野生動物に興味があるので、地元のいくつかの野生動物保護団体のニュースレターを配信登録したり、SNSでフォローしたりしている。先日、Facebookを見ていたら、NABUの「専門家が哺乳類のデータを収集するのを見学しませんか」というお知らせが流れて来た。

面白そうなので問い合わせてみたら、ブランデンブルク州でコウモリの保護活動をしている人たちが週末に集まり、個体数調査を実施することになっており、一般の見学参加を受け付けるという。もちろん申し込んだ。

うちの近くでも夏の夜にひらひらと小さいコウモリが飛んでいるのを見かけることがある。庭に死骸が落ちていたこともある。でも、ドイツのコウモリについての知識はまったくと言っていいほどなかった。コウモリ調査ってどんな感じなんだろう?

そんなわけで、今回の記事はコウモリ調査の見学記録である。

コウモリは夜行性だから、調査を行うのは夜間だ。大きな池のある公園で20:00過ぎから準備が始まった。

まず、池の周りにかすみ網と呼ばれる網を張る。北ドイツでは7月半ばの20:00はまだ明るい。コウモリが寝ぐらから出て、餌となる昆虫を探して飛び回るのは22:30くらいからだそうで、それまでの間、コウモリが発する超音波を検出するコウモリ探知器(バットディテクター)をセットしたりしながらコウモリたちの出現を待つ。

超音波を可聴域に変換するコウモリ探知器。

超音波を分析する装置。コウモリの種によって波形が異なるので、グラフを見ればどんなコウモリが飛んでいるのかがわかるそうだ。

コウモリの発する超音波を出してコウモリを誘うための装置もある。

そうこうしているうちにいよいよ暗くなって来た。

かかった!

コウモリを傷つけないように気をつけながら、網から外す。コウモリは狂犬病ウィルスに感染していることがあるので、触る際には手袋をはめるのが一般的なルールだ。特に大型のコウモリは噛む力が強く、噛まれると相当痛いらしい。調査員さんたちはコウモリの扱いに慣れているので、小さくておとなしい種は素手で掴んでいたが、経験のない人は真似しない方が良いだろう。

捕獲した個体は、種類、大きさ、重さ、性別、大人のコウモリかそれとも子どものコウモリか、などを確認して記録する。

翼の幅を測っているところ

袋に入れて棒計りで体重を測る。

性別チェック。これは見ての通り、男性。繁殖期が近づいて来ると、オスはテストステロンの分泌が活発になり、体臭が濃くなる。

メス。乳首を確認して授乳中であれば、できるだけすみやかに解放してやらなければならない。お腹を空かせた子どもが待っているからね。

記録が終わった個体は、二重にカウントするのを防ぐため、ホワイトペンでマーキングしてから解放する。

コウモリの調査といっても、同じ場所で捕獲できるのはきっと1種か、せいぜい2、3種なのだろうなとなんとなく想像していたが、この晩に確認できた種は11種に及んだ。コウモリはその種によって活動時間にズレがあるので、調査は一晩中やるのが理想だ。でも、さすがにそれは大変なので、この調査では夜中の1:00頃まで作業するということだった。捕獲できなかった種もいるだろうから、実際にはもっと多くの種が調査した池の周辺に生息しているのだろう。ドイツ全国では全部で25種のコウモリが確認されている(全25種の画像付きリストはこちら)。私が住むブランデンブルク州にはそのうちの18種がいることがわかっている。

ドイツのコウモリには大きく分けて、樹洞などを寝ぐらとする「森コウモリ」と建物に棲みつく「家コウモリ」がいる。かすみ網を使った調査の対象は「森コウモリ」だ。

代表的な森コウモリの一つは、ドーベントンコウモリ。ドイツ名はWasserfledermaus(学名 Myotis daubentonii)。直訳すると「水コウモリ」だ。池や湖の水面すれすれを飛んで虫を捕まえるので、裸眼でも観察しやすい。コウモリというとドラキュラのイメージで、不気味な生き物と敬遠されがちだけれど、このドーベントンコウモリは小さくて、顔もなかなか可愛い。背中を触らせてもらったら、モフモフしていた。

器用そうな指

アブラコウモリ (Zwergfledermaus、学名 Pipistrellus pipisterellus)はさらに小さい。

解放しようとしても、なかなか飛んでいってくれない子もいた。(笑

次々に網にかかるので、データを取るのが忙しい。網から外したコウモリはいったんバスケットなどに入れておくが、攻撃的な種とおとなしい種は別々の容器に入れないとならない。

いろんな種を見せてもらったけれど、コウモリを見慣れていないので、どれも同じように見えてしまう。これは確か、ヤマコウモリ (Abendsegler, 学名 Nyctalus)の1種だったと思う。(間違っていたらごめんなさい)

耳の長いウサギコウモリ (Braune Langohrfledermaus, 学名 Plecotus auritus)はわかりやすい。

顔は、コワかわいい?

ウサギコウモリはわかりやすいと書いたけれど、耳の長いコウモリはウサギコウモリだけではなかった。

ベヒシュタインホオヒゲコウモリ(Bechsteinfledermaus, 学名 Myotis bechsteinii)。

 

さて、コウモリ調査は夜間のみ行うのではなく、昼は昼でやることがある。家コウモリがいないか、教会の塔をチェックするのだ。村の小さな教会ばかりだったけれど、10箇所近く回って調査するので、なかなか大変だ。

でも、こんな梯子を登って塔の内部に入る機会は滅多にないから、ワクワク。

ある教会の塔の床には大量のフンが落ちていた。一見、ネズミの糞のようだけれど、見分け方がある。近くで見ると光沢があり(餌となる昆虫の外皮にあるキチンという成分を含むため)、押して潰すとサラサラしていて床にくっつかなければコウモリの糞だと教えてもらった。フンだらけの場所を歩くのは気持ちのいいものではない。病気が移ったりはしないだろうか。日本語でネット検索すると、コウモリが家に棲みつくと不衛生だと書いてあるサイトが多いけれど、ドイツ語の情報は「コウモリのフンには人間にとって危険な病原菌は含まれておらず、狂犬病にかかっているコウモリのフンでも、それによって人間が感染することはない」というものがほとんど。コウモリの糞は庭の植物の良い肥料になりますよと書いてあるサイトもある。自然環境や住環境の変化によってコウモリの住む場所が失われつつあり、個体数が減っていることから、自然保護団体NABUは家をコウモリフレンドリーにすることを推奨しているほどだ。(ソースはこちら)

それにしても、フンの量にはびっくり。ここに現在、コウモリがいるのは確実。

やっぱりいた!

ここではセロチンコウモリ (Breitflügelfledermaus,学名 Eptesicus serotinus )が育児中だった。夏の間、コウモリのメスは集団で子育てをする。メスはそれぞれ1匹か、せいぜい2匹しか子を産まず、赤ちゃんは4〜6週間の間、お母さんのおっぱいを飲んで育つのだ。森コウモリは水場で捕獲して数えることができるが、家コウモリは個体数を把握するのが難しい。フンの量や落ちている死骸の数から概算するしかない。

1970年代には激減し、いくつかの種は絶滅の危機に瀕していたドイツのコウモリは、過去20年間の保護団体の活動の甲斐あって、現在、個体数は低いレベルながらも安定しているそう。

過去に参加していたヨーロッパヤマネコの調査ビーバーの調査では動物そのものを目にすることはほぼないのに対して、コウモリ調査ではじゃんじゃん網にかかるので、調査のし甲斐があって面白いなあと思った。今回、いろんな種類のコウモリが身近にいるんだなと認識できたし、コウモリの性別を確認するという、なかなかできない体験ができた。機会があったら、また参加したい。