ドイツを出発して車でイタリア半島を南下し、シチリア島に渡ってそこからエオリエ諸島へ行き、再びシチリア島に戻って海岸地域を時計回りに移動しながら南西のレアルモンテ海岸までやって来た。帰る日は決めておらず、疲れたら帰路につくつもりだった。3週間が経過し、毎日かなりの距離を動き回ったのでそろそろ体力の限界に近づいている。スカーラ・ディ•トゥルキの白い崖を眺めながら泳ぎ、「明日はドイツに帰ろう」と決めた。

夜行フェリーでパレルモ港から出発することにしたので、あと丸一日ある。シチリア島の西海岸、トラパニ(Trapani)からマルサラ(Marsala)にかけて広がる天日塩田を見てから帰ることにした。西シチリアの沿岸部には3000年に渡る採塩の伝統がある。交易の民フェニキア人がシチリアに入植した時代から、塩は「白い金」と呼ばれて珍重されていた。近代以降の都市化に伴う環境破壊や1965年にこの地方を襲った大洪水によって塩田が被害を受けたことなどにより採算が取れなくなり、今では大規模な採塩産業は廃れてしまったが、塩沼は自然保護区に指定されていて、小規模ながら伝統的な塩づくりが続いているという。保護区の一つ、 Naturreservats Salinen von Trapani und Pacecoにある塩博物館(Museo del sale)に立ち寄ってみることにした。

風車のある建物の内部が塩博物館で、伝統的な天日採塩についての展示や道具などを見ることができる。

塩田という言葉は知っていたけれど実際に見るのは初めて。

海岸沿いに四角く区切られた深さの違う池が並んでいる。

海水は「アルキメディアン・スクリュー」と呼ばれるポンプを使って陸に引き入れる。

博物館内のモデル。風力でスクリューを回転させる。

それぞれの池は水路で繋がっており、大きくて深い池からより小さく浅い池へと順に海水を移動し、太陽熱で水分を蒸発させて塩分を濃縮していく。太陽に恵まれ、アフリカからの熱風が吹くシチリアの気候だからこその採塩法だ。

池の一つは水がピンクっぽい色をしていた。ハロバクテリアという高塩環境下で生育する細菌が原因らしい。

最後に結晶池で結晶化させた塩を収穫する。今まで天然塩にあまりこだわったことがなかったけれど、見学して面白かったのでお土産も兼ねて塩を買った。普段食べている精製塩との味の違い、わかるかな?(自信ない)

トラパニ近郊の塩田風景はなかなか印象的だった。ここからパレルモ港へ向かうが、フェリーの出港までにはまだ時間がある。シチリアを離れる前にあと1箇所だけ是非とも寄りたい場所があった。それは、パレルモ近郊のトラペット(Trapetto)という村だ。