コスタリカ滞在中、多くの野鳥を見た。その中で、最もよく目にし、かつ存在感の大きい野鳥はコンドルだったのではないか。コスタリカの至る場所で、コンドルの群れが滑空していた。

子どもの頃から「コンドル」と聞くと、羽を大きく広げて広い空を優雅に飛ぶ姿が目に浮かび、なんとなく憧れがあった。しかし、パナマやコスタリカで実際のコンドルを目にするようになって、すっかり印象が変わってしまった。そう、コンドルは「ハゲタカ」と総称される、腐肉を食べる野鳥の仲間なのだ。生き物の死骸に群がり、肉を食いちぎる様はグロテスクで優雅なイメージとは真逆である。でも、頻繁に姿を見かけるだけに、気になる野鳥である。

手持ちのフィールドガイドによると、コスタリカには3種のコンドルがいる。その中で最も多く目にするのは、クロコンドル(Coragyps atratus )だ。

クロコンドル (Coragyps atratus

コンドルの頭が禿げている、つまり羽毛がないのは、死骸に頭を突っ込むようにして食べるため、頭部が不衛生になるかららしい。

動物の死骸に群がるクロコンドルたち

クロコンドルは視覚に優れ、大きな群れで死肉を探して滑空する。道路脇で車に轢かれた動物などの死骸に群がっている場面によく遭遇した。あまりいい気持ちのする光景ではないけれど、ロードキルをすばやく片付けてくれるお掃除屋さんだと思えば、ありがたい存在にも思える。ただし、彼らは死肉を食べるだけでなく、産卵中のウミガメなど、無防備な生き物を襲うこともある。

クロコンドルほどではないが、ヒメコンドル(Cathartes aura)もコスタリカ各地で頻繁に見かけた。

ヒメコンドル (Cathartes aura

ヒメコンドルはクロコンドルのように大きな群れで行動することは少ない。視覚だけでなく嗅覚にも優れており、その両方を駆使して死肉を探す。

羽を広げたヒメコンドル

顔と脚が赤いこと、広げた羽の下半分が白いことで、上空を飛んでいてもクロコンドルと簡単に区別がつく。(クロコンドルは羽の先だけが白く、全体は黒い)

そして、コスタリカに生息するコンドルの仲間のうち、最も大きいのはトキイロコンドル (Sarcoramphus papa)だ。羽を広げると2メートルにも及ぶ。羽全体の色は白、広げた羽の下部のみ黒い(若鳥は全体が黒)。「トキイロコンドル」という和名は頭部がカラフルだからつけられたのだろう。

トキイロコンドルは単独で行動することが多い。クロコンドルやヒメコンドルと違って、目はあまりよくなく、嗅覚で獲物を探す。深い森など視界の開けていない場所では強い嗅覚は有利だ。そのため、都市に近い場所で目にすることは稀らしい。私はオサ半島で上の写真を撮ることができた。

コンドルはコミュニケーション能力に長け、死肉発見情報はコンドル達の間で瞬く間に共有されるらしい。Jack Ewing著 “Monkeys are made of Chocolate – Exotic and Unseen Costa Rica”には著者が経験したこんなエピソードが書かれている。1972年、著者はニカラグアとの国境に近いコスタリカ北東部のグアナカステ州に頻繁に滞在していた。コスタリカの他の地域同様、グアナカステ州でも至るところでコンドルの姿を見た。しかし、その年の12月にニカラグアの首都マナグアで大地震が起き、1万4000人もの人が亡くなった。新聞は人々の遺体に大量のコンドルが群がっていると伝えていた。そして、大地震の発生から2週間ほどの間、著者はグアナカステ州からコンドルの姿がすっかり消えていることに気づいたそうである。

 

死骸を食べる野鳥はコンドル以外にもいる。たとえば、カンムリカラカラというハヤブサ科の野鳥。

カンムリカラカラ(Polyborus plancus

オレンジ色のクチバシに真っ白な喉、黄色い足。ポップな美しい見た目をしていて、死肉をあさるようには思えない。カンムリカラカラという和名も面白い響きで親しみが湧く。でも、彼らが死骸を食べる現場を目撃した。

道路に転がったネズミか何かの死骸を食べているところ。

道路に転がっている小動物の死骸を見つけて、一羽のカンムリカラカラがやって来た。死骸をつついていると、仲間らしい別の1羽が向こうから歩いて来て、仲良く死骸を食べ始めたのだった。カンムリカラカラは生きた小動物を捕らえて食べることもあるが、狩りはあまり得意でないそうで、落ちているものがあればラッキーという感じなのだろうか。カンムリカラカラは現地ではquebrantahuesosと呼ばれている。直訳すると「骨を折る者」。動物の死骸を掴んで空に飛び上がり、硬い地面に落として骨を砕いて食べる習性があるのだそう。

キバラカラカラ (Daptrius chimachima)

こちらは同じハヤブサ科のキバラカラカラ(Daptrius chimachima)。これもいかにも上品な姿の野鳥だが、カンムリカラカラ同様に死肉を主食としている。

 

この記事の参考文献:

Fiona A. Reid, Twan Leenders, Jim Ook & Robert Dean “The Wildlife of Costa Rica – A Field Guide”

jack Ewing “Monkeys are made of Chocolate – Exotic & Unseen Costa Rica”