前回はニセコ町の北に位置するニセコ連峯のジオサイトについて記録した。今回はニセコ町の東にそびえる羊蹄山周辺のジオサイトについて。

日本百名山の一つである羊蹄山は標高1898m。溶岩や火山砕屑物などが積み重なってできた成層火山で、富士山に似た美しい円錐状のかたちをしていることから蝦夷富士とも呼ばれる。その存在感は圧倒的。上川地方出身の私にとっては、山といえばなんといっても大雪山系の主峰、旭岳なのだけれど、今回、道央を回って羊蹄山の勇姿を何度も見て、すっかり羊蹄山ファンになった。

雲が切れて、ほぼ山頂まで姿を現した 羊蹄山

ここでも『行ってみよう!道央の地形と地質』を見ながら、京極町から倶知安町まで、羊蹄山周辺のジオサイトを回る。

 

まずは羊蹄山の西側に回って、湧水の湧き出る京極町のふきだし公園へ。

思っていた以上にすごい!ここふきだし公園で1日に湧き出す水の量は8万トンだという。湧き出している水は、羊蹄山を形成する岩石の隙間にしみ込んだ雪解け水や雨水だ。ゆっくりと山体の内部を降りて来た水は、麓の水を通さない粘土層に到達すると地表に湧き出して来る。

ふきだし公園の湧水は環境庁の名水百選に選ばれている。自由に汲んでよいので、容器を持って汲みに来ている人がたくさんいた。ちょっと味見してみたら、確かにとてもおいしい水だった。

 

ふきだし公園から国道275号線をそ1.5kmほど北上したところには、溶岩の流れた跡が観察できる場所がある。

大きな塊の部分には柱状節理が見られ、その上下は細かい構造の層。溶岩流といえば、イタリアのシチリア島アルカンタラ渓谷の風景を思い出す(記事はこちら)。あの景色もすごかったなあ。

 

もう1箇所とても興味深かったのは、倶知安町高砂地区にある露頭。高砂地区には陸上自衛隊の駐屯地があり、敷地の縁が崖になっている。

崖は一面、草に覆われているが、

よく見ると、1箇所、地層が見えているところがあった。

近寄って見ると、ねっとりした粘土の地層である。真ん中ほどの位置の焦げ茶色をした層は、資料によると羊蹄山の噴火によって堆積したスコリア層。粘土層の表面を擦って剥がすと、中はくすんだ青色をしている。

この地層は「湖成層」と呼ばれ、ここがかつて湖だったことを示している。この地層は湖の底に堆積した粘土が固まったものなのだ。黒っぽい細かい横縞がたくさん入っている。季節などの要因によって粘土の量が増えたり減ったりしたためにこのような縞模様ができたのだそう。

縞模様が乱れているところは、湖に住む生き物によって泥がかき乱された跡。倶知安町はかつてそのほぼ全域が湖だった。その湖は町の南部を流れる尻別川が堰き止められてできていたが、川を堰き止めていたものがなくなったことで湖の水はなくなり、湖の底にあった地層だけが現在まで残っている。倶知安の湖成層からは当時、湖に生息していたケイソウなど、微化石が多く見つかるらしい。(もちろん、肉眼では見えない)

数年前からときどき趣味で化石採集をするようになって感じるようになったのは、地球環境は常に変化しているのだなあということ。まったく何の予備知識もないまま初めて化石採集に行ったのは南ドイツだったが、海から遠く離れた場所なのに、地層から海の生き物の化石が出て来て驚いた。でも、よく考えてみれば不思議なことではなく、地球は人間の時間をはるかに超えるスケールの時間の流れの中で変化し続けている。それを意識するようになってから、風景を見にしたときの感じ方が変わった。今、目にしている風景は、止まることのないダイナミズムのある一時点を切り取ったものに過ぎないのだよね。

 

 

この記事の参考文献:

北海道大学出版会 『札幌の自然を歩く 第3版 道央地域の地質あんない

北海道大学地質学会北海道支部 『北海道自然探検 ジオサイト107の旅

前田寿嗣著『行ってみよう!道央の地質と地形