それらが建てられた背景もとても面白いのです。なぜそこに給水塔が建てられたのか。それはいつ建てられ、それから現在に至るまでの間、誰にどのように使われて来たのか。給水塔を通してベルリンそしてブランデンブルク州各地の過去が見えて来ます。給水塔というものに着目しなければずっと知らないままだったかもしれないベルリンとブランデンブルクの面白さ。それを伝えたいと思いました。

だから、この本は写真で様々な形状の給水塔を紹介しながら、それらの背景についても説明しています。

目次と掲載給水塔マップ

本書を手に取ってくださった方が実際に掲載給水塔を見に行くことができるよう、所在地情報も記載しています。首都ベルリンには数多くの給水塔があるので、ベルリンにお住いの方、または旅行で来られる方に一味違う町歩きのヒントを提供する一冊に仕上がったのではないかと思います。ブランデンブルク州はかなり広く、実際に見て回るのは難しいかもしれませんが、日本語の情報が極めて少ないブランデンブルク州とはどんなところなのか、想像を巡らせ、足を運ぶきっかけにして頂ければ幸いです。

すごくニッチでマニアックな内容ですが、Twitterで事前告知したところ、多くの方にご予約を頂きました。ありがとうございます!!ドイツ及び欧州在住の注文者の方々には発送を開始しています。日本にお住いの方はもうしばらくお待ちください。

ご購入希望の方には価格10ユーロ(日本円価格は1200円の予定)+ 送料実費でお送りいたします。Twitterのメッセンジャーから私(@ChikaCaputh)または久保田さん(@kubomaga)までご連絡ください。もしくはこの記事のコメント欄をご利用ください。(自費出版のため完全限定部数で印刷していますので、在庫がなくなり次第、販売を終了致します。あらかじめご了承ください)

さて、このようにして出来上がった「ベルリン・ブランデンブルク探検隊シリーズ 給水塔」ですが、完成と同時に久保田さんは長年住んだベルリンを離れ、日本へ本帰国されました。ベルリンを拠点に数多くの素敵な本や記事を執筆されて来た久保田さんがベルリンを離れることを残念に思われる人がたくさんいるでしょう。私ももちろん、その一人です。でも、久保田さんが日本に拠点を移されても、探検隊は解散ではありません。ベルリンやブランデンブルクと久保田さんの縁が切れるわけではなく、またちょくちょく戻って来てくださるそうです。

ですから、私たちの「ベルリン・ブランデンブルク探検隊シリーズ」は続きます。今後、いろいろなテーマで展開していく予定です。

前回の続き。今年2度目の営巣では、産み落とされた7つの卵のうち1つは孵らないままだったものの、孵った6羽のヒナたちは成長が早く、6月19日までは全てが順調に進んでいた。気温が高いからだろうか、ヒナたちはお母さんのお腹の下でじっとせずに常に巣から頭を出していた。

生まれたての6羽の赤ちゃんを見守るシーちゃん
二日後にはこんなに大きくなっていた

ぐんぐん成長する様子を見て、きっと6羽みな無事に巣立てることだろうと思っていた。

異変に気付いたのは6月20日の朝。巣箱を除くと、ヒナの数が足りない。6羽いるはずなのに、5羽しかいない。巣の端に隠れているのかもしれないと思ったが、目を凝らしてもそれらしき姿は見られない。どういうことなんだろう?

この週末は予定があったので、巣箱が気になりながらも家を出た。予定がびっしりでスマホの巣箱アプリを開けてみる暇がほとんどなかったが、数時間ごとにちらっと確認すると、そのたびにヒナの数が減っているように見える。おかしい、、、、。何かまずいことが起きているようだ。心配な気持ちで昼間を過ごし、夜、用が済んでやっとまともに巣箱を見れるようになったときにはシーちゃんはすでに寝ていたので、その下でヒナたちがどうなっているのかを確認できなかった。

6月21日。朝起きてすぐに巣箱を見る。シーちゃんは巣箱に座っているが、ヒナは見えない。この日も終日用があって、早々に家を出なければならなかった。

午後、携帯にメッセージが入った。娘からだ。

「ヒナたち、どうしちゃったの?まさか、もう飛んでいったなんて、ありえないよね?」

まさか、と思いながらアプリを開ける。

孵らなかった1つの卵を残し、ヒナたちがすっかり消えている、、、、。

ぐんぐん成長していたとはいえ、まだ生後1週間にもならない。もちろん、羽も出来上がっていない。何者かが巣箱に侵入してヒナたちを盗んでいったのだろうか?しかし、巣穴の直径は32mmしかなく、それよりも体の大きな鳥は入れないはず。ネズミか何かが入った?仮にそうだとしても、6羽もいたヒナをシーちゃんに気付かれずに次々に運び出すのは無理だろう。

だとすると、ヒナたちは何らかの理由で巣箱の中で死に、死骸は運び出されたということになる。今年、ドイツではウイルス感染で青がらが大量に死んでいるとニュースになっていた。それと同じウイルス、または別のウイルスかバクテリアにやられたのだろうか?

いずれにしても、巣が空になっている以上、ヒナたちは全滅したと考えるほかはない、、、、、。

あまりのことに呆然となった。

その日の夜、すべての用事を済ませて帰宅してから、巣箱カメラのSDカードに保存されている自動録画を巻き戻して原因を解明することにした。ヒナたちが元気だった19日から時系列で動画を一つ一つ再生していく。その結果わかったのは、とてもショックな事実だった。

ヒナたちは、シーちゃんが餌を探しに巣箱を離れている間、巣から伸び上がるようにしながら口を大きく開けていた。巣の縁には白いフワフワとした綿のような巣材があり、ヒナたちの口は頻繁にフワフワに引っかかっていた。ときどきフワフワした巣材が口の中に入り、ヒナたちが苦しそうにもがいている様子が映っている。餌を持って戻って来たシーちゃんが口から異物を取り除いてやっている姿も見られたが、またすぐに引っかかってしまう。そして、ヒナたちは短時間の間に巣材によって次々と窒息して死んでいたことがわかった。死んでしまったヒナをシーちゃんは一羽一羽、巣の外へ運び出していた。

悲し過ぎる結末だった。ヒナたちはあんなに元気だったのに。1度目の営巣でも巣立てなかった子たちがいたが、それでも6羽が無事に巣立ったので、きっと今回もうまくいくだろうと思っていたのだけれど。

それにしても、ヒナたちが喉を詰まらせた巣材は何なのだろう?さらに悲しいことには、すべてのヒナが死んでしまった後、シーちゃんは孵らないままの最後の卵に望みをかけて一生懸命温めている。ほとんど巣箱の外に出ることなく、3日間もの間、おそらくもう孵らないであろう卵の上に座り続けていた。

ついに諦めたのか、巣から出たまま戻って来ないので、その隙に巣箱を開けて巣材を調べてみた。

フワフワした巣材は羊毛のようだ。引っ張ってみると、かなりコシがあり、簡単には引きちぎれない。なるほどこれに小さな口が引っかかったら外れないはずだ。前回の営巣ではクッションになる動物性の素材はそれほど多く使われていなかったし、猫の毛などのほぐれやすいものが主だった。

前回の巣

近所には羊は飼われていないので、どこから羊毛を集めて来たのかはわからない。良い素材だと思って使ったのだろうに、こんな結果になって本当にかわいそう、、、。また巣作りにチャレンジするだろうか。もうその素材はやめておいたほうがいいよ、と伝えられないのが残念だ。

こんなわけで、楽しみにしていた2度目の巣立ちシーンは見ることができなくなったが、自然界は厳しく、生きられるということは当たり前ではなく奇跡的なことなのだと思い知らされた。

庭のナラの木の梢からは、シーちゃんが春に育て上げた若鳥たちの声が聞こえてくる。彼らがとても貴重な存在に思える。

今の気持ちを忘れずにいよう。

5月27日に始まった、シジュウカラの今年2度目の営巣。その後の状況をまとめておこう。前回の記事はこちら

1度目よりも営巣に慣れたのか、サッサと手際よく巣を作り、6月5日に7個の卵を産み終わったシーちゃん。今回は気温も高くなっているから卵が孵るまでの日数も少な目なのかなと思っていたが、前回とほぼ同様、11日かかって6月16日に最初のヒナ3羽が孵った。

その翌日に1羽、3日目にさらに1羽。前回の子達と比べて、すごく元気がいい印象だ。小さな体が激しく動いている。

右の子、まるで駄々っ子のようで可笑しい

ところで、この動画で背後にコンコンと気を叩くような音がしているのが聞こえるだろうか。庭ではときどきアカゲラの姿を見ることがある。きっと、同じ木にアカゲラが止まって木をつついているのだろうと思い、カメラを手に外に出た。音がしているあたりを探すと、なにやらいる。けっこう、大きい。

えっ、、、、、?

あれは、、、、。

クマゲラ!?

この辺りで目にするキツツキというと、大抵はアカゲラ(Buntspecht)である。自然保護団体NABUのサイトによると、ドイツにアカゲラは68万〜90万ペア生息するとされている。だから、うちの庭にいてもそう不思議はないけれど、木の高いところにいるからなかなか写真が撮れない。ちょうどこの日の前の日についに撮影に成功したばかりだったのだ。

アカゲラ

これだけでも、バンザーイ!という気分だったのに、今度はクマゲラ(Schwarzspecht)だとぉ?クマゲラは日本では天然記念物、環境省レッドリストに絶滅危惧II類として記載されているというではないか。そんな希少な鳥がうちの庭にいるって、なんか話が出来すぎていやしないか?驚きと興奮でその場で固まってしまった。

調べてみたところ、クマゲラはドイツではそこまで珍しいわけではないらしい。でも、アカゲラよりはずっと個体数が少なく、個体数は3万1000〜4万9000ペアほど(情報ソースはこちら)。だから、見ることができたのはやっぱりすごくラッキーだ。考えてみれば、我が家は森の縁に位置しているので、鳥たちにとって庭は森の一部のようなものだ。いろんな鳥が来てもおかしくないのだなと、自分の住んでいる環境をあらためて認識した。

今の家にはもう14年も住んでいるのに、身近で起こっているこんな素敵なことをほとんど知らないまま生活して来たのかと思うと、なんだか軽くショックでもある。興味を持たないということは、楽しみを得るチャンスを逃すということでもあり、もったいないよねえ。バードウォッチング、始めてよかったよかった。

さて、シーちゃんと子どもたちに話を戻そう。

生後4日目。白黒なのは、早朝だからカメラがまだナイトモードなのだ。ヒナたちの巣からはみ出しぶりがすごいね。シーちゃんも子供たちを覆おうともしていない。前回の営巣時はまだ涼しい日が多かったけど、今は随分気温も上がっているから、ヒナたちは裸ん坊でも寒くないのかもしれない。

ここのところすっかりシジュウカラブログ化しているが、このブログは本来はマニアックな観光スポットを訪れてそれを記録するためのものであり、今年は以下の記事に書いたように、特に「給水塔」をテーマにブランデンブルク州を回るつもりだった。

ところが上の記事を書いた直後にコロナ禍で活動を中断せざるを得なくなった。外出が難しくなったので始めた自宅の庭でのシジュウカラ観察もとても楽しいが、ここのところようやく少しづつコロナルールが緩和され、密を避ければ多少の遠出ができるようになったので、ぼちぼちと活動を開始したところである。というわけで、かねてから行きたかったエバースヴァルデ(Eberswalde)市フィノウ(Finow)地区の給水塔を見に行って来た。

 

 

1917年に建てられたというフィノウの給水塔はまず、外観がすごい。このようなかたちの給水塔を目にするのは初めてだ。ガンダムの脚のような四角い柱4本の上にこれまた四角い貯水タンクが載っている。塔は高さ40メートルほどあり、すごい存在感。

この辺りでは古くから銅や真鍮の加工業が発達した。この給水塔はかつてこの地区にあった真鍮工場”Hirsch Kupfer- und Messingwerk”(略称HKM)のために建てられたもので、現在、内部は博物館になっている。

カッコいい地下空間

地上の入り口を入るとすぐ地下に降りる階段がある。地下には真鍮工場で使われていた設備の一部などが展示されている。でも、メインの展示室はここではなく、柱の中の螺旋階段を上ったところにあるタンク部分らしい。

200段以上あって、けっこうキツい(実はエレベーターもあるが、運動不足なので敢えて階段で)

タンクの壁が一部切開され、入り口になっている。うわー、なんか秘密基地っぽい。

タンク内部から上を見上げる

展示内容は真鍮工場HKMの歴史や工場で生産されていた真鍮製品などについてで、HKMの歴史が思いのほか興味深かった。ユダヤ人企業家ヒルシュ家が何世代にもわたって経営の手綱を握ったHKMは、全盛期には650人もの従業員を抱えた大企業だっただけでなく、充実した福利厚生制度をいちはやく導入した優良企業でもあった。工場の周辺には社宅(ジードルンク)が建設され、学校、郵便局、教会、墓地に至るまでの生活インフラが整備された。合唱団などのクラブ活動やスポーツリクリエーションまで、社員とその家族で構成されるコミュニティの中であらゆることが回っていたようだ。つまり、人生=会社。会社=人生。昭和の日本みたいな感じだったのかな。給水塔は工場設備だけでなく、ジードルンクにも生活用水を供給していた。給水塔はフィノウのコミュニティを支えていたんだね。

塔のてっぺんは展望台になっていて、周辺の森が見渡せる。塔の南側には工場のジードルンクが見える。

東にはタイプの違う住宅がいくつか建っている。これは工場で生産した銅板を使い、1931/1932年に発表されたクプファーハウス(「銅の家」の意)と呼ばれるプレハブ住宅のモデルハウスだ。1920年代の不況により経営難に陥っていたHKMが新しい戦略として打ち出したこの近代住宅の生産プロジェクトには、モダニズム建築の巨匠、ヴァルター・グロピウスが指揮を取っていた時期もあるそうだ。

展示室に置かれたクプファーハウスのカタログ。いろいろなタイプがある

フィノウには8棟のモデルハウスが並んでいるが、ベルリンではダーレム地区やフローナウ地区などにクプファーハウスが見られる場所があるようだ。今度探しに行くことにしよう。これらの住宅を発表して間もなく、ヒルシュ一族は経営から退き、パレスチナへ移住した。クプファーハウスはドイツからパレスチナへ移住したユダヤ人の間でも随分と売れたそうである。

展望台からエレベーターで地上に降りると、4本の柱の間の空間に4枚の慰霊碑が立っていた。ヒルシュは第一次世界大戦のタンネンベルクの戦いでドイツ軍を勝利に導いて英雄視されていたパウル・フォン・ヒンデンブルク元帥にちなみ、この給水塔をヒンデンブルク給水塔と命名していた。これらの石碑は1938年にナチスにより設置されたもので、第一次世界大戦で戦死した兵士の名が刻まれている。第二次世界大戦後、ヒンデンブルクの名前は撤去され、塔の名もフィノウ給水塔という政治的にニュートラルなものになった。

下から見上げた塔。4本の柱がタンクの下で交差し、十字ヴォールトを形成している

こうして今、博物館としてフィノウの歴史を伝えている給水塔だが、実はこの塔はとっくの昔に消えてなくなっていた可能性があるのだ。第二次世界大戦終盤の1945年、ヒトラーは塔や橋などのインフラストラクシャーを全て破壊せよという「ネロ司令」を出した。しかし、この給水塔の爆破命令を受けた兵士ゲアハルト・ケスラーがギリギリのところで任務を遂行しないという決断を下したため、塔は破壊を免れたのだった。給水塔を救ったケスラーはフィノウ地区の英雄である。

 

さて、塔を見学した後は、塔の周辺も少し散歩しようか。

かつて社宅だったジードルンクの建物

ジードルンクの建物はHKM創始者の名にちなんだグスタフ・ヒルシュ広場を囲むように建っており、広場の芝生には小さなショーケースが置かれている。1913年、青銅器時代後期に作られたとされる金製の装飾具、「エバースヴァルトの金の宝(Eberswalder Goldschatz)」がここで発掘されたのだ。しかし、ケースに入っているのは発掘物のレプリカで、本物はロシアのプーシキン美術館にあるんだって。うーむ。返してくれないのかなあ。

かつてのオフィス棟

 

なんだか駆け足でまとまりのない紹介になってしまったが、フィノウの給水塔は建築物としての面白さだけでなく、それが建てられ利用された時代の社会背景や政治背景、ユダヤ人コミュニティ、ジードルンク、モダニズム建築、さらには考古学発掘物など、深堀りできそうな要素が盛りだくさんでかなり面白い。この、多方面へと広がっていく感じ。それこそが探検の醍醐味である。次の機会にはいずれかのテーマを掘り下げてみたい。

 

この近くには過去記事で紹介した船舶昇降機があって、そちらもかなりおすすめ。