とうとう、エオリエ諸島滞在のハイライトとなるイベントとなるストロンボリ島へ行く日がやって来た。

ストロンボリ島は火口からひっきりなしに真っ赤なマグマのしぶきを吹き上げる「ストロンボリ式噴火」で知られる火山島である。夜間は闇の中で山頂が明るく光るので、「地中海の灯台」とも呼ばれている。そのストロンボリ火山に登る計画だった。

ストロンボリに登ろう!と言い出したのは夫で、私もそれに同意したものの、実は不安があった。「ストロンボリ火山に登る」というフレーズにはなぜかすごくハードな響きがあって、自分にできるようなことではないのでは?という気がしていたのだ。リーパリ島からストロンボリ島へは多数のツアーが出ているが、登山ツアーを提供しているのはMagmatrek 一社だけで、他のツアーはボートで島の近くへ行くだけである。そう聞くと、なんだかますますハードコアなイメージである。Magmatrek社のオフィスで「誰でも登れますか?」と聞いたら、「山に登り慣れている人なら」という返事が返ってきた。歩き慣れているとは自信を持って言えるが、山登りの習慣はない。うーん、大丈夫かな。

ストロンボリ火山は標高約900m。しかし、危険防止のため、観光客は標高400mのところにある展望台までしか登れなくなっている。それを聞いてちょっと安堵。400mならヴルカーノ島のフォッサ火山と変わらないのでいけるかな。

しかし、「夕方から登り始め、展望台で暗くなるのを待って噴火を見てから下山します。帰りは暗いのでヘッドランプか懐中電灯を持参してください」との説明にふたたび自信がなくなった。闇の中の下山なんて、経験したことないよ。やっぱり相当ハードなツアーなんじゃ?

「何をゴチャゴチャ言ってるの。大丈夫だって。行ってみてダメそうと思ったら、その時点でやめればいいだけ。予約するよ!」と夫がツアー参加を申し込んだので、ヴルカーノ島での登山の2日後にストロンボリ火山に登ることになった。

 

お昼頃、リーパリ港から少数の他のツアー客とともに小さなボートでストロンボリ島へ向けて出発。このボートが結構、揺れる。

1時間ほどでリーパリ島とストロンボリ島の間にあるパナレーア島に着いた。ここで休憩。パナレーアの美しいビーチでしばし泳ぐ時間がある。真っ青な海。普段なら喜んで水に飛び込むところだが、私は泳ぐのはパスしよう。ここで無駄に体力を使ってはならないのだ。ストロンボリに登れなくなる!それに、泳いだ後、シャワーは浴びられないのだから、塩でベタベタの体で登山することになってしまうではないか。不快要因は一つでも取り除いておきたかった。

その後、ボートはパナレーア島の港へ回った。レストランで腹ごしらえするために上陸する。でも、どの程度食べたらいいものか。何も食べなければ力が出なくて登山できないし、かといって食べ過ぎても体が重いだろう。この時点でもまだ「ストロンボリ火山に登る=ビッグチャレンジ」という先入観で頭がいっぱいの私である。

このパナレーア島は面積わずか3.4km2ほどの小さな島だが、近頃、とても人気があり、ミリオネアの別荘地になっているとか。うーむ、確かに綺麗な島だけど、このような孤島に住んで何をして過ごすのだろう?とちょっと不思議に思わないでもない。

ああ、そうか。ストロンボリ島を眺めながら遊べるっていうのがポイントなのか。確かに特別なロケーションではある。お昼ご飯を食べた後、私たちは再びボートに乗り、ストロンボリ島へ向かった。パナレーア島付近には海底からブクブクと火山ガスが噴き上がっているのを見られる場所があった。すごい!

さらにボートに揺られること30分。ストロンボリ島が近づいて来た。

あれに登るのか?本当に?(まだ疑ってる)

険しい姿に圧倒される。港に到着し、ボートを降りるとMagmatrek社のスタッフに「教会の前で登山ガイドが皆さんを待っているので、行ってください」と言われたので、指さされた方に向かって皆で歩き出す。すでに坂道だった。「これって、もう登山始まってるのかね?」などと言いながら15分ほど坂を登ったところに教会があった。ガイドさんの説明を聞き、登山靴とストックを借りて、いざ出発。「今日はアフリカからシロッコという熱風が吹いているので、夜でも暑いです。20分ごとに休憩しますが、体調が悪くなったら無理をせずに下山してください。ストロンボリに登るのは素晴らしい体験ですが、具合が悪くなってまで登る理由はありません」。えー、やっぱりそんなにキツいの!?

教会を出発してしばらくの間は硬い石畳が続いた。太陽に向かって歩かなければならず、すでに17:00近いのに暑い!ひえー、もうすでに疲れたよ。こんなんで登り切れるのか?

しかし、しばらく歩くと方角が変わり、日陰になった。これなら意外と大丈夫そう?

立ち止まってストロンボリ町と小島ストロンボリッキオ(Strombolicchio)を見下ろす

だんだん急になり、この先は写真を撮っている余裕はなかったが、心配したほどハードではなく、2時間後、無事に北西側の展望台に到着した。

展望台から見た火口

海底へと続く谷、シアーラ・デル・フオーコ(Sciara del fuoco)。海に日が沈んで行く。

今か今かと固唾を呑んで噴火を待つ。

おお!

15分に1回くらいの間隔で起きる噴火を言葉なくじっと見つめて過ごすこと1時間半。

夜空に燃える火口を本当に見ることができた。こんな体験ができるなんて、なんだか信じられない。登って本当によかった。

何度かの噴火を楽しんだら、さあ下山だ。

懐中電灯で足元を照らしながらの夜の下山も、生まれて初めての体験でなんだか楽しい。こんな歳になっても新しい体験ができるんだなあと良い気分で山道を下る。それに登るのも大したことなかったしね!

と言うのはまだ早かった!帰り道の長いこと長いこと。行きとは別のルートで、緩やかだけれど、その分、長い。8kmもあった。最後の方はもう疲れて嫌気がさして来た。やっと教会に着き、登山靴とストックを返却したが、そこで終わりではないのだ。港まで歩かなければならない。ボートに乗り込んだときにはもうヘトヘト。そして、再びモーターの爆音の中、2時間近く激しく揺られてリーパリ島へ帰るのだ。シートには背もたれがないので眠ることはできず、背筋を伸ばして座っているのも辛い〜。朦朧とした頭で「噴火を見られて感動したけど、こういうのは1回でいいや」「旅行でハードな体験をするたびに寿命を縮めているのでは?」「いや、でも、快適なことしかせずに長生きするよりも、面白い体験をたくさんしてその結果、多少早死にすることになっても、その方が生きる意味があるのでは?」「これでいいのだ」などと考えながら波に揺られていた。

港に着いたら、すでに23:30。そこから車を止めてある場所までまた坂を登り、山の上のアパートメントに戻り、そしてシャワーを浴びなければ寝られない。さすがにうんざりしたが、どうにかこうにかこの冒険の日を無事に終え、深い眠りについたのであった。